にじさんじヤンデレ物語 作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員
「はぁ……」
「なによアンジュ、妾の前でため息は不敬ぞ」
「なーにが不敬ぞだよ……私は今憂いてるの。あの可哀想なナナシダ君をさ」
「可哀想?」
教室でひっそりと行われた結婚式から数日。
その結婚式が行われた教室の一角で、リゼとアンジュは昼飯と呼ぶには首を傾げたくなるがケーキを食べていた。
リゼの護衛として以前以上に張り付いていたナナシダは、リゼがアンジュと女子トークをするからと教室で待機させていた。
「可哀想に決まってるよ、あんだけナナシダ君を追い詰めてさ」
「いいじゃん、結果的に私もナナシダもハッピーな結末でしょ?」
「よく言うよ、寝ているナナシダ君を襲っている映像をわざと見せて、それから追い詰めて正常な判断をさせないようにしてさ、既成事実まで作って。あまつさえ親友である私も巻き込んでさ……」
アンジュは引きつった笑みを浮かべて、此度の騒動を起こした元凶を見る。
しかし、元凶は素知らぬふりをして優雅に紅茶を一服すると、清楚とはほど遠い邪悪な笑みを見せる。
「あ~、ナナシダのあの時の顔……今思い出してもゾクゾクしちゃう」
頬を紅潮させ自らの体を抱きしめて悶える悪魔を前に、アンジュは頭の中で悪友に謝罪とエールを送った。
(ホント、ナナシダ君はご愁傷様だよね)
自分ではどうしようもできない一人の男の悲運。
これが物語であったのならコンテンツとして自身も楽しめたのかもしれない。だが、これが現実であり身近な友人に降りかかった顛末というのだから笑えないのだ。
「私の可愛いリゼたん戻ってきて遅れ~、ナナシダ君もナナシダ君だよ! リゼをこんな風にしちゃってさ!」
宛先不明の怒りを甘いケーキで胃袋へと流し込む。
アンジュ自身これが正しい結末だったのか未だに判別できていなかった。
「私悪くないも~ん。あの時ナナシダが『勘違いです』とか言わなければ、こんなことにならなかったんだから」
「くぅ~! やっぱナナシダ君じゃん! あの朴念仁の頑固野郎が! 結局くっ付くならさっさと幸福宣言しとけってんだ!」
もやけ食いしかない! とばかりに目の前のケーキにフォークを振り下ろそうとしたアンジュだが、高まった熱はリゼの言葉ですぐさま沈下する。
「そう言えば一つ聞きたいことがあったんだ。保健室でナナシダと同じベットにアンジュ入ったよね」
「ぴっ……⁉」
「ねぇ……どうだったぁ? ナナシダと同じベット、気持ちよかったぁ?」
ずいっと、身を乗り出して顔を近づけてくるリゼ。
リゼの後数センチで触れてしまいそうな程に迫った瞳には、普段の輝かしい光はなく。どこまでも深く暗い虚空だけが全てを飲み込もうとしているようだった。
「そそそそそそれは! その、なんといいますか……作戦遂行のための致し方のないナントやらで……だからその……ご、ごめんなさい!」
もはや弁明の余地無し。
自らの天命がここで尽きるのかと思い至ったアンジュだが、リゼはそれ以上何かをするわけでもなくゆっくりと離れていく。
「なーんてうっそだよ~!」
見ればリゼの瞳はいつもの輝きを放っていた。
今度はアンジュが詰める寄る版となる。
「な! 私をからかったなー! こんの私よりもすこーし早く彼氏ができたからってぇえええ!」
「ふっ、10年は確かにすこーし早いよねぇ?」
「むっきゃー! い、今に見てろぉ! 私だってめちゃんこイケメンとっ捕まえて、リゼの目の前できゃっきゃウフフするんだもんね!」
「あ、そしたらダブルデートとかできるね」
