その翌日の夕方頃、志歩は自分の進路を考え続けても答えがどうしても出ずに悩み続けていた。
しかし、このままで居てもいい考えは浮かばないだろうと思い、気晴らしの手段としてベースの練習をするかライブハウスに行ってバンドの演奏を聞くかの二択で、志歩はライブハウスに行くことを選択した。
そして向かったライブハウスでの、開演30分前。
志歩は客にドリンクを提供するカウンター席に座り、メロンソーダをスタッフに注文して、それをチビチビとストローで啜っていた。
その目で眺める手の中のスマホの画面に映るのは、自分と司が以前フェニランに行った際に、司が強引に自分と撮った記念のツーショット写真。
一方的に司から送りつけられ、当時は迷惑に思いながらも結局消せずにいたその写真。
しかし今では最早、志歩がスマホを買って貰った当初から長年ロック画面に設定し続けていたフェニーくんの可愛い画像を押しのけ、この半年の間ずっと不動の志歩のスマホのロック画面になっている写真だった。
そんな、スマホのロック画面に映る笑顔の司と『仕方ないな』といった苦笑で写真を撮られる自分の姿を見ながら、志歩は深いため息をつく。
(……どうしよう、あれからずっと考えてるけど、やっぱり答え出ないな……今いる、私を無視してる人達が居続ける宮女に残るか、それとも何も分からない新しい環境に移ってみるか——咲希や一歌や穂波が居る宮女を選ぶか、司さんが居る神高を選ぶか。どっちが自分にとって一番良いのか、全然わからない)
ロック画面を解除した後のホーム画面には、宮女の入学式の日に一歌達みんなで撮った集合写真が映っていた。
(みんなで一緒に居れるなら、そこが一番良いと思って選んだ進学先。でも……今の私はもう、みんなと一緒に居られない。それに私にとって
そう思う志歩の脳裏に尚も浮かぶのは、心無い者達からの冷たい言葉の数々。
そんな自分の心の中で何度も再生された言葉達を思い返し、志歩は実感する。
(……もう正直、私の個人的な感想で言ってしまえば、あんな所なんて大嫌いだ。というか、私自身の性格的そのものがあの学校全体に蔓延してる、女の子特有の社会性っていうものに全然合ってないって事に気付いた。あの学校じゃ、私みたいな孤立を選ぶ人間は特に悪人扱い。もし高校に上がってもずっとこの扱いが続くなら……正直もう本気でウンザリ。ネット情報だけど、共学の学校ならそういうのはまだマシだって聞いた。私みたいに一人で居る女の子も普通に居るらしい。だから、そういう所だけで考えるなら、正直もう宮女に残る理由なんて全くないし、それになにより学校で司さんと一緒に居られる——でも)
そんな志歩の頭にチラつくのは、咲希達の顔だった。
(宮女にはみんなが居る。もしまた、みんなと一緒に居られるようになれたら、中学生じゃ叶わなかったけど、高校からでもまた咲希が言ってたように『一緒に青春』が出来るかもしれない。でも、それはあくまでも“かもしれない”っていう可能性なだけ……私は、迷惑をかけると分かっててみんなと一緒に居たいなんて言えないから。だからそんな日が来る保証なんてどこにもない。——だけど、心のどこかで引っかかるような感覚がある。みんなを置いて神高に行っちゃいけないような——そんな、どうにも言語化できない漠然とした“予感”がある。司さん的な言い方を借りるなら、まるで“
志歩は苦悩と共にため息をつき、再度司と自分の写真を眺め、その心に抱えた想いを全て吐き出すように小さく呟く。
「——好きです、司さん。本当に……本当に、大好きです。けど……貴方の事を選んだら、それは一歌達への裏切りになるんですか? みんなの事は……裏切りたくありません。それでも……私は、貴方の事が好きです。好き……なんです」
志歩がそう呟いた時だった。背後から、志歩の知らない軽薄そうな見た目をした男性の二人組が志歩に声をかける。
「やっほ~、どしたの君? こんな所で一人で浮かない顔しちゃってさ、もしかして何か辛い事でもあった系? 話でも聞こっか?」
「ハハハハハッ! ちょっとちょっとター君、声かける子にしては子供過ぎない? なになに? 実はそういう趣味だったりすんの?」
その声に思わず志歩は目を向けると、そこには“ター君”と呼ばれた茶髪で口ピアスをした男と、その“ター君”に向かって笑いながら言葉をかける金髪のネズミ面の男が居た。
ター君は半笑いを浮かべる。
「馬っ鹿だなぁお前、このぐらいの年の子が一番良いんだよ。小学生は可愛いけど精神もガキ過ぎて萎えちまう。ちょっとだけイイ感じに世間慣れしてる年の子の方が、可愛いし萎えねえし……何より、色々
「うっわぁ~ド変態じゃん。そこに痺れる憧れるぅ~! なーんちゃって。ねぇねぇ君、そういう訳だからさ、ちょっと俺の友達を助けると思って付き合ってよ~! どーせ一人で暇だったんでしょ? 俺達女の子の扱いうまいからさぁ、楽しい気分にさせてあげるよ~? どう? こんな所に居るよりさ、一緒にどっか行かない?」
そんな明らかに悪質なナンパの誘いに、志歩は内心でため息を吐く。
(あぁ……鬱陶しい感じの人達に絡まれちゃったな。どうしよう、本気で面倒くさい。ここ数年、こんな感じのガラが悪い人達が段々増えてきた気がする。前まではそんな事なかったのに……これもあの『ビビットストリート』から、音楽の守護神って言われてた三人の大人の人の内の“
志歩がそう思考していると、自分達を冷たい目で見たまま何も言わない志歩に腹を立てたのか、ター君は志歩に詰め寄りながら言う。
「——あ? なんだよ、そんな生意気そうなツラしやがって。わざわざ声かけてやってんだぞ? ハァ? ちょっとは喜ぶかビビるかのどっちかにしやがれよ。ムカつくんだよその目はよぉ……」
「あーあ、ター君キレちゃったよぉ~! お嬢ちゃんさぁ、こいつキレたら何するか分かんねぇよぉ? こいつパチンコで10万飛ばしてキレて一回、シブヤの高架橋の下に住んでるホームレス共の家に灯油ぶっかけて全部燃やしちまったんだぜぇ? ヤベェだろ? 頭イッちゃってるんだよコイツ。今の内に言う事聞いておいた方が身のためだぜぇ~?」
「そーそー! で、泣きながら殴りかかってくる小汚いジジイ共をギッタギタにして全員半殺しにしてやったよなぁ~? 強ぇんだぜ俺達? 俺、君みたいな可愛い子殴りたくねぇよぉ~俺、女には手を上げない趣味なんだよ」
「ギャハハハハッ! フェミニストぶんなってター君! とか言っておきながらお前、歴代の彼女全員暴力振るってノイローゼ状態にしちまったじゃねぇかよ! 嬢ちゃん、悪い事言わねぇから今の内に俺達の言う事聞いとけって、な?」
そんなニヤついた男の安っぽい脅しに、志歩は一切怯まず睨みを返しながらハッキリと告げる。
「——で、それが一体どうかしましたか? 弱い相手に一方的に危害を加えて痛めつけて、それを“強さ”だと勘違いして武勇伝にするような……そんな軽い考えの
瞬間、明らかに男達二人の目が吊り上がる。
「はぁ……? チッ——良いじゃん、世間知らずで高飛車なガキは嫌いじゃねぇぜ? その強気がどこまで続くか、見物といこうじゃねぇかよ……!」
「プッチーン……俺もキレちまったよ嬢ちゃん。——上等だァ、ぜってぇ
そんな明らかな怒りの形相に変わる二人を見、志歩は自分の周囲を見回す。
そこには男二人に絡まれる自分を見て、遠巻きにヒソヒソと『あれヤバくね?』『誰か助けてあげてよ…』などと言い合う者達と、または見て見ぬフリしてとその場をサッと離れる者達の二通りの人間達しか居なかった。
その現状に、志歩は内心で酷く落胆する。
(ダメだ……逃がしてくれなさそうだから、騒ぎを敢えて大きくして誰かに助けて貰おうとしたけど、誰も助けてくれない……! 店長も今日は休みだし、近くに居るスタッフさんも新人みたいで慌てるだけで何も対応してくれないし……! ——っ、嘘でしょ? ここまで人間って他人に冷たい生き物だったの……!?)
