神山高校1年A組日野森志歩   作:トール77

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24話 ようこそ! 都立神山高校へ!

 

 

 

 それから早い事でもう四月になり、私はもう完全に散りかけの桜の花びらが舞う中、私は神山高校の入学式の日を迎えていた。

 

 そんな私が今身に着けているのは、入学事前説明会でサイズを測ってもらって買った、神山高校生である事を示す学校の制服。

 上は白のワイシャツに紺色のブレザーを羽織り、首には赤くて可愛らしいリボンを付けて、下はチェック柄のスカート。そんな全体的に可愛らしさの中に少しカッコよさもあるような制服のデザインで、私は少し気に入っていたりする。

 

 ちなみに制服を選ぶ際に少し驚いたのが、この高校では女の子でも男の子用のズボンやブレザーやネクタイを、買おうと思えば買える仕組みになっていた事だ。

 

 買える制服のリストを見た時それに驚いて、私は受付の人に間違ったの渡していないですかと聞いたら『この学校には制服に男女の規定は明確には無いですから、好きなのを選んで大丈夫ですよ』という答えを貰い、これも時代ってやつかなって思ったのも記憶に新しい。

 

 ちなみに、私はそれでも制服にスカートを選んだ。だって、司先輩に少しでも可愛く見られたいし。

 そして回りを見回しても女の子達は殆ど同じようにスカートとリボンを選んでいて、この男女自由制服選択制、実質あってないような選択制度だなとも思った。

 

 そんな記憶を思い返しながら、先生方の指示で案内されるままにやってきた体育館前。

 そこで掲示されているのは、私のこの高校での新しいクラス表。

 そこから私は自分の名前を探していると、それは意外と早く見つかった。

 

「1年A組……出席番号23番、日野森志歩」

 

 A組か……別に、どこの組でも構わないんだけどね。でもなんだか、一番目のクラスに自分が入っていると少しだけ幸先(さいさき)が良い気がして、お得な気分かも。

 よし、これで自分のクラスは分かったから、クラス表には用はなし。

 後は1年A組に行って担任の先生の指示を待つだけ……なんだけど。私には後二人だけ、気になる名前があったから、もう少しだけクラス表を探す事にした。

 

「しらいし、あん……あきやま、みず——っ!?」

 

 私が唯一知っている名前である、杏と暁山さんの名前の捜索を始めたその瞬間、目的の一人をすぐに見つけて、私は思わず驚いてしまう。

 

1年A組 出席番号3番 暁山 瑞希

 

「あ……暁山さん、同じクラスだ」

 

 私はその名前を見つけて、思わず心が弾むのを感じてしまう。

 元々私は一人きりの外部入学。

 だから一人なのが当然だし、その覚悟は当然できていたけれど、それでも、知っている人が居るだけで気持ちは軽くなるし、すごく嬉しい。

 ——って、男の子の名前を見つけて喜んじゃうのは、司先輩の事が好きな私としては、ちょっとだけダメな気がするけど、それでも普通に人間として暁山さんの事は嫌いじゃないから、別に一緒のクラスになって喜ぶ事ぐらいは許されても良いと思う。

 むしろ、逆にそんな事を考えてしまう方が、意識してるんじゃないかって怪しまれる風潮だってある。

 だから——うん、私は何もおかしくない。暁山さんと一緒のクラスで、私は嬉しい。

 

「よし、じゃあ後は杏の名前を——」

 

 そう呟き、杏の名前を探そうとした瞬間だった。

 

「久っしぶり志歩! もうきっとさ、コレ運命だよーー!!」

「——わっ! あ、杏っ!? ちょっと、急に何……?」

 

 ドンッ!と背中に神高の制服姿の杏が勢いよく抱きついてきて、私は思わず目を丸くしてしまう。

 驚いた私に、杏はとても興奮した様子で言う。

 

「何って、クラス表まだ見てないの!? じゃあ見て! 凄い偶然だから!」

「え、もしかしてそれって——」

 

 その言葉に、私はまさかと思いながらクラス表を再度見る。

 すると、私の予想通りそこには。

 

1年A組 出席番号12番 白石 杏

 

 ……うわ、すごい。

 まさか試験の日に知り合った二人ともが、こうして一緒のクラスになるなんて、こんな偶然ってあるんだ。

 というかここまで偶然が続くなら、同じ教室で試験を受けた人を、おおよそで一クラスに纏めてるの? って疑いたくなるぐらい。でも、中学での内申点とか素行とか聞き取りして生徒のクラスを決めてるって話も聞くし……やっぱり偶然? いやでも、どちらにしてもすごい事には変わりないから、どっちでも良いや。

 そう思っていると、杏はまだ興奮冷めやらぬと言った様子で言う。

 

「ね、見たでしょ? すごいよ私達、同じ学校に合格するどころか同じクラスだよ!? もう運命って言いたくなるの分かるでしょ!?」

「う、うん、そうだね、驚いた。まさか……杏まで同じクラスだなんて」

「うんうん、そうだよね! ……って、私“まで”ってどういう意味?」

「……まだ全員見てないの? だったら、私達のクラスの出席番号3番見てみなよ、びっくりするよ」

 

 杏にそう教えてあげると、杏は再びクラス表を見て、そして更にその目を大きく見開く。

 

「——って、暁山くんもいるっ!? ウッソ、凄すぎ! え、どんな偶然なの? 天文学的数字じゃない……!?」

「そうだよね、もうこうなったら同じ教室で試験受けた人を適当に同じクラスにしたんじゃいかって、一瞬思っちゃうぐらい」

「えぇ、流石にそれは……まぁ、クラス分けの事私よく知らないから、本当のところは分かんないけど……とにかく、すごいラッキーだよね! 嬉しい~!!」

 

