それからあっという間に合格発表日までの一ヶ月が過ぎ、私は自分の受験番号が書かれた紙を握りしめ、再び神山高校の校門前に立っていた。
今回は前とは違って合格発表。
特に制服で来る事に対しての指定はなかったから、受験日に制服で来て悪目立ちしてしまった事もあって、今日は私服で来るかどうか少しだけ悩んだけれど、結局私は制服で来ていた。
調べたけれど、こういう場には例え明言はされていなくても制服で来るのが“普通”らしいし、それに私も変に悪目立ちしたくなかったから。
だけど、一応ちゃんとしっかり上から制服が見えにくいような大きめのコートを羽織っているため、目立つ事に対する対策もバッチリだ。
「よし……絶対大丈夫、私は合格してるはず」
そんな準備万端の私は、“もしも”を考えて弱気になりかける自分自身に気合いを入れるようにそう呟き、歩を前に踏み出して校門をくぐる。
すると、受験日当日には見る余裕がなくて目に入ってこなかった、この学校全体の光景が私の目に映った。
神山高校の敷地内には、完璧に整備された一面芝生のグラウンドがあり、そのグラウンドの周りには陸上競技でキチンと使えるトラックか完備されていて、それがとても綺麗だった。
その他にも、校舎は最近建てられた事を示すかのような壁の塗装の白い輝きを放っていて、校舎を覆うガラス窓も全てがピカピカで新しかった。
そして、そんな校舎の中に向かうまでの校門から昇降口までの一本通路の両脇には、まるで私を歓迎するように桜並木が満開に咲き誇っている。
そんな、私が今までいた宮女の伝統的な校舎の古きよきデザインとは違い、何もかもが新しくて輝いているような学校の環境に、私は舞い散る桜の花びらを見上げながら高揚感を感じてしまう。
「ここが、私がこれから通う学校……すごく綺麗」
そんな少しだけ気の早い感想を呟いてしまっていると、私はあっという間に合格発表が張り出される場所である、校舎の昇降口前までにやってきてしまう。
そこにはもう私と同じような、合格発表を待つ生徒の人達でいっぱいだった。中には親に付き添いで来てもらっている人もチラホラいる。
そんな人の海の中で、私はつい見知った顔を探してしまう。
「白石さんと暁山さん……いるかな?」
だけど流石にこんなに人が多いと難しいのか、その姿を見つける事は出来なかった。
……まぁいいか、別に今に会えたからって、何を話す訳でもないだろうし。そもそも私は一人でも全然平気だし。これぐらい何とも——
「あ! いたいた~! 久しぶり日野森さん!」
すると、唐突なそんな明るい声と一緒に、こちらに駆けて来る足音に振り返ると、そこには私がたった今探していた白石さんが元気に駆けてきていた。
私はそれを見て思わず口元が緩んでしまい、その緩んだ口元のままで返事を返す。
「白石さん……居たんですね」
「やっほ、一ヶ月ぶりだよね! ついに合格発表だよ? もう私、ドキドキしすぎてこの一ヶ月がとっても長く感じたよ……日野森さんはどうだった?」
「いえ、私も確かにドキドキはしてますけど、割とあっという間でしたよ? やる事も色々あったので」
「え~! そうなの? そっかぁ……日野森さんは点数余裕だもんねぇ、色々ギリギリな私は全然それどころじゃなかったよ。一昨日なんか不安過ぎて上の空で私、お父さんのお店手伝ってる時にさ、お客さんの注文聞き間違えちゃったんだよ? もう最悪って感じ」
「そうですか……でも、ここまで来たんですから合格しているのを信じましょうよ。その方が気が楽ですよ」
「うん……そうだよね、確かにそうだね……よっし! 覚悟完了した! どんな結果でもかかってこーい!」
白石さんはそう元気に宣言して、勢いよく拳を突き上げた。
それにしても元気で明るくて、見てて楽しい人だな。こんな人には、何時でも笑顔で居て欲しいって素直にそう思ってしまう。
白石さん合格……してるといいな。
そんな事を思いながら元気な白石さんを見ていると、周囲から数人の視線が私を刺す。
「あ……あの子、見て。試験受けてた宮女の子だよ?」
「ほんとだ……記念受験に来てたんじゃなかったんだ。じゃあ本気だったって事?」
「さぁね、良いトコのお嬢様が考えてる事なんてよくわかんないよ。暇つぶしとか?」
「うわ~、よっぽど暇なんだねぇ。ヤバっ」
