にじさんじヤンデレ物語 作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員
ミーティラさんの図らいもあり、ボヤ騒ぎの一件以来俺の業務にアンジュサポートの文字が追加されることとなった。
わざわざ業務内容に加えるほどのことなのかと思うわけだが、「よろしくお願いします」とあの愛らしい上司様に猫なで声と身長差から繰り出される上目遣いのコンボを決められてしまえば、決して誰も俺を責めたてることはできないはずだ。
はてさて、ではこのアンジュサポートという折り紙を半分に折る程度の簡素な仕事がなにをするのか。聡明な読者諸君が言わんとすることは俺も分かっているつもりだ、こう言いたいのだろう。
言われなくても分かる。と。
「ナナシダ君、これアンジュさんが入ってくれた研究にあまり乗り気じゃないんですけど……」
「分かりました。ちょっと待ってくださいね」
「あれ、ナナシダ君。どうしたの~?」
「お前、この研究になにか不満でもあるのか?」
「特にないけど」
「じゃあしっかり取り組めよ」
「やだ」
「やだ、じゃねえよ」
「だってー! これすっごく面白くないんだが!?」
「知らねえよやれよ」
「ご褒美くれたら頑張れる気がする!」
「くそがよぉ……。はぁ、ご褒美な。お前の頑張りでこの研究が上手く行ったら、ご褒美でも何でもくれてやる(リゼ様が)。それでいいな?」
「うひょー! やる気出て来たあああ!」
「ナナシダ君! いや、ナナシダさん! ありがとうございます!」
「いえいえ」
別の日。
「ナナシダ君! 研究大成功だって! 私頑張ったと思うんだけどさ、頑張ったこの優秀なる頭脳を労ってくれてもええんやで!」
「あー、はいはい。よくできたなー凄い頭だなー、天才だー」
「ちゃう! 言葉じゃなくて行動! ほら、頭撫でて!」
「ッチ……。エライぞー、エライぞー」
「わっはっはっは! 私は美少女天才連奇術師様だからね!」
別の日
「ナナシダさーん! アンジュさんが急に変な調合を! ゲル状の化け物が!」
「わっはっはっは! これぞ限りなく摩擦力をゼロに近づけた最強のローションンン! 錬金術で疑似的な核を生成して触手化! これでおひとり様もご安心の一品だぜ!」
「このバカ! そういうのは自分の研究室が戻ってきてからやれっていつも言ってんだろうが!」
「ああああああ! その錬成陣めちゃ苦労したんだよおおおお!」
別の日
「ナナシダさん、これなんですけど……」
「なんですかこれ?」
「この間アンジュさんが一人ぶつぶつ言いながら書いていた式でして、普段なら誰が見ても分かる素晴らしい物なんですけど……。これについてはさっぱり解らなくて、でもアンジュさんに聞くにもちょっとその恐れ多いと言いますか……」
「あぁ……うん、そうですね。自分からアイツに聞いてみますよ」
「こんなことでナナシダさんを頼るなんて申し訳ないですけど、助かります……!」
「あい、この赤髪の錬金術師」
「四皇みたいな呼び方だね」
「このふざけた術式はなんだ?」
「あーそれね! とある電気体質少女が使う武器を再現しようとしたんだよ。これが完成すれば我が国の防衛能力は飛躍的に向上するぞお! 最初は砲台並みの大きさじゃないとだめだけど、いずれは超長距離からのピンポイント狙撃! ミサイルよりも早く動く物体だから防衛なんてほぼ無理ゲーにできる! これで我が国は列強に名を連ねるのだ! 核より安全でコストを含めた運用パフォーマンスは最強だぜ!」
「ということです、リゼ様。こやつめが銃刀法違反者でございます」
「アンジュ~? ちょ~っとこっちに来てもらおうか?」
「リリリリリゼがどうしてここに!? あ、いや、ちょ……あああああああああああ!」
別の日
「あ、貴方がいるからアンジュさんが私を見てくれないんです……っ!」