『良いでしょ、誘わなくて。あの子すぐに怒るし』
『実際上手いからあの子の前じゃ何も言えないけどさぁ……日野森さんって、結構面倒くさくない?』
(でも——当然か。他人に対して当たりが強い私はどうせ一人ぼっち。こんな私の事を助けてくれる人なんて、司さん以外誰も居る訳がなかった……私には、司さんしか……!)
悔しさで内心歯噛みする志歩の崩れた表情に、男達はニヤリと
「——おっ、やっとビビった? でも残念! もう今から媚びても遅せぇよ!」
「ほら立て! サッサと行くぞオラァ!!」
ター君の罵声と共に伸ばされる荒々しい手が、志歩の方に向かう。
その手にたまらず志歩は目をキュッと瞑り、心の中でここに居ない上に来る筈のない存在に、
(……っ! 助けて、司さんっ……!)
——その
「ワリィなぁ志歩。この瞬間に助けに入るのが、お前の理想の王子様じゃなくてよぉ。ま、今日の所はアタシで我慢しとけや」
志歩はそんな、己の心に飼った燃える意志を露わにしたような声を聞き、思わずゆっくりと目を開く。
するとそこには、自身を庇うようにして男と自分の間に入り、男の腕をギリギリと万力のような力で握り止める、
ター君はフレイアに握られる自身の腕を見て、堪らず苦悶の声を上げる。
「——イギッ……!? なんて握力だこの女っ……腕がッ……折れるっ……!?」
「ああ? この程度の力で折れるだぁ? テメェの腕は小枝かよ……いいか? “握る”ってのは——こうやるんだよぉ……!」
瞬間、骨が軋むような嫌な音が男の腕から鳴り響くと同時、男はその口から汚い高音を上げる。
「ギッ、ギィァァァァァーーーッッ!! し、死ぬゥゥゥーーー!!!」
「たっ、ター君っ……!?」
男の汚く情けない悲鳴に、フレイアはウンザリしたような表情をしながら、半笑いで呆れたように言う。
「うっせぇなぁ……うっせぇうっせぇうっせぇなぁ……ちょっと可愛がっただけでこれかよ——ハッ、最近雑貨店で売ってるラバーチキンの方がまだ綺麗な悲鳴上げるぜ? ほらよ、あまりに惨めで可哀想になったから放してやるよ」
「あぁっ……痛ぇ、痛ぇよぉっ……! コレっ……マジで腕の骨ヒビいったんじゃねぇのかッ……!?」
フレイアからようやく手を放されるも、あまりの痛みに涙目で自身の腕を庇うター君。
そんな一連の光景を見て、志歩は信じられない思いで口を開く。
「ふ、フレイアさん……? ど、どうして私の事を助けに……?」
志歩のその問いに、フレイアは『何言ってるんだコイツ?』と言いたげな表情でポカンとしながら口を開く。
「——ンなもん決まってるじゃねぇかよ。大事な“妹分”が危ないって時に、助けねぇ姉貴分が居るかってハナシだ」
「妹分……私が……?」
「あたりめぇだろうがよ。アタシはなぁ、受けた傷は倍返し——んで、受けた恩は10倍返しを信条にしてんだよ。傷貰うより恩を貰っちまうほうが、心がざわざわして堪えられねぇからよぉ。志歩、お前はもうアタシの身内カウントだ。今後お前に手出しする奴は相手が誰だろうとこのアタシがタダじゃおかねぇ……」
「そんな、でも……私は、フレイアさんにそこまでして貰って良いような人では……それに、私は貴女に迷惑なんてかけたくは——」
「あ~~! ごちゃごちゃうるせぇなぁ志歩、いいか? まだお前が自覚してねぇなら言ってやるから、耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれ?」
そこまで言ってフレイアはニヤリと笑みを浮かべ、首だけで背後の志歩に視線を送りながら言う。
「今のお前にはもう、損得勘定抜きで助けてやりたいって思ってくれる人間が——司の奴以外にも出来たって事だよ」
「——あっ」
フレイアのその言葉だけで、志歩は心の中に言語化できないような温かい感情が満ちていくのを感じる。
それは、志歩が己というものを貫き続けた先で得た、新しい“
そんな思いを感じている志歩を尻目に、フレイアは正面の二人の男を見据えながら言う。
「まぁとりあえず、この場は“アタシ等”に任せとけ。程よい感じに纏めてやるからよぉ」
そんなフレイアに向かって、ネズミ顔の男は腕の激痛に今も悶絶するター君の前に進み出て、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
「——こ、この
そんな息巻く男に対しフレイアは、男の方には目もくれずに
「おいおい、
「は? おい、誰に向かって話して——いっ? 痛い痛い痛い痛いッ――!!??」
背後から男の両肩にポン、ポン、と二人分の手が置かれ、それは男の肩の肉にめり込む勢いで握り潰される。
男の背後からそんな一方的な襲撃を仕掛ける、黒色姫カットボブヘアーの女と長いピンクのゆるふわロール髪の女を見て、志歩は再び目を見開く。
「スノトラさん、シェヴンさん……!」
「うっす、二週間ぶりっすね志歩ちゃん! いやぁ……イイ女ほど悪い蠅が湧いちまうもんっすねぇ? まぁ
「志歩ちゃ~ん! 同じく久しぶりですわぁ~! はぁぁ……推しが間近に居る空気ほど美味しいものはありませんわよねぇ——で、私はこの“肉袋”をどうしたらいいでしょうか? ねぇ、貴方様……? さっき事もあろうか私の推しに、一体何をなさろうというおつもりでしたのかしらぁ……? とりあえず東京湾行っときます? あっ、それとも山中奥深くがよろしいですか? 心優しい私は、貴方様が
「あ“あ”あ“あ”———ッ! 肩がッ、肩が潰れるぅぅ……!!」
男の肩からベキゴキと嫌な音が鳴り響き、それでもスノトラとシェヴンは一切その肩を握る力を緩めずに、志歩に笑みを浮かべていた。
そんな二人に、自分を助けてくれた事に対し喜べば良いのか心配したらいいのか、どうしたら良いか分からず複雑な表情を返す志歩。
「え、ええっと……その、スノトラさん、シェヴンさん、駆除とか殺すとかそういうのは流石にやりすぎだと思いますよ…?」
「かぁ~っ! やっさしいっすねぇ志歩ちゃん……しゃーねぇ、このぐらいで勘弁してやるっすか、開放してやるっすよシェヴン?」
「はぁ……私の推しが聖女すぎて後光が差して見えますわぁ……! とりあえず
「いぎっ……!? 痛てぇ……! りょ、両腕が上がんねぇ……! 砕けた、ぜってぇ肩の骨砕けたッ……!」
スノトラはため息交じりに、シェヴンは感激して志歩を拝むついでといったようすで手を離すも、どうやら手遅れだったようで男は肩を抑えたまま苦悶の表情を続ける。
そんな混沌とした状況に、ター君は腕を抑えたまま表情を真っ青にさせて震える声で言う。