 そう言ってその場で軽くぴょんぴょん跳ねて、喜びを露わにする杏。

 ……ふふっ、やっぱり杏って素直な子だな。ちょっと可愛いかも。

 でも、私もとっても嬉しいから気持ちはすごく分かる。

 

 と、そう思って私が白石さんの事を見ていると、よく見ると制服姿の白石さんの首元に、リボンじゃなくてネクタイが巻かれている事に気付き、私は思わず口を開く。

 

「あれ……杏、リボンじゃなくてネクタイにしたんだ」

「——え? あぁ……コレ? そうそう、買う時に好きなの選んでいいみたいだったから、私ネクタイにしたんだ。リボンも嫌いじゃないけど、でも私が付けるにはちょっと可愛すぎるデザインっていうか……あ、志歩は神高の制服バッチリ似合ってるよ! 可愛い!」

 

 そんな杏の理屈を聞き、私は杏らしいなって納得する。

 

「……ふふっ、ありがと。杏も今の制服似合ってるよ。でも私は、杏も可愛いからリボンでも似合ってたと思うけど?」

「え~! ちょっとやめてよ、おだてても何にも出ないからね~?」

 

 するとそんな中、杏の方に三人組の見知らぬ女の子達がニコニコ笑顔でやってくる。

 

「あ、杏じゃ~ん! 久しぶり、この学校受けてたんだ!」

「久しぶり~! アタシら中学2年で同じクラスになって以来だよね?」

「やっほー、元気してた~?」

 

 杏はどうやらその三人と知り合いみたいで、満面の笑みで三人の方を向く。

 

「あ~! ヒデコ、フミコ、ミカ! 三人とも久しぶり~!」

「久しぶり~! ねぇねぇ、何組だった? 私達全員B組なんだけど」

「あ~! そっかぁ、残念~! 私はA組なんだ」

「そうなんだ~、残念。まぁまた会ったら話そうね! ——ってかそれよか聞いて杏? アタシらこれで中学から合わせて3年連続同じクラスだよ? 腐れ縁ヤバすぎない?」

「え~! ほんと!?」

 

 そんな風に、杏は前の学校で昔友達だったっぽい人達と話し始めた。

 ……やっぱり杏ってコミュ力高いな。こんな風に同じ中学の時の友達だって多そう。なんだか、元から仲が良い人同士の会話って感じで、ちょっと私は入りずらいかも。

 別にコレに関して、杏は私をのけ者にしてるつもりはないだろうから杏は悪くない。

 どちらかと言えば、この会話に入っていけない——というか、入る必要性を感じることが出来ない、この私の人間性が良くないんだろうな。

 そう思って、杏には申し訳ないけどせめて話の邪魔をしないように、私は数歩その場を後ずさった時だった。

 

「——うおっ!?」

「——キャッ!?」

 

 いきなり背中に衝撃を感じ、振り返るとそこにはオレンジに黄色のメッシュを入れた髪色をした、ほんの少しだけ不良っぽい印象を感じてしまう見た目の男の人が居た。

 どうやら私は、この怖そうな男の人にぶつかってしまったらしい。

 

「——す、すみません。私、後ろ見えてなくて……」

 

 今のは自分に落ち度がある。そう思って私は急いで頭を下げた。

 ……なんだろう、女子校通いだったからって別に男の人が苦手なつもりなかったのに、この人はちょっと緊張する。

 なんだか見た目が明らかに“男の人”って感じだし、何より少し雰囲気が怖い。

 司先輩や暁山さんだったら……こんな怖い気持ちにならなかったのに。

 そう思って頭を下げ続けていると、オレンジ髪の人は口を開いた。

 

「あぁ、そんなに謝らなくても大丈夫だよ、頭を上げて? はぐれた友達探してて、自分の周りを見てなかったのはオレも同じだから。それより、君はどこも怪我とかしてない?」

「え——」

 

 瞬間、とてもさっき一瞬見えた不良っぽい見た目から出たとは思えないような礼儀正しい声が聞こえて、私は思わず顔を上げる。

 すると、その声は確かに勘違いでもなんでもなく目の前のオレンジ髪の人のもので、その人は見た目に似合わず、とても人当たりの良さそうな笑みを浮かべていた。

 この人、もしかして思ったよりもいい人なのかな?

 

「あ……いえ、大丈夫です」

「そっか、君に何も無いんだったら良かった。——あ、そうだ。ねぇ君、ちょっとオレ友達探してるんだけど、知らないかな? えっと……髪色が中心で二色に分かれてて、黒と水色の髪をした、君と同じ新入生の男で結構目立つ奴なんだけど……」

「え、ええっと……すみません、私は知らないです」

「そっかぁ……困ったなぁ……」

 

 私がオレンジ髪の人とそんな少し気まずい会話を交わしていると、後ろから杏が慌ててやってきた。

 

「あ! 志歩よかった! はぐれちゃったと思ったよ——って、え? 彰人(あきと)?」

「……あ、君は白石さん。驚いたよ……まさか君もこの高校に来てるなんて」

「えっと……杏、この人誰か知ってるの?」

 

 私が思わず助け船を求めると、杏はニコリと笑って言う。

 

「うん! この人ウチのお父さんのファンでさ、お店の常連さんなの。もう中学からの付き合いかな」

「へぇ、そうなんだ。杏の友達なんだね」

 

 ひとまず杏が知り合いだった事で、後は杏に任せれば、これ以上この人と気まずい会話をしなくて済むと安心していると、オレンジ髪の人は杏ではなく私の方を見て言う。

 

「もしかして君、白石さんのお友達なのかな?」

「あ……はい、杏とは——」

「——うんっ! 受験の日に知り合ってね! すっごく気が合ってそれから友達になったんだ~! ね、志歩?」

「あっ……はい、そういう……感じです」

「ああ、なんだそうだったんだ。じゃあこれも、もしかしたら何かの縁だね。オレの名前は東雲(しののめ)彰人。君と同じくこの学校の新入生だよ、何かあればよろしく」

「あっ……はい、私は日野森志歩です。同じく……宜しくお願いします」

 

