26話 私の新しい友達
私が神山高校に入学して、早くも二週間が経った。
宮女に通っていた頃は、一歌達が居なければ大体このぐらいの時期には、もうクラスで
だけど、今はそんな事を思い出している余裕がないぐらい、毎日が賑やかだ。
「志歩~、おっはよー! ねぇ、私が今朝送ったメッセ見てくれた?」
「おはよう杏。メッセージ……? あ、ごめん、今気づいた。朝はあんまりスマホ触る事ないから私」
「そっかー、まぁいいや! ええっとね、来月の頭に私ライブのイベント出る事になったんだけど、志歩見に来る?」
「そういえば言ってたね。うん、行くよ。杏の歌、期待してるから」
「やったー! じゃあ決まりね! ふっふっふ……志歩を私の歌でサイッコーにアゲてやるから覚悟してなよ~?」
「へぇ、本当に歌には自信あるんだね。いいよ、覚悟しとく」
杏は毎朝登校して顔を合わせる度、私に元気に話しかけてくれるし。
「志歩おっはよ~! ねぇねぇ! ボクのカバンについてるマスコット見て見て? 登校途中に駅前で並んでるカプセルトイで見かけて衝動でガチャ回しちゃったんだけどさ、コレ最高に可愛くな~い!?」
「おはよ……って、え? どこが可愛いの? そのゾンビ犬みたいなマスコット、目玉飛び出してて気持ち悪いんだけど」
「も~! 志歩はわかってないなぁ~、こういうのキモカワ系っていうんだよ? あ、良かったら志歩も何個か要る? 狙ってるのが出るまで何回も回しちゃったから、ダブったのいくつかあるんだよね~」
「いや……どうして今の話の流れで私が欲しがるって思ったの? 絶対にお断わりなんだけど。というか、それゴミ処理に私を巻き込んでるだけでしょ?」
「ちぇ~、バレたか。ま、半分冗談だから気にしないで~。あわよくば、この子達の良さを分かってくれたら良いかな~? 程度には思ってたぐらいだし」
「……あ、でもやっぱり一個貰おうかな。私は要らないけど、また今度幼馴染の子と会う約束してるから、その子に薦めてみる」
「え、やったー! だったらついでに何個かあげるよ! この『アンデットわんわん』シリーズの布教任務宜しくね? 志歩布教隊長っ!」
「布教隊長? もう、瑞希は調子良いんだから……」
瑞希は最初に出会った頃のトゲトゲしい性格なんて今は見る影もないぐらいに、毎朝ニコニコ笑顔で元気に私に向かって挨拶をしてくれる。
そんな風に私は、クラスで孤立したくても出来ないぐらい、賑やかな二人に囲まれて学校生活を送っている。
……まぁ、その反面、それ以外のクラスメイトの人達とは、まだ全然話せていなかったりするんだけどね。
そうなった原因は薄々察している。それは、入学式の日にあったクラスでの最初の
自己紹介で、出身校と名前と趣味を語れと言われた場で、私は後で噂で伝わるよりは今自分から言った方がマシだと思って、普通にこう語った。
『初めまして、宮益坂女子学園から来ました日野森志歩です。趣味はベース演奏と好きなバンドのライブを観に行く事と、あと料理です。宜しくお願いします』
『——え? 宮女?』
『え、マジ? あの宮女? あそこって中高一貫じゃ……なんかあったのかな?』
『ってかこのクラス、色々事情抱えてそうな人多くない? これで
そんな風に、やっぱり覚悟はしていたけど少しだけ騒ぎにはなってしまった。
多分その所為で、私のクラスでの扱いは若干近寄りがたい人になってしまってるんだと思う。その結果がこの現状だ。
それでもその程度で済んだのは、このクラスで
その人とは——
「やっとお昼休憩だね~! ボクお腹空いちゃった、志歩一緒にご飯食べよ~!」
そう言ってお昼休憩になったこの瞬間に、窓際に座っている私の前の席に、元気よく座ってコンビニのパンが入った袋を置く彼、暁山瑞希っていう人だった。
この、可愛い物が大好きで、だから自分は男だけど可愛い服を着ていたいという、周りに流されないカッコイイ信念を持ってる私の友達は、三番手の自己紹介の時に、スカートのままでクラスの皆に対して盛大にブチかましたのだ。
