※ プロセカの世界観では『ぷよぷよ』は実名ゲームとして存在しているという世界観なので、同じSEGAゲームなら全作品実名で存在しているという解釈で書かせて頂いています。
「そうだよ、早くしないと教室の飢えた子達に、天馬先輩の分全部食べられちゃうよ~?」
そう言って私、
——やれやれ、やっと行ったな志歩。世話がかかる子なんだから。
全く……志歩はいつも自分を貫いててカッコイイ所が魅力的な子なのに、天馬先輩の事になるとどうして急にヘタレちゃうんだろ? ま、そういう所も可愛いんだけどね~?
と、私が志歩の可愛さについて考えてると、私の隣で瑞希が再びクラスの全員に呼びかけていた。
「はーい、みんな~、さっきは期待させるような事言ってゴメンね~? 志歩のお弁当やっぱり余らないみたいだから、また今度の機会って事で~!」
そう言った瞬間、クラスの中、主に男子を中心に大きなため息が一斉に漏れだす。
「はぁぁ~~~! なんだよ暁山お前、期待させやがってぇ……!」
「天に上る気持ちが元の地面に叩きつけられた俺達の絶望、暁山お前に分かるか……?」
「あははっ、ごめんごめん! お詫びにまた今度さ、ボクから上手く言って志歩に、何かクラスの皆に配るもの、何か作ってあげられないかって頼んでみるからさ!」
「——マジかっ!? 頼むぜ暁山! お前こそ俺達男子の希望の星だよ!」
「成功したらさ、駅前の『ペルソナ5R』のカプセルトイで、お前がすごく推しだって言ってた『
「え、それホント!? “ヴァイオレット”の怪盗服バージョンのやつだよね!? よーし、ならボク志歩に説得頑張っちゃおうかなぁ~!」
瑞希はそんなガッカリした男子達相手に、賑やかに話し合いながら上手く
それにしても……瑞希がクラスのみんなとすっかり溶け込めたみたいで良かった。
瑞希は話の合う女子よりも、男子との人付き合いで特に苦労してたしね。
それに……男子達も、瑞希みたいな考えの人と距離感を測りかねてたみたいだから。
でも今はすっかりこの通り。
やっぱりこの間、クラスの男子達ほぼ全員と、廊下中走り回るバカやってたのが良かったのかな? あれ以来すっかり、お互いに遠慮がなくなった感じがする。
本当、瑞希にとってもこのクラスが段々過ごしやすい空間になれてるみたいでよかった。
まぁこれも、私が志歩だけじゃなくて、瑞希の良さもしっかりみんなにアピっといたお陰かもね。
——でもそれでも、他クラスの人達からの瑞希への当たりはまだまだ強めだけどね。
ほんと何処から噂が飛んだんだろ、アイツら~、廊下とかで時々瑞希に対する悪口っぽいのヒソヒソ言ってるの聞こえてるんだからね? 上手く私が何とかできないかな……気の合う友達が酷い事言われてるのは我慢できないし。
でも……少なくともこのクラスだけは絶対に私が、瑞希にそんな事させる人を作らないから。だから安心してね、瑞希?
そんな事を考えている間に、クラスの皆の騒ぎは段々と落ち着いていく。
「それにしても……クソッ、オレ達の姫のハートを射とめた天馬って先輩は一体誰だよ、呪い殺してやるからなぁ……!」
「やめとけ……どうせハイスペックで非の打ち所の無い超人に決まってるだろ……畜生、どうして俺たちには恵みはないんだ……折角、暁山と姫がデキてないって分かったのに、この仕打ちはねぇだろ……」
「あれ? 確か陸上部の先輩が、同学年に天馬って名前の変人だけど面白い奴が居るって言ってた気が……HAHAHA、まさかな?」
「ねぇねぇ、姫の手料理がもらえなかったのは残念だったけどさ、さっきの姫、超可愛くなかった?」
「だよねぇ! 好きな先輩の為にお弁当作るとか胸キュンじゃ~ん! 頑張れ~!」
「ってかさ、いつも休み時間とか窓際でクールな表情で黄昏れてるのに、好きな先輩には乙女顔とか……マジギャップ萌えって感じ! 推せるんだけど姫~!」
そんな感じで、ようやく私達のクラスは普段通りの雑談風景に戻った。
——だけど瑞希は、みんなが落ち着いた後でただ一人、席に座って志歩が出て行った扉をボーっと眺めていた。
そんな瑞希に私は、どう声を掛けたらいいか少しだけ考えてしまう。
えーと……それにしても、瑞希のクラスでの扱いの問題はどうにかなったけど、“こっち”の問題はどうしようかな?
