にじさんじヤンデレ物語 作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員
(大抵が自分が好きなラノベの書き方を参考にしています)
「なーんか最近のナナシダ君って楽しそうだよねー」
国営の研究所勤めが早くも二週間経った頃、夕飯の白米と唐揚げと野菜(トマトは俺の皿だけだ)をオレンジジュースと共に食していたアンジュが不機嫌な顔で言い放った。
「そりゃ充実した労働環境にいるからな。お前だって伸び伸びとやってるんじゃないのか?」
ここ最近はミーティラさんの元でセコセコと働いていたこともあり、アンジュの勤務態度を見る機会がとんと減っていた。それ以前に見ていた様子ではかなり上手くやれていると言うのが俺の所感なのだが、違うのだろうか。
俺の回答が気に入らないのだろう、フォークで野菜の山を少しかき分けながらアンジュはこれ見よがしにため息を吐く。
「あーあ、やーっぱり。ナナシダ君は師匠である私のことなんかもうどうでもいいんだねー、いいよー、そーやって皆巣立っていくんだから。お母さん嬉しいなー」
「誰が誰の母親だ。息子に飯作らせてんじゃねえ」
「ふーんだ」
なんだコイツ。普通に面倒だ。
停滞期を迎えたカップルでもあるまいに、そもそも男女の関係でもないただの師弟関係だぞ。巣立つのは当たり前でたとえそうだったとしてもコイツが不貞腐れる理由が分からない。
別にアンジュが俺に対してどんな感情を抱こうがお好きにどうぞではある、が。この家に毎日のように入り浸るアンジュとの関係がこじれるのは喜ばしくない。
しかし、人生におけるプライベートと仕事を乗せた天秤の均衡を保つのは中々難しい。いっそのこと両方の天秤が同時に下に傾く設計にでもならんものか。そうすれば我が人生に憂い無しとなるのだが。
仕方ない。こういうときは冷静な方からアプローチするのが最適解だ。
「なあ、何が不満なんだよ。お互い子供じゃないんだ、大人らしく建設的に話し合いをしようじゃないか」
「べっつにぃー。私のわんぱく魂は未だギンギラギンですぅ、あの日の淡い気持ちは今でも色褪せてないんですぅ」
う、うぜぇ……。
「なら子供心に任せて思ったことを言ってくれよ」
「私大人なのでー。そんな一時の迷いで犯した罪はたとえ幼子でも許されるべきではないと私は思いますぅ」
「よろしい。その喧嘩買ってやろうじゃないか」
相手にするのも面倒になった俺はアンジュの皿に残った最後の大きめな唐揚げを強奪。そそまま口に放り込んだ。
「あああああ! 私が楽しみに取っておいたからあげ! 唐揚げ泥棒! まだ飲み込んでないよね!? か、返せ! 今すぐ返して!」
「ふふぁふぁふぁふぁ! んもうふひにはひっふぇんふぁほ! あひふぁふぇふぉ」
(ふははは! もう口に入ってんだよ! 諦めろ!)
真面目に向き合うからこっちが一方的に損してしまうのなら、はなっから真面目に付き合わなければ良いだけのこと。
俺の暴挙に驚いて飛びかかってくるアンジュだが、男女の性別差と研究畑という非肉体労働の毎日を過ごしているアンジュに、力比べで負ける道理はない。
アンジュを押さえ込んだまま俺は口に入れた唐揚げをしっかりと味わって飲み込む。
その光景を見たアンジュが「あぁ……私の……」と悲哀を込めて呟く。
「お前が素直に言わないのが悪いんだよ。ほら、俺の唐揚げをやるからそれ喰ったら何が不満なのか話せよ?」
アンジュは意外に根に持つタイプだ。このまま一方的に唐揚げ泥棒でいればいつか絶対仕返しが来る。
俺の唐揚げを二つほどやると、途端にアンジュは顔を輝かせて二つとも同時に頬張る。ちょろいな。
「ふぁーふあーふぁー!」
「喰ってから話せ」
それから十数秒ほど唐揚げを満面の笑みで咀嚼したアンジュは、オレンジジュースで唐揚げを油ごと胃に流し込むと少し強めにコップを置いた。
「ダーカーラー! 最近のナナシダ君って私のことないがしろにしすぎじゃない!? 私、君の師匠! だからもっと私を構ってよ!」
なんで師匠を弟子が構うんだよ。逆だろ。
「俺はお前の彼氏じゃねえ。構ってほしいなら他を当たってくれお師匠様」
