にじさんじヤンデレ物語 作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員
あれからうだうだと駄々をこねるアンジュを引きずり、ヘルエスタ王国の王家が住まう王宮へと向かった。
早朝の爆発のこともあり、がたがたと震えるアンジュと俺をみた衛兵の対応は淡々としたものだった。
こうしてアンジュが何かしらの問題を起こし、そのたびに俺がこうして王宮へとやってくるものだから衛兵達も「また来たよ」と、殆ど顔パス状態で通されることになった。
セキュリティ的にはどうなのかとも思うが、俺としては面倒な手続きとかしなくて済むので万々歳だ。それに風の噂(アンジュ)に聞くとヘルエスタ王家を守護する謎の組織が存在するらしく、彼らがいる限り王家の方々に刃が向けられることは無いらしい。
守護すると言えば聞こえはいいらしいが、実際には王家のためなら幾らでも血と身を捧げる狂人集団とも言われているそうだ。
「アンジュ様、ナナシダ様、謁見の間へお越しください」
謁見前の準備部屋でそんなことを考えていると、扉が開いて身なりの良い執事が伝言と共に綺麗なお辞儀をしてくる。
「ありがとうございます。セバスチャン」
執事、セバスチャンは名前を呼ばれたことに顔を上げる。
武道の経験が皆無な研究畑の俺ではよくわからないが、壮年とも言えるセバスチャンの動きはかなりスマートで洗練されたものだと思う。
どうしてそう思うのかは分からないが、とにかくそう感じるのだから仕方がない。
横どころか縦にもほとんど揺れることのないセバスチャンに先導され、俺達は謁見の間へと通される。
公式の場でもないため、謁見の間の扉はガチャリと静かに開かれる。
「よく来たな。アンジュ、そしてナナシダよ」
聞こえてくるのは謁見の間を支配する唯一の存在。謁見の間に配置されている衛兵達に守られる唯一のお方の声だ。
鈴の音のように透き通る声の元に視線を送ると、そこには天使のように柔らかい笑みを浮かべる少女がいた。
空と見まがう長髪と、一般人が決して身に着けることはないと断言できるドレスに身を包んだ少女にむけ、俺とアンジュは臣下の礼を取る。
「ヘルエスタ皇女殿下に置かれましては、緊急な申し出を受け入れてくださり、心より感謝申し上げます」
決して育ちが良いとは言えない俺の言葉に、ヘルエスタ王国第一皇女リゼ・ヘルエスタ様は鷹揚に頷く。
「うむ。セバスチャン以外の衛兵は下がれ」
謁見の間は式典の際は貴族や重鎮たちが一堂に会する場にもなる、そんな広い場所にもかかわらずリゼ様の声は十全にその意を伝えた。
本来であれば王家に連なるお方の守護を命じられているのが衛兵だ。しかし、ことこの場における役者が役者ということもあり、リゼ様を守っていた衛兵達は静かに退出していく。
そうして、謁見の間に残ったのはリゼ様とセバスチャン、そして俺達の4名となった。
「ねぇ、アンジュ?」
衛兵たちに令を出した時とは毛色の違うリゼ様の声に、名前を呼ばれたアンジュは肩をびくりと震わせる。
見ればお淑やかな笑みを浮かべていたリゼ様はそこにはおらず、ジトリと責める瞳でアンジュを睨みつけていた。
なんてことはない、先ほどまでは王家としてのリゼ様。今はアンジュや俺の友人としてのリゼ様の顔を使い分けているだけのことだ。
しかし、対外的な問題もあるため俺達が会するときは大抵人払いをしている。
だからこそ、一切取り繕うことのない素のリゼ様に責められるアンジュの表情は、朝以上に最悪な物になっていた。
「朝のアレは私へのモーニングコールかな?」
アンジュの起こした爆発は既にリゼ様も知っていたようだ。
というか、あの爆発音に起こされたから知っているし、こうして睨みつけているという訳か。
「そ、そそそ、そうなんよ~! ホラ、最近リゼは王家の息女が受ける伝統のお勉強で大変やろなって思ってさ、だからそんなリゼに一発景気が良いのを」
「そっかー。そうなんだぁ。それで? 本当なら今頃日課のコンクリート眺めをしていたはずの私が、どうしてここにいるんだろうねー」
コンクリート眺め。それはリゼ様が持つ共感されることが稀有な趣味の一つで、何の変哲もないコンクリートをひたすら眺め続けると言うものだ……まんまその通りだな。
しかしただのコンクリート眺めと侮ってはいけない。リゼ様の趣味はヘルエスタ王国民なら知らぬものはいないし、その界隈においてリゼ様の発言力は他の追随を許さないとか。
俺からすればそれぐらいと思わなくもないが、コンクリートと共に生きると公言するリゼ様からすれば、一日の始まりを邪魔されたの等しいからな。そりゃ怒るだろ。
「ち、違うんよ! 私はもう少し後に行こうって言ったの! でもナナシダ君が無理矢理私を引っ張ってきたの、だから悪いのは私じゃなくてナナシダ君!」