 何故か私の方に続いてしまった会話になんとか対処していると、杏はそれにしてもと話を元に戻す。

 

「それにしてもさ、彰人は志歩と何の話してたの?」

「ああ、白石さん。それがね……オレ、少し冬弥(とうや)とはぐれちゃってさ、それを知らないかって日野森さんに聞いてたんだよ」

 

 ——え? “冬弥”? それってまさか……

 私がその聞き覚えのある名前に驚いていると、杏も驚いたように反応する。

 

「あ、そうなんだ! 冬弥も同じ学校なんだ! へぇ~、すごーい。なんだか私の知り合い大集合って感じ……」

「はははっ、まぁこの学校は通いやすい立地してるからね。割とこの辺りの中学の人とか多くの人がこの学校を選んでるらしいよ?」

「へぇ~! 成る程、だからなんだね。ってゴメン、冬弥の事だったよね? 冬弥だったら多分、さっき私が話してた子達が中庭でそれっぽい人見たって言ってたよ? 中庭のベンチで読書してる、黒と水色の二色髪した超絶イケメン見たって騒いでたから」

「あぁ……中庭か、教えてくれてありがとう白石さん。オレ、ちょっとソイツ迎えに行ってくる。えっと……日野森さんも、これから何か縁があったら宜しく」

 

 そう言って、ニコリと人当たりの良い笑みを私に向けてくる東雲さん。

 私はそんな笑みを見ても、何故か自分の中に残るその人への警戒心を拭えないままで、少しだけ躊躇いながらも返事を返す。

 

「あ、はい……それじゃ、また」

「うん、それじゃあね」

「ばいばーい彰人! またね!」

 

 東雲さんは私に人当たりの良い笑みを向けた後、歩いて中庭の方に去っていった。

 ……なんだろう、あの人。別に悪い人って訳じゃなさそうなのに、どうして私はこんなに警戒してしまうんだろう。なんだか失礼かもしれないけど、人当たりの良いあの優しい顔の裏に、何か別の本性隠してそうな気が——

 

「……ねぇ志歩、もしかして男の子が苦手だったりする?」

「——えっ」

 

 唐突に杏が、そんなやりにくそうな私の顔色を窺っていたのか、そんな心配をしてきたことに、私は思わず驚いてしまう。

 でもそれは勘違いだ、訂正しておかないと。

 

「いや……別にそんな事ない。ただあの人がちょっと……なんでか分からないけど苦手なだけ。ほら、暁山さんの時も私別に普通だったでしょ?」

「あ、確かにそうだった。そういえば暁山くんも男の子だった。顔が可愛くてあんまりそんな感じしないから、てっきり忘れてた……」

「杏……それ暁山さんの前で絶対言わない方が良いよ? 本人は女の子みたいな顔してるの気にしてるかもしれないし」

 

 そんな、今気づいたみたいな杏の言葉に、私は呆れてしまいながらそう注意すると、杏はしょげたように俯いた。

 

「……ごめんなさい、反省します。志歩の言う通り、人の容姿で勝手に色々言うのはよくない事だよね」

「分かったならよし。……それで、杏はさっきの人達と喋ってたの放っておいてよかったの? 前の中学の友達なんだよね?」

「あ、うん、それは大丈夫。少し話してさ、それで志歩の事も紹介しようと思ったんだけど、それで志歩が居ないって気づいて、慌てて三人にまたねって言ってこっちに来たんだ。……その、ごめんね志歩。ほったらかしにしちゃって」

 

 そう言って、申し訳なさそうな顔で謝る杏の顔を見て、私は何とも言えない気分になって俯いてしまう。

 別に、杏は謝らなくてもいいのに。こればっかりは……私の性格の問題。人に合わせる事が出来ない、そんな協調性を持つ事ができない私のせいだ。

 

「その……それは……」

「……? 志歩? どうしたの?」

「いや、別に……なんでもないから」

 

 でも……これから杏みたいな子と友達で居続けたいって思うなら、そういう所は直していかないと駄目なのかな?

 私は杏に、一歌みたいな目にあってほしくない。私の所為で、杏に迷惑をかけたくない。同じ過ちを、繰り返したくない。

 それに私は……司さんの為に、もっと強くなるって決めた。

 だったらこれから先、やりたくない事でも、無理してやれるような努力をした方が——

 

「……ごめんね、志歩。無理しなくていいよ」

「——えっ?」

 

 そう思っていると唐突に、まるで私の心の中を読んだかのような杏の言葉がして、私は目を見開いてしまう。

 顔を上げて見ると、そこには優しい笑みを向けてくれる杏が居た。

 

「大丈夫だよ志歩、気にしないで? 志歩の気持ち考えずに、無理に友達の輪に入れようとしちゃった私の方が悪かったから」

「え、でも……」

「人間誰しも、自分のペースってものがあるよね。誰かと仲良くなる事にも、私には私の、志歩には志歩のペースがある——だからね、私は志歩のペースを尊重するよ? それでも、私は絶対に志歩の事を忘れたりしないし、これからも私は志歩と友達で居続けるから。だって私、志歩の事大好きだもん」

「——っ、杏……」

 

 私は思わず、目から涙が溢れそうになったのを必死で堪えた。

 ……なんだこの子、凄くあったかい。こんな優しい子がこの地球に存在したんだ。

 

「まぁ私、見ての通り結構色んな人と喋るしさ、それこそ志歩の気に入る人も中には居るかもしれないから、その時は言って? 私が志歩の事その人に紹介してあげるからさ」

「……っ、うん。ありがとう……杏」

「うん、そんな感じで、私達一緒のクラスで仲良くやってこ? 宜しく!」

「——うん、宜しく」

 

 ああ……私はどうやら、本当に優しくて良い子と友達になれたみたいだ。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