「弟子のくせにー! 弟子のくせにー!」
「可愛くないぞ26歳独身彼氏無し天才美少女錬金術師様。そういうのは特別な間柄だからこそ愛らしく受け止められる物であって、俺等のように師弟関係でしかない相手にしたところでバカに見られるだけだぞ、バカ」
「私、天才錬金術師ぞ!」
「知ってるわバカタレ。前までの研究所ならともかく、今の職場は大勢の同僚がいて散らばってる紙を捲れば計算式が所狭しと埋め尽くされているような場所だぞ。任されている仕事から違うのにどうやってお前を構えってんだよ」
もはやまともに取り合うつもりもない俺なのだが、少しばかりアンジュの言いたいことは理解できているつもりだ。
天才の弊害か。幼少期から天才ですら過小評価と言われてきたアンジュにとって、まともに会話できる相手は俺かリゼ様だけだ。アンジュガチ恋勢はいるにはいるのだが、アイツらの場合はアンジュ全肯定ボットでしかないからな。
口では言わないが俺が見る限りアンジュと親しい関係を築けている存在はごく少数だ。
「だってぇ……急に相手してくれなくなると少しだけ寂しいじゃん」
しおらしく俯いて指いじりを始める姿を見れば、俺の自惚れた予測の着弾地点から大して離れてはいないだろう。
俺が活躍するアンジュを女々しく眺めていたように、アンジュはアンジュで友人である俺が相手をしてくれないことに不満が溜まってしまったと言うわけだ。
26歳の悩みとはとうてい思えない。だが、コイツの天才的な頭脳は錬金術以外はてんで当てにならない。錬金術以外の精神年齢は高校を卒業していないと言っても過言じゃない。
そんな一般的な大多数にとっての大英雄様のガキっぽい姿に自然と頬が緩む。
「悪かった。今までと全く違う環境で忙しかったんだよ」
「私はそんなことなかったよ」
「うるせ天才。その……あれだ、これからは余裕もできるだろうし。時間が取れれば顔ぐらいは見に行ってやるから機嫌直せよ」
ヘルエスタ王国の頭脳を集めたあの研究所でミーティラさんのサポートは、比較的高くない難易度に比べてその作業量は多い。いい顔をしようと余裕ができれば、なんて言ったがはてさてどうやって時間を捻出したものか。
あののほほんとした笑みを浮かべるミーティラさんに今日のことを話せば、悪戯っ子な笑みと共にそれぐらいの時間を確保させてくれることだろう。
そのためにはちょっとクール系で通している俺の大事な印象工作と相反するのだが、これでまたアンジュが不貞腐れることの面倒臭さを天秤に掛ければミリグラム単位で後者が傾いた。
傾いたのなら仕方がないな。
「うわーいやったー! 見ててよねナナシダ君! 最近の私は研究室でもかーなーりーの成果をだしてるんだから!」
先ほどまでの不機嫌さはどこへやら、赤点に絶望した学生が直後に問題が訂正されて赤点を免れた時のような、調子のいい笑みを浮かべてテーブルに残していた料理をかきこんでいく。
「はいはい。それと何度も言うが他の人に迷惑を掛けないでくれよ?」
「わかってる、わかってるって!」
本当に分かっているんだろうな?
アンジュが自分で起こした問題に叱咤されるなら別にいい。だが、なぜかアンジュが仕出かした内容がミーティラさん経由で俺のもとに運搬されてくるのだ。
そのたびに向けられるミーティラさんの怖い笑みに晒される身にもなってみて欲しい。ノーマル属性なはずなのに新たな属性に目覚めてしまうかもしれない。あの愛らしさとからかい癖を見る限り被害者はいる、これは断言できるぞ。
☆
数日後、研究所内を例のごとく駆けまわっていた俺のもとにミーティラさんがニコニコと話しかけてきた。
しかし、その目に陽だまりの温かさはない。
「ナナシダさん。アンジュさんがまた問題を起こしたようですけど、何か言いたいことはありますか?」
くそがよぉ……。
なんだってアイツの問題がまるで俺の問題みたいに言われなくちゃいけないんだ。
怒るべきはあのバカ赤髪であって、俺は第三者達と同じ場所で「あ~あ、アイツまたやってますね。アハハ」て談笑してもいいはずだ!
あぁ? 俺がこの歩く雷管を連れ来たんじゃないのかって?