『初めまして! ボクはシブヤ区立芦原中学から来ました、暁山瑞希でーす! えっと、趣味はカワイイものが大好きで、休みの日は服屋とか化粧品売り場とか色々見たり、カワイイ服とか集めてまーす! あ、あとアニメも大好きでーす! 今期のアニメでオススメのあったらボクに教えてね? 宜しく!』
『わ~、カワイイ……!』
『そうだよね~、なんか元気そうだし、私あの子と仲良くやれそうかも』
『やったぁ! 俺の女神キタコレぇ~~! イヤッフゥーー! 俺の高校生活の青春始まったぁーー!』
『落ち着けよ赤い配管工オヤジ。恥ずかしいからデカい声出すなよ……』
『うぉ……『ボクっ娘』じゃん。キャラ強ぇ子だなぁ……ま、可愛いからヨシ』
瑞希はそこまではクラスの皆に明るく拍手で迎えられていた事は覚えてる。
でも、彼の自己紹介はそこで終わらなかった。
瑞希は明るくニッコリ微笑み、可愛い仕草でスカートを揺らしながらウィンクと共に言い放つ。
『みんなありがと~! あ、でも一つだけ、これだけは最初にハッキリ言っとかないと、後々面倒になると思ったから早めに言うんだけど……ボク、こんな恰好してるけど、男で~す!』
『『『——え?』』』
その瞬間、壇上の上でキャピッ☆と笑顔で明るく笑う瑞希と、ピシリと固まったクラスの空気、そんな対比した地獄のようなミスマッチの感覚を、私は今でも覚えてる。
だけど瑞希は、そんな一瞬で冷え切ったクラスの空気なんてなんのそのと、明るくこう言って続けた。
『あ、ちなみに、前の中学でボクがこういう趣味してるから、周りの人に『ゲイの人?』とか、その手の質問色々聞かれ続けてて……ソレ、ほんと正直ウンザリしてまーす。ボクの
『『『『『………………』』』』』
最後にニコリと笑って、それでいて有無を言わせないような明るい口調でそう締めくくり、壇上から降りてニコニコ笑顔で瑞希は、自分の席に堂々と戻って行ったのを覚えている。
そんな、自分の意見をハッキリ主張する瑞希を心からカッコイイと思った私と、普通に何も気にしない杏は、拍手で瑞希を送ったけど、クラス内は私と杏の二人分の拍手が鳴るだけで、後は誰も私達の拍手に続かなかった。
『あ、あぁ……あの子……じゃなかった、“彼”。そういう感じの……人ね?』
『えっと、あんな感じの考えの人何て言ったっけ、じぇ、ジェントル……なんとか?』
『“ジェンダーレス”だよ。色々ニュースとかでも聞くでしょ? でも……そっかぁ、居るんだ本当にそういう人。いや……テレビのニュースで見てて存在は知ってるけど、実際に見るのは初めてって言うか……』
『え……俺の、女神……嘘だろ。あんなに、可愛いのに? お、男……? 嘘だ……ま、マンマミーア……』
『……っておい! 馬鹿倒れるなよ! お前の高校生活これからだろ!? 残機もうゼロになってどうすんだよ! 起きろ赤い配管工オヤジ!』
『……あ、次の自己紹介オレだ……え? ちょっと待ってくれよ、オレこんな空気で今から自己紹介すんの? マジで言ってる?』
『ファイトっ☆ 名前も知らない君、ボクは君のこと応援してるよっ☆』
『ざ……ざけんな! お前がこの空気作ったんだろが!? も、もういい、わかったわかった……上等だよ! やってやんよ! お前、オレの高校デビューで考えたツカミの自己紹介一発ギャグ見て、爆笑して腰抜かすんじゃねぇぞコラァ!』
『おっ、キミその反応ボク的にポイント高いよ、頑張れ~! みんな~、次の彼が爆笑必至のギャグ見せてくれるってさ~! ぜひご期待だよ~!』
『ハードル上げるんじゃねぇ!? テメェ、マジ覚えてろ!? スベったら全責任被せるからなぁ!』
と、そんな風に、瑞希はクラスの凍った空気を調整しつつ自己紹介を終えたのだ。
——どう? こんなインパクトのある自己紹介なんて当然、後にあった私の事なんて印象薄れるに決まってるよね?