「この力……それに、フレイア、スノトラ、シェヴン……? ま、まさか。あの『釘バットの
「ター君、誰なんだよそれ……!」
「知らねぇのかよっ……! 昔、
「ヒッ……、ば、バケモン……!」
そんな怯えを含んだ視線に、フレイアは首を傾げてスノトラとシェヴンを見て言う。
「知らなかった、アタシら裏社会じゃ死んだ扱いになってたのかよ? ——ってか待てよ、半グレ組織を潰した? は? そんな事やった事あるか?」
「いや……ほら
それを聞いて、フレイアは納得した様子でポンっと柏手を打つ。
「あ~、あのクソ野郎共か! なんだバックに
「いえ、精々30人から40人程度でしたわ。倍以上に話が盛られてますわねぇ……ですが、フレ様の武勇伝が今も密かに語り継がれてると知れただけで、私はとっても嬉しいですわぁ…! 流石私のベストオブ推し!」
「犯罪組織をたった三人で潰した……? えっ……? いや、例え30人でも充分多いと思いますけど……」
志歩はたった今知ってしまった、三人の凄まじい過去に引きつった表情になると、ター君は真っ青になりながら先ほどまでの威勢は何処へやら、腰を90度直角に曲げて震える声で謝罪する。
「すっ……すんません!! まさかその子が、貴女様達の身内とは露知らずッ……! どっ、どうか許して下さ——」
「ハァ? 何言ってんだよテメェ?」
「——いっ、いだだだだッ!!??」
フレイアは下がった男の頭の後頭部の髪を鷲掴みにし、首を無理矢理グイッと上に向かせてその目を己の鋭い紅き眼光で睨みつける。
「お前……分かってねぇなぁ? 前のアタシ等を知ってるって事は、アタシ等の身内相手に無礼働いた奴らが全員どんな
「はいフレ様! 手入れはウチのメイドに定期的に行わせてますわ! 超久しぶりですけど普通に使えますわよぉ~。あっ、でも“道具”は手入れしてませんわねぇ……ま、何とかなりますわ!」
「おっ、
「ハハハッ……そりゃ、コイツ等の精神力次第ってヤツだよなぁ~? ショック死は流石に面倒見れねぇぜアタシは」
男達はフレイア達のそんな完全に手馴れきった様子の生々しい会話で、コイツ等ならマジでやりかねないという本気の気配を感じ、完全に怯え切った表情でガタガタと震えて本気の命乞いを始める。
「ひぃぃぃっ……! 許してください許してください許してください許してください、何でもします、心も入れ替えます、これからは真っ当に生きます! だから命だけは……!」
「嫌だ死にたくない……! すいませんしたっ、おっ、おお俺も真面目に生きます! だっ、だから命だけは……命だけはっ……!」
「あのっ、ちょっと待ってください皆さん……流石にそこまでは——!」
そんな、最初の立場は最早完全に逆転し、強者が弱者を一方的に
すると、三人は微笑と共に志歩に同時にウィンクを返す。それにより志歩は悟る。
(——あ、もしかして、冗談? でもどうしてそんな事を……)
そんな志歩をよそに、フレイアは許しを請いついには涙を流し始めた男達に、獰猛な笑みを浮かべながら言う。
「……しゃーねぇなぁ、分かったよ。じゃあ特別にお前らだけは生かしてやる、だがしかし——条件がある」
「——!? はっ、はいっ! 何でしょうか!? なんでもやります!」
「何でも言ってくださいっ!!」
垂らされた一縷の望みに全力で縋りつく男達。それを見た後にフレイアは続ける。
「お前らの周りの人間全員に伝えとけ、『
「「——はっ、はいぃ!!」」
「っしゃぁイイ返事だぁ! いいか? お前らは生きる広告塔だ。アタシ等の恐ろしさを広めとけ? そしてもし、この辺りでまた今日みたいなことが起きたら——分かるな?」
「「勿論です!!」」
「じゃあ、最後は……お前らさっきからアタシ等にばかり謝ってるが、本当は一番謝った方が良い奴が居る筈だろ? 違うか?」
そんなフレイアの言葉にハッとなり、男達は慌てた様子で地面に両膝をついて志歩に土下座をする。
「「す、すいませんでしたぁぁ!!」」
「あ……いえ……もう分かって下さってるみたいなので良いです。ただ、もう二度と酷い事はしないでくださいね? 後……酷い事した人達が本当に居るなら、ちゃんとその人達にも可能な限り
「「はいッ! 分かりました!! 心を入れ替えて生きていきます!!」」
「よし、じゃあもういいぞ、消えな」
「「あ、ありがとうございますッ!!」」
二人の男はそれだけ言い残すと、脱兎のごとく出口へと駆けて行きあっという間に見えなくなってしまった。
それを見てフレイアはふと仕事終えたように一息つく。
「——フゥ、まぁこう脅しときゃ、今後はさっきの志歩みたいな目に遭うガキも減るだろ」
「あっ……成る程、だからわざわざあんな真似をしたんですね」
「おー、そうだぜ、これでちょっとはこの辺りも平和になるだろ。それに、志歩みたいな可愛い奴も今後安心して一人歩きが出来るようにしとかないとな、だろ?」
「フレイアさん……ありがとうございます。スノトラさんとシェヴンも、助けてくださって本当にありがとうございました」
「どういたしましてですわ志歩ちゃん。ですが、えぇ~……本当にあの猿共を処さないんですの? 残念ですわ……」
「いやいやシェヴン、頭の意図すぐ汲んで合わせたんじゃなくて、アンタたけマジだったんすか……やれやれっす」
志歩が三人に対し、心からの感謝の言葉の述べて頭を下げていると、その後ろからコツコツと松葉杖を突いて歩きながら青色の長い髪をポニーテールにした女性が現れ、ほっと一安心したかのような人の良い笑みを浮かべながら志歩に声をかける。
「志歩ちゃん……! よかったぁ、無事で。
「イズさん……? もしかしてあなたがフレイアさん達を呼んでくれたんですか?」
「もっちろんだよ! 志歩ちゃんは私達『
そう言ってにこやかに笑うイズに、志歩は恥ずかしそうに頬を赤らめ、少しそっぽを向きつつ口を開く。
「だ、大恩人って……いえ、そんな事はないですよ。私の方があの日の経験のお陰で得られた物は沢山ありますし。む、寧ろ私にとっては、皆さんの方が恩人と言っても過言ではないと言いますか……さっきだって助けてくださいましたし……その、あの……本当にありがとうございます。私……とっても嬉しかったです」
志歩が照れて頬を少し朱に染めながらそう言うと、その場の四人全員が『ウッ』とまるで銃で撃ち抜かれたかのように胸を抑える。
「お前っ、本当にイイ奴だよなぁ……! アタシ等があんなに無茶させちまったってのに、それでもアタシ等に恩って、どんだけイイ奴だったら気が済むんだよお前っ……なんて健気で可愛いヤツなんだ……!」
「なんて真面目で良い子なんすか……! 世間様の荒波にさらされて穢れきっちまった大人の自分には無い心の