私が暇……? あっそ、勝手に言ってたら良いと思うけど、少なくともアンタ達より私はこの高校に受かりたい気持ちは本気だから。
なんだろう……もし私が合格してたら、あの人達に見せつけるようにガッツポーズしてやろうかな。
思わず苛立ちでそうしたい衝動に駆られてしまっていると、隣の白石さんは眉をひそめながら声がした方の女子グループを見ていた。
「なんか言ってるよあの人達……ヒソヒソ声で嫌な事言っちゃってさ、言いたい事あるなら直接言えばいいじゃん。日野森さん、別に気にしなくていいからね。——というか、ちょっと私が行って言ってこようか? 流石に気分悪いでしょ?」
……本当にこの人は、お人好しだな。私は笑みを零してしまう。
「いえ……大丈夫です。好き勝手言われるのには慣れてますし、それに誰に何を言われようと私は私なので。ああいう声は、これからの私を見せて黙らせてやろうと思ってます」
「あ……それって、暁山くんが言ってた事の受け売り?」
「はい、そうです。とってもカッコいい考え方だと思ったので参考にしてみようかと、でも白石さんが私の為に行動しようとしてくれてるのも嬉しいですよ、ありがとうございます」
「あははっ、日野森さんカッコイイ~。じゃ、そうしてやろうよ」
そう笑顔で言った後に、白石さんは思い出したように周囲をキョロキョロ見回す。
「それにしても暁山くんは何処かな~? 目立つからすぐ見つけられるって思ったのに」
「そうですね、私もそう思ってたんですけど……もしかしたら、まだ来てないのかもしれません」
「えぇ、そうなの? でも合格発表の時間は確か10時からだから——」
と、白石さんがそんな残念そうな声を上げた時だった。
昇降口から大きな看板サイズの板を持った、四人の先生らしい人達がぞろぞろと現れ、それを見た白石さんは慌て声で私の肩を掴む。
「あっ……日野森さん、あれじゃない!? え、もうそんな時間だったの……!? 私、心の準備が……!」
「おっ、落ち着いてください白石さん、深呼吸ですよ……深呼吸……」
そんな合格発表の瞬間に浮足立つ私達に、メガホンを持った先生が集まった全員に向かってアナウンスをする。
『え~、それでは、2020年度における都立神山高校の、学力検査に基づく入学者選抜の結果を発表させていただきます。集まりになられた受験者の方々は、お手元にあります受験番号と照らし合わせて、結果をご確認ください』
それと同時に一斉に先生達は板を表返す。同時に、ズラリと並ぶ受験番号。
私は息を呑みながら、自分の受験番号を目の前から必死で探す。すると——
「あ、あった……!」
思った以上にあっさりと、私は自分の受験番号を見つける事ができた。
それと同時に、今までの努力が無事に実った実感が、徐々に私の中で大きく膨らんでいくのを感じていた。
——やった、やりましたよ司さん! 私……やりました! これで私、春からあなたと一緒の高校です! 良かった……頑張ってよかった……!
そんな嬉しい実感を噛み締めていると、ふいに隣にいる白石さんの方から震えた声がした。
「あっ……あれぇ……? な、ないよ? 私の番号、ないよ……?」
「えっ……!?」
私は思わず、目を見開いて白石さんの受験番号を見てしまう。
そして張り出されている受験番号から白石さんのを探すも——その番号は、どこにも見つからなかった。
え……嘘でしょ。白石さんみたいに大騒ぎするタイプの人って、結局はなんだかんだで無事に合格してると思ってた。ど、どうしよう、なんて声をかければ……。
そんなことを思っていると、白石さんはその場に膝を抱えてうずくまってしまう。
「あ……あはは……そっか、駄目だったかぁ……ダメだったんだぁ……ごめんなさい
「……白石さん」
そんな涙声で結果を悔やむ白石さんを、私は単純に見ていられないと思ってしまった。
そんな悲しい顔をして欲しくないって、そう思ってしまった。
だから私は——
「…………よく、がんばったよ。白石さんは、よくがんばったよ」
「——え?」
しゃがみ込む白石さんに、私も膝を曲げて同じ目線の高さになってその肩に手を置き、今の自分の心の中の精一杯の励ましの言葉を白石さんに送る。
慰めと同情の言葉かもしれない。どこにでもありふれたような気休めの言葉かもしれない。もしかしたらこの行動は、私が今まであれだけ嫌っていた、“偽善”の行動なのかもしれない。