だからそういう意味でも私は今目の前で、私の返事も聞かずに勝手に机を移動して向かい合わせにしてお昼の準備をする瑞希には、内心で感謝をしていたりする。
……だけど、勝手に返事も聞かずに、一緒にお昼を食べる前提なのは文句を言いたい。
私は調子の良い友人に、少しだけため息交じりに言う。
「はぁ……私がまだ何も言ってないのに、勝手に食べる準備始めてるし……私の意見はないの?」
「あれ? ダメだった?」
そんな、純粋にキョトンとした瑞希の表情に、私は思わず毒気が抜けて観念しながら答える。
「……まぁ、別に嫌って訳じゃないけどさ」
「やった~! いやぁ、志歩ってばやっぱりツンデレだよねぇ。そういう所、ちょっとボクのネット仲間に同じ感じの子が居るから、親しみやすいっていうかさ~」
「……誰かツンデレって? やっぱ気が変わった。私、屋上で一人でご飯食べてくる」
「あ~! まってまって、ゴメンね? ツンデレは言い過ぎたからさ~、一緒に教室で食べよ? ね?」
「もう……瑞希は毎回ほんと調子いいんだから」
そんな風に、ニコニコ笑顔で元気で気ままに、まるで人に懐いた猫のように、私を相手にしてじゃれる瑞希。
そんな瑞希に観念するように私は、カバンからお弁当箱を取り出す。
でも……それにしてもまさか、あの皮肉屋で不器用な男の子の本性が、こんなに明るくて身勝手で、まさしく猫みたいな人だとは思いもしなかった。
でも、これが本当の瑞希の姿なんだと思ってしまうと——正直、相手するのは疲れないと言えばウソになるけど、その疲れもどうでも良くなるぐらいに、話をしていて楽しいと感じてしまっている自分も居る。
まぁ、身近な人で例えるなら
そんな瑞希は、楽しげに私のお弁当の中身を覗いて、目を輝かせながら言う。
「うわぁ~! 相変わらず志歩のお弁当美味しそ~! ねぇ、それ自分で作ってるの?」
「え……? これ? うん、まぁ半分は母さんが作った晩御飯の残りだけど、後は自分で作ったよ」
「え~、凄いよそれ! 志歩ってマメで料理上手だねぇ! やっぱ趣味に料理って言える人は格が違うなぁ~」
「そんなに言われる程じゃないよ、練習でもあるし。それに作ったって言っても卵焼きと、塩茹でしてあるアスパラガスにベーコン巻いて焼いただけだよ」
「それでもスゴイよ、ボクなんて朝起きたら眠くて眠くて……朝ごはんでシリアルに牛乳かけて食べるのが限界で、とてもお弁当なんて作る気になれないよ。途中でコンビニ寄ってカレーパンとか菓子パンとか買って終わりだもん。はぁ……温かみのあるご飯が恋しいよ」
「……じゃあ、良かったら一つおかず食べる? 分けてあげるよ」
「——えっ!? ホント!? じゃあ……折角だし志歩が作ったアスパラベーコンもらっちゃおっと!」
「わかった、コレだね。……はい、どうぞ」
「うわ~! おいしそ~! いただきます!」
そう言って瑞希は、私がお弁当の蓋の所に箸でつまんで置いたアスパラベーコンを、期待に満ちた目で見つめた後で、指でつまんでパクリと食べた。
それをしばらく
「おいし~~~!! ベーコンしっかり焦げ目がついてて時間たってもカリカリで美味しいし、アスパラも塩ゆで加減が絶妙~! これ、本当に凄く美味しいよ!」
そんなに元気よく美味しいって賛辞をくれる瑞希の嬉しそうな顔を見ていると、私も自然と口元が緩むのを感じてしまう。
「ふふっ、大袈裟だよ。でも……美味しいって言ってくれて嬉しい、ありがと瑞希」
「~~~っ!? ……まっ、まぁね! 美味しいもの食べたら美味しいって言うのが、自然の反応っていうか? まっ、まぁそんな感じだしさ! うん!」
すると、私の笑顔を見て明らかに瑞希が真っ赤になって挙動不審になる。——何? 一体どうしたの? まさか嘘ついたとか? ちょっと、それは困る。
「瑞希? なんでそんな変な顔してるの? 実は私の料理美味しくなかったとか?」
「…っ!? い、いやっ! 違うよ? 本当に美味しかったよ! ホントホント!」
問い詰めると、瑞希は更に挙動不審になった。——怪しい。このお弁当の料理、実は司先輩の為にお弁当を作る計画の予行演習なのに、その肝心な料理の味を下らない
そんな思いで私は席から立ち上がって、瑞希のすぐ目の前まで顔をズイっと寄せ、厳しく問い詰める。
「——本当だよね? 美味しいよね? 嘘、ついてないよね瑞希?」
「~~~ちっ、近っ!? うっ、うんうんうんうん!! 本当に嘘ついてないから! もう、もし嘘ついてたらボク、次の日から一週間ぐらいズボンとブレザー姿で学校来るから! それぐらい誓って嘘ついてないから!」
「……そう、なら、信じる」
うん。自分の大事なモノを賭けてまで誓えるなら本当みたいだね。信じるよ、瑞希。
