にじさんじヤンデレ物語 作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員
一球入魂ならぬ、一章入魂の精神でやらないとブレる……
窓から差し込む朝日に顔を照らされたアンジュは、小さなうめき声を上げて態勢を仰向けから横に向けて憎き朝日から安寧を守ろうとする。
「くぅ……世界が、眩しぃ」
しかし、1億と5000万kmもの距離を僅か8分で踏破してくる地球外の侵略者は、アンジュの抵抗を無駄とばかりにまどろみの沼から強制的に引きずりだそうとする。
太陽にたった一人で立ち向かったアンジュが奮闘すること4分、押さえつけられてぼさぼさになった髪を枕から離すことでアンジュは太陽に敗北の煮え湯を飲まされることになった。
(あれ……私の部屋じゃない)
上半身だけを持ち上げた状態ではたと部屋を見渡し、ここが自室と言って不当に占拠しているナナシダの家にある一室ではないことに気づく。ついで、嗅ぎなれた匂いと内装から家主の部屋であることにも気づく。
(ナナシダ君、帰ってこなかったのかな)
次第にハッキリとする意識でナナシダの部屋で寝るまでの行動を思い出す。
ここしばらくナナシダはミーティラの秘書が如く供回りを務めていることもあり、対象であるミーティラが繁忙期に入り残業するようになるとナナシダも当然とばかりに残業を行うようになり、結果としてアンジュとナナシダの交流は朝食が殆どとなっていた。
構ってくれないナナシダに対してのあてつけとして、疲れ切った彼にとってのオアシスであるベッドを占領すれば否が応でも反応を見せてくれるであろうと画策したのだが、驚くほどの快眠を得られたことを見れば失敗に終わったということ。
目論見が上手く行かなかったことに肩を落としたアンジュだが、視線がふと先ほどまで使用していた枕に向けられる。
ナナシダが長らく愛用している枕であり、アンジュが計画性の欠片もない作戦を思いつき即実行に移した要因であるそれを両手で掴み、躊躇いなく顔を押し付ける。
息苦しさを感じつつも深呼吸、するとナナシダが使用しているシャンプーの匂いと使用者本人の匂いが鼻の奥を通り抜けていく。
「……はぁ」
大きく吸い込むたびにアンジュの肩がゆったりと大きく上下する。
それから数分、枕から顔を話したアンジュの顔には幸福5割、睡魔3割、そして2割満足感がまじりあった顔をしていた。
顔を話したアンジュはそのまま枕を凝視、次いで枕を持ち上げて枕周辺を見回すと、平常時の3割程度しか開かれてなかった瞳が紛分ほどに開かれる。
躊躇いなく視線の先に手を伸ばし掴んだのは一本の黒い髪。
しばらく手の中でくねくねと弄んだ後、すっとポケットに入れようとして自身がナナシダの寝間着を着用していることを思い出して手を止める、
とりあえず部屋の数少ないレイアウトである箪笥の上に髪を置く。そして寝間着の襟元を掴んで持ち上げ、鼻の位置まで持ち上げる。
恥じらう様子も見せず鼻をスンスン。
なぜこのような奇行に及ぶのか、それは単純に服に染み付いた洗剤と彼の匂いが好ましいものだからだ。気持ちを落ち着けるのにちょうどいいのだ。
「ふぅ……」
一頻り堪能を終えたことでようやくアンジュがベッドから出てリビングの方へ向かう。
もちろん、棚の上に置いた黒髪のことは覚えている。後で回収する腹づもりだ。
(ナナシダ君が帰って来てないってことは、もしかして研究所の方に泊っているのかな)
考えなければいいのに余計な妄想を膨らませて胸がチクリと痛む。
だが、アンジュはそれでも考えずにいられなかった。
(いっつも二人で一緒にいてずるいよな~、ちょーっと前までは私とナナシダ君だけの二人っきりだったのに)
今の状況が自身の仕出かした尻ぬぐいであり、ナナシダは巻き込まれただけだという認識は持っているのだが、結局のところ条件的情報として理解はできても納得にはいたらない。
業腹ではあるが根っこの部分を明確に言語化ができなかったアンジュはいつもの如く思考を放棄する。
(こういうときは美味しい物を食べるに限るよね……お)
リビングに入ったアンジュは歩みを止める。来客用の布団でスヤスヤと心地よさそうに寝息を立てているナナシダを見つけたからだ。
