にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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戌亥07

「奈田さん、店内のBGMってなにかないんですか?」

 

 コーヒーをちびちびと飲んでいた三船さんの一言、それが全ての始まりだった。

 

「店内のBGMですか?」

「え、奈田さん……」

 

 信じられないと体全体で表現する三船さん。しかもその反応は店内にいた他のお客さんも同様だった。

 

「奈田さんって他のお店とか行かないんですか?」

「そんなことないですよ、他のお店に行くのは色々参考になりますし」

「……っ」

 

 あ、さらに深刻そうな表情になった。

 なんだか一人別の国に放り出されたような心細さを感じるぞ。

 

「このお店、店内BGMとか流してないですよね?」

「そういえば流してないですね」

「……っ」

 

 いやもうその反応いいよ。

 悲しくなってくるだろ。

 

「音楽って流した方がいいんですかね?」

「勿論ですよ!」

 

 お客に聞くことではないのかもしれないけど、常連である彼女達のアドバイスなら一考の余地は十分にある。

 むしろ、お店のサービス向上はお客の声がなければだ。

 

「例えば近場のおしゃれなレストランはこの曲です」

 

 三船さんがスマホを操作して音楽を流す。

 ローテンポの落ち着いたクラシック、どことなく木という漠然とした光景が思い浮かぶ。

 

「どうです? なんか音楽一つでお店の内装とかイメージでてきませんか?」

「なんとなくですけど、木の香りがするコテージのような店内がイメージできました」

「まさしく!」

 

 テンション高いなー。

 音楽は流したままで三船さんは再度スマホを弄ると、画面をこちらに向けてくる。

 そこにはレストランの内装が映っていた、しかもさっきイメージしたのにかなり近い。

 

「おーまさしくイメージしたのにそっくりです」

「店内BGMはそれだけでお店のイメージを作ることができるんです! さらに曲によってはリラックス効果を期待できます!」

「おー」

 

 いつも以上に熱く語る三船さんに、俺だけではなく周囲のお客さんからも関心の声上がった。

 

「言われてみれば納得ですね、考え付きませんでしたよ。ありがとうございます三船さん」

「い、いいえ! 奈田さんのお店は大好きなので! 出過ぎたことかと思ったんですけど、考えてみてください!」

 

 恥ずかしかったのか、少し顔を赤くした三船さんは喉を潤すようにコーヒーに手を付けた。

 店内BGM確かにさっきのを見せられれば納得せざるを得ない、しかしそれならうちの店だとどういった音楽が合うのだろうか」

 

 キッチンに戻り、皿洗いをしながら思考する。

 だが、音楽に対する才能がないのか、お店に合いそうな音楽がてんで思いつかない。

 

「唸っとるみたいやけど、奈田くんどないしたん?」

「あ、戌亥さん。さっき三船さんと話してたんですよ」

「三船? だれやそれ」

 

 ……貴方フロントでしょ。常連のお客の名前ぐらいは憶えてくださいよ。

 

「ショートボブの子ですよ、あそこに座ってる人です」

「あーなるほどな。アイツか……」

「ちょ、アイツ呼ばわりはダメですって! お客さんって言って下さい!」

「はいはい、お客さんお客さん。それで、何を話してたん?」

 

 ケルベロス視点で見れば人間なんて総じてジャガイモ以下なんでしょうけど。

 これは後でしっかりと話し合わねば、お客さんに向かってお前とか言われた日には……なんとなく戌亥さんだからで納得されそう。

 ……じゃあ、問題ないか。

 

「店内BGMですよ、店の中で音楽を流したらどうかって」

「お、それええな!」

 

 以外だ、こういった話は面倒臭がると思っていたが、意外にも食いついてきた。

 

「戌亥さん音楽好きなんですか?」

「眠るほどには」

「なるほど」

 

 それ地獄の話ですよね?

 

「それでどんな音楽を流そうか考えてたんですけど、なかなか思い浮かばなくて。戌亥さんのおすすめとかありますか?」

「犬のような断末魔とか?」

 

 だからそれ地獄の話ですよね?

 

「あの、地獄の話はいいので。戌亥さんも何かいいのがあれば教えてくださいね」

「ふん! 奈田くんつれへんやん! 私もうしーらへん!」

 

 急にぶりっ子するじゃん。ケルベロスのぶりっ子ってなんだよ。

 めちゃ可愛いじゃん。

 

「そんなこと言わないでくださいよ、少しでもこのお店の雰囲気をよくするためですから、協力してください今度ジャガイモ上げますから」

「しゃーないなぁ……」

 

 ジャガイモというキーワードを聞いた瞬間、戌亥さんの耳と尻尾が動いた。

 最近、脳内にある食材ヒエラルキーの頂点にジャガイモが君臨してきている。

 ケルベロスと仲良くなれる食材を俺は知らないが、見つけ次第ジャガイモと同じ場所にランクアップするのは決定事項だ。

 