私が安心して席に座ると、瑞希は真っ赤になった顔を背けて『心臓に悪いよぉ…』と、小さな声で何かブツブツ言っていた。
それにしても瑞希が時々こうして、私の顔を見て変になるのは一体なんなんだろう? そこだけは、少し気に入らない。
——そうだ、今が丁度いいし、今みたいに挙動不審になる理由を問い詰めようかな? 瑞希とこれからも友達続けていく上で、何か悪い所あったら早めに直してあげたいし。
「……ねぇ瑞希、ずっと前から気になってたんだけどさ——」
私がそう言いかけると、瑞希は何故か急いでキョロキョロと辺りを見回し、やがて窓の外を見て声を上げる。
「——あ! 志歩見て、杏が中庭の方でクラスの子達とご飯食べてるよ。おーい! 杏! こっちこっち~!」
なんだか……急に話題を逸らされたような。まぁいっか、瑞希もイヤな事があるなら自分から言うよね? あれだけ本音でやり合ったんだし、今更お互い遠慮とか無いでしょ。
そう思いながら瑞希と同じように窓から下を見ると、確かに杏が中庭のベンチに座りながら、クラスメイトの女の子たち四人と一緒にご飯を食べていた。
杏は私達が見ているのに気づくと、中庭から元気に笑って私達に手を振る。
「やっほ~! 瑞希~! 志歩~! どうしたの~!?」
「いや、なんでもな~い! 見かけたから声かけただけ~~!」
「あははっ! 瑞希なにそれ~! 用事ないのに声かけないでよね~!」
「ごめんごめーん!」
それだけ会話をすると、杏は再びクラスの子達と談笑を始めた。
そんな杏を見つめながら、瑞希はカレーパンを一口食べた後で感慨深げに言う。
「いや~、それにしても、杏はすっかり皆の人気者だねぇ……」
瑞希の言う通り、杏は私の予想通りというかなんというか、入学してクラスで一週間もたたない内に、すっかりクラスの中心的な立ち位置を確立していた。
明るいし、周りの人達に気配りも出来るし、男女分け隔てなく気さくに接してくれる。
まさしく真の陽キャ。そう見立てた私の勘はやっぱり合っていて、杏の周りにはいつも人が絶えない。
でも、それでも杏は、私のように瑞希以外全然クラスで喋る人のいない、どっちかと言うとクラスでは根暗っぽい立ち位置に居ると思う私に対して、普通に明るく毎日挨拶して話をしてくれる。
そんな、本当に私と同い年かどうか怪しいぐらいに、人間が出来た子だ。
「……まぁそうだね、私は杏と出会った最初から分かってたよ、あの子はクラスの中心タイプの子だって。多分、私みたいな人間とあの子は、受験の日に縁が無かったら会話する事もなかったんじゃないかなって、正直そう思ってる」
だから思わず自嘲気味にそう呟いてしまうと、瑞希はとんでもないとばかりに声を上げる。
「え~? 志歩は無いよ。どっちかって言うと、むしろボクの方が無いかなって思っちゃうんだけど。だって……ボクと杏って、志歩繋がりの関係に近いしさ、志歩が居なかったら接点は多分無かったよ? 杏からボクに興味を持ってくれるなんて、あり得ないって」
「——え? それは違う。絶対に瑞希と杏は私が居なくても友達だった筈だよ」
「えっ? どうしてそう思うの?」
私の意見に驚く瑞希だったけど、私は本気でそう思っていた。
何故なら瑞希は、最初の自己紹介であれだけ
男子は瑞希の事を知って彼と距離を測りかねているのか、瑞希に話しかけてくる人は殆どいない。
だけど、女子相手なら話題も合うのか、瑞希は明るく話をして、そんな姿を見せる事で徐々に、彼に対して偏見を持っていた人の警戒心も解きほぐそうとしている。
それはある意味で瑞希が自分という存在を、女子だけではなく男子に対しても理解してもらおうとする、自己流の世界への抗い方なのだと思うと、私は彼のそういう所もカッコいいと思った。
まぁ、見た目はとっても可愛いって思ってるのは変わらないけどね。
だからこそ、そんな瑞希と杏の道は私が居なくても絶対に交差したし、そしたら気の合う二人は仲良くならない筈がない——というのが私の考えだった。
「——まぁ、だって瑞希も私とは違って色んな人と話す方だし、だったら杏も話すだろうから、そしたら二人は凄く気が合って友達になったと思うよ」
「まぁ……確かに、杏だったら結局ボクみたいな奴とでも話しただろうねぇ……」
「そうでしょ? 結局……私が一番、他人と上手くやるのが下手なんだよ。ほら……クラスでの私の扱いのこの現状が、それを一番表してるでしょ? まぁ……でも、これで全然良いし、今更ここに関しては変わる気はないけどね。だって私ムリに他人に合わせて生きるなら、死んだほうがマシって今でも本気で思ってるから」
そうため息を吐く私を見て、何故か瑞希もため息を吐いた。
そして、驚くべき事を言う。
「はぁ……志歩、分かってないねぇ。君が今クラスで孤立してるのは、君がとっつきにくい怖い子だって思われてるからじゃないよ?