「駄目ですわっ……私の心の推しへの
「はぁぁ……! 私の初めての弟子が可愛すぎる……! 司くんといい志歩ちゃんといい、私ひょっとして最近年下の子との縁に恵まれすぎ……?」
そんな色めきだつフレイア達に、志歩は困ったような表情で尋ねる。
「あ、あの、皆さん大丈夫ですか?」
「ふふふふふふっ……大丈夫ですわよ。さ、とりあえずあんな事もあったわけですし、今日のところはライブ見るのは止めにして、志歩ちゃんを私達が安全に家まで送り届けて差し上げますわ」
「え、そんな、流石にそこまでは……」
「無理するんじゃねぇっすよ志歩ちゃん、志歩ちゃんみたいな可愛い子がクソ野郎に絡まれて怖くなかった訳がねぇっす、今日のところは安全なお家で休むっす」
「払っちゃったチケット代を気にしてるんだったら大丈夫だよ志歩ちゃん。忘れてるかもしれないけどここの店長は私の叔父さんだよ? 店長責任をネチネチつついてチケット代払い戻しさせちゃうから」
「そーだよ、イズの言う通りだ。あの
そんな四人に志歩は家を出る時に言われた、今日も珍しく家に居る
『しぃちゃん……! 私、しぃちゃんの為に晩御飯は美味しいハンバーグを作ってあげるわ。だから……ね? お姉ちゃんの事許して? ねぇ? しぃちゃん……お願いだから私とお話して頂戴っ……!』
そんな玄関でよよよと泣き崩れる姉と、それに対して何も言葉を返さずに家を出た時の記憶を呼び覚まし、志歩は内心で断固たる決意と共に言う。
「すいません……お金がもったいないとか皆さんに悪いとかそういうのではなくて、実は今ちょっと家に話したくない人が居て、すぐに家には帰りたくないんです」
そんな言葉にフレイアはキョトンとした後で言う。
「志歩、お前……つまりは家族と喧嘩したって事か? それで家に帰りたくねぇのか?」
「まぁ……そんな所です」
そう志歩が頷いた瞬間だった。志歩はガシッと自分の胴体に力強いフレイアの腕が回される感覚がした直後、すぐさまヒョイっとフレイアの小脇に抱えられてしまう。
「——っしゃぁ! 志歩ゲットォ!! 何だよそういう事なら早く言えよぉ~! そうだよなぁ! オメーぐらいの年頃なら反抗期真っ盛りだよなぁ! じゃあ今からウチに来いや! 最新ゲーム買ったばっかでよぉ、丁度一緒にやれるヤツ探してたんだよ! 志歩と二人で朝までゲーム大会だぁ!」
「えっ……!? あ、あのっ……ちょっとフレイアさん……!?」
志歩に家族と仲直りする事を薦める事など一切せず、満面の笑みで志歩をお持ち帰りする意志を表明するフレイアに対し、志歩は慌ててそう言った。
しかし、そんなフレイアの進行を阻むように、フレイアの肩に背後からスノトラとシェヴンの手が乗せられる。
「……ちょっと待ってくださいや
「すみませんフレ様……私、フレ様から推し変する気は一切ないのですけど、志歩ちゃんという今私の中で最もブームのアツい推しとの一夜の好感度発生イベント……! これを逃してしまうのはオタクの名折れですわ! ですからフレ様! 志歩ちゃんは私が頂くか……もしくは私も、その素晴らしく百合の花が咲いた空間の壁にならせてくださいまし!」
フレイアはかつての部下のまさかの
「——はぁ!? くっそ、テメェ等……まさかこのアタシに歯向うとはなぁ……! ギャーギャーうるせぇ! もう志歩はアタシのモンなんだよ! 離しやがれぇっ……!」
「絶対に離さないっすよぉ……! というか頭の部屋モノ散らかってて汚ねぇんすよ! あんな部屋に志歩ちゃんを入れさせられないっす! これは整理整頓もキッチリ行き届いていて、尚且つここから一番近い場所にある自分の家が一番じゃないんすか!?」
「ああん!? スノトラお前、言ったな!? うるせぇ! 汚い事ぐらいアタシも分かってんだよ! でも分かってて整理整頓が出来るようになりゃ苦労しねぇんだよ!」
「スノトラ! 綺麗さならウチの別荘も負けてませんわ! このシブヤ内に3つ程私の別荘は——いや、一つはアニメ漫画グッズの倉庫用でしたわね。ですから2件あります! どちらでも好きな方を選んでいいですのよ志歩ちゃん!」
「あんな生活感ゼロの空間を家とは呼ばねぇっすシェヴン! そもそもあの家に布団とかあるんすか!? 昔親に頼んで買って貰っただけでロクに使った事もない場所を別荘と呼ばないんすよ人は!」
「使ってますわぁ~!? 今は私お手製のフレイア様グッズの臨時の置き場所に使ってますわぁ~! 玄関を開ければすぐに素敵なフレイア様の等身大パネルが3つ並んで志歩ちゃんをお招きしますのよ~? 素敵な別荘だと思いませんですの~!?」
「そんな魔境に志歩ちゃんを入れるなっす! 頭も駄目、シェヴンも駄目ならもうこれは、志歩ちゃんはウチの家で匿うしかないっすねぇ! 結論は出たっす! さぁ頭、志歩ちゃんは自分によこすっす!」
「ざけんなスノトラ! 志歩はアタシのだっていってんだろ……!」
「横暴ですわよスノトラ! 志歩ちゃんは私が貰うんですのっ……! 志歩ちゃんには着て欲しい服が沢山あるんですわっ……!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 3人で私の事を引っ張り合いしないでください! ちょっと痛い! ちょっと痛いですからっ……!」
そんな、ついには志歩を巡ってフレイア達が引っ張り合いにまで発展した光景を見て、波音は少しクスリと微笑みながら言う。
「ふふっ、志歩ちゃんはみんなにモテモテだねぇ~? いよっ、魅惑の美少女志歩ちゃん!」
「イズさん! そんな所で面白がって見てないで助けてください……!!」
「えぇ~、でも私が志歩ちゃん争奪戦に参加しようにも、私の家ってペットで白うさぎ二匹も飼っちゃってるし志歩ちゃんの迷惑になるかなって思って……」
イズがそう言った瞬間、志歩は三人の手からバタバタと抵抗していた動きをピタリと止め、イズの方を食い入るように見つめながら呟くように言う。
「え……白くてふわふわで、まんまるのウサギさんが二匹も……?」
「あれっ? あ……もしかして志歩ちゃん、可愛い子好き? じゃあウチに見に来る?」
「あっ……え、ええっと……その……は、はい。み、見たい……です」
志歩がとても照れて躊躇いがちにしながらも、真っ白でふわふわのウサギさんの魅力に負けて頷いた瞬間、志歩がご厄介になる家が決まったのだった。
■ ■ ■ ■ ■
「わぁ……二匹とも、私の膝の上に乗ってる。すごく大人しくて、か、可愛い……」
「ふふ~ん、もうこの子達は今年で6歳になるから、もうおばあちゃんウサギなんだよねぇ。とっても人懐っこいし大人しいよ。ほら、一匹抱きかかえてみて?」