瑞希は自分の気持ちを隠してるつもりなんだろうけど、私には分かっちゃうんだよねぇ。
どうしよう……気持ち的には『大丈夫?』って声かけてあげたいけど……こういう話に下手に首突っ込んじゃうと、逆に事態を悪化させちゃう場合があるんだよね。
私、中学の頃に何件か友達相手に恋愛相談を受けた時、その子の恋をいい結果にしてあげられなかったから……少しだけ、瑞希にも口出して良いのか悩んじゃうな。
でも……うん。瑞希は最高に気が合う友達って私は思ってるし、そんな瑞希とはこれからも友達で居続けたいし、これが原因でもし、瑞希が私達から離れていく事になったら……それはイヤだし。
それに第一、やっぱり私は瑞希の力になってあげたい。余計な事をしちゃうかもしれないって怖いけど……それでも、少しでも瑞希の力になってあげたい。
私はそんな決心で、クラスのみんなに聞こえないように、瑞希の耳元で言う。
「あのさ……瑞希は、これでいいの?」
「——っ!? ええっ……な、何の話?」
瞬間、あからさまに慌てた反応を見せて私の方を向く瑞希。
あーあ、ここまで反応が良いと分かりやすいなぁ。やっぱ志歩の事が好きなんじゃん。
この人、普段は平然となんでもないフリが出来るけど、こうやって虚を突かれると弱いんだよねぇ……まぁそういう所も、私と同じなんだけどさ。
「何って……悪いけど瑞希、私には分かっちゃうんだよね。瑞希、実は志歩の事……正直言って好きなんでしょ?」
そう言った瞬間、瑞希は大きく目を見開いた後で、諦めたように乾いた笑いを漏らした。
「…………あはは、杏ってやっぱりさ、エスパーだったりする?」
「エスパーとかそんなんじゃないよ。ただ……分かっちゃうんだからしょうがないじゃん。だから、そんな瑞希の事が放っておけなくてさ」
「放っておけないからって……ははっ、杏さ、やっぱり君って損な性格してるよね?」
「あ、分かっちゃう? 同じようなこと言われたのこれで5回目。そっちこそ、私の過去当てるとかエスパー?」
「違うよ。ボクが君の過去を分かったのは、君がさっき言った理由と多分同じ。だからさ、この話はこれでもう良いじゃん。何となくさ……どうにもならないって事は君も分かってるんでしょ? ボクと同じ感性持ってるならさ」
瑞希のそんな言葉に——悔しいけど同感と、心の中でそう返すしかなかった。
志歩の事はこの短い付き合いだけど、もう充分にあの子の事は分かってるつもりだ。
あの子は心が強くて、一度決めた信念は決して曲げないし折れない。心の中に一本通った強固な芯がある子。
だからこそ、志歩が天馬先輩への想いを曲げる事は、決してない。
多分、何があってもあり得ない。
下手したらもし今、例え天馬先輩が他の誰かと付き合っていたとしても、今度はその相手から天馬先輩をどう
多分、もうそれぐらいに今の志歩の天馬先輩への想いは強いし、そう思えちゃうぐらいに、あの子はひたすら一途だ。
だから瑞希も……自分の気持ちが絶対叶う事はないって、分かってるんだろうな。
分かってて、それでも志歩と友達を続けてるんだ。
それは多分……志歩が自分にとっての恩人だから、そうしたいんだろうな。
瑞希がそう思ってるのは分かる。
それでも私は……子供っぽいって言われるかもしれないけど、思った事をそのまま口に出した。
「——でも、それでもさ……なんだろう……何て言うかさ、瑞希がもっと納得できるような、そんな結末がさ、あったらいいなって……私は思うんだよね。……こんな事を思っちゃうのってさ、私の子供っぽいワガママかな?」
そんな私の子供みたいな意見に、瑞希は目を丸くした後、やがて呆れたように笑った。
「あははっ……ボクにはさ、杏、君が時々まぶしく見えるよ。なんだかさ……君を見てたら昔のボクが、最初は心の中に持ってたけど、いつしか無くしちゃった『純粋に他人を信じる気持ち』っていうのが……今でもボクの中に、実は生きてるんじゃないのかなって、そう錯覚しちゃいそうになる」
「……瑞希」
そう呟く瑞希の目は、まるで過去にあった色んな辛い思い出を脳裏で追想しているかのような、そんなくすんだ灰色の瞳をしていた。
そんな瑞希の姿を見るだけで、私は瑞希は過去にどれだけ辛い思いをしてきたんだろうって、そう可哀想に思ってしまう。
ほんと、神様って残酷だよね。どうして……こんな優しい人に限って、こんなにも辛い思いをさせるんだろう。