「えっ……? 逆? どういう意味?」
「あぁ……その表情、どうやら本当に自覚してないみたいだねぇ、わかったよ、意外と鈍感なボクのお姫様の為に、今の君の現状をボクが教えてあげましょ~」
そう軽口を叩きながら、瑞希はスマホのカメラ機能を使って内カメラにし、画面に私の顔が映るように向けながら言う。
「ハイ、これが君の顔。さて、これを見て君はどう思うでしょうか?」
「……え? いきなりどうしたの? 私の顔だなって……そう思うだけだけど」
「ハイその通り! 君自身はそう思うかもしれないね! でもね……他の皆はそうじゃないんだよ……いい? 今から大事な事言うからね? よーく聞いてよ?」
「……う、うん。何?」
妙に言葉を溜める瑞希に私が固唾を飲んで返答を待つと、瑞希はクワッと両目を見開きながら、力強く宣言する。
「——志歩ッ! 君は! ものすっっっごく可愛いんだよッ!!」
そんな瑞希の急なハイテンションに、私は逆に気持ちがスッと冷めてしまう。
……可愛い? 私が? 私を可愛いって思ってるの、
瑞希の言葉に思いっきり疑問符を浮かべていると、構わず瑞希は私の目の前で力説を続ける。
「あ、その顔、ピンと来てないな~!? じゃあ言うよ? 君さ、今まで宮女に居て他の子もいっぱい可愛い子居たから、中の上——いや、多分上の中ぐらいの可愛さレベルで抑え込まれてたのかもしれないけど、でも……君レベルの可愛さの子だったら、他の学校じゃ天下
そんな瑞希の力が入った熱弁に、私は思わず困惑してしまう。
え……どうしたの瑞希? もしかしてあなた、自分の好きな事になると熱く語っちゃうタイプの人? ちょ、ちょっと恥ずかしくなってきた……。
「え……いや、でも……私、宮女から来たって結構悪目立ちしてたでしょ? 暴力事件起こしたとすら言われてたよ? 例え私が、か……可愛かったと仮定しても、それぐらいで私の印象がなんとかなるの?」
「そうだよ、確かに最初はそんな悪評が飛び交ったよ? でもね、そんなのは嘘だって事が、クラスでも人気者の杏が君にずっと話しかけてて、それに対して君はその、殺人級に可愛い笑顔で答えるもんだから、そんな悪評は根も葉もない噂だって全部どこかに吹っ飛んじゃったんだよ! だから、もうクラスどころかこボクら神高一年の中でも君は噂の的なんだよ!」
——え? 私が、噂の的?
なんとなく嫌な予感を感じながら、私は瑞希に問う。
「ちなみに……それ、どんな噂?」
「『まるで童話の世界から飛び出してきた可愛いお姫様が一年A組に居る』……それが、今一年生の子達で飛び回ってる噂だよ」
「——え゛っ?」
そんな瑞希の言葉に、私は恐る恐るクラスでご飯を食べてる人達を見回す。
すると、多くの人がチラチラと私達の方に視線を送っていた。そういう視線だと意識してしまえば、比率が男子の方が多いのはそういう事かとも思ってしまう。
じゃあ、もしかして……私が今までずっと、瑞希の事を見てるんだなって思ってたこの皆の視線って……全部私への視線だったの?
周囲をキョロキョロ見回してしまう私に、瑞希はまとめのように言う。
「という訳で、君が今孤立してるのは、みんな君が怖いんじゃなくて、君が近づきがたいぐらいに可愛いから、みんな遠慮しちゃってるんだよ。だから、君は自分から友達を作ろうと思えば、みんな向こうから喜んで飛びついてくれるんだよ? わかった?」
「……え、えぇぇ……?」
驚いた。どうやら私は興味もない内に、気づけばこの神山高校で一年生のアイドル的存在になりつつあるらしい。
……司先輩、嬉しいですか? あなた今、この高校のアイドルから好かれてるらしいですよ?