俺はあくまで提案者であって、最終的な差配はこの国、ひいてはヘルエスタ王家のリゼヘルエスタ様に責任があるはずだ。
「うちのバカが誠に申し訳ありません」
なんて無責任な言葉を出せるならアイツの弟子なんて数か月と続かないのが悲しいところだ。
アンジュのことで俺が頭を下げるのは当たり前で、俺にも少なからずアイツを制御できていない状況に申し訳なさを感じてしまうのだ。
「ふふ、別にナナシダさんを詰問したいわけじゃないんですよ? ただ、ちょっとアンジュさんの手綱を持っていただければそれで、えぇ、まったく問題なんてこれっぽっちも」
謝罪の意思があるのならそれが意識せずとも行動に表れるとは誰が言ったか、その言葉に偽りはなかったようだ。
流れる動きで土下座をする。それはもうよどみのない洗礼された土下座だ。
「誠に、誠に申し訳ございません!」
「うふふ、ナナシダさんってかわいいですよねー。 もーっと苛めたくなっちゃいます」
「それでミーティラさんのご気分が少しでも紛れるのであれば!」
「もー、そんなに自分を安売りしちゃダメですよー。はいお手」
「ワン!」
プライド? んなものアイツの弟子になったときから捨ててるわ! 犬になれってんなら喜んでなってやるわ!
しかしして、人間の尊厳すら投げうった謝罪を前にミーティラさんは先ほどまでの色気のない笑みを崩し、心底愉快だとでも言えるものになっている。少しばかり頬が赤くなっているように見えなくもないが、気にしないでおこう。
小さく、それもハッキリと聞こえないほどのボリュームでミーティラさんが呟く。
「すみません。なにか言いましたか?」
「……いえ。はいお代わり!」
「よしきた! ワン!」
「あ、あの~。なにやってんすか、所長?」
栄えある人類のコミュニケーションにはほど遠いやり取りにどう入ったらいいのか分からない、なんて顔で他の研究員が巻き込まれないぎりぎりの場所から声を掛けてくる。
土下座歴に自負がある俺としてはこの状況を見られることに抵抗は無いのだが、ミーティラさんは違うようだ。
ひと息に赤くなった顔を隠しながらばっと立ち上がったミーティラさんは、小さくコホンと咳払いをした。
「い、いえ! 少しそのぉ……お、落としたものをナナシダさんが拾ってくれたんです! そう! だからそれを私が受け取っていただけです。えぇそうです、だからひざまずいているナナシダさんの手が私の手の上に乗っていたのはごくごく自然なんですよ」
もの凄い動揺している。なんだったら意味もなくこちらに近づいて俺を隠そうとして来る。
普段はお淑やかで頼れるリーダーとしての立ち居振る舞いを見せるミーティラさんにとって、部下に今の状況を見られるのは意図しないところなのだろう。
一人慌しくしているミーティラさんだがしかし、今はそんなことに意識を向ける余裕はなかった。
ミーティラさんは立ち上がったが俺はまだ土下座の体勢をなんとなくキープしていた。そして手の届く距離をさらに狭めたことで目と鼻の先にアレがあるのだ。俺はソレから目を話すことがまったくもってできない。
タイトスカートから伸びる細く健康的なふくらはぎ、薄めのデニールなタイツによって視覚効果が上乗せされたそれが眼前を覆っていたのだ。
「そうだったんですね」
「そうそう! それで、私に何か用があったんですよね?」
「あ! 先ほど第A-2研究室からボヤが上がってるって連絡があったんです!」
うーむ。ミーティラさんの普段から発するゆるふわな空気と、時折見せる小悪魔の姿によるギャップがこの研究所におけるミーティラさん信者を増やしているのだと思っていたのだが、こうして目の前に新たに見せつけられる魅惑という大人の女性が持つ色気が加わったことで、未だ自身の認識が甘かったことを悔いるべきなのだろう。
プラシーボ効果というわけではないが、いつも感じるミーティラさんの砂糖と花を足した甘い匂いとは違い、男を惑わす匂いが感じられる。ような気がする。
「第A-2……てアンジュさんが昨日からサポートに入っていただいた研究室ですよね!? そこからボヤということは……」
「少し前まではなにごとも無かったのに、最近のアンジュさんはどこかおかしいですよ。やけに浮ついているというか、研究の話していても上の空でまったく聞いていないときも多くなってます」
「何か心配事でもあるのでしょうか。元々はご自身の研究所で多方面に活躍をしていた方ですから、もしかしたらストレスが溜まっているのかも知れませんね……」
