神山高校1年A組日野森志歩   作:トール77

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サイドストーリー:暁山瑞希①

 

 

 

「は~、つっかれた。どうして通ってる学校でもないのに制服着ないといけないのかなぁ、入試で大事なのは学力だよね? なんでわざわざ制服で受けなきゃいけないとかいう決まりがあるのさ……嫌だったなぁ」

 

 そんな文句を吐きながらボクは、家に帰ると同時に堅苦しいネクタイを部屋に適当に投げ捨て、ベットに倒れ込む。

 本当はもっと早くにこうしたかったのに、あの変な二人の所為で予定がすっごく狂っちゃった。やってられないよ……もう。

 ボクはそんな事を思いながらため息を吐いた。吐かないとやってられないから。

 

「はぁ……それに、狂ったのは今日の予定だけじゃないしなぁ……もう、最悪だよ。折角、高校に入ったらボクは()()()()()()()()()んだって、そう決めてたのに……今日試験を受けに行った“暁山瑞希(ボク)”なんて、誰の記憶にも残りたくなかったのに……最悪」

 

 最悪だ。最悪だ。本当に最悪。今日は、今日だけは誰とも関わらないって、そう決めてたのに。

 でも——

 

「どうしても放っておけなかったんだよなぁ……なんなのさ、あの日野森志歩って子」

 

 頭に浮かぶのは、教室でのあの子の姿。

 いわれのない他人の冷たい視線を受け続けても、それでも教室から逃げずに試験に向き合い続けた、そんな必死な姿を。

 そんな姿を思い浮かべ、ボクは気づけば拳にギュッと力を入れて握り拳を作っていた。

 

「……ボクそっくりじゃん。あの子、そのまんまボクじゃん。曲げたくない自分があって、それを守る為に必死で足掻いて生きようとしてる——挑戦者(チャレンジャー)だ。なんだよぉ……どうして今日に限って、そんな子をボクと引き合わせるんだよ神様……そんなの、放っておける訳ないじゃん……!」

 

 そう口にして自分の気持ちを言語化すると、自然とボクは今日あの白石って子の提案に、ボクらしくもなく乗ってしまった理由が納得できた。

 もしかしたら、ボクは知りたかったのかもしれない。あの日野森志歩って子が、どんな思想を持ってあの場で“みんな”に対して立ち向かい続けたのか。

 あの子が、一体どんな人間なのか。

 それを知りたかったから、ボクは二人をファミレスに誘ったんだ。そして——

 

 

『暁山さんのお陰で私は……さっきの教室で嫌な事があって、それで私いじけてただけだって、それに気づく事ができました。だから……ありがとうございます』

 

『あはは……何ソレ。ま、いっか、励ましてくれてありがとね、お陰で元気出た。君ってさ……やっぱり本当に優しいよね』

 

 

 面倒だけど、本当にやっちゃったって感じだけど。絶対にあの二人の頭の中には、今日のボクの存在が刻まれちゃったような気がする。

 

 それも、今日限りで捨てる筈だった“暁山瑞希(ボク)”の存在を。

 

「……でも、だからってどうしたって話だよ。()()()()()()。ボクはボクであって、他の何者でもない。もう、他人が決める価値観の型に合わせるような生き方はしないって……ボクはそう決めたんだよ」

 

 ボクは頭にまとわりつく二人の存在を振り払って、ベットから立ち上がる。

 あの二人の事なんてもう忘れよう。今日たまたま知り合っただけに過ぎない人達だ。

 

 もしかして、あの二人なら——なんて、そんな下らない期待は早めに捨てるんだ。

 だってボクはもう、今日の暁山瑞希(ボク)をあの二人に見せちゃったんだから。

 これから生まれ変わる予定の“ボク”の事なんて、きっとあの二人にとったら、見るだけで気持ち悪い存在にきまってる。

 だから、あり得ない期待なんかするな。

 

 せめて……生まれ変わった後に、あの二人に出会えてたらな。もしかしたらいい友達にはなれたのかもしれないのに。

 タイミングさえもっと遅かったら、ボクは——

 

「あ~やめやめ! ネガるの終了! さっさと25時までに動画作って、『K』と『えななん』と『雪』に意見貰わないと! よーし、やるぞー!」

 

 ボクは無理矢理にネガティブな気持ちを振り払うように大きな声を上げて、パソコンの電源を入れる。

 そうだ、ボクには余計な事を考えてる暇なんてない。

 中学校からも逃げて、今だって仲良くなれたかもしれない二人の子からも逃げて、そんな逃げる事が悪癖な、弱いボクを拾ってくれた音楽グループ『25時、ナイトコードで。』——通称“ニーゴ”のリーダーの『K』。

 その子の為に、ニーゴの為に曲とイラストに動画をつける。それが“ニーゴ”でのボクの仕事。ボクの作業。

 ここが、ボクがボクらしく居られる、唯一の場所。

 だから——頑張らないと。

 

「あ、そうだ忘れてた。作業する前に着替えよっと」

 

 そう口にしながらボクは制服のブレザーとズボンを脱ぎ、それを手に持ってふと眺める。

 

「そういえば……卒業式にはもう行かないし要らないよね、コレ。ばいばーい」

 

 そう呟いてボクは、制服をゴミ箱に叩きこんだ。

 ざまみろ、清々する。制服(オマエ)に縛られる生活なんて今日で終わりだ。ボクが今、終わりにしてやった。

 ボクはこれから誰の目も気にしないで、生きたいように生きて——そして限界が来るまで足掻いてやるんだ。

 これから通う学校に例えどんな人が居ようとも、ボクはボクらしく生きてやるんだ。

 

 

『……あのっ! 今日は本当にありがとうございました! また……もし合格して学校で会う事があったら、その時はよろしくお願いします!』

 

 

 そう誓った瞬間に、頭に不意に浮かんだ日野森さんの言葉をボクはあえて考えないようにして、いつも通りの私服に着替えてからパソコンに向かってニーゴの動画制作をする。

 

 今日あったことを、何もかも忘れるために。

 

 やっと見つけられるかもしれない、ボクがボクらしく居られる“居場所”を、手に入れる為に。

 

 

 

 

 

 

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