コイツ、俺に責任を押し付けてきやがった。
だが甘いぞアンジュ、リゼ様は公平で多角的に物事を見れるお方だ、お前のちんまいな小手先が通じる相手ではない。
「へぇ、じゃあ何か弁明はあるのかな? ナナシダ」
通じんのかよ。
どうすっかな。確かにアンジュをこの時間に連れて来たのは俺だ、日課のことも知っててあえてリゼ様を不機嫌にさせて、より一層アンジュを叱ってもらおうと思ったのが間違いだったか。
「へへ、さぁてナナシダ君はどう返すのかな。リゼは手ごわいぜ?」
しかも当の本人はしれっとフィクサーポジションを取ってやがる。お前実行犯だろ。
「リゼ様の大切なお時間を考えず申し訳ございません」
俺がどうにか言い訳をしてあたふたするとでも思っていたのだろう、腰を九十度に曲げて謝罪をした俺の姿に、アンジュはポカンとした顔をしていた。
別にここは討論の場でも、相手を言い負かす場でもない。
相手にとって不都合なことをしたら誠心誠意謝る。これだけでいいのだ。
感情的に怒るリゼ様ではない。気持ちには気持ちで返してくれる御仁というのを俺は知っている。
「ふむ……次から気を付けるのだぞ」
「はっ。過分なご配慮、感謝いたします」
「じゃあアンジュ、話を戻すけど。あの爆発はいったいどういうことかな?」
俺とリゼ様がやり合っている間に突破口を考えようとしていたのだろう、アンジュは速攻で戻って来たボールを打ち返す用意がなかったのか、両手をわたわたと振るう。
「え、あ、えええっとですね。あれはそのーなんといいますか……」
普段から人を食ったような態度を見せるアンジュだが、さすがにこの時ばかりは得意の口先も空回りをしている。
このままアンジュが叱咤されれば当初の目的通り、日ごろの行いというものを自覚し、流石にゼロまでとはいかないまでも日常的なゴーイングマイウェイが少しでも軽減されれば御の字だ。
ちらりとリゼ様に目配せをすれば、こちらの意図を察したようにウィンクをしてくる。可愛いかよ。
「アンジュー分かるかな。この後あの爆発音を聞いた国民からの苦情、そしてあの自爆型錬金術師をどうにかしてって嘆願書が寄せられるんだよ。 既に用意してた? て思うぐらい早いんだから」
アンジュは救国の英雄だ。国を襲った流行り病の特効薬を作り、あの地獄とも呼べる大災害から王国をその幼い体と聡明な頭脳で救ったのだ。
当時は大々的に式典を開き、国を襲った病に対抗する術を得たこと、神の所業とも呼べる偉業を成したとアンジュはヘルエスタ王国が大々的に喧伝した。
その後、幼いアンジュは親族ともどもヘルエスタ国王に召し抱えられることで庇護下に置かれ、今日に至るまでヘルエスタ王国のために日夜研究にまい進する。というのはヘルエスタ王国に住む国民なら誰もが知っていることだ。
だがあえて言おう。
人の才能という神から与えられたステータスというものは、その所有者の主義主張と比例することはなく、真面目腐った脳みそで薄い本片手に鼻唄スキップを決め、創作意欲溢れるファンタジーなムフフ展開を本気で実現させようと、国を救えるほどの才能をノンストップで加速度的に無駄遣いしているなんて殆どの善良な国民は知らんのだ。
やれヌルヌルと蠢くこんにゃくやら、小刻みに振動する貝殻やら、はたまた遠隔で神経情報を伝達することで疑似的に他人が受けたショック情報をフィードバックさせる魔法陣やら。アンジュの頭がせめて10度ぐらい慈愛と慈悲に向けられていたのなら、ヘルエスタ王国の錬金術における権威は天井知らずだったというのが、俺とリゼ様の見解だ。
弟子である俺にもその才能のひとかけら程度でも分けて欲しいものだ、品行方正な俺にではなくて脳内メーカーの9割以上が思春期男子高校生と一緒なアンジュにだけ与えられるのはどうにも納得がいかない。
俺がなぜこんな長ったらしく主観8割、客観2割の偏見に塗れた話をするのかというと。
そんな他の追随を許さない天才的な馬鹿が仕出かす惨事に対する苦情が、擁護者であるヘルエスタ王国並びにリゼ・ヘルエスタ第一皇女殿下に、国民を代表する声へと姿形を変えて日夜届けられているのだ。
あぁ、なんとお労しや。
「どうしてアンジュが仕出かした事件の後始末ばっかりが私に押し付けられるのよ! お父様もお母様も、同性だし一番仲良くしている貴方が頑張らないとね。なんて無責任すぎると思わない!?」
己と天才の才能の差に嘆いていて話を半分以上聞き逃していたのだが、リゼ様の矛先はアンジュから徐々にご自身が置かれている状況に対するものへとシフトチェンジしていた。
「え、ええやん。私だってリゼ以外の王家の人と話したらお腹いたなるもん」
「わ・た・し・は! アンジュのせいで毎日お腹痛いの! もう!」