普段は目くじらを立てる精悍(アンジュから見たら)な顔立ちは記憶にある幼い姿とは似てもに使いない。それほどの年月をあの日、幼い自分に幼い弟子ができたあの運命の日。
彼と共に二人だけの道を歩んできたのだ。
深い眠りにいる彼の顔を久方ぶりに観察しながら、これまた自分らしくない感傷に見舞われる状況を悲しいかな冷静なまでに客観的に受け止めていた。
ふと手が動く。
(少し硬いけど、柔らかい)
彼の頬を軽く突けばひんやりとした感触が伝わってくる。そして自身のと比べるべく自分の頬と触っては、再び彼の頬を突く。
(ふふん、私の方が柔らかすべすべ。ま、気を使ってるしこれで負けたら肌荒れ薬を調合してやるんだけどね)
暫く堪能したあと今度は耳を触る。
(おぉ、やっぱり耳たぶの感触はええですなぁ)
こちらも満足するまで自分のと比べていく。
次に髪へと手を伸ばす。
(あれ、前はもっとサラサラだった気がするけど……)
記憶とは違う感覚に疑問を浮かべながらも短く切られた髪を撫でつける。
「ん……」
くすぐったかったのか彼が喉を鳴らしたため、慌てて手を引っ込めようとするが彼の表情が穏やかなのを見て考え直す。
(気持ちいいって思ってくれてるのかな)
心なしか呼吸がゆったりとしたものになった気がする。気がするだけかもしれないが、それを決めるのは自分だからそうなのだ。
眉間に皺を寄せてくる普段とは違う穏やかな表情に自然とアンジュの頬をも緩んでいく。そんなときだった。
「かあ……さん」
「……っ」
ナナシダの寝言に、安全だと思っていた橋の板を踏み抜いてしまったときのように血の気が引いた。
撫でていた手が止まっていることにも気付くことなかった。ほがらなかな色に包まれていた頭が真っ白になってしまったのだ。
しかし、硬直は数秒。すぐに止めていた手を再び動かす。
先ほどよりもより一層丁寧に、慈しみを持って。
「ごめんね……」
彼がそんな言葉を望んでいるとは微塵も思わない。過去にそれで大きな失敗をしてしまったからだ。
思ってはいけない。
胸を焦がす衝動がふつふつと湧いてくる。頭を撫でているだけでは我慢できなくなる。
アンジュは撫でていた手を止めて彼の頭を持ち上げる。そして自身の控えめな胸に押し当てて両腕で包み込む。
「大丈夫、私がいるからね。ナナシダ君と私はずっと一緒だよ、離れたりしない。大丈夫、大丈夫だよ」
強く押し当てているせいで少しばかり呼吸が荒くなるナナシダの息が、アンジュの服を通して胸に仄かな熱を伝える。
彼にはそんなつもりがないことは分かっていても、アンジュはその熱をもっと強く感じたいとより一層強く押し当てる。
強くなる自身の鼓動が彼にも聞こえているのだろうか。
「ふふっ、ナナシダ君って甘えん坊だよね。普段はあんなにツンケンしてるくせにさ」
彼が起きていたら絶対に顔を真っ赤にして怒濤の否定を繰り返すのだろうが、眠り姫のごとく穏やかに眠る姿を見れば普段とのギャップにしかならなかった。
「可愛いなぁ」
彼の頭部に鼻を押し当てると少し前に堪能してきた枕の匂いが、その濃度を高めてやってくる。
なんとなく良い匂いだと思えた、なにが良いのかとは言えないが。
静寂の中に響く互いの衣擦れの音、一定のリズムで繰り返す呼吸音、そして自分と彼にだけ聞こえる自身の心拍を刻む音。
彼が自身の心臓の音を聞いてくれている。
もっと、もっと深く聞いてほしい。聞き続けてほしい。
このひと刻みひと刻みがあの頃から絶えることなく、強く刻み続けているのだと直接伝えたい。
はぁ。と息を吐けばどこにため込んでいたのか熱の籠もった吐息が彼の頭部に掛かる。
「ふふ……」
自分が彼の匂いで満たされるように、彼も自分の匂いで満たされてくれるのだろうか。
できればそうであって欲しい。自分の匂いを彼が吸い込む度に、自分自身が彼の中に取り込まれていくような気分だった。
そんな想いが影響したのか、抱え込む力を止めどなく加え続けたせいでナナシダがうなり声と共に首を振う。
「あぁっ……んん……っ」
下着を着けていない布一枚から伝わる刺激はソレでも決して強いものではなかった。それなのに脳内を駆け巡るシナプスは強烈だった。