でも、それでも私は言ってあげたかった。私は、どうしても白石さんの事を“笑顔”にしてあげたかった。
——ああ、きっと、この気持ちがそうなんですね、司さん。
二年前のあの日、貴方が私に何度拒絶されても私を助けようとしてくれたのは……きっと、今のこの気持ちが、司さんにああさせたんですね。
司さんは、あの日の私に笑って欲しかったんですね。今になって、貴方の気持ちがよくわかりました。
だから、私も大好きなあなたみたいに——
「白石さん……今までのあなたの事を何一つ知らない私に、こんな事言われるのはムカつくかもしれないけど……でも、私はあなたが全力だったって、必死で頑張って努力してきたんだって、そう思うよ」
「……日野森さん」
「だから……そんな全力でも駄目だったんだから、切り替えるしかないよ。私はっ、白石さんにまた前を向いてほしいって、そう思う……今は無理かもしれないけど、それでも私っ……!」
私は、言い慣れていない慰めの言葉を必死で探し、胸の内で必死にかき集めるようにして言葉にする。
そんな必死な私を見て、白石さんは何を思ったのかは分からない。
でも白石さんは暫く私の顔を見て黙った後で、やがてクスリと微笑みを返してくれた。
「——あ、あははっ。私の為に必死になってくれてありがと、
あ……良かった。笑ってくれた。
司さん……泣いてる誰かを笑顔にするのって、こんなにも嬉しい事なんですね。私、あなたに恋をしなかったらこんな気持ち、一生分からないままだったかもしれません。
私に誰かを笑顔にすることの嬉しさを教えてくれて、ありがとうございます司さん。
そんな実感を確かに感じながら、私は白石さんに笑みを向ける。
「……やっぱり、あなたは強い人だね白石さん。励ましておいてなんだけど、こんなにも早く笑ってくれるなんて正直思ってなかった。すごいよ」
「……ま、悔しいけど暁山くんのお陰もあるかもね? 下手に同情だけで甘い言葉を言うんじゃなくて、ハッキリ現実的な言葉を言ってくれたから私、もしかしてって心の準備が出来てたのかもしれないし……あ~でもちょっと、アイス奢りの件が無くなったのは、改めて残念かも」
「……だったら私が奢るよ、ラムレーズンアイス。お疲れ様って事で」
「あ、ホント? やったー! いや~今日は落ちたけど良い日だな~、だって新しく友達が出来た日だもん! ね、
ニコリと笑う白石さんに、私は遅れて白石さんの私への呼び方が下の名前になっている事に気付く。
「え、あれ……今、私の事、志歩って……」
「え? 嫌だった? でも良いかなって思ってさ。だって気づいてる? さっきから志歩、私に敬語やめてるよ? それって、もっと私と仲良くなってくれる気があるって事でしょ?」
「あ……そういえば! ごめんなさい白石さん、私、つい……」
「いいよいいよ! そのまま! そのままでいこ! その調子でもう私の事を“杏”って呼んじゃおうよ? 私もこれからあなたの事を志歩って呼ぶし!」
「あ……えっと、そ、それはまた、練習って事で……いい?」
そんなまだ躊躇ってしまう私に、白石さんはニッコリと笑って言う。
「うん、ゆっくりでいいよ。まぁこれからは違う学校だけどさ、それであなたとの縁が切れる訳じゃないんだし、これからも私と仲良くしてね、志歩! なんなら、ビビットストリートにあるウチのお父さんがやってるカフェに来てくれてもいいしさ! サービスするよ?」
「“ビビットストリート”……? それって、あの歌で有名な——」
「あれ? もしかして知ってる? ひょっとして志歩、音楽の事詳しかったり?」
「えっと、実は私、ベースでプロ目指してて……その関係でライブハウスによく出入りしてるから、そこで結構その街の話は聞くんだ」
「へぇ~! そうなんだ! うわ~すごい偶然! だったら尚更残念だなぁ、折角音楽の趣味も合いそうな友達に出会えたのに違う学校だなんて……う~! 悔しい!」
「……そうだね、確かにとっても残念。でも私は白石さんと——」
そう私が、「出会えてよかった」って続けて言おうとした時だった。
『すみません、こちらの方で手違いがありました! 補欠合格者を掲示する看板を掲示し忘れていたようです! 今しばらくお待ちください!』
「「——えっ?」」
そんな先生からのアナウンスの声に、私と白石さんは思わず目を丸くしてしまう。
