にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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アンジュ04

「えへへ~イタッ!?」

 

 締まりのない笑みを浮かべる特徴的なライトレッドなヘッドを叩く。

 

「なーにがえへへだ。このボヤ騒ぎを起こしたのはお前なんだろ、大人として今すぐ皆々様に誠心誠意の謝罪をしやがれ」

 

 資料を少しでも守るために周囲を慌しく駆け回る被害者の方々に少しでも申し訳ないとは思わんのか。

 

「まあまあ、そんなカッカしてもいいことないぞあたたたたたっ!」

 

「ふざけたこと言ってんじゃねえ! 何様だこの野郎! その頭に直接ホモサピエンスが築いたモラルを直接叩き込んでやる!」

 

「ちょぉお! あかない! ヘッドロックで開く頭なんて存在しないからぁあああ!」

 

 その後、ミーティラさんにやんわりと止められるまで俺はアンジュの頭をどうにかこじ開けようと奮闘した。

 

 肝心のボヤ騒ぎなのだが、ボヤと言うには何かが燃えたりといったわけではなく、アンジュが配合していたビーカーから化学反応で大量の黒煙が噴出したのが原因らしい。

 

 実害は殆どなく、鼻をつくアンモニア臭と部屋を満たす黒煙をどうにかすれば元通りとはいかないまでも、研究に差し支えない状態にまで戻すことはできた。

 

 だからこそ、俺はとあることが気になった。

 

「失敗の原因はなんだ?」

 

 一通り場が落ち着いた中で投げかけた俺の問いにアンジュが視線を逸らす。

 俺の問いにミーティラさんを含む有識者たちが首を傾げる。それは「研究や実験に失敗はつきも。なのにどうして責めるように問いただすのだろうか」といったところだろう。

 

「い、いや~ちょーっと配合をミスったのかも。もしくは計算式が間違っていたのかな~」

 

 あからさまにすっとぼけるアンジュをひと睨みしてこいつが絶賛関わっていた研究資料を見る。

 アンジュの無駄に綺麗に書かれた資料は憎たらしいが見やすい、才能のない俺でも研究の全容をすぐさま理解できるのだ。普段の奇行がなければと残念至極でしかない。

 

 そしてため息を吐く。

 

「アンジュよ、何年お前の弟子をしていると思ってんだ。目を反らすなバカ師匠、使ってる素材を見てもボヤを起こすとは思えんのだが?」

 

「うぐぅ……」

 

「計算式も見る限りおかしなところはない。たとえ配合量を間違えていたとしても特殊な反応は起きないだろ」

 

「そ、それは……」

 

 なにかを言おうとしてモゴモゴと意味のない声だけがアンジュの口から洩れる。

 まだしらばっくれるつもりか。お前がそんな考えなら俺にもやりようはある。

 

「誤解を恐れずに言おう。この研究の難度は決して高くない、それはここに配属されて数日でここまでの資料を用意できている時点で明白だ。率直に聞こうじゃないか」

 

 ピクリとアンジュの肩が震える。

 

「配合の時、真剣に取り組んでいたのか?」

 

 俺がどうしてアンジュを追い詰めるように詰問しているのか。

 今回の問題は本来起きるべきものではなかったからだ、コイツの言った通り式が間違っていたやら配合をミスしたと言うなら俺だってこんな公開処刑はしなかったさ。

 

 だが、今回の事件は本来ありえないミスから生まれたものとあれば話は別だ。

 ましてや、錬金術師を錬金術師たらしめるいわば尊崇ともいえる研究をそっちのけにしていたのだから、不本意ながらコイツの弟子として許すことができないのだ。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 しばしの沈黙からアンジュが放ったのは言い訳のない純粋な謝罪だった。

 

「ミーティラさん、研修室の方々。誠に申し訳ございません!」

 

 アンジュの管理を怠った俺にも原因があるため俺も頭を下げる。

 

「い、いいですよ! 謝罪なんてしないでください、研究には失敗がつきものですから」

「そうですよ。実害はほとんどなかったですし」

 

 ミーティラさんを始めとした研究員たちの反応は大人のソレだ。だからこそ余計に罪悪感が沸いてしまう。

 研究所に勤める人たちは研究者としても優秀でそのうえ人間性も大変素晴らしいのだ。レーダーチャートで錬金術師とコミュ力がぶっちぎりでそれ以外が限りなく0に近いコイツと比べるのすらおこがましい。

 

「でも、ナナシダさんにはアンジュさんのメンタル面のサポートをよろしくお願いしますね。環境面とかで問題があるのでしたら遠慮なく言ってもらえると助かりますので」

 

「ありがとうございます。ミーティラさん達には色々気を使って頂いているのに……」

 

「そんなことないですよ!」

 

 声を上げたのはボヤ騒ぎの研究を行っていた研究員の一人だった。

 

「アンジュさんの御かげで今までと比べられないくらい研究が進められているんです。だからもっとアンジュさんには伸び伸びとやってもらいたいんですよ!」

 