って、司先輩がそんな肩書きに興味が無い人なのは分かり切ってる。だから司先輩に相応しい『ヒロイン』に、っていう私の目標はこんな形で目立つ事とは全然違う。だから——
「……どうしよう瑞希、興味もない人に好かれても全然うれしくないし、正直面倒」
そう言ってしまう私に、瑞希はキョトンとなって、暫くした後で吹き出してしまった。
「ふふっ……あははっ! まぁ志歩ならそう言うか……だって志歩は、司先輩以外は眼中無いもんね?」
「……ま、まぁ、そうだよ。これで司先輩が私を見る目が変わってくれるなら話は別だったけど……先輩はそんな人じゃないから」
「ほんと……志歩は司先輩の事が大好きだよねぇ」
ニコリとからかうような笑みでそう言う瑞希。
瑞希、さっきから随分司先輩の事を引き合いに出すけど……もしかして、私の事をからかおうとしてる? 全く、懲りないな。
でも残念、悪いけどそろそろ杏とかアンタにも弄られ続けて、私も流石に耐性が少し出来てきたよ? 瑞希の求めてる照れた反応なんて、見せてやらない。
そう思って私は敢えて居直って、瑞希の目を真っすぐ見て言ってやる。
「うん、そうだよ。何か文句ある?」
「……っ、……ううん、ないよ。君がそういう人だからボクは——君の友達なんだからさ」
すると私の反撃に、瑞希は少し妙な反応をした後で、どこか達観したような笑みを浮かべながら静かに言葉を返してきた。
……あれ? 予想だったら慌てない私に瑞希が驚くかなって思ってたんだけど……なんだろう、急に瑞希に元気がなくなってきたような気がする。
そう思っていると、瑞希はパンッと両手で[[rb:柏手>かしわで]]を打ち、切り替えるようにニッコリ笑顔になった。
「ま! そういう事だから、志歩は男子からハブられ続けてるボクと違って、いつでもボッチ卒業できるよって事! 志歩もいつまでもこうして、クラスで話すのが殆どボクだけっていう学校生活はそろそろウンザリでしょ?」
「え? いや、私は別に——」
私は瑞希の急な話に思わず慌ててしまう。
あれ? どうしたの瑞希? なんだか急に素っ気なくなったような——
そんな私の内心の焦りに構わず、瑞希は話を続ける。
「大丈夫大丈夫、気を使わなくてもさ! だって杏は人気者だから君と話すのは朝だけで、それ以外は本当に誰とも話せてないもんね? だから実質、ボクとしかお喋りしてないみたいになっちゃってるし、志歩を独占しちゃってるみたいで悪いなぁ、正直迷惑かな~? って思っててさ」
「いや瑞希、私の話聞いて? 私は——」
そう言いかけた時、不意に私達の方に話しかけて来る二人の女子が居た。
「あ、あの……日野森さん、私達これからご飯食べるんだけどさ、よかったら一緒に食べて良い?」
「ほら、覚えてる? 前に声をかけた時また今度ねって言ってたから、今日こそはってリベンジしにきたんだけど……」
「——あ、もちろん暁山さんも一緒でね?」
そんな二人の誘いに、瑞希は『ホラ、ボクの言った通り』と言いたそうな自慢げな表情でウィンクした後、ニッコリ笑顔で女子二人に言う。
「うんっ! もちろん良いよ! ボク丁度今先生に用事あった事思い出しちゃってさ、これから職員室行くところだったんだ~、良かったらここの席使ってよ!」
「——え? いや、でもいいの?」
「勿論オッケー! じゃ、ボクちょっと急いで行くから! あ、急にゴメンね志歩、じゃあまた放課後!」
そう言って勝手に女子と話をつけ、そそくさと食べかけのカレーパンを袋に直して机の上を片付ける瑞希。
その表情は満足げで、まるで『ボクがお膳立てしてあげたから、これで君はボッチ卒業だよ! おめでとう!』とでも言いたげな顔だ。
——そんな自分勝手に満足したような顔が、私はとっても気に入らなかった。
だから私は、去ろうとする瑞希の後ろ手を、椅子から立ち上がって強引に掴んで止めた。
「——えっ!?」
突然の私の行動に驚く瑞希。でも私は、お構いなしに行動する。
誘ってくれた二人の子達の方を見て、私はハッキリ言った。
「また一緒に食べようって誘ってくれたのは嬉しいけどゴメン、私、今日は瑞希と二人でご飯食べる約束してるから。また別の日に誘って?」
「えっ……あ、はい、私たちもまた急に言っちゃってゴメンっていうか……」
「い、いや、ちょっと志歩! 君何考えてるのさ!?」
「いいから瑞希、とりあえずココじゃ話しずらいから——屋上」
「いやだから、ボクの話聞いてよ!? ちょっと——!?」