これって……ひょっとして。
「……白石さん?」
「う……うん! 私……見に行ってくる!」
「あっ、待って、私も……」
そう言って、走って看板のところまで向かう白石さんの背を追いかけ、そこで私は白石さんの番号を探す。
すると——
「……あった、番号。番号あったよ白石さん……! 良かった……」
そこには、ハッキリと白石さんの手に持っている受験番号が書いてあって、白石さんが補欠合格した事を示していた。
その事実に、私は思わず自分が合格した時よりも嬉しさを感じてしまう。
そして当の本人である白石さんは、当然私なんかよりも何十倍も嬉しかったみたいで。
「やっ……やったぁぁぁーーーー!!! 合格っ! 合格したよ私ぃぃーーー!!! ギリギリで合格してたぁー!! ありがと志歩! あなたのお陰だよぉぉーーー!!」
私は白石さんに思いっきりガバリと抱きつかれ、力いっぱいに抱きしめられてしまう。
「あのっ……ちょっと、苦しいよ? 苦しいって白石さん……っ!」
「やったぁぁ……! 良かったぁぁ……! これから宜しくね志歩ぉ……!」
「ちょ、ちょっと……! だから苦しいっ、苦しいって言ってるじゃん……! もうっ……いい加減にしてよ
「あ……!? やった私の事名前で呼んでくれた! タメ口より早い~! えへへっ、宜しく志歩!」
「ああ、もう……ダメだコレ。終わり見えない……!」
そんな風に私は、喜んだまま私の事を放そうとしない杏の抱擁を受け続けた。
■ ■ ■ ■ ■
それから暫くして杏からようやく解放された私は、合格者の掲示板の前から少し離れた所に行き、肩の筋肉が張っているような感覚がして肩をグルグルと回してしまう。
「あ~……なんだか、肩凝った気がする。絶対杏のせいだよこれ」
「あはは、ごめんごめん志歩。嬉しくってさぁ、つい……」
「まぁ、気持ちは分かるけど、ちょっとは遠慮してほしいっていうか……でも、まぁいいよ、それだけ嬉しかったって事でしょ?」
「うんっ! もう本当に最高っ! って感じ……! 合格出来て良かったぁ……」
そう言って喜びをかみしめている様子の杏に、私は思わず尋ねてしまう。
「……ところで、杏が合格できてそんなに嬉しいのって、さっきショック受けてた時に呟いてるの聞いちゃったけど、その凪って人が理由?」
そんな私の問いに、杏はすぐに頷いた。
「うん、そうだよ。まぁ……正確にはそれだけが理由って訳じゃないんだけど、それでも大きな理由にはなってるかな」
「へぇ、そんなに仲が良い人なの?」
「うん! 私ね、凪さんの事大好きなんだ! 私がまだ小学生だった頃に沢山優しくしてくれたお姉さんでね、その人との思い出の場所がここなんだ。今はちょっとアメリカに行ってて会えないんだけど、いつか帰ってきたら沢山話したいなって、そう思ってるんだ~」
そう言って凪という人の事を語る笑顔に、私は杏がその人の事が本当に大好きなんだろうなって事がすぐに分かった。
それにしても“凪”って……どこかで聞いた名前のような気が。
「ん? どうしたの志歩? 急に難しい顔で考えこんじゃって」
「あ、いや……何でもないよ。そっか、じゃあ杏は合格出来て良かったね。その凪って人が日本に帰ってきたら、話す事一つ増えたじゃん」
「うんうん、本当にそうなんだよ~! あ~、早く帰ってこないかなぁ凪さん……楽しみだなぁ……」
私達がそんな風に話をしていると、先生の方から合格した人達向けに入学書類の受け渡しがあるとアナウンスがあって、それを聞いた途端に杏が私の服の袖を引っ張った。
「あ、志歩! 中の方で書類渡してくれるってさ! 行こ行こ!」
「うん、そうだね——って、杏。そんなに服引っ張って急かさなくても、ちゃんと書類は全員分あるって、落ち着こ?」
「あははっ、ごめんごめん。ちょっとまだ嬉しい気分終わってなくてさ~、ほらほら! 早く早く!」
「もう……ふふっ、分かったから」
そうやって目の前ではしゃぐ杏の元気な姿を見て、思わず笑ってしまいながら私もその背を追った。
すると杏は、そこでふと思い出したように言う。
「あ! そういえば……暁山くんは結局どこに居るんだろ? 絶対見つかるって思ってたのに……」
そうだ、確かに杏の言う通り、暁山くんが結局見つからないままだ。
ここまで居ないならもう、今はここにいないって事なのかな? 確かに……“それ”も一つの選択肢だと思うし。