「あっ……すごい。とってもふわふわモフモフで、可愛いです……」
「そうだ、今日はこの子達にまだおやつあげてなかった。よかったらこのスティック食べさせてみる?」
「は、はいっ……わぁ……ポリポリ食べてる……かっ、可愛いぃ……」
20分後、そこにはイズの住む2LDKマンションの一室で、イズの飼う二匹のウサギに表情を緩ませて癒される志歩の姿があった。
そんな志歩を、リビングのソファに三人仲良く座って眺めるのは
「意外だった……まさか志歩の奴が可愛いモノ好きだったとは……」
「ま~、イズの家で飼ってるウサギちゃんは可愛いっすもんねぇ。無理もないっす。はぁ~じゃああんなに可愛い生き物が好きな子を、自分の家に連れて行かなくてよかったっすよ。ウチで飼ってる2メートルサイズのボールパイソンなんて見ちまったら、卒倒してもおかしくなかったっすから」
「あら、スノトラのグルちゃんは大人しくて可愛いですわよ? ですけど、中々一般人には魅力が伝わりにくいのが
そんなフレイア達に、志歩は申し訳なさそうな表情で振り返り言う。
「あの……すみません、折角誘っていただいたのに私の興味を優先してしまって。別に皆さんの事が嫌だったというわけではなかったんですけど……」
「いや良いぜ、志歩がそんだけイイ表情してるんだったらアタシ等はそれで満足だ。な? お前ら?」
「勿論っすよ!」
「志歩ちゃん……とってもとっても良い顔してますわ! 推しの魅力さらに再発掘と言った所でしょうか!」
「え、そっ、そんなにだらしない顔してましたか……?」
「ふふふっ……だらしないなんてそんな事ないよ。とっても可愛いよ志歩ちゃん!」
水色のポニーテールを揺らしながらクスクスと笑い、そう志歩に言葉を返すイズ。そんなイズに志歩は狼狽しながら、なんとか今の自分の現状から話を逸らさせようと、話題を切り替える為に口を開く。
「か、可愛いなんてそんな……やめてください……そ、それにしてもっ! 私気になってたんですけど、イズさんのその長い髪は一体どうしたんですか? 前まで水色のニット帽被ってたじゃないですか、帽子の中に今までそんな長い髪をしまってたんですか?」
そんな質問にイズはキョトンとした表情を返した後で口を開く。
「——ん? あぁ、“コレ”? いや別に大したことないよ? ホラ、見てて——よっと」
「えっ……!? ——あっ」
何でもない表情でイズは自分の髪を掴むと、それを真上に持ち上げる。
すると髪全体がスルッと頭から離れ、その真下に丸い頭皮にギリギリ覆い隠す程度に水色の髪が短く生えているようなイズの頭が現れた。
それを見て志歩はイズの長いポニーテール髪がウィッグだった事を悟って、何と言ったら良いか分からないような気まずい表情になり、軽い気分で触れて良い話題ではなかったと深く反省する。
そんな志歩にイズは、何も気にしていないかのように明るくあっけらかんと笑って言う。
「あはははっ! ほら~ビックリした? これね、
「イズさん……はい、そうですね。とっても……可愛らしいと思います」
「えへへっ、志歩ちゃんに褒められちゃった~。本当にコレ買ってくれてありがとうね愛兼ちゃん!」
そんな、辛い過去を抱えながらも明るく前を向いて生きているイズを見て、志歩は思わず胸にこみあげるモノを感じながらそう言葉を返すと、イズはそれに悪戯っぽく微笑みを返しながら、ウィッグを付け直しつつフレイアに礼を言うのだった。
そんなイズに頬をポリポリと掻きながら、照れたようにフレイアは言う。
「……べ、別に礼を言うまでもねぇぜイズ。アレだ、松葉杖ついてニット帽だったら如何にも『重病人です』って言ってるみたいじゃねぇか。だから……ほら、外見だけでも元に戻ったら、気分の持ちようも違うだろって——スノトラとシェヴンが提案してくれたんだよ。アタシはそれを店の奴に作ってもらうように頼んだだけで……礼は主に二人に言ってやってくれ」
そんな言葉にスノトラとシェヴンはニヤニヤと笑みを浮かべながら言葉を返す。
「え~? 何言ってるんすか頭? 早くあの綺麗な青髪でベースを鳴らすイズが見たいって言いだしたのは頭じゃないっすか~」
「そうですわよねぇ~? イズを気遣うのは自分の
「——っ、おい何で言うんだよ!? オメーらいい加減にしろよッ!? ずっと言いたかったが、アタシへの敬意忘れ過ぎじゃねぇか!? 昔のお前らのアタシへの忠誠心は何処へ行ったんだよ!?」
「え~、いやぁ、もうすぐグループ解散して7年も前になりますし、最近そういうヤンチャしてた頃の話って、自分から持ち出すもんじゃねぇかなって思ってるんすよねぇ~」
「大丈夫ですわ! 私は昔のフレ様も今のフレ様も両方愛してます! ですが今のフレ様は照れれば照れる程魅力的で……つい、私も悪戯心が出てしまいまして……」
「よっし! 上等だテメェら表出やがれ! 今一度誰がトップだったのか思い知らせてやるからよぉ!」
「ふっ、ふふふっ……そうなんだ、ありがとう愛兼ちゃん。私……愛兼ちゃんの為にも早く元気になるね?」
「~~っ! そ、そうかよ! まぁ、いつまでも志歩に頼ってるのもワリィからな! 別にそんなにイズのベースを待ち遠しいとか思ってねぇから勘違いすんなよ!」
「あ~、出たっすね頭のツンデレ。志歩ちゃん、滅多に見れないレアシーンだからよく覚えておくっすよ~」
「はぁ、可愛らしいですわフレ様ぁ……!」
そう言い合って賑やかな会話を展開させるフレイア達に、志歩は『
微笑みながらも、志歩はそんな四人にかつての一歌達と自分の面影を重ねてしまいながら、少し寂しさを感じつつ呟くように言葉を漏らす。
「ふふっ……本当に、フレイアさん達は仲が良いんですね?」
そんな志歩にイズは頷き、半年前を振り返るようにしみじみとした様子で言う。
「うん、まぁね。志歩ちゃんや司くんも知ってるみたいに、色々あったけど今はこうして仲良しだよ? それもこれも志歩ちゃんや司くんのお陰なんだから。本当に……感謝してるよ。ありがとう志歩ちゃん」
「……っ、そ、そうですか。そこまで言って貰えるなら……その、頑張って演奏をして良かったって、そう思います」
そう志歩が言ってお辞儀をすると、イズはここに居ない人物に思いを馳せるように呟く。
「でも……本当は司くんにも直接会って改めてお礼が言いたいんだよねぇ……志歩ちゃんと一緒に、今日司くんも来てくれてたら良かったのに……はぁぁ、会いたいなぁ。今何してるんだろ後輩くーん……」