 その言葉の言葉にうなずく研究室の皆々様方。

 

「だからボヤの一つや二つ全然かまいませんよ!」

「そうそう! 難解な錬金術式を簡略化して貰えたことでリソースが増えたんですよ!」

「アレのおかげで追加の術式を入れられたし、日進月歩の改良をものの一時間で進めてくれたんです!」

 

「へ、へへへ! どうだナナシダ君、このアンジュ様の功績をもってすればボヤ騒ぎ一つ何ら問題無いのだ! これぞ人徳の成せる結果でござんすよ!」

 

 水得た魚を体現するアンジュなのだが、まずは周りをしっかり見て欲しい。お前の場合は人徳じゃなくてこの人がいると得をするって意味の人得なんじゃないのかと、世間一般的な感性を持つと自負する一般人としてはそう見えるのだが?

 

「そう言って頂けるのは助かります。ですが、今回のようなボヤならまだしも本当に危険になる場合もあります。今後のことも含めてしっかりと対処させて頂きますので、ご安心ください」

 

 理由はどうであれアンジュが皆に認められて評価される現状はこの上なく嬉しいのだ。それは幼少からずっとこいつの破天荒に振り回されのと同時に、どれだけこいつが凄い奴なのかを見てきた弟子としてのやりどころのない不満が昇華される思いでもある。

 

「はは、ナナシダ君がんばれ~」

 

「お前が一番頑張って気を付けないといけないんだよ」

 

 だが、それをもってしてもこの阿呆には責任という社会における地雷原を教えなくてはいけない。

 別に嫌がらせってわけじゃないんだ。清廉潔白だ。全ては大事なお師匠様のためなのだ。

 

「ナ、ナナシダ……君? 顔が怖いよ?」

 

 

「うぅ……た、立てないよぉ……」

 

 その日の夜。アンジュは当然のように上がり込んだ我が家のリビングにて悶えていた。

 

「ナナシダ君があんなに……激しく責めるからいけないんだぁ~」

 

「正座させてたから単純に痺れてるだけだろうが」

 

「反省しましたって何回も言ってるのに~……。これって放置プレイ?」

 

 アホか。

 

「うごごご、足があ! あ、歩くだけでくぅぅぅぅぅ! なんだろう、少し気持ちよくなってきた気が……」

 

「……」

 

 しかしまあ、常日頃から他人を食ったように揶揄ってくるアンジュが余裕なさげにしているのを見るのはなんともあれだな。スカッとすると言うか、してやったぜ。て感じになってくるぞ。

 

「あれ、ナナシダ君。今のツッコミどころでは? どしたのかな? もしかして本当にそっちに目覚めたと思っちゃった?」

 

「……」

 

「お、おーい。放置プレイは私の純情フィルターじゃ全部アウト判定なんだけど、無視ってめちゃくちゃ傷つくんだけど……。ねえ……あのね、本当に無視は止めてくんない? ちゃんと反省したからさ、次からは気を付けるからなにか答えてよ私のこと嫌いだとか言わないよねだっていつもならあれぐらいのポカ笑って終わりじゃん? そもそもあの時はナナシダ君が謝る必要とかなくない? あの所長ちゃんも困ってたしさ私のせいだしいつもみたいに私を怒ってよあのねナナシダ君が誰かに謝ると姿とかあまり見たくないっていうか。というか今日みたいなことってこれからも起きる可能性を考えれば早く前の状態に戻ったほうがいいのではと思うわけですよ」

 

 そうなれば成熟した大人な俺でも残り香となったクソガキ魂が甦ってくるようで、

 

「今度リゼにお願いして早く研究所作り直してもらおうよ。私凄く反省したのこれからは爆発とかあまり起こさないように気を付けるしやりすぎないようにもするからさ。ま、前みたいに二人で研究しようよ。あれだよ? あそこの人達が嫌だとか言うわけじゃなくてね、もちろんいい人たちばかりで思ってたほど悪くないなとか思ってるんだけど。なんでかは分からないけ辛いというかマリッジブルーじゃないけど違和感みたいなのがあるんだよ。私って社会不適合者なのかもしれないんだ。このままじゃあの人たちにもナナシダ君にも迷惑かけちゃいそうで怖いんだ。でもね、前の研究所に戻れれば全部解決すると思うんだ。なんでかは分からないけど私の感て意外と当たるし、よく錬金術でにつまったときとか感に従ってやると七割方上手くいくんだ。今回のもきっとそうなんだようひゃぁっ!?