私はうるさい瑞希を無視して、片手で彼を逃がさないようにしつつ、もう片手でお弁当箱の蓋を閉めて風呂敷ごと持ちながら、瑞希の手を引いて教室から脱出する。背後からさっきの子達が『あの二人ってもしかして…』『キャ~、疑ってたけどやっぱりそう? 私達お邪魔だったなぁ~』とか何だか訳の分かんない事言ってるけど、無視一択。
そして階段を一気に駆け上がり、扉を開けて屋上に出ると、そこで瑞希を開放する。
驚いて何も言えない様子の瑞希を見て、私は言ってやる。
「——あのさ、さっきから人の話も聞かずに何してるの? いい加減にして」
「……そっ、それはボクの台詞だよ! なにやってるのさ! せっかく友達出来るところだったんだよ!? なんでそれを無駄に——」
そんな瑞希の言葉に、私は呆れる。
……やっぱり、私の為だったか。私の学校生活の為に自分から身を引いて、折角手に入れられそうな大事な友達を、自分から手放す事も厭わない。
何ソレ? 優しいようでいて身勝手極まりない。やっぱりアンタは自分勝手なエゴを貫き通す、ただの
まったく、瑞希の事を咲希みたいって思ってた私が馬鹿だった。アンタは——咲希より数十倍めんどくさい人。
——でも、そういう所を含めて、やっぱり瑞希は私と同じだ。
中学生の頃、自分の所為で一歌達に迷惑をかけたくないって思って身を引いた、あの頃の私と本当にそっくり。
だからこそ放っておけない。私は頭の中で、卒業式の一歌の泣き顔を思い出す。
『ですが、そんな志歩にっ……! 私は、私はっ……! 結局っ……! グスッ……ヒッグ……最後までっ……何もっ、何もぉ……出来ませんでしたぁっ……!』
私は昔、今の瑞希と同じような事を考えて一歌達から離れてしまった所為で、一歌にそれ以上の心の痛みを与えてしまった。
だから私は、瑞希には同じ過ちを犯して欲しくない。
私はそんな今の自分の気持ちを、全部叩きつけるつもりで口を開く。
「私の友達は、私が決める。瑞希に決められる事じゃない」
「——っ!?」
瑞希は驚いたように目を見開いた。でも、私はそれに構う事なんてしなかった。
「言ったでしょ瑞希、私はアンタと友達になりたいって。そんな瑞希を捨てて作る友達なんて、私は最初から要らない。勿論、私の友達の瑞希を[[rb:蔑>ないがし]]ろにするような人とも、友達になんてなりたくない」
「で、でも、そしたら君はいつまでも一人ぼっち……」
「いいよ、別に宮女の時はずっと私そんなのだったし、というかソレで平気だった。だから私は何も後悔なんてない。それに——」
最後に私は、これだけは伝えたいという気持ちを一心に込めて、言う。
「私にはあなたが居るでしょ、瑞希? 一人ぼっちだなんて言わないでよ」
私そう言うと瑞希は、あっけにとられたように口をポカンと開けた。
でも、そして短くはない時間が経った後で、瑞希はやがて観念したように笑みを浮かべた。
「——あ、あはははっ、もう……君ってヤツは、本当に頑固だねぇ……」
「分かってる事でしょ? 今更言わないで。私はいつまでもこういう人間だから。ここのところ、私と一緒に居るならよく理解しといてよ瑞希?」
「……りょーかい、分かったよ。これからもボクは君と一緒に友達やるよ。まったく……君は本当にカッコイイなぁ……」
「はいはい、適当言うのは良いから、さっさとご飯食べて教室戻ろ」
「あはは、本気で言ってるんだけどなぁ……分かったよ、さっさと食べちゃお?」
そう言って、ようやく言いたい事を分かってくれた瑞希と一緒に、私はご飯を食べた。
そして、すっかり元のテンションに戻った瑞希はとても騒がしくて、やっぱり少しは静かにしてくれてもいいんだけどなと思ったけど——別に、悪い気分はしなかった。
これが、私の新しい高校での学校生活。友達と過ごす時間。
そう思ったら私は、これからの神山高校での毎日も、例え司先輩と会えない日があっても、悪い事ばかりじゃないって思えるような、そんな楽しい毎日が待っているような予感がしたのだった。
ちなみに、その後の余談ではあるけど。
私と瑞希がお昼を終えて教室に戻ると、クラスの男子を中心に私達に——というより正確には、瑞希の方に
なんだと思って私と瑞希が教室の入り口で固まっていると、男子の内の一人がニタァと狩人のような笑みを浮かべて口を開く。
「おい、俺達のお姫様持って行ったクソ野郎が戻ってきやがったぞぉ……?」
……え? いや、何言ってるの?