「それじゃあ店を閉めたら考えましょうか」

 

 気持ち的には今から音楽を探したいが、店は営業中だし三船さん含めお客さんもまだまだいる。

 一応各々でいくつか曲をリストアップしていくということで、業務に戻ることにした。

 

「よし、じゃあ早速始めますか!」

 

 閉店後、戌亥さんとテーブルを挟んでスマホを取り出す。

 お互いに候補を上げると入ったが、普段から音楽を聴いたりしないためもっぱら戌亥さんが候補を上げてくれた。

 そして戌亥さんの持つ音楽に対する幅広い知識に驚いた、俺より曲知ってるし、最新の曲とかは俺が教えてもらうほどだ。

 ケルベロスに地球文化の知識で負けたことにちょっとショックを受けた。

 

「それでな、この曲とか歌詞も落ち着いててええなって思うんよ」

「店内で使うなら声がない方がいいよね」

「ならインストにすればええやん」

「インストってなんですか?」

 

 唐突な聞き覚えのない用語に思わず首を傾げる。

 

「カラオケ版と同じ感じ、というかなんでケルベロスが人に教えてんねん。おかしいやろ」

「面目ない」

「あ、この曲著作権あるな。個人で作られて使用許可出てる奴やないとダメや」

 

 そういうのあるんだ……。もしかして、今のところ俺役に立ってなくね?

 なるほどな、いつかこの店での力関係も逆転するってことか。

 ……既に負けてるとか言わないで、泣いちゃうから。

 

「それならこれがおすすめや、最近出てきて人気はまだやけど絶対伸びるチャンネルがあるんよ!」

 

 そうして100%戌亥さんに選んでいただいた曲を、後日流してみた。

 

 

「さっそく店内BGM流してますね!」

「アハハ、戌亥さんに選んで貰っちゃいましたよ。俺は音楽に疎くて」

 

 感心したと三船さんが拍手を送ってくれるが、それを受け取っていいのは俺じゃなくて戌亥さんだ。

 

「流石戌亥さんですね! 選曲のセンス最高じゃないですか!」

「あれ、戌亥さんが音楽に興味があるの知ってたんですか?」

「え……」

 

 おっとデジャブ。

 泣くなよー俺、まだそうと決まった訳じゃない。

 決して、周囲からも向けられる視線が「アイツ、本当になにも知らねぇな」的な意味だと決まった訳じゃないんだ。

 心を強く持つんだ。

 

「奈田さん、知らな過ぎません?」

 

 泣いた。めっちゃ泣いた。心の中で雷雨が降った。

 

「ち、違うんですよ奈田さん! 戌亥さんって結構有名なんですよ!」

 

 ……有名? ケルベロスだから?

 

「これ! これ見てください!」

 

 三船さんがスマホの画面を見せてくる。

 表示されているのは世界で最も有名な動画配信サイト、そこに投稿された再生回数が50万を超えた歌ってみたの動画だった。

 

「この歌声を聞いてください」

 

 流されたのは聞き覚えのない曲、しかし歌詞を聞いた瞬間目を見開いた。

 聞き覚えのある声だったからだ。

 驚きのあまり三船さんを凝視する。

 

「あ、あぅ……そ、そんな見ないでくださいぃ……」

 

 動画を見せてもらっている状態なため、思いのほか至近距離で三船さんを見つめてしまった。

 顔を赤くして照れた三船さんに全力で謝罪した後、俺は普段から聞き覚えのある声の正体を確かめることにした。

 

「この歌ってみたの声って……」

「本人に確かめてはいませんけど、戌亥さんだと思います」

 

 不確定だと含ませた言葉とは裏腹に、三船さんの顔には確信を持っていた。

 戌亥さんの声は種族のせいか、どこか魅力的で惹きつけられる。歌ってみたから流れてくる歌声は、まさしくその魅惑に満ちていた。

 

 周りのお客に聞かれないよう、小さな声で三船さんが言葉を続けた。

 

「最近増えたお客さんですけど、誰かがこの歌い手が凄い美人だってSNSに投稿してたんです。写真は投稿されてなかったですけど、犬カフェ定員だって書いてて……」

 

 三船さんの緊張した声とは対照的に、俺は疑問に首を傾げた。

 

「でも美人で犬カフェの店員だって情報だけですよね? それだけでバレたりするものなんですか?」

「奈田さんはSNSを使ってないから知らないかもですけど。レシート一つで住所を特定された人もいるんですよ」

「れ、レシート一つで……」

 

 何をどう見たら一枚の紙きれから住所を特定できるんだ。

 しかし、それを聞いてしまえば納得するしかない。

 

 

 再び動画を見る、チャンネル名は「つよつよケルベロスの遠吠え」……か。

 戌亥さん、もしかして人間界エンジョイしてない?

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