思わず漏れてしまった声を必死に押し殺している間に、彼はようやく呼吸のできるポイントを見つけたようで、落ち着いた呼吸を繰り返している。
だが、その場所は自身の小さい女性らしさを表しているような小さな胸で、谷間にナナシダの鼻が凹凸のようにピッタリとはまっていたのだ。
「ん……んん……」
繰り返される呼吸が谷間を通って抜けていくこそばゆさに悶えること数分。
顔を上気させながらもアンジュはナナシダを解放して、再び元の位置に戻す。
少しばかり汗を掻いてしまったが、ソレの最たる要因が目の前にいる彼なのだから不快感はなかった。むしろこれほどまでに自分の体が彼に反応していることに驚いていた。
体に残る熱は未だくすぶるせいで呼吸が落ち着かない。普段なら一人で処理してしまうのだが、邪な気持ちがソレを是とはしない。
(張本人が責任を取るべきだよね)
ツッコミ役不在の自己中心的で身勝手なロジックから導き出された行動は至ってシンプルだ。
(うわ、ゴツゴツした手。前はあんなに小さかったのに)
ナナシダの手を掴んだアンジュは少しカサついた手から雄を感じ、おもむろに自身の胸に押し当てた。
なんという奇行だろうか。異性とはいえ二十年に及ぶ親友以上の関係を持つ男に対して、ある意味信頼とも取れる彼の日常的な気遣いの全てをドブに捨て去る行為だ。
これが知られでもすれば今まで築いてきたこの関係は物の数秒で崩れ去るだろう。それこそ首服することは不可能なほどに。
義理堅い彼のことだ、なし崩し的に自身を受け入れてくれるかもしれないし。裏切られたと軽蔑の目を向けてくるかもしれない。
「んあ……んふ……」
そんなものはこの瞬間、自分の劣情を昇華させる背徳感という名のスパイスでしかなかった。
強く押し当て、ずらし、擦らせる。親友の、自分が救えなかった幼き彼を知っているからこそ、そんな彼が今までどれだけ頑張ってきたのかを特等席で見守ってきたからこそ、おそらく彼以外では味わうことのできない麻薬以上の快楽が押し寄せてくるのだ。
あぁ、これは我慢できなくなる。こんなものを知ってしまえば私は落ちてしまう。非ニュートン流体に沈み込んだ体が単純な力では上がれぬように、乳房から絶えず伝わってくる雄をもっと味わいたいのだ。
己はこれほどまでに卑劣な畜生だったのか。
構うものか。
自分から彼を奪い去らんとする、自分以上に女性らしい体を持つ彼女でさえ知らない、彼でさえ知らない私だけの一方的な秘密だ。
昨日までつもりに積もった鬱憤が腫れていく、同時に矮小な優越感がさらに純然な電気信号として駆け巡る。
対価でも懺悔でも贖罪でもない。ただ自分が気持ちよくなるための蛮行だ。
そう思えば想うほど、彼も知ることのない愚かしい蜜月に酔いしれていく。
そのときが来るのにそこまで時間は掛からなかった。
「ぁっ……んっ……ッ!」
下腹部から上ってくる衝動が天上に届くと同時に頭が弾けた。視界をチカチカと点滅する星々の煌めきを気にする余裕もなく体が痙攣する。
青天井にも思えたソレが収まって行くのと同時に、冷静を取り戻した理性に自己嫌悪が決壊したダムのように襲い来る。
「……私、最低じゃん」
自分の性格も性質も正確に把握しているつもりだった。だが、ここまで向こう見ずとは想わなかったのだ。
「ごめんね……ナナシダ君」
誰も知ることのない黒歴史は彼と顔を合わせる度、彼と言葉を交わす度に頭の片隅で回転灯として主張し続けるのだろう。
彼の両親を救えず見殺しにしたときに誓った想いすら踏みにじり、彼らの忘れ形見を汚してしまったのだ。
少し前までの高揚感はさっぱり消えていた。
「はぁ、私なんでこんなことしちゃったんだろ……」
まるで悪い夢だ。いっそこれが夢だったら良いのに。
生産性のない思考は少し前に行っていた行動を無意識に繰り返していた。
頬をひと突き、
「……なにしてやがる」
少し前までの穏やかな表情はどこへやら、見慣れた乱暴な目つきに頬が引きつる。
「え、えへへぇ~」
とりあえずかましたその場しのぎの愛想笑い。
「あたっ!?」
対する切り返しは無情なるデコピンだった。