私はそんな事を思いながら、杏に自分の考えを話す。
「……確かにそうだね。ここまで探しても居ないんだったらもう、人が少なくなった後で結果を見に来るつもりじゃない? ほら、今って沢山の生徒で混んでるでしょ? それにあの板12時まで結果掲示してるらしいし」
「あ~、そっか、あり得そう……余裕の点数だったらしいからね。暁山くんだったら合格発表も事実確認みたいなものだろうし、わざわざ人が混むタイミングで来ないかぁ」
杏はそう言ってガックリと肩を落とす。
「あーあ残念だなぁ、暁山くん見つけたら合格したって思いっきり自慢して、帰りにアイス奢ってもらおうと思ってたのになぁ~」
「それもそうだね、でも今日は仕方ないし諦めたら? 別に今日が会える最後のチャンスって訳じゃないんだし、それこそ同じ学校なんだから何時でも探せるでしょ?」
「まぁそうだけど、でも今日がよかったな……あのバカにしたような顔を、今日思いっきりビックリさせてやりたかったのに……あーあ、暁山くんに会いたかったな~! こんな事ならやっぱり連絡先交換しとけばよかった~!」
そうやって、本当に残念そうに文句を吐きながら前を行く杏。その感想に私は同意するものを感じた。
だって私は今日、杏と同じぐらい……彼にも会いたかったから。
本当に会いたかったな……暁山さん。
——って、違いますよ司さん! 暁山さんに会いたいってこの気持ちは、そういうヘンな意味じゃなくて、友達になれそうな人って意味ですから! 間違っても誤解しないでください! 私はずっと、ずっとずっと貴方の事が好きですから! 心変わりなんて一生しないですから! 死ぬまで私はあなたの事が大好きですから!
「——って、あれ? どうしたの志歩? 急に首をブンブン横に振って、何か目にゴミでも入った?」
「あ……いや、何でもない」
「う、うん。調子悪かったら早めに言ってね?」
「だ、大丈夫……ごめん」
そんな、私が司さんに心の潔白を胸の内で叫んでいる所を杏に見られて、私は思わず赤面してしまいながらその後に続く。
そうやって私が歩き始めた——その時だった。
「ほら、やっぱりボクに気づかない……ま、最初から期待してなかったけどね」
「——え?」
唐突に、すれ違いざまに暁山さんの声が聞こえ、私は思わずその場で立ち止まって背後を振り返る。
だけどそこには暁山さんなんて居なくて、代わりに沢山の制服の人達に紛れて一人だけ目立つような、明らかに私服の白黒のヒラヒラしたロングスカートをたなびかせるゴシックロリータ服を全身に着飾った
髪型もゆるふわのロールを巻いた髪をサイドポニーにしてリボンをつけた、そんな、暁山さんとの共通点なんて薄桃色の髪色しかない、そんな性別から何まで全く違う
そんな去り行く彼女の後ろ姿を何故か見てしまっていると、杏から声をかけられてしまう。
「え? 急に立ち止まってどうしたの志歩?」
「あ……いや、暁山くんの声が聞こえた気がしたんだけど……彼、どこにも居なくて」
「えっ!? 嘘っ!? ……って、どこにも居ないじゃん暁山くん。空耳じゃない?」
「いや、でも確かに……」
そんな話をしながら私が諦めきれずに尚も探していると、周囲からさっきのゴスロリ服の女の子を見た男子の話し声が聞こえてくる。
「お、おい……見たかさっきの子? マジで可愛くなかったか?」
「嘘だろ、あんな可愛い子が受験の時教室にいたか? 他の教室?」
「いや、そんなんもうどうでも良いけどマジ可愛い……俺正直どタイプだわ、この高校に来てよかったぁ……」
「でもさお前、合格発表日に制服じゃなくてあんな目立つゴスロリ服で来る女だぜ? 絶対
「そっかぁ……い、いや、でも遠目から推すだけなら……!」
「懲りねぇなぁお前……」
やっぱり暁山くんはいない……それにしてもやっぱり、あの子は目立つな。どうしてあの子、制服じゃなくて私服で来てるんだろ。
それに、やっぱりさっきの暁山くんの声は空耳には聞こえない。そして、暁山くんと同じ髪色の人はあの子だけ。
だったら、まさか——
「志歩? いつまでも止まってないで早く行こうよ。いつまでも暁山くん探しててもしょうがないよ? 空耳だって」
「……あ、うん。そうだね、行こう」
杏の声に私は、一瞬だけ頭に浮かんだその発想を振り払って、校舎に入った。
いや……まさか、ね?