そう考えると、私は心がキュゥっと締め付けられるような気持ちになってしまった。
そんな私の頭の中に、入学式の時に志歩が引き出した。瑞希の本音の言葉がフラッシュバックする。
『……う、うるさい! やめてよ……それ以上来ないでよ! やめてよぉ……怖いんだよ。誰かを信じるのも、裏切られるのも、もうどっちも怖いんだ。もう、ボクがボクである事を、大好きな人に否定されるのが怖いんだよ……!』
そんな、ボロボロで、誰かが支えてあげないと今にもどこかに飛んで行って消えそうな、そんな瑞希の心の奥底の叫び。
正直白状すると、私はあの時、瑞希のその言葉を聞いた瞬間、瑞希の事を分かってあげられてる志歩に説得を任せた私だったけど、そんなの全部どうでも良くなって、志歩を押しのけてでも瑞希の所に走って行きたかった。
今すぐそんなボロボロの瑞希を力一杯抱きしめてあげて、その心の涙を拭いてあげたかった。理屈じゃなくて、心がそうしてあげたいって叫んでいた。
そして泣いてる瑞希の耳元で、こう言ってあげたかった。
『私がこれからどんな時も傍にいるから』
『私は
『もう心配なんてしなくていいから』
『私は
『ありのままの君で居ていいから』
『私の事を信じてくれていいから』
『今の君も素敵だって、そう思うから』
でも、私が尽くせるそんな精一杯の言葉は、どうしても月並みの、瑞希が多分今まで散々聞いてきたみたいな、上っ面の綺麗事みたいに聞こえるような、そんな根拠のない言葉たちばかかりで。
どうしても、瑞希の心の奥底を理解した言葉をかけてあげられなかった。
何て言ったら良いか、分からなかった。
でも志歩は——
『だから
そう言って、瑞希が自分から、自分の意志で信用してくれる事を信じて待った。
私みたいに『私を信じて』っていう、自分の意見をその場で押し付けるんじゃなくて、あの場で瑞希に猶予のある選択肢をあげた。
『今じゃなくて良いから、いつか私達の事を信じて欲しい』って、そういう意味の言葉をあの場で言って、瑞希の事をこれからも“ずっと待ち続ける”っていう意思を暗に伝えた。
だから、瑞希は最後の一歩をあの場で踏み出せた。踏み出す勇気を、最後に出せた。
多分、志歩は分かってたんだと思う。
志歩自身がそうだったように、自分の言葉で瑞希の心を変える事なんて出来ないって分かってて、だから瑞希自身が自分を『変えたい』って、そう願えるようになるまで“待つ”しかないって。
それは絶対に志歩にしか言えなかった言葉で——それが、瑞希が救われるのに、私じゃなくて、志歩が最適だった理由。
だから……瑞希が志歩を選ぶのは当然。それを悟った私は、あの場で瑞希に何も出来なかった自分自身の事がただ悔しかった。
瑞希の心の弱さを、志歩みたいに理解してあげられなかった自分が悔しかった。
そんな過去の後悔を思い返して、私はたまらなくこう思った。
どうしよう……私、瑞希にも幸せになって欲しい。
だって、あんなに瑞希は苦しんでたから。
ずっとずっと辛い事があって、それでやっと自分の事を助けてくれるヒーローみたいな子が現れて。
そんなヒーローの事を好きになって……これからのはずだったのに。
瑞希の“幸せ”は、これからの筈だったのに。
それがこんな結末って……なんというか、どうしようもないって分かってるけどさ、それでも……あんまりじゃん。
どうにもならないって分かってる。
それでも今度こそ……私が、今度こそ私が、瑞希の事を何とかしてあげられたら——って、そう思った時だった。
「でもさ、ボクは良いんだ。これからもボクは、迷わず志歩の事を応援するよ」
瑞希はその灰色だった瞳に再び明るい薄紅色の輝きを灯しながら、明るく強く前を向くような意志を私に宣言した。
そんな瑞希の意志に今度は、私が目を丸くして驚く番だった。
「——え?」
「だってボクさ……今これで満足してるんだ。ほんとだよ? ボクは……やっと探し続けてたボクの“居場所”を見つけられて、それで、今こうしてクラスのみんなとも上手くやれてる。ボクがこうして今の学校生活を本気で楽しいって思えてるのは——紛れもなく志歩のお陰だからさ。だからボクは、これでいい」
「そんな……瑞希……」
それはあまりにも自己犠牲的な考えで。私は思わず、そう声を漏らしてしまった。
でも瑞希は、自分の胸に抱えた信念を一切曲げないような声色で、迷わず続ける。