そんな寂しそうに司を求めるようなイズの声に、途端に志歩はビクっと少し身体を跳ねさせた後で、警戒心を露わにしたような目線をイズに向けながら、その言葉の真意を探るように問いかける。
「——っ!? そ、そうですか……その……あの……イズさんは、そんなに司さんに会いたいんですか? その……それは一体、どういった意味での言葉でしょうか……?」
「え? いや、どういった意味もなにも——って……あっ……ふ~ん。成る程ぉ~?」
その刹那、イズは志歩の表情を見て何かに思い当たったようにニンマリと笑みを浮かべた後、悩ましげなため息をつきながら言う。
「はぁぁ……やっぱり、分かっちゃうかなぁ? 実は私、あの日から司くんの事が忘れられなくて……」
「——っ!?」
「年も離れちゃってるし、私は昔病気も患っちゃったし、こんな私が司くんに対して想いを寄せるのは迷惑かなって思ってたんだけど……でも時間を重ねるごとに司くんへの気持ちが大きくなっていっちゃって……七つも年の差はあるけど、アタックするのも悪くないかなって最近思ってるんだよね……」
「~~~~っ!!」
「ねぇ……志歩ちゃん? 司くんとはお友達なんだよね? お友達の意見として聞きたいんだけど、司くん的には年上のお姉さんってアリかナシか……どっちだと思う?」
「えっ、あぅ……そ、その、それは……」
そんな、綺麗な大人の魅力あふれる女性の言葉に、志歩はウサギを二匹も膝の上に抱きながら俯き、目をグルグルさせて混乱したように迷った後で、バッと勢いよく真っ赤になった顔を上げ、イズに宣言するように言う。
「——だっ、駄目です! 司さんは私のですっ……! た、確かにイズさんは綺麗な人で、私に比べて色々女の人らしい所とかいっぱいあって、ベースの腕もすごくて、今の私が敵う所なんて何一つありませんけどっ……! それでも、私の司さんの事が好きな気持ちは誰にも負けるつもりはありませんっ……! ですから、イズさんに司さんの事は絶対に渡せません……!」
そう志歩が屹然とした意志を示した時だった。
「はーい! よく言えました志歩ちゃ~ん!」
イズはニッコリと悪戯っぽく微笑んでパチパチと手を叩く。
そんなイズに志歩はポカンとなりながら言葉を吐く。
「え……? あの……イズさん?」
「騙してごめんね志歩ちゃん? ウッソでーす! 確かに司くんは良い子だしとっても可愛い後輩君って思ってるけど、志歩ちゃんが心配してるような気持ちは無いかな~」
「だっ、騙したんですかっ……!?」
「——てへっ♡」
舌を出しおどけたポーズになるイズに対し志歩は怒りを露わにした表情になるも、優しい手つきでウサギをゲージに戻しつつ言う。
「何が『てへっ♡』ですか……! 私をからかって何が楽しいんですかっ……!?」
「いやぁ~、志歩ちゃんの素直なお気持ちが聞きたいって思っちゃって、おねーさんやっちゃいました。どう? さっきの私の演技アカデミー女優賞ものじゃなかった?」
「知りませんよっ……!」
「あははははっ! まぁまぁ、それにしてもやっぱり司くんの事が大好きなんだね志歩ちゃんって? まぁ、司くんは素敵な男の子だからねぇ~志歩ちゃんが好きになっちゃうのは無理ないよ~」
「う、うぅぅっ……! 最低です……!」
無理矢理に気持ちを暴かれてしまった現状に、志歩はそう吐き捨てて悪態をつく。そんな二人を見て、意味が分からないといった表情でフレイアは言う。
「なぁ、さっきから疑問なんだが、どうして今更志歩が司に対して惚れた腫れたが大事な話なんだ? もう二人は付き合ってるんだろ? ならその辺りはもう二人の間で終わってる話じゃねぇか」
そんなフレイアの疑問に、活き活きとした目の輝きでイズは答える。
「いや……それが違うんだよ愛兼ちゃん。実はね……本当に二人はまだ付き合ってないんだよ! 友達って言ってるのは照れ隠しじゃないんだよ! 本当に二人はまだお友達だったんだよ! 志歩ちゃんが司くんの事が大好きな片思い状態らしいんだよ!」
「いや、ちょっと待ってください、なんで大声で言うんですかイズさんっ……!」
「——な、なんだって!?」
「——嘘っすよねぇ!?」
「——本当ですのッ!!??」
その衝撃の真実を聞き、羞恥で声を上げる志歩を尻目にフレイアだけでなくスノトラとシェヴンも同時にそう叫んで、三人はソファーから総立ちになった。
「いやぁ~、本当だよ? 司くんにもそれとなく確認したから間違いなし。だから、司くんが愛兼ちゃんに立ち向かったのも、観客さん達のヤジから志歩ちゃんを守ったのも、全部全部彼氏としての義務を背負ってたんじゃなくて——いや、まぁそうだったとしても凄いんだけど、でもそんなのは全部関係なくて、司くん自身の友達を想う優しさで志歩ちゃんを守ってたんだよ」
「はぁ……嘘だろ、マジかよとんでもねぇな
「ふふふ……そうでしょそうでしょ、司くんは凄いんだよ~!」
自身のお気に入りの子を褒められて、まるで我が事のように自慢げになるイズ。そんなイズに対して頷きながら、スノトラとシェヴンは口を開く。
「はぁ……まさか“アレ”で付き合ってなかったんすか、自分はてっきりそうだと勘違いしてたっすよ。でもまぁ……付き合ってなかったとしたら、あの行動は罪作りな男っすねぇ。これはライバルは絶対多いと見たっすよ、ぼやぼや片思い続けてたらすぐに盗られちまうっすよ志歩ちゃん! 想いは早く伝えるに限るっす~」
「成る程、つまり志歩ちゃんはずっと彼の事を想い続けているのですね……! そして想いを伝えようにも上手くいかず、もどかしい日々を送っているんですのね……はぁっ……尊っ……! 私の推し
「ああっ……もう! お二人はうるさいです! 冷やかすのは止めてくださいっ!」
そう真っ赤になって二人に怒鳴る志歩を横目で見て、フレイアは何かを思いついたようにニヤリと笑って口を開く。
「成る程なぁ……! つまりは志歩は司とイイ感じになりてぇ訳だ……!」
「あっ、いっ、いやその……まぁ……それで……合ってますけど……っ!」
周囲に冷やかされきって、志歩は顔をタコのように真っ赤になってしまいながらもフレイアの問いに、絞り出すようにそう声を上げながら頷いた。
それを見てフレイアは彼女らしい獰猛な笑みを浮かべながら言う。
「よっしゃぁ! それなら話は早ぇぜ! 志歩の恋のキューピットはこのアタシらに任せなぁ! おいスノトラ——今から前のメンバー招集かけたら最高で何人集まる?」
そんなフレイアの問いに同じくニヤリと笑いながら、スノトラはスッと懐からスマホを取り出しつつ言う。
「——っす。そういう話なら今でも
「マジかよ、今でも全員揃うたぁカワイイ奴らだなぁ……おっと、“エーコ”と“スミハ”は来んなって言っとけ? 今年