「落ち着いて、話をしよう」
「話すことなんてない! 貴方が死ねばそれで全て解決するんです!」
「アンジュの好きな物を教えようじゃないか。アンジュは自分と同じ興味趣向の相手がいると喜ぶぞ」
「……ほ、本当ですか?」
「嘘はつかない。誓って」
「嘘だったら……殺しますから」
大体こんな感じだ。最後に至ってはアンジュガチ恋勢にアンジュのいないところで被害にあったわけだが、まあ予想の範疇だから冷静に対処することができた。予測できてる時点でさもありなん。
とどのつまり、この歩くダイナマイトの導火線に火が付かないようにするのが、俺に与えられた新たな仕事だ。
☆
ミーティラさんの補助を行う通常業務はただでさえ多忙だ、そこにアンジュのサポートなんぞが追加されたことで必然的に俺の業務時間は超過。人生で初めて残業をすることになった。
優秀なる上司様ができる限り負担を下げてくれて入るのだが、それでも帰る時間が遅くなってしまうことは避けられなかった。アンジュには申し訳ないが、最近では先に帰ってもらうことが殆どとなっている。
今日も今日とて残業。
所長室にて山積みとなっている資料に初めの頃は目をひん剥いていたわけだが、今では減ることのない資料に立ち向かうソルジャーと自負できるほどには慣れて来た。
「すみません。ナナシダさんは一時的にこちらに来てもらっている状態ですのに、こんな時間まで……」
そんな中、俺が残業する以前よりエブリデイ残業だったミーティラさんが、暗い声で謝罪して来た。
「別に気にしてませんよ。むしろちょっと楽しいまでありますから」
「ですけど……」
「流石に一人じゃ参ってたかもしれませんが、毎日ミーティラさんと一緒の残業なんで役得ですよ」
半分ほどは本音だ。役得ではある、だが残業せずに帰れるならそれに越したことはない。
選べと言われるならミーティラさんからお願いされない限りスパっと家路に付く自信がある。
普段の俺ならもう少し言葉をオブラートに包んで、遠回しに業者を経由するであろう表現をしなかったのは、たぶん残業テンションが原因だ。言い換えるなら、学園祭前日の泊まり込みテンションだろう。通っていた学校では学園祭なんて華やかな物はなかったので1から10まで妄想ではあるが。
ミーティラさんは少しだけポカンとした表情を見せたのち、口元に手を持っていき上品にフフっと笑う。
「私も少し前までは一人だったので、ナナシダさんが一緒なのは心強いです」
「ははっ。こんな野郎でよければいくらでもお供させていただきます」
「わっ。頼もしいですね! あ……でもアンジュさんに悪いですね」
どういうことだろう。どうしてここでアンジュの名前が出てくるんだ?
「最近は少しずつ増やしてもらってますけど、それでも以前と比べればお二人の時間って結構少ないじゃないですか。それなのに残業までナナシダさんの時間を頂いちゃってるので、アンジュさんに少し後ろめたいんです」
「まるでアンジュが俺と一緒にいたいみたいに言いますね」
「はい、そう言ってます」
「……」
ミーティラさんが言わんとすることは理解しているつもりだ、しかしそれが納得に繋がるわけではない。
俺とアンジュの関係を表す言葉は何通りか存在する。師弟関係、友人、知人、居候と家主などなど、ミーティラさんの先の発言はどれに焦点を当ててのことなのだろうか。
これが十年前の思春期真っ盛りの希望と純情のピークを迎えていた俺であれば、根拠なんて微塵もない無責任な淡い青春の思考へトリップしていたのだろう。ヤツの言動に振り回され続けた現在、頭に浮かんだソレは物の数秒でゴミ箱へダンクされてしまうのだ。
「そう言えばアンジュさんってナナシダさんの家に半分同居してる状態なんですよね?」