皇女がもう! とか言わんでくださいよ。
リゼ様のそんなぷりぷり怒る姿は怒っているはずなのに、抱えている爆弾はとてつもない破壊力だと言うのに、なぜかデフォルメされた爆弾へと姿を変えて見えてしまう。
「ぷひ、もうって言った。リゼちゃんたらもうかわいいんだから~」
プチ。
そんな音が聞こえたのはきっとアンジュを除いた俺とセバスチャンだけだろう。
「誰のせいじゃあああああ! お前の血の色を見せてみろぉおおお!」
突如として悲鳴に近い叫びを上げたリゼ様は髪を振り乱す。
あーあ、ぶちぎれちゃったよ……。
「お、お嬢様っ!? お気を確かに! 衛兵、衛兵ぃい! お嬢様がご乱心だ! 早く鎮静剤と胃薬を用意するのだ!」
「鎮静剤、こちらに!」
「胃薬、こちらに!」
「水、こちらに!」
「ふかふかのベッド、並びにリゼ様ご愛用の枕。こちらに!」
即座に現れた衛兵たちはまるでこの事態を予期していたのか、手にはそれぞれ指示された薬をもって颯爽と現れた。ベッドは数人がかりだ。
「お嬢様、まずはこちらをお飲みください。ご気分が多少は良くなります故」
「知らんわっ!? 妾の前に立つではない! あそこの赤毛変態錬金術師にギャフンって言わせなくては皇女の名折れぞ!」
「きゃっきゃ、リゼめちゃ怒るじゃん」
「全ての元凶がお前だってこと理解しろよ」
きゃっきなんて口にするな、きゃっきゃなんてしてんじゃねえ。
自分の仕出かした始末でこうなっているのだとコイツは本当に理解してんのか? 理解しててやってんだろうなぁ、こいつはそう言うやつだ。
セバスチャンを始めとした衛兵たち数人がかりで取り押さえられ、無理矢理に薬を飲まされているリゼ様とそれを楽し気に野次を飛ばすアンジュ。
被害者と加害者の関係が生み出した光景とみるにはあまりに不憫だ。
普段から凛として品行方正なリゼ様がこんな姿を見ている俺達が、未だ不敬罪等の罪状で取り押さえられないのは、リゼ様を始めとする王家の方々がそれだけの度量と信頼を寄せてくれていることの表れなのだろう。
そんなある意味貴重なリゼ様のお姿を見ているのも眼福だったりすのだが、流石に可哀そうだし微力ながら助け船を出すしかないか。
「リゼ様」
このときの自分を俺は後に引っぱたきたくなる。正確には一時間と少しだ。
人間その場の勢いに身を任せていい展開が起きることは少ない、それは己の行動がどのような影響を及ぼすのかを正確に把握しないまま、結果だけを見据えて無謀にも手を伸ばしていしまうからだ。
ダンジョンの行き止まり然り、何もない部屋の中央にポツリと配置されている木製の箱を前にした時だったり、熟練の冒険者は真っ先に罠を疑うものだ。
しかし、ただの村人であり人と比べて少しばかり錬金術に精通している以外が平々凡々な俺が、あろうことか一国の王女を相手に傲慢にも手助けをしようなんてことは、冷静かつ客観的に見れば酷く滑稽に映ったことだろう。
「日本では功罪相償うという言葉があります。要は良いことをしても悪いことが、悪いことをしても良いことが互いに相殺し合うという意味です」
「なによーナナシダー、そんなチョーッとばかり日本雑学を持ってるからってなんだー? 妾に喧嘩売ってんのか~、買うぞ~?」
「ヘルエスタ王家の皆々様方の日本好きは存じています。そのような腹積もりは無いですよ、リゼ様の愛する日本を私も知りたいと多少聞きかじっただけです」
「へー、そー、ふーん」
ヘルエスタ王国はなぜか日本にやたら好意的だ。日本も隣国とは問題を抱えているとはいえ、彼らのスタンスは来る者拒まずなこともあり、ヘルエスタ王国と日本国の関係は極めて良好だ。
当然、リゼ様は日本の中でも特にサブカルチャーやらポケットに入るモンスターを集めるゲームに、それはもう高い関心を持っているとか。
アペロ効果というものをご存じだろうか。
自分の好きなものを褒められて嫌な気分になる奴は殆どいない、さらに興味を持ってもらえることはファン心を刺激するというわけで、ひいては同じ趣味を持つ相手に対しては好感を持ちやすいという聞き齧った程度の心理効果だ。
だが、小手先とはいえ世の天才たちが見つけた心理学的作用は一定の法則と効果を持っていた、一応これでリゼ様が俺の話を聞いてくれる状況を作れたのだ。
そんな心境が顔に出ていたのだろう、先ほどまで悪戯好きな笑みを浮かべていた顔を青くさせ、俺の次の言葉を止めようとしてくる。
「んぎゅぅ……」
まあ、思いっきり顔を手で押し返して続きを話すのだが。
「アンジュが他人に迷惑を掛けたというのなら、その分他人のために献身奉仕。一所懸命に働かせるべきかと」
更新日時がアレなのは察してください。むしろ察しないでください
いまだにどのボイスを買おうかまよいござそうろう