そもそもだ。ミーティラさんが持つ魅力は俺なんかが全て理解できるとは思っていない。短い期間とはいえこれだけ一緒に仕事をしているのだ、職務内容的に交流を持つ機会は多い。ミーティラさんが話し好きと自ら豪語するだけあり、彼女と談笑を始めればラジオの禁忌とされる間というのが存在しなくなるほどだ。
俺は勘違いをしていた。それでもなお、俺はミーティラさんの魅力を理解したつもりになっていたのだ。
つまりだ、長々とこんな童貞男の欲情から生まれる言葉の羅列が意図する内容というのは、まだまだミーティラさんには隠された魅力が存在するということだ。だが、異性ということもあり踏み入れられる領域には明らかな境界線が存在する。
「と、とりあえずボヤ騒ぎをどうにかしないとですね。私が向かいますから、貴方は混乱が広がらないように私が対処すると皆さんに知らせてください」
「ハイ! 分かりました!」
認めるしかないな。
この人と身近に接するポジションに立てたことで慢心していた。まだ時間があるとはいえこの研究所に勤める期間は短い。
どうすればミーティラさんの魅力を手っ取り早く知ることができるのか。答えは至極簡単だ、この研究所に存在するであろうファンクラブ、ないしそれに準ずる秘密の会合が存在するのは必定。
あとは手土産だな、未だに俺に向けられる視線には研がれた抜き身の刃が見え隠れしている、そんな連中に交渉を持ちかけるのだ。できる限り最新の注意と諸先輩方にたいする敬意を表す必要があるな、となれば、
「……さん! ナナシダさん!」
「うぉっぱっ!? すっごい美人!」
大きな声とドアップに映った可愛らしくも整った美女に俺は盛大に声を荒げてしまった。
「みっ!? へ、変なこと言わないでください! ナナシダさん! セ、セクハラですよ!」
マジかよ。美人って言ったらセクハラなご時世なのかよ……。怖ぇ。
いや、もしかしたら俺みたいなモブがそんなことを言ったことが問題なのか? そう思えば納得がいく、だってこれがテレビでワーキャー言われる甘いマスクイケメンだったらもっと反応は違ったことだろう。
顔を赤くしている理由もまた違ったのだろうと思うと、急激に心の中のナニカがポキリと音を立てた。
「自首してきます」
「ええっ!?」
「罪障は何が良いですかね、美人上司に傲慢にも思いの丈をぶつけた罪ですかね。死刑が妥当ですよね」
「そ、そそそそこまで言ってませんよ! お願いですからいつものナナシダさんにもどって~!」
「アハハ~、いやー本当に夢のような日々でしたよ~。俺の師匠があの赤毛バカじゃなくてミーティラさんみたいな女性であれば明日車にはねられても笑顔で逝けます」
もう、仕方ありませんね。なんて言いながら薬品の調合を手取り足取り……はぁ、儚い夢だった。
「ゆ、許しますから! び、びび、びじん、て言ったの許しますから! どうかアンジュさんを止めるのを手伝ってくださいよぉ……」
とうとうメソメソと泣き始めるミーティラさん。クリクリとした大きな瞳からはこれまた大粒の涙が止めどなく溢れていた。
「初めて美人って言われたのにぃ……なんでぇ……泣いちゃうのぉ……!」
終いにはうぇ~んとアニメとかでしか聞かない泣き声まであげさせてしまった。
流石に虐めすぎたか。
普段のいじりに対するちょっとした仕返しのつもりだったのだが、思いのほかクリティカルヒットしていたようだ。
というか、美人って言われたの初めてってどういうことですか? 少なくともこの研究所に勤める男共なら生肉を前にした猟犬の如く、耐えきれないとばかりに言われ慣れているのでは?
謝罪よりも慰めるよりも前に思わずそう聞いてしまえば、異性に面と向かって言われたのは初めてとしゃくりあげながら答えてくれた。
「申し訳ないです。普段揶揄われているので、ちょっとやり返して見たかったと言いますか……その、あれです。本当に申し訳ないです」
それから数分。ミーティラさんが泣き止むまで俺はひたすら謝罪を繰り返した。
目の周りを赤くして頭を撫でろと宣うので、言われたとおりに美女のサラサラな頭部を撫でるという全男が羨む偉業を達成してしまった。
ようやく回復して頬をこれ見よがしにプクリと膨らませたミーティラさんに連れられて、アンジュがなにか仕出かしたらしい研究室に向かう。
「あ、ナナシダ君だぁ!」
そんな、数年に一度の幸運に神に感謝する俺を出迎えたアンジュは、部屋を満たすボヤに一切問題を感じていないであろう(少なくともアンジュは)笑顔を浮かべていた。
はぁ、さっきまで有頂天だった俺の足にジャラジャラと錨が巻き付く音がした。