困惑する私の目の前で、次々と男子は騒ぎ始める。
「お、おおおおお落ち着けよお前ら、ま、まだあの二人が付き合ってるって決まった訳じゃねぇだろ……? そ、そもそもホラ、暁山だったら女は恋愛対象外の可能性ワンチャンあるだろ……? ほっ、ほらぁ! ふ、普通に友達なんだってあの二人は……!」
「おい、思い出せよ、それは否定してただろうがよアイツ……! あのヤロォ……俺達が手をこまねいてる間に上手くやりやがってぇ……!」
「なぁ、アイツ……
「どうする
「まだだッ……待てお前らッ……ステイッ、ステイッ……!」
そんな、あからさま過ぎる男子の敵意の目線を集めてしまった瑞希は、見るからにダラダラと冷や汗を流していた。
「……たはー、ボク今まで男子から変に避けられるのは慣れてたけど、こんな目で見られるのは初めてぇ……」
「え……? どうして瑞希、こんなに恨まれてるの?」
「いや……あのさ、君がさっきやった事思い出してよ志歩?」
そう言われて、私は冷静に考えてみる事にした。
ええっと、私はさっき、女の子達の誘いを断って、瑞希と二人でご飯を食べるって言って……そのまま皆の視線が集まる中、まるで二人の時間を邪魔してほしくないみたいに瑞希の手を引いて二人で教室を脱出——
「——あ、ごめん瑞希。私が悪いみたい」
「ほらぁ!? そうだよねぇ!? 分かってくれた志歩!? だから言ったじゃん! 君はもうこの学年のアイドル的存在だって自覚して!? ボク、こんなに男子に嫌われたの人生で初めてだよ!? 今までずっと向こうからボクの事避けるのが普通だったのにさぁ!」
「うっ……ゴメン。でも、こんな私だけど……これからも一緒に居てくれるって、そう言ったよね?」
「~~っ! そんなこと言われたら、否定できるわけないじゃんっ……! 勿論分かってるよ! そんな君だけどこれからも一緒にいます! よろしくお願いします!」
瞬間、教室内の男子が殆ど総立ちになった。
「暁山ぁ……お前マジすげえよ、この状況でそう言えるって尊敬するよお前ぇ……だが、三途の川渡りたいようだなぁ!? なら喜んで渡らせてやるよぉ!!」
「今だ行けっ! ゴーゴーゴー!!」
「うぉぉぉぉーーーー!!! 死ねぇこのヤロぉぉぉぉーーー!!!」
「末代まで祟ってやるぅぅぅーーー!!!」
「俺達の心に咲いた可憐で尊い、銀の華を返しやがれぇぇぇぇーーー!!!」
瑞希に向かって殺到する男子の波。瞬間、瑞希はくるりと反転して廊下に飛び出した。
「——上等だよぉ! ヒソヒソある事ない事言われて避けられるより、この扱いの方がずっとマシだ! やってやる! 捕まえれるもんなら捕まえてみなよ! 志歩はやっと見つけたボクのお
「「「絶対に許さぁぁーーーん!!」」」
結局、瑞希と一年A組の男子ほぼ全員の追いかけっこは昼休みいっぱいまで続き、五時間目の本鈴が鳴って数分後、現国の先生が教壇に立ったタイミングでようやく帰って来た。
「——ふぅ、みんなお疲れ~! 惜しかったね! またボクへの挑戦まってるよ?」
「「「テメェ次は潰す!!!」」」
「あ~、え~、
「「「「え~~!!??」」」」
と、そんな風に先生に、瑞希を含めた全員がまとめて減点処分にされていた。
……ごめん瑞希、結局私の方が迷惑かけそう。でも……もう私は一歌の時みたいな事はしないって決めたから。だから……迷惑かもしれないけど、これからも瑞希がそう望んでくれてる限り、一緒に居るね? 宜しく。
——あと、もう一つだけ後日譚を語ると、この一件のバカな騒動を通じて瑞希は、男子達とある意味で心を通じ合わせることが出来たのか、憎まれ口を叩かれながらも気さくに話しかけられるようになった。
それとあと、私と瑞希はこの日に誘ってくれた女の子達二人とも変な誤解は解け、次の日に一緒にご飯を食べたんだけど結局、その子達と一番話が合って仲良くなったのは瑞希の方だった。
やっぱり……私は友達を沢山作れるような人間じゃない。それが今回の一件で私が学んだ教訓だった。