 そして私と杏は、入学式までの間は各自教室で待機という先生方の指示の下、渡り廊下を歩いていた。

 そんな中、杏は明るく提案するように言う。

 

「そうだ! 志歩は歌とかって興味ない?」

「……歌? えっと……バンドでベースやってる時にサブボーカルなら少しやるけど、メインでやる気はないかな。私、そこまで歌上手いって訳じゃないし」

「あ~、そっかぁ。そういえばベースでプロ目指すって言ってたよね? じゃあダメだ」

「……何かあるの?」

「いや私、今ソロで歌ってライブとか出ながら歌の実力磨いてるんだけど、将来的に越えたい目標みたいなのがあるんだよね~!」

「へぇ、そう言えば歌の練習してるって言ってたね。ミュージシャンやってるの?」

「うん、歌やってる! ビビットストリートとかでよくライブやってるしさ、良かったら志歩も今度招待するしおいでよ! 私の歌でサイッコーの夜にしてあげるから!」

「ふふっ……すごい自信だね。それだけ言うなら行ってみようかな」

「やったー! じゃあ今度ライブ決まったら言うね?」

「うん、わかった。楽しみにしてる」

 

 喜ぶ杏を、私は微笑ましい気持ちで見つめる。

 そっか……歌か。今までバンドのライブには行ってたけど、歌がメインなのは行った事がなかったな。

 一体、杏はどんな歌を歌うんだろ? 

 綺麗な声してるし、それにこれだけ言うんだから、きっと凄い歌を——と、そう思った時、私の脳裏にライブハウスでのフレイアさんの姿が浮かぶ。

 

 

『テメェ等……納骨堂に行く準備できてっかぁ? 出来てねぇ奴ぁお生憎ッ! 残念ながらアタシが歌う今日この会場(ハコ)が——テメェ等の火葬場だぁッ!!!

 

棺ごと焼け死んでろや馬鹿共がぁ!!!

 

 

 ——いや、()()を基準にしたら絶対ダメだ。

 フレイアさんの歌は規格外過ぎる。それに、元は世界から声がかかった程のプロだし。

 あの絶唱(ウタ)は、まさしく世界基準(ワールドスタンダード)。そんなのと比べたら……絶対に良くない。そこまで期待しすぎないようにしないと。

 そう思って自省すると、杏は気を取り直したように言う。

 

「おっと、ちょっと話逸れちゃった。それでね、ソロでも今充分やれてるんだけど、やっぱりこの先に進むには一緒に歌う相方——“相棒”が必要かなって思っててね? 今その相手探してるんだ」

「成る程ね……だから私に声かけたんだ」

「うん、そういうこと。まぁ無理に誘うつもりはもちろん無かったけどね。だって、同じ夢を追いたいって思ってくれないと意味ないもん」

「……そっか、確かにそれは大事だよね」

 

 そう言って私が、白石さんの夢に対する姿勢に共感している時だった。

 

「おっ! そこに居るのは志歩ではないか! 今日はもしや会えるかもしれんと思っていたぞ! 入学おめでとうだな!」

「——つ、司先輩!?」

 

 私はその声に条件反射に近い速度で振り返ると、そこには神山高校のブレザー姿の司先輩が立っていた。

 私は思ってもみなかった今日の司さんとの出会いに、思わず驚いてしまう。

 

「司先輩、どうして学校に……今日は入学式ですから、学校に来るのは新入生だけでは……」

 

 そんな私の疑問に、司先輩はくつくつと笑い声を漏らす。

 

「ふっふっふ……確かにそうだ。だがしかし、在校生の中でも“特定の者達”は学校に来て、新入生を在校生代表として祝福する義務を負う! その者達とは何か——志歩! 刮目して見よ! 答えは……“コレ”だ!」

 

 そう言って司先輩は、堂々と胸を張りながら自らの左肩を示す。見るとそこには——

 

【生徒会執行部】

 

 そう記された腕章を見て、私は思わずギョッとしてしまう。

 

「つ、司先輩……あなたはまさか、()()()()()()()んですか!?」

「——フ、まぁ細かい経緯を語ると色々長くなるが……結果としてそんな所だ! まぁこれも、ひとえにオレのスターとしての人徳がなせる事だな! ハーッハッハッハ!」

 

 そんな大笑いする司先輩に、私は思わず心配になってしまって言う。

 

「あの……司先輩、私が心配する事じゃないかもしれませんが、忙しい生徒会に入って大丈夫ですか? 先輩は咲希(さき)のお見舞いに行く用事がありましたよね?」

「うむ、そこに関しては問題ない。腕章には書いていないが、オレの正式な役職名は『生徒会庶務長・補佐』だ。分かりやすく言えば生徒会の雑用係の、そのまた雑用係と言った所だな。今日のように生徒会が特に忙しい時に呼び出される、そんな便利屋みたいなものだ。だから特に忙しくもないし、オレみたいな事情がある場合、遠慮なく休んでもいいと会長からも言われている。だから何も問題はない」

「ど、どうしてそんな役職に司先輩が?」

 

 そんな疑問を口にすると、司先輩は軽く過去を思い返すように目を瞑った。

 

「うむ……まぁ簡単に説明するとだな、オレは志歩、お前の為に立派な先輩になろうと学校生活で色々努力をしていたんだ」

「えっ……は……はい、ありがとうございます」

「それでだな、立派な先輩になるには何をしたらいいか自分なりに考えた結果、校内で困った者を見つければ出来る限り相談相手になってやったり、色々忙しそうな者を手伝ってやったりする事にしたのだ」

「成る程、それは立派ですね」

「そんな日々の中、オレはある日階段途中で転んで書類をぶちまけていた副会長——まぁ、今の会長なんだがな。その会長を助けていると、話を聞くに文化祭用の大量の重い資料を、自分しか出来る人間が居ないから一人で運ぼうとしていたと言ったんだ。それは放っておけんと全て手伝っていたら——どうやら、オレは会長に気に入られたようでな。また忙しい時に、生徒会に時々助っ人として来てほしいと言われたんだ」