「同居といいますか、アイツが勝手に上がり込んでくるだけですよ。しかも家に入れないと変な奇声を上げたり、いつの間にか作られた違法な合鍵で勝手に入ってくるんで諦めているだけです」
ミーティラさんは合鍵の部分で頬が引きつっていた。
まだアンジュと俺の話だから笑い話にできるが、これで性別が逆だったら世間一般からどうみられるだろうか。十中八九事案だ。
「アンジュからしてみれば、俺なんて男とすら見られてないですよ」
じゃなきゃさしものアンジュでも独身彼女無し男の家に上がり込んでは来ないだろう。
「じゃあナナシダさんはアンジュさんを女性として見てないんですか?」
ははーん。これはあれだな、ミーティラさんも残業テンションに陥っているのだろう。
ミーティラさんはこれだけ仕事ができて、容姿端麗にもかかわらずお付き合いしている男性はいないとか、きっとその手の話に飢えているのだ。
人間、一定のストレス下におかれると生物的本能が刺激されやすくなるとか。食欲、睡眠欲、そして性欲。いや性欲とまではいかないまでも、毎日休むことなく数値とアルファベットが織りなす難解なパズルゲームに頭を悩ませているのだ、時として人間らしい浮ついた話がしたくなるのは道理。
「アンジュは客観的かつ私情を挟まなければ美人だとは思いますけど、挟み込まなかったそれらが大きなマイナスですね」
実際の所、風呂上がりなどで見せる無防備な姿に何も反応しないわけではない。わけではないのだが、それをミーティラさんに言うのは少々はばかられる。
「アンジュさんも大変ですね~」
「そうやって含みを持たせても引っかかりませんよ」
「あれ、バレちゃいましたか?」
「バレバレです。それにアイツに友人以上の気持ちを抱いたとしても、俺はまだ死にたくないのでさっさとギブアップ宣言してドロップアウト決め込みますよ」
なんせヤツのバックにはガチ恋勢がいるのだ。アイツらはやる、本気でやりに来るのだ。
顔を青くさせて言った俺を見たミーティラさんはそれだけで察した様子で、あはは~と愛想笑いを返してきた。
しかし、すぐさま真面目くさった顔を作ると「ナナシダさん」と落ち着いた声色を発した。
「全員とは言いませんけど、大半の女性は意識していない異性の家に上がり込んだりはしませんよ。それはアンジュさんも例外じゃありません。そこの所は目を逸らしちゃダメですよ?」
ウィンクしたミーティラさんは、話しすぎましたねと会話を一方的に切り上げると資料の山との格闘に戻ってしまう。
ミーティラさんアイツはそんなタマじゃない。と言いたかったが、なんとなくこの話を蒸し返す気にもなれなかった俺は右にならえして同じく資料の山に手を伸ばした。
☆
その後、ミーティラさんから21時以上の残業は明日のパフォーマンスを下げると頬を膨らませて言われた俺は、この人苦労人だよなと同情心を抱き合わせた挨拶をして帰路についた。
夜を照らす街灯と民家の窓から漏れる明かりが作る少しばかりの非日常をかもす夜道を進み、見慣れた我が家に辿り着いた俺は首を捻ることになる。
「……明かりがついてないな」
アンジュが俺の家に入り浸るようになって久しくなるが、俺の帰りが遅いときは大抵アンジュが勝手に上がり込んでいるため家に明かりがともっているのだが、明かりが一切ついていなかったのだ。
最近は毎日が残業で俺だけ帰りが遅い。俺の家を宿屋と勘違いしているアイツのことだから外食でもしているのだろう、と自己解決した俺は止めていた足を再び動かして、玄関の鍵を開けようとして再び首を傾げる。
玄関の鍵が開いていた。
鍵ぐらい閉めてけよ。と声に出す代わりに舌打ちをして普段よりも強い力で玄関の扉をあけ放ち、心情をドタドタと乱暴な足取りで家に入る。
室内の明かりをつけるのも面倒に感じて灯一つない薄暗い玄関で靴を脱ぎ、不用心なバカの代わりに自らしっかりとドアの鍵を閉めてようやく一息が付く。
「はぁ……」
帰ってきたら正座だな。