 

 これといった抵抗感もなく先ほどから早口にひとり言を呟き続けるアンジュの脚をツンとすると、悲鳴と共にビクンと背筋を伸ばして涙目ながらにこちらを睨んでくる。

 

「きゅ、急に止めてよ!」

 

「仕方がないだろ。脚が痺れてる人がいたらイタズラするのが礼儀というものだ」

 

「その世界の精神年齢すっごく低そう」

 

 涙目になりながらもようやく痺れがひいてきた様子でアンジュはゆっくりと飲み物を取りに向かっていった。

 

「……ひとり言とか怖いんだが」

 

 殆ど聞き流していたがアイツはアイツなりにストレスを感じているようだな。今回の発案者としてこんなことでアイツがナイーブになるとは思ってもいなかった。

 

 ガチ恋勢や普段の振舞いもあってかああいった場所でも対人関係については問題ないと思ていたし、どっちかというとアイツが起こすであろう珍事件の方が問題になると考えていたが、外れてしまったな。

 

「ナナシダくーん、オレンジジュースってもうないのー?」

 

 聞こえてくる声に先ほどまでの影はなく、さっきの様子も俺が深読みしすぎただけなのかもしれない。

 

「ちょっと待ってろ、確かまだ買い置きがあったはずだ」

 

 あまり心配はしていないが、今日のこともあるしミーティラさんに相談してみるか。

 声に出すことなく結論付けた俺は、いつの間にか買いだめするようになったアイツの飲み物を保管している棚を教えるため、冷蔵庫へと向かった。

 

 

「そんな訳なんで、あまり問題はないと考えてはいるんですけど」

 

 次の日、出勤して本格的に業務が始まる前にミーティラさんにその話をした。

 心配と興味が半々といった顔で聞き終えたミーティラさんは、手に持った朝のコーヒーを一口。

 

「なるほどです。人ですから些細な変化には敏感な物です。ましてや一日の半分近く、覚醒時間の半分以上を過ごす環境が変わってしまえば必然ですよね。私も考えが回りませんでした」

 

 視線を落としたミーティラさんに俺は手と首を振った。

 

「気にしないでください。アンジュも子供じゃないんです。本来であればアンジュ自身が自己分析をして自分なりの解決をしなくてはいけないんですから。錬金術は文句のつけようもないんですけどね」

 

「そんなことありません。どれだけ優秀な人でもそれは自分の力を十全に機能させてこそです。そして自己管理とまでは言いませんけど、優秀な人ほどその手の話が苦手って方もいますから」

 

「ここでもですか?」

 

「ここもです」

 

 ミーティラさんは神妙に頷いてコーヒーをもう一口。

 

「アンジュさんにつきましては承知しました。私の方でもできる限りストレスにならないよう配慮しますね」

 

「痛み入ります」

 

「それが私の役目ですから」

 

 えっへんと豊満な胸を張るミーティラさん。

 そこにいたのは普段の柔らかい振舞いを見せるお姉さんでも、研究室から研究室へと走らせて来る小悪魔な悪戯っ子でもなく、所長という一組織をまとめるに足るカリスマを見せる上司の姿。

 

「ここの所長がミーティラさんでよかったです。」

 

 おべっかのつもりはなく、自然と口をついたのはひねりの一つもない道ばたに無数に転がる石と同じぐらい、どうしようもなく当たり前な言葉だった。

 

 幾度となく向けられたであろう賞賛を投げつけられた当のご本人は、両手で持ったコーヒーカップで口元を隠してしまったので曖昧にしか窺い知ることはできなかったが、きっと反応に困って口を歪めていることだろう。

 

「ありがとうございます」

 

 おずおずとミーティラさんが答えてくれるまでの数秒は今日に至るまで築いたつもりでいる信頼関係に、ゆっくりとではあるがピシリピシリと崩壊の幻聴が聞こえてしまうほどに緊張してしまった。

 

「すみません。もう少し言葉を選べたら良かったんですけど」

 

「本当に嬉しいんですよ? 所長という立場になってしまうと外との交流は殆どありませんから……。実のところちゃんとやれてるのか心配で、役に対して力不足なんじゃないかってたまに不安になるんですよ。だから今みたいに外部から来られた、それもこの国で最も偉大な錬金術師のお弟子さんから言って貰えるたんです。ちょっとドキドキしちゃいました」

 

 ちろりと健康的な舌を見せてウインクするミーティラさん。こんな野郎の誰にでも言えるジゴロからデカデカと赤点を付けられそうなセリフで拝めるのであれば、幾らでも言わせて貰います。

 

「アンジュさんのこともそうですけど、私としてはナナシダさんからもここでのお仕事で困ってることがあれば言ってくださいね?」

 

「え……」

 

 まさかそんなことを言われるとは思っていなかった。

 

「慣れない場所ですし、昨日みたいにアンジュさんと私達の間に立って貰う機会も多いですから。知ってますよ? 昨日以外でもアンジュさんのために色々と動いていますよね」

 

「な、なんのことやら……」

 

 ミーティラさんの言うとおりではあるのだが、咄嗟に否定していた。なぜかと言われれば回答に困るのだが、強いて言うなら俺自身がわざわざ取り沙汰される話でもないと思っているからだろうか。

 

 そんな思考が例のよって漏れているのだろう、ミーティラさんは困った生徒に向ける目で俺を見る。

 

「本当に辛くなる前に、相談してくださいね?」

 

 純然な厚意にこれまた慣れてなかった俺は静かに首肯した。

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