「えっと、だからその役職なんですか?」

「ああ、そうだ。ヘルプとはいえ、生徒会役員でない者を生徒会室に頻繁に入れるのはよくないと先生に言われた時、会長が用意したのがこの役職(ポスト)でな。まぁつまり、ここまでされる程に、オレのスターとしての才能が欲されているという事だ! 流石オレだな! ハーッハッハッハ!」

 

 大笑いする司先輩を見て、私はその経緯はとてもこの人らしいなと嘆息する。

 それにしても……司先輩が私の為に、そこまで頑張ってくれていたなんて、正直とっても嬉しい。

 私がそう思って思わず口元を緩ませてしまっていると、後ろからチョイチョイと指で肩を叩かれる。

 それに対して振り返ると、そこにはニンマリ笑顔の杏が居た。

 

「へぇ~~? 志歩ぉ、随分嬉しそうじゃ~ん? 私、お邪魔そうだし先に行っちゃおうかなぁ~~?」

「——っ!?」

 

 しまった。杏が居るの忘れてた……! 何やってるの私、今まで一人行動が長すぎた所為で、一緒にいる人に気を配る事とか全く出来てない……!

 ……っていうかこの顔、まさか、司先輩への私の気持ち全部バレてる……? 嘘、そんなにわかりやすいの私……!?

 

「あ、ええっと……ゴメン杏、ほったらかしにしちゃって。えっと、この人は……私の友達の……」

「えぇ~? 友達? 恋人じゃなくてぇ~?」

「~~っ!? こっ、恋人とか、そんなんじゃない……!」

「いやいやいや、隠さなくてもいいよ~? もう中学生じゃないんだし、恋人とか居るの普通だよ普通! というか、成程ねぇ……もう今さっきの志歩を見てるだけで、志歩がこの学校に来た理由とか全部わかっちゃったよ私~! いやぁ、青春してるねぇ志歩! 私、良いと思うよ!」

「あっ、ちょっと、違うからホントにやめて杏……!」

 

 そう言い合う私達を見て、司さんは笑顔で言う。

 

「ハッハッハ! 確かにオレと志歩はそう言われる事は多いが、悪いがそんな事はないな! オレは志歩にとって今、友人兼頼れる先輩をやらせてもらっている!」

「あれ? 本当に違う——んですか?」

「ああ、違うな。だがそれでも、オレの事をわざわざ宮女から追いかけてきてくれた志歩にとって、そこまでしてオレを尊敬してくれる志歩にとって、素晴らしい先輩でありたいと思っているぞ!」

「——え゛っ?」

 

 その瞬間、杏は私の方に振り向き『マジかコイツ?』みたいな怪訝な表情をする。

 ……うん、そうだよ杏。その人、どうしようもないぐらいに鈍感なの。呆れるでしょ? 心で泣いてないと気づいてくれない位に、その神経は誰かの悲しみを察知する事にしか向いてないの。

 

「あぁ……そっか、そういう感じなんだぁ……志歩、健気だねぇ……」

「む? どうした? 今何か二人で会話したか?」

「いえ、別に……何でもないですよ」

 

 都合の良い事に、杏は私の表情を見るだけで言葉にせずとも大体を察してくれたみたいで、私は頷くだけで事を終えた。

 すると司先輩は、そこで思い出したかのように言う。

 

「そうだ、思い出したぞ! “杏”とはお前の事か! どうやら受験の日に志歩を悪漢から助けてくれたらしいな! 友として深く礼を言わせてもらおう、ありがとう!」

「あ、いえ、別にそんな大したことじゃないですよ。それに志歩には私も助けてもらったんで。あ……そうだ、私は今年からこの学校に入学する白石杏って言います、よろしくお願いします先輩」

「……成る程、やはり“あの”志歩が友として認めるだけの事はある! 謙虚で良い者のようだな……よし、ならばオレも名乗らねば不作法というもの……!」

 

 瞬間、司先輩はその場でお得意の、天に指を指す無駄にカッコつけたポーズになる。

 ——あ、司先輩、()()をやる気だ。

 私がそう思って止める間もなく、司先輩は大きく息を吸って言う。

 

 

天翔(あまか)けるペガサスと書き、天馬! 世界を司ると書き、司! その名も——天馬(てんま)(つかさ)! 未来は世界に羽ばたく大スターとなる男ッ!!」

 

「…………………あっ、ハイ。宜しくお願いします、天馬先輩」

 

 

 渡り廊下中に響き渡るその大声に、杏は思わず遠い目になりながら司先輩にそう言っていた。その後、ゆっくりと振り返り私の方に『本当にこの人が好きなの? 正気?』と言いたげな視線を送ってくる。

 ……うん、正気だよ杏。最初はそんな訳ないって自分でも必死で思いこもうとしたけど、もう無理なの。本当に好きなの。今だって司さんこんな恥ずかしい事してるのに……全然想いが冷めてくれないの。

 

「はぁ……それは、難儀だねぇ志歩」

「うん……そうなんだ。分かってくれてありがとう、杏」

「おい、なんだ? お前たち二人共何も喋っていないのにどうして会話が成立している?」

「いえ、それは天馬先輩には多分絶対わかりませんよ」

「……ええ、すみませんが司先輩には分からないと思います」

「な、なんなのだ一体……!」

 

 司先輩がそう呻いていると、司さんの声を聞きつけたのか向こうの体育館の方から、一人の女子生徒が小走りでやってくる。

 生徒会執行部と書かれた腕章を見るに、生徒会の人であるのを察する事が出来た。

 

 その人は藤紫(ふじむらさき)色の長い髪を薄ピンク色のシュシュでポニーテールに結い、たれ目でおっとりとした瞳にはエメラルド色の瞳の輝きを宿し、身体は全体的に肉付きの良いスタイルをしていた。

 そんな女性は司さんの元までやってくると、走って少し切れた息を整えた後で、フワリと優しい笑みを司さんに向ける。

 

「天馬くん、こんな所にいたんやね。ウチあちこち探してもうたわぁ……」

 

 ——え? 京都の人?