「了解っす! じゃあ招集かけるって事で良いんすね頭ぁ!?」
「勿論だ! 可能な限りすぐ来いって言え! 7年振りの『
「ヒャッハー! ですわ! 久しぶりにみんなに会えるんですのねぇ!」
「えっ……あの……その……いったい、何をしようとするつもりなんですか……?」
「えっと……愛兼ちゃん? 何する気なの?」
なにやら雲行きが怪しくなってきた話に、志歩とイズは冷や汗と共にそう尋ねる。すると、フレイアは志歩に向かってサムズアップしながら、満面の笑みと共に言う。
「よっし! 準備は整ったぜ志歩! 今から近くの公園まで司を呼んで
「そんな脅迫みたいなやり方、私ぜったいにイヤですっ……!!!」
そんなフレイアのとんでもない力技での解決方法を、志歩は当然の如く全力で拒否する。
それにフレイアはショックを受けたような表情になる。
「えぇ……嘘だろ? なんでだよ……いい考えだと思ったのによ……」
「雑です! とにかく雑過ぎます! そんなやり方で司さんに頷かれても、私は全く嬉しくないですから!」
「愛兼ちゃん……恋愛は効率が全てじゃないんだよ? ちゃんと段階を踏むのが大事なんだから」
「まぁ自分も、志歩ちゃんならそう言うと思ったっす。志歩ちゃんは真面目っすもんねぇ」
「全く……いちいちフレイアさんは強引なんですから……少しは私の気持ちを考えてください……!」
そんなプンプン怒った様子の志歩に、フレイアは眉を潜めながら言う。
「えぇ……でもよ、じゃあ志歩は一体司とどうしたいんだよ? イズにあそこまで啖呵切るぐらいに司のことが好きなんだろ? だったら……今のままで良いなんて、そんな事思う筈ないよな?」
「そ、それは……その……」
「なぁ、志歩。もう一度言うがアタシはお前に恩がある。だからもしお前が、司に対して何か悩んでるんだったら力になってやりてぇんだよ。だから、何悩んでるのかアタシらに教えてくれ……志歩」
「フレイアさん……皆さん……」
志歩はそんな真剣なフレイアの目を見た後、他の3人の表情を見回す。そこには同じような真剣さがあった。だからこそ志歩は思い切ってその口を開く。
「……じゃあ、聞いて貰ってもいいですか? 私と……司さんの話を」
そして志歩は司との、長いようで短かった濃密な二週間の思い出話をフレイア達に語るのだった。
□ □ □ □ □
そして約1時間後、全てを話し終えた志歩の目の前には、涙ぐむ四人の女たちが居た。
その思いもしなかったオーバーリアクションに、志歩は思わず困惑しつつ言葉をかける。
「あ、あの……みなさん? どうしましたか?」
「——っ、クソっ……! これだから年をとるのは嫌なんだよアタシはっ……! 涙腺が脆くなりやがる……!」
「グスッ……い、良い話だったっす……! そんなの、マジで志歩ちゃんが司くんに惚れるのも無理ねぇっすよ……! やめてくださいっす……わ、私、そういう話に弱いんですから——って、
「ううっっっ……!! グズッ……ズズッ……無理っ、無理ですわぁ……泣くなってのが無理ですわ……!」
「うっ、うぅぅ……分かるよぉ……! 私、気持ち分かるよぉ志歩ちゃん……!! またっ、みんなと一緒に居られる日が来るといいね……!」
「み、みなさん!? あのっ、そんなに泣かれてしまうと私が困りますというか……」
慌てる志歩に対し、自分達と下手に重なる部分を見てしまった四人は涙を隠せなかった。
そして、おもむろにフレイアとシェヴンとスノトラは立ち上がり、志歩を取り巻く学校での現状に対しての苛立ちを吐き捨てるように言う。
「——にしても、アタシらが居た頃も思ってたが、相変わらず
「うふふ……フレ様、無駄ですわぁ。昔も言ったと思いますけど、
「——ハッ、やっぱ
「あぁぁ……! 腹立つ!! 志歩が何か間違った事言ったのかよ!? なんで自分が言いたい事を言っただけで志歩はそんな目に遭わなきゃならねぇんだよ! やっぱあの学校はクソだぜ! クソ! 何が“歴史と伝統”だ!
そんなフレイア達の苛立ちの声に、イズは諫めるように言葉を突きつける。
「愛兼ちゃん、
「「「———っ!」」」
イズの言葉に三人は一斉に俯き、各々が志歩に言う。
「……悪ぃ志歩、そこに通ってるお前の
「……すんませんっす志歩ちゃん。自分も頭ほどじゃないっすけど昔、親に強制的に通わされてたんで宮女には思う所あるんすよ」
「すいませんですわ志歩ちゃん……私も昔、あの学校で不自由な籠の中の鳥やってましたのでつい毒が……」
そんな三人を見て志歩は、半年前初めてフレイアと出会った時に自分の制服を見て敵意を剥き出しにされた過去を思い出し、それが理由だったのかという納得と共に、少し笑みを浮かべながら言う。
「いえ……大丈夫です。皆さんが怒って下さったのでそれだけで私は満足です。言いましたけど、結局は私の性格が引き起こした事態ですので……私はこの現状に納得してます。ですから、もうそこは気にしないでください」
「……そうかよ、お前は本当に強ぇヤツだな志歩。分かったよ」
そう言ってやっと納得したように頷いたフレイアを見て、イズは話を切り替えるように口を開く。
「——じゃあつまり志歩ちゃんは今、お友達の為に今の学校に残るか、それとも自分の為に司くんの通う学校に行くかどうしようか悩んでるって訳だね?」
「……はい、そうです。いくら一人で家で考えてても答えが出なくって……私は、一体どうしたら良いんでしょうか? 大切な友達と……司さん。どっちを選べばいいのか全く分からなくて……」
「そっか……確かに、それはとっても難しい選択肢だね。どっちが正解かなんて簡単に答えなんか出せないよ、きっと、誰にも」
そんな俯く志歩に優しく言葉をかけるイズを見て、フレイアはフッと笑った。
「——おいおいイズ、何言ってるんだ。アタシらの演奏について来れるような強い精神持ったヤツに、そんな情けねぇアドバイスしてやるなよ」
「えっ……愛兼ちゃん?」
「フレイアさん……?」
困惑する志歩の目の前にまでフレイアは歩み寄り、そしてその眼前にズイっと自身の顔を寄せて志歩の目を覗きこむようにしながら、フレイアは言う。
「志歩……“友情”か“恋”。どっちかを諦めなきゃいけねぇなんて情けねぇ考えはやめろ。どうしてお前には
「りょ、両方? そんなムシの良い考えなんてあるわけ——」
そんな、常識外れのフレイアの言葉に志歩は思わず反論しようとする。
しかし、そんな否定の言葉など打ち消すようにフレイアは続けた。
「“ある”んだよ志歩、そう思いこめ。自分が望む一番良い幸せの形を『どうせ無理だ』なんて決めつけて諦めんな。いいか? “限界”ってやつはな、いつだって自分自身が決めるもんだ」