「ぅぅうああああああ! これがリア充の余裕というのかぁああああ!」
あまりに勢いよく絶叫し続けたアンジュだが、勢いはすぐさま衰えてしまい息も絶え絶えにリゼを睨むばかりとなった。
「はぁ、それで。これからどうするのさ」
「どうするって……ナナシダとイチャイチャする?」
「くぅっ……こんのぉ……!」
アンジュはリゼから無遠慮に投下され続ける起爆剤を必死に段ボールに収納、そのまま地下深くに埋葬し続けてどうにか冷静を保つ。
「王様とか、影の一族とか……今はいいけど国内に戻ったらどうするつもりなの?」
リゼとナナシダの関係は国外だからこそ辛うじて成り立っているのみ、一度国内に戻れば一日と経たず二人の関係は探られ、国王の耳に入ることだろう。
そんなことアンジュに言われずとも承知しているリゼが浮かべたのは、優雅な微笑みだった。
「大丈夫だよ。もう話は付けてあるから」
「それってどういう……」
「んふふ……聞きたい?」
「え、あ、いえ……あ! もうそろそろナナシダ君くるんじゃない⁉」
今でさえ泥沼に半ば引き釣りこまれている状態、これ以上深みにはまるのは絶対に避けなければならない。
アンジュの生存本能が極大の悲鳴を上げていた。
「お父様が言ってたんだ、手に入れたいなら覚悟を持てって」
「へ、へえ……流石ヘルエスタ現国王様」
諸々気後れしたアンジュが最後に取ったのは曖昧な笑みを浮かべ、曖昧な返答をするのみだった。
「リゼ、もうそろそろ昼休憩終わるぞ」
心身共に追い詰められていたアンジュだったが、この空気を打破する救世主が現れる。
昼時間の終わりに会わせて迎えにきたナナシダだ。
「おー! そうだよね! もうお昼時間終わっちゃうから、戻った方がいいよ!」
自慢のポーカーフェイスを遺憾なく発揮し、アンジュは内心でこの地獄から解放される喜びを噛み締めてた。
そんあアンジュをあざ笑うようにリゼは笑みを深めると、先ほどまでの意味深な笑みを消して純粋無垢な乙女の顔を作る。
「ナナシダー!」
誰が見ても恋する乙女は勢いのままに思い人に抱きつく。
その姿はまさしく恋仲の初々しさを噛み締める恋人の甘酸っぱい青春だった。
「チュ、しよ?」
首元に抱きつき、愛らしく小首を傾げれば同性でも気の迷いが生まれてしまうほど。
真正面から叩きつけられたナナシダも例には漏れず、恥ずかしげに頬を赤くさせながら彼氏としての務めを果たす。
アンジュは目の前で見せつけられた恋人の営み。しかしそれに嫉妬することはなかった。
(あんな顔してるなんて、ナナシダ君は最後まで気付かないかもね)
アンジュには見えていた。リゼがキスをしながら薄く開いた目でナナシダを見つめている光景。
どこまでも深く、地の底まで引き釣りこもうとする悪魔の瞳をアンジュだけが第三者として捉えていた。
「じゃあねアンジュ。また~」
「うん、ナナシダ君もリゼも午後の授業頑張ってね」
悪魔に見初められた哀れな子羊、しかしアンジュには救う手立ての一切が見つからなかった。
一人の男のために全てを己が盤上に集め転がす存在に、天才的な頭脳を持つ錬金術師ではどう足掻いても太刀打ちができないのだ。
「ま、あんな美少女にあそこまで思われてるんだから。ちょっとした代償だよね?」
願わくば、子羊が悪魔の影を見つけないこと。
そうすれば子羊は永久に甘い夢の世界に居続けることができるのだから。
「さーて、リゼのやり方を参考にして私もイケメン作ってみるかな……いや、私の頭じゃ無理だわ」
リゼさん編終わり!
次回からはアンジュさん編!(反省点多く、ちょっと練るのでお時間少々)
感想・評価頂けたら励みになるのでよろしくお願いしまーす。