 そんな謎の京都訛りが入ったその人の口調に対する私の疑問も置きざりに、司先輩は笑顔で言う。

 

「おお! 会長ではないか! どうしたのだ?」

「ごめんな? ちょっと頼まれごとをして欲しいんやけど、今ちょっと入学式のカリキュラムを少し見直そうって話になっててな……それで、天馬くんにしか頼まれへん仕事ができたんよ。是非やってくれへん?」

「何ッ……!? このオレにしか出来ない事……!? 良いだろう! 是非オレに任せるといい! この未来の大スター! 天馬司がその重責を見事に成し遂げてみせよう!」

「……あははっ! 詳細も聞かずに引き受けてくれるんやね? やっぱり天馬くんは優しいしおもしろいわぁ……」

 

 そんな二人の会話を静かに聞き、私はこの人が現在の神高の生徒会長で、司先輩の話に出て来た去年助けたという副会長である事を悟る。

 そして私はジッと観察して、生徒会長の人が司先輩に全幅の信頼の笑みを向けている事を悟ると、脳裏にイズさんの前例を思い返しながら静かに天を仰ぐ。

 

 ()()()()()()、この人タラシ。

 

 もういい加減にしてくれませんか? これで何人目です? 無自覚に無節操に人を惹きつけていくの良くないと思いますよ司先輩? ちょっとは私の心労考えてください?

 と、そう思っていると、生徒会長の人が私達の方に視線を向ける。

 

「——って、あれ? 新入生の子ら? 天馬くん何かお話でもしとったん?」

「ああ、銀髪の方がオレの友で、もう一人がその連れだ。偶然出会えたから少し挨拶をな」

「そうなんや。初めまして、入学おめでとう。ウチはこの高校の生徒会長、古雪(ふるゆき)(かなう)っていうんよ。どうかよろしゅうな」

 

 そう言って、ニコリと笑みを向けてくる生徒会長。

 私は気持ち半歩だけ自分の身体を、生徒会長である古雪さんと司先輩との間に割り込ませながら、少しだけ威嚇する意味合いも込めて自己紹介する。

 

「——初めまして、()()司先輩が何時もお世話になってます。日野森志歩です、よろしくお願いします」

 

 すると、そう言った途端に杏が何故か慌てて私の身体を軽く引いて、古雪さんと私との距離を放しながら慌てて言う。

 

「——ちょ、ちょっとちょっとちょっと!? 気持ちは分かるけど志歩、落ち着こ!? 殺気! 殺気出てたから今!」

「……え? そんなの出してた私? いや……ほんの少しだけ、そんな気持ちは無かったとは言わないけど……ちゃんと隠したつもりだし」

「隠せてない隠せてない! もう今私、冷や汗出るぐらい志歩の事一瞬怖く思ったもん! 目の錯覚かもしれないけど、軽く志歩の後ろに狼のオーラ見えたもん! ヤバかったもん! 止めないと今ここで喧嘩起きるかもしれないって思ったもん!」

「え……嘘、そんなに?」

 

 杏の言葉に私は思わず、自分でも自覚していない位に威圧してしまっていたんだという事に気付く。

 そうだったんだ……私、そこまで怖い顔してたんだ。気をつけないとな。

 そう思って自省していると、古雪さんはそんな私の威圧に一ミリも動じていないような笑顔で言う。

 

「……あらあら、天馬くんは可愛い狛犬(こまいぬ)ちゃん飼っとったみたいやなぁ。ウチ、なんだか嫌われてしまったみたいや……ヨヨヨ、悲しいわぁ。こんなんでウチ今期の生徒会長務められるんやろか……不安やわぁ、天馬く~ん、ウチの事慰めてくれへん?」

 

 そう言うと古雪さんは事もあろうか、司さんとの距離を更に縮め、何が起きているのかさっぱりわかって居ない様子の司さんの腕を取って自身の身体をスッと司さんに寄せた。

 

 ——この女、何やってんの? ねぇ、確信犯? それ確信犯? ……上等。

 

 私は衝動的に一歩前に歩を進めてしまっていると、背後から杏が羽交い絞めにする形で私を止める。

 

「志歩ぉ!? ねぇ、志歩ぉ!? 落ちつこう!? どうしたの!? 売られた喧嘩爆買いするじゃん!? 判断が早すぎない!? もうちょっと我慢しようよ!?」

「……ごめん杏、放して。私、今まで自分を曲げないで正直に生きてきたつもりだから。ちょっとコレは私の中で我慢のライン超えてるから。行かせて」

「無理無理無理! 絶対に無理! 離せるわけないじゃん! ——あっ、申し遅れました! 私っ、志歩の友達の白石杏って言います! よろしくお願いします!」

 

 そんな私達を見て、古雪さんはクスクスと笑う。

 

「ふふっ……元気な子達やねぇ。これからこの学校はもっと賑やかになりそうやわぁ……」

 

 すると司さんは、ため息交じりに古雪さんに掴まれていた腕を軽く振り払うと、呆れたように言う。

 

「はぁ……会長、オレの大事な後輩で遊ぶのは止めてもらいたいのだが。そうやって面白半分で人をからかうのは悪い癖だぞ」

「えぇ……天馬くんはウチの乙女心を弄ぶつもりなん? 悲しいわぁ、去年はウチにあんなに情熱的に『一人で抱え込み過ぎるな! オレを頼れ!』って言うてくれたのにぃ……」

「過去の言葉を曲解するな! 正確には『みんなを頼れ!』だ! まったく……オレで遊んで何が楽しいというのだ……」

「あーあ、しょうがないなぁ。という訳で悪いなぁ狛犬ちゃん? 冗談やから怒らんといて?」

「……あ、あぁ……! よかった! 冗談だったんですね! もう、やめてくださいよ会長……! ほ、ほら志歩! 冗談だってさ、だから落ち着こ?」

 

 ……冗談? 本当に……?