それは、私が聞いていて胸が苦しくなってしまう程の覚悟だった。
「それにボクさ……わかっちゃったんだ。ボクが好きなのは『司先輩に恋してる志歩』なんだよ。だからさ……ボクはこれでいい。だってボク、根っこがオタクだからさ。尊い
そう敢えて茶化すように言う瑞希に、私は思わず聞き返してしまう。
「志歩の幸せを見守るって……それで瑞希はいいの?」
「うん、勿論。だってもう決めたもん。それがボクの“恋”で——ボクの“幸せ”だって」
そう言い切って瑞希が、志歩が出て行った扉に再び目を向ける表情には笑みがあった。
でも、その笑みの裏には色々複雑な感情が入り乱れてるように見えて——でも、それでも、そう言って志歩の幸せを願う言葉には、嘘は一切感じなかった。
嘘……信じられない。
この人は、どこまで健気で優しくて、それでいて誠実な人なんだろう。
だから私は……そんな瑞希の覚悟に、頷いた。頷くしかなかった。
「……うん、そっか。ならもう私は何も言わない……変なお節介してゴメンね?」
そう言って、ただ笑みを返してあげた。そんな瑞希の事を、私も見守る覚悟で。
……あーあ、結局……また私は、瑞希に何もしてあげられなかったな。本当に、志歩に救われてから強くなったんだね瑞希。
私は結局、瑞希にとって……『何もしてあげられない人』だったんだ。
きっと瑞希は……私なんかより、志歩の方がずっと大切なんだろうな。
こんなのじゃ……もう私って、瑞希の友達失格なのかもしれない。だって、辛い思いをしている時に力になってあげられないような、そんな私なんて……ダメじゃん。
そんな事を考えて落ち込む私を見て、瑞希は何を感じたのか分からない。
それでも瑞希は、私に向かってこう言った。
「ううん、いいよ……ありがと、杏。それと、さっきは話の流れでつい
「——え?」
「だって……あの時君はさ、そんなにお節介な性格なのに、ボクが一方的にキミに色々言っちゃっても、ボクにお節介焼きたいって自分の気持ちを優先させずに、本当にボクの為を思って自分は何も言わずに、あの日、志歩にボクの事を任せたんでしょ? ……本当に、ありがと杏。君のその優しさが……ボクをあの日救ってくれたんだよ?」
嘘……どうしてわかるの?
そんなあまりにも、瑞希にお節介を焼こうとした私の心の動機を見透かしたような言葉に、私は思わず言葉を失う。
そんな私に、瑞希はニコリと優しい微笑みを私に向けながら——言う。
「だからありがと。ボク、杏とも出会えて良かったって、本気で思ってるよ。だから……これからもヨロシクね?」
思わずその瞬間、私は泣きそうになってしまった。
ほんと……こんな私の事まで気にかけてくれるって、どこまで優しかったら気が済むんだろう……瑞希は。
辛いのに、苦しいのに、それでもこうして誰かの事を気にかけてしまう。きっと、彼はそんな優しい人なんだろうな。誰かの弱さを分かってあげて、その弱さに寄り添う事が出来るような、そんな人。
何ソレ……すっごくカッコいいじゃん。
そんな初めて出会った、私よりも“損な性格”の人が浮かべる、どこか儚いようにも感じてしまうその笑顔を見て私は——
——ドクン、と、心臓の脈が変に跳ねたような気がした。
「~~~~っ?」
そう気づいてしまった瞬間から、ドクドクドクと心臓の鼓動が暴れるのを感じた。
そして酷い事に、その鼓動は瑞希の顔を見つめ続ける程に、もっと脈打つリズムが早くなっていってしまう。
——あれっ? あれあれあれあれっ? 私……変だぞ? え? どうなってるの?
そんな心臓の異常事態に、思わず自分でもパニックになってしまってると、そんな私を見て不審に思ったのか瑞希は首を傾げた。
「あれ……? 杏? 急にどうしたの? いきなり顔が真っ赤になったけど……もしかして、今日実は風邪ひいてた?」
「——ふぇっ!? え、ええっ……私、そ、そんなに顔、赤いっ!?」
「……え? いや……どうして急に挙動不審なのさ? うん、凄く赤いよ。いやホントに熱あるんじゃない? ちょっとゴメン……おでこ触るよ?」
「えっ、ちょっ、待っ——!?」
瞬間、問答無用とばかりに遠慮なく私の額にピタリと手を当てる瑞希。
同時にさっきまで16ビートを刻んでいた私の鼓動が、今度はドッドッドッドッと32ビートに急に変調してしまう。
瑞希に触られている部分だけが、まるでオーブンから出した直後のグラタンの