ネクタイを緩めて台襟ボタン解放しながらリビングで時計を確認すれば時刻は21半、晩飯にするには少々遅いがそれはそれで仕事に打ち込んできたような気分になり、先ほどまでのイライラが少し減った気がする。
人感センサーで勝手に明るくなったリビングで、腹を膨らませるための物色して料理する気にもなれなかったのでカップ麺で代用することにした。
自炊が殆どなため基本的に食べることはないのだが、我が家にはカップ麺を好んで食す(しかも深夜)女性らしからぬ存在がいるため、ご機嫌取りも兼ねて常備している物だ。
独身男性の侘しい晩飯を数分足らずで完食。物足りなさはあるが後は風呂に入って寝るだけだと自分に言い聞かせることにした。
「あれ……」
カップ麺をゴミ箱に捨てようとしたところで、先日買ったばかりの期間限定のカップ麺が捨てられていることに気が付く。
アイツ……。食うだけ食って鍵も閉めず夜遊びに行ったのか……。
別にヤツの保護者でも秘書でもない。だからどこでアイツが何をしようとも俺がとやかく口を出せる道理もなければ、するつもりもない。
ただ少し、軽い胸焼けを延々と起こしているような不快感が湧いただけだ。
考えても仕方がないと意識を切り替え、ついでに風呂にでも入って身も心もさっぱりさせるとしよう。
心の洗浄とはよく言ったもので、視界を覆う湯気と足先から全身を暖めて深いため息を吐けば、全身にこびり付いていたドロっとした不浄なナニカが溶け出していくようだった。
「あぁ~……」
声を出す必要なんてないのだが、こういうときは思わず出してしまう感嘆符は子供の頃から変わらない。唯一変わったのは、その声が声変わり前の微笑ましいものから仕事に疲れたおっさんのダミ声になったことだけだろう。
どこかの論文では、風呂から上がって1時間程度置いてからベッドインすると最適らしいのだが、如何せん体が1時間も待てないと全身で訴えてくるのだ。
風呂から上がり寝間着に着替えた俺は早々に自室のベッドに入っていくのだった。
「ん……?」
と、思ったのだが。ベッドに手を掛けた俺はこれまた違和感を憶える。風呂上がりで暖まったはずの体が水風呂に入れられたのかと思うほどに急激に冷えていく。
……ベットにナニカがいる。
寝るときは豆電球すら付けないため俺は暗闇の中で感覚と微かな視界を頼りにベッドの掛け布団に手を掛けた。しかし、掛け布団から感じたのは柔らかい手触りとその先にある硬い感触だった。
生唾を飲み込む。
まさか幽霊、いや現実的じゃない。なら不法侵入者か。
ナニカが起きたときのために対策をするよりも、俺の好奇心が掴んだ掛け布団をゆっくりを持ち上げる。
果たして、その中にいたのは……。
「……むにゃ」
「……」
夜の街に繰り出したと思っていたアンジュだった。
しかもどこから引っ張り出してきたのか俺の寝間着を着て、めちゃくちゃ気持ちよさそうに寝ていやがる。
「んん……」
「……」
色々考えた。そりゃいっぱい考えた。
普段の行いはアレとはいえ、客観的に見ればアンジュは美少女と美女の中間を絶妙なバランスで反復横跳びをしている。
俺も男であるからして、目の前に自分の寝間着を着て自分のベッドでスヤスヤと寝ている光景を見れば、劣情を抱かない方が男としてどうなのかと俺は声を大にして言いたい。
「なな……しだくん……」
「……」
俺はそっと掛け布団を元に戻してソファを後で買いに行こうと考えながら、普段アンジュがここで寝泊まりするときに使っている客用の布団一式を準備して潜ること5分。
心情はともかく体は一刻も早く疲れを取りたかったのであろう、文字通り泥のように眠った。
「……なにしてやがる」
「え、えへへぇ~」
翌朝、俺の気遣いに一切気付くことの無かったアンジュに頬をつつかれながら目を覚ました。
「あたっ!?」
とりあえずデコピンした。