 若干まだ警戒心は抜けなかったけど、それでも司先輩の『大事な後輩』って言葉で少しだけ気分が落ち着いた私は、その場で足を止める。

 

「……私で遊ぶのは止めてもらっていいですか?」

「いやぁ、ごめんなぁ、面白そうな子見てまうとついからかいたくなってまうんよ」

「……あなた、悪趣味ですね」

「ま、まぁまぁまぁまぁ! それよりも、随分京都(なま)りな話し方ですけど、会長は出身は京都の方ですか?」

 

 話題を強引に切り替えるように杏がそう言うと、古雪さんはクスリと笑う。

 

「ふふっ……ごめんなぁ、ウチの喋り方はお母さんの喋り方を真似ただけのエセ京都弁なんよ。本場の人が聞いたらウチは怒られてまうわ。でも優しい感じの話し方が好きでなぁ。ウチは生まれも育ちも東京育ちやで?」

「え、じゃあお母さんが京都の人って事ですか?」

「……まぁ、そんな感じやね。せやから宜しくお願いするやん?」

「あ、はい、よろしくお願いします」

「……宜しくお願いします」

 

 渋々私がそう言うと、司先輩は古雪さんに再びため息交じりに言う。

 

「それで会長、オレに頼みたい事というのは一体なんなのだ?」

「ああ、その話やね。ダメやわぁ、ついついこの子達をからかうのが面白くて忘れてしもうたわ。それで手伝ってもらいたいって言うのは、ちょっとパイプ椅子の全体的な並びの件やねんけど……って、ここでする話とちゃうね。行こ、天馬くん?」

「ああ、そうだな! それではな二人共! また入学式で会おう!」

 

 そう言って二人は体育館の方に歩いて行ってしまった。

 古雪さん……ね。とりあえず今はグレーゾーンだけど、覚えたよその名前。もし司先輩にヘンな事したら許さないから。

 そう思って去っていく二人を見ていると、杏からため息が漏れる。

 

「……はぁ、志歩……とりあえずさ、睨むのはやめようね?」

「あ……そんな目してた? ごめん……冷静になったら私、杏に迷惑かけたよね?」

「いや……いいよ! なんだか志歩の色んな顔を知れて、困ったけど嬉しさもあったからさ。まぁでも……これからは少しだけ控えてくれると嬉しいかなぁって……」

「うっ……ごめん。出来る限り努力するけど……やっぱり我慢できなかったら、その時はまたフォローしてくれたら嬉しい」

 

 私が悩みながらそう言うと、杏はしょうがないなと言いたげな顔で軽く嘆息した。

 

「ふぅ……まぁいいよ。それだけ……天馬先輩の事が好きって事だもんね?」

「……っ、う、うん……そうだよ」

「……あははっ! 志歩可愛いじゃ~ん! じゃあ、あの変わった先輩のどんなの所が好きになったのか、教室に行きながら色々聞かせてもらっちゃおうかなぁ~?」

「うっ……お、お手柔らかにお願いします……」

 

 そう言いながら、迷惑をかけてしまった手前断れなかった私は、杏の質問攻めにあいながら教室に向かうのだった。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

「へぇ~! そんな事があったんだ、あの明らかに変人にしか見えなかった天馬先輩に、そんなカッコいい所がねぇ~」

「う……うん。その……もういいでしょ? 大まかな事は大体話したし、これ以上話す事も……」

「いやいや、その口調だったらもっとあると見たね! またもっと時間ある時にさ、今度はもっと話聞かせてね~?」

「うっ……は、はい……」

 

 1年A組の教室の中、私は席に座って杏からの質問攻めにあっていた。

 それにしてもすごく色々聞かれる……多分一歌の時みたいに元々幼馴染の関係じゃない分、より他人の恋愛事情っていう感じで、聞く分には素直に面白い話なんだろうな。

 そう思っていると、杏はふと天井を見上げながら思いを馳せるように言う。

 

「……それにしても、わざわざ別の学校から好きな人を追いかけてくるって、それぐらい好きな人が居るってなんだか良いなぁ……私も、それぐらい情熱的な恋してみたいなぁ……」

 

 そんな夢見るような杏の発言に、私は思わず尋ねてしまう。

 

「……杏は恋、してみたいの?」

「……まぁ、憧れちゃうよねぇ。それぐらい誰かを好きになる気持ちってさ、今の私には全然わかんないもん。今はいっぱい歌って、実力上げて、目標を超えるって事しか考えられないし……あと、一緒に夢を追いたいって思える相棒を見つけることもね」

「へぇ、そうなんだ……恋がしてみたいって、杏も意外と可愛い所あるじゃん」

 

 そう言うと、杏は鳩が豆鉄砲を食ったようにキョトンとなり、そして頬が赤く染まった。

 

「かっ、可愛い? 私が? ちょっとちょっと、だから褒めても何にも出ないって……あ、そうだ! そう言えば暁山くんまだ教室来てないのかな? もういっそ私達の方から探しに行っちゃう?」

 

 そんな杏の明らかな話題逸らしに、さっきまで司さんの件でからかい続けられて少しやり返したくなった私は、悪戯っぽく笑いながら言ってやる。

 

「……へぇ? 今の話題で暁山さんの話に行くってことは、つまり杏的には暁山さんがそのお相手の候補だったりするの?」

「——へっ? い、いや、暁山くんはそういうのとは違うじゃん……! 単純に、教室の席がまだ空いてるから、来てないのかなって思っただけで……」

「……あれ、それにしては変に焦ってない? もしかして意識してるんじゃないの? 私、杏と暁山さんだったら気が合う二人って感じで、お似合いなんじゃないかって思うんだけど?」