「限界は……自分自身が決めるもの?」
「そうだ——もっと欲張れ。どの道、そんぐらいの
「自分に……ワガママに……」
志歩はフレイアのその言葉に、まるで熱に浮かされたかのような表情で、自分自身の両の掌を見つめながらそう呟く。
そんな、フレイアの言葉を心に刻んだように見える志歩を見ながら、スノトラはやれやれとため息をつきながら笑う。
「はぁ……まったく、やっぱり頭は無茶苦茶っすねぇ……だけど——」
「ふふっ……そうだね利音ちゃん。それでこそ愛兼ちゃんだよね?」
「やっぱり……フレ様はカッコいいですわ」
やがて、志歩は自分なりにフレイアの言葉を飲み込んだ後、頷いて言う。
「ありがとうございます。滅茶苦茶なアドバイスでしたけど……でも少しだけ、迷いが晴れたような気がします。本当に貴女はいい人なんですね、フレイアさん」
そんな心なしかスッキリしたように笑む志歩に、フレイアは肩を竦めて何でもないように振舞いつつ口を開く。
「ハッ……気にすんな。アタシはただ、きっと今のお前を見たら“ルカ”の奴が言いそうだなって思った事を、アタシなりにアレンジして言っただけだからな。そこまで言われるとむずがゆいぜ」
「——えっ? “ルカ”って、フレイアさん達の昔のお仲間さんの内の一人の名前ですか?」
そんな志歩の問いにあからさまに表情を『しまった』と言いたげに歪めるフレイア。
「あっ……あ~~~ええっと、昔っていうか……今のっていうか……実在してるけど実在しねぇ仲間って言うか……」
「え? 実在するけど実在しない……?」
「いやっ! 待て! 言い方ミスった! ええっとなんて言うか……」
「——頭ァ!? もういいからそれ以上ボロ出す前にお口チャックするっす!!」
「はぁ……隠し事が苦手で不器用なフレ様も素敵ですわぁ……」
「愛兼ちゃんはもう……変に照れ隠しをしようとするからそうなるんだよ?」
「——???」
結局強引に打ち切られてしまった話題に疑問符を浮かべる志歩。
そんな志歩に、強引に話題を切り替えるようにスノトラは言う。
「——まぁとにかく! 志歩ちゃんをそこまで惚れさせちまった司くんには、責任取ってもらうしかねぇっすね! 志歩ちゃん……だったら自分に、司くんとイイ感じになれる策があるっすよ? 聞くっすか?」
「——っ!? なんですかスノトラさん? お、教えてください……!」
そんな青天霹靂のスノトラの言葉に、すぐさま飛びつく志歩。
スノトラは志歩にニヤリとした表情で言う。
「志歩ちゃん、今は卒業シーズンっすよね? 司くんはもうじき卒業式があるはずっす。違うっすか?」
「えっ……そうですけど、それが何か関係あるんですか?」
「なーに惚けてちゃってるんすか! “アレ”に決まってるっす! 卒業式、片思いをしている先輩が卒業する! それすなわち——」
そこでスノトラはその瞳をキラリと輝かせながら、自信満々に宣言する。
「『先輩の第二ボタンを私にください』っていう、日本古来から伝わる伝統的な卒業式の恋愛イベントをやれる絶好のチャンスじゃないっすか! それにかこつけて、司くんの第二ボタンを卒業式の日に貰いに行くっすよ志歩ちゃん! 司くんの制服が学ランなのはしっかり確認済みっす! だから問題なく出来るはずっすよ志歩ちゃん! そして、ドキドキで甘酸っぱい雰囲気を醸し出すっす!」
そんなスノトラの宣言に、イズとフレイアとシェヴンは苦笑いを浮かべながら言う。
「わぁ……なんてベタな。利音ちゃん、少女漫画大好きだもんねぇ……」
「スノトラ……お前そんなベッタベタなイベント現実でやって上手くいくと思ってんのか? これだから少女漫画脳は困るぜ……」
「ふふっ、これですから少女漫画を読んで恋愛をマスターしたような気になってるような頭お花畑は困るんですの。もっと現実の恋愛にも目を向けて欲しいですわぁ……」
そんなメンバーからの辛辣な言葉の数々に、スノトラは涙目になりながら吠える。
「——うるさいっすよぉ!? 少女漫画が大好きなのが何が悪いんすか!? ——私は昔、古臭い家のしきたりに縛られて、自由に恋愛をする事すら許されてこなかったのよ!? その反動が出て恋愛に憧れて何が悪いってのよ!!」
「おいおい、口調の素が出てるぞスノトラ。悪かったって、真面目に言ってるとは思えなかったんだよ……」
「私はいつだって真面目よ! これでも志歩ちゃんの為に真剣に考えたんだからぁ……!」
「わかったわかった……! ほら、今度お前が大好きな漫画が実写化されて映画になるだろ? タイトルは『モエモエな彼氏はオレンジ色に』だっけか? チケット買って一緒に見に行ってやるから……」
「うぅぅ……約束っすよ頭ぁ……!」
そんなひと騒動が起きる面々を見て、志歩はとても気まずそうな表情をしながら挙手をした後に言う。
「あの……盛り上がってる所申し訳ないんですが、その……『先輩の第二ボタンを私にください』っていうのは、一体どんなイベントなんですか? 私、聞いた事も無いんですけど」
——瞬間、その場に居る四人は全員嘘みたいにピタリと動きを止めた。
やがて、震える声でイズとシェヴンは志歩に尋ねる。
「え……し、志歩ちゃん? 『卒業式の第二ボタン』を知らないって、本当に言ってる?」
「うっ……ううううう嘘ですわよねぇ……!? きっ、聞いた事もありませんの?」
「えっ……? はい、全く聞いた事もありません。皆さんが何を言っているのかすら……」
「ほ、本当だったんだ。いやぁ……時代の流れって残酷だねぇ……私達が学生だった頃はあれだけ有名な文化だったのに、志歩ちゃんの世代には知らない子も普通に居るんだね……」
「はぁ……悲しいですわね。私、今日ほどに自分が年をとってしまった事を実感した事はありませんわ……」
イズはそう言って自分達の平成世代と今を生きる志歩の令和世代の子の文化の違いをしみじみと実感し、それに対してシェヴンは悲しそうにため息を吐く。
しかし、そんな二人を尻目に——
「——えっ? 第二ボタンの文化が、消えた……? 嘘だ……志歩ちゃんは私を騙そうとしている……」
「
スノトラは震えながら首を小さく横に振り、その目から涙を流しながら現実を認めようとせず、それに対してフレイアは驚きを返しながらスノトラの肩をガクガクと揺さぶるのだった。
「あの……もしかして私、何かやってしまいましたか?」
自分の発言によって目の前で起きてしまった阿鼻叫喚の地獄絵図に、思わず志歩は気まずそうにしながら、そんな異世界最強主人公モノのテンプレ台詞のような言葉を吐いてしまうのだった。