「ちょっと、本当に違うから……急に言われて驚いただけだって。た、確かに気が合うなぁって思ったけど、本当にそんなんじゃないから……も、もう! 勘弁してよ志歩!」

 

 そんな風に完全に照れて真っ赤になってしまった杏。……流石に少しやり過ぎたかな。

 

「ごめん、ちょっとからかい過ぎた。でも、ちょっとはこれで私の恥ずかしさも分かってくれた?」

「ちょっとも~! やめてよね~!」

「……まぁでも、確かに心配なのはわかるかも。暁山さん、私もずっと探してるのにいないから……」

「……そうだよね、私もちょっと流石に心配になってきたかも。暁山くん……もしかして学校に来ないつもりなのかな」

「……それはないんじゃない? あ~、でも……分からないか。ちょっと色々事情がありそうな人だったし。……でも、もうあれっきり会えないっていうのは、寂しい気がする」

 

 暁山さんは結局、入学説明会の時もどれだけ探しても何処にもその姿は見えなかった。

 合格発表の時と合わせて、今までずっと見つからないって……男の子にしてはあんな目立つ髪してるのに? じゃああれから学校には来てないのかな? もしかして、本当に杏の言った通り、学校に来ないつもりなのかな?

 それは……とても寂しいな。と、そう思っていると、少し離れた所で話している男の子二人組の声がふと聞こえた。

 

「なぁなぁ、やっぱこれって運命だって……ほら、覚えてるか? 合格発表の時に居たゴスロリのめっちゃ可愛い子!」

「……ああ、お前が騒いでた子な。どうしたんだよあの子が」

「いや、それがさ! その子学校の制服で来ててさ! それもすっげー可愛いの! 服装違ってても俺の目は誤魔化せないぜ、確かにあの子だった!」

「いや、合格発表の時居たらそりゃ今日も居るだろ。まさかその程度でわーわー運命とか騒いでんのか? お前の脳内メルヘンか? 頭フェニーくんか?」

「誰の頭が鳥頭だよ馬鹿! 勿論それだけじゃねぇよ! その子さ、クラス表見に来たみたいなんだけどさ、A組のクラス表をほんの一瞬見ただけで、後は他のクラス見ないで何処か行っちゃったんだよ! これってさ……その子もこのクラスって事だろ!? やったぜ! 俺の高校生活バラ色スタートだろ! イヤッフゥー!」

「おい、どこぞの赤い配管工のオッサンみたいな声出すな。確かに運命って言いたくなるのは分かるけど周囲の迷惑だろ……」

 

 ——え?

 その話を聞いた瞬間、私の頭の中でバラバラだったパズルのピースが一つに組み合わさっていく感覚を感じた。

 

 

『……そうだね、()()()()()()()()()()()……その時はまた、宜しく』

 

 あの時の、二度と見つけられないみたいな暁山さんの意味深な言葉。

 

 

『それにしても暁山くんは何処かな~? 目立つからすぐ見つけられるって思ったのに』

 

 ずっと探し続けていても、いつまでも見つからないあの時の三つ編みの男の子。

 

 

『ほら、やっぱりボクに気づかない……ま、最初から期待してなかったけどね』

 

 合格発表の時に、姿が見えないのに聞こえた暁山くんの声と、その内容。そして暁山くんの髪色に似たゴスロリ服の女の子。

 

 

『その子さ、クラス表見に来たみたいなんだけどさ、A組のクラス表をほんの一瞬見ただけで、後は他のクラス見ないで何処か行っちゃったんだよ!』

 

 暁山さんの出席番号は3番ですぐ見つかる。

 

 

 ——そして、最後のピースは。

 

『この学校には制服に男女の規定は明確には無いですから、好きなのを選んで大丈夫ですよ』

 

 この学校は、制服の選択が性別関係なく自由。

 

 そんな全てのパズルのピースを組み上げ、一つの真実にたどり着いた私は、その瞬間に勢いよく席から立ち上がり、男の子達の方へと向かっていた。

 

「あの……ちょっと良いですか?」

「「——えっ?」」

 

 杏はそんな私にびっくりした様子で言う。

 

「ちょっとちょっと、どうしたの志歩……!?」

「ごめん、杏。私……暁山さんが何処行ったか分かったかもしれない、だから本当の事を確かめたいの」

「——えっ!? うそっ!?」

 

 私に話しかけられた男の子二人は当然、突然の事にビックリしたような反応だった。

 

「あ、あの……いったい、俺たちに何の用っすか? あ、ひょっとしてこの馬鹿が騒いでたのがうるさかったですか? すいません……コイツ、悪い奴じゃないんすけど、良くも悪くもバカ素直な奴で……しっかり注意するんで今回は大目に見て貰えませんか?」

「ちょっ、お前っ……! こんな銀髪でめっちゃ可愛い子の俺へのイメージ馬鹿として刷り込むんじゃねぇ! やめろマジで! お前の所為でモテなかったらどうする!?」

「実際馬鹿だろうがよっ……! お前に引っ張られて俺の扱いまで馬鹿に見られたらどうすんだよ……! スクールカーストの底に沈むなら一人で沈んでろ! 俺を道連れにするんじゃねぇ!」

「貴様ァ……! 裏切る気かぁ……!?」

「……あの、話させてもらっていいです?」

「「わかりました。何の話ですか?」」

 

 私が再度口を開いた瞬間、嘘みたいにピタリと騒ぎが止まって声を揃える男子二人組に、私は思わず『単純だなぁ…』と思ってしまうも、それを口には出さないように尋ねる。

 

 

「——あの、さっき話してた子がどこ行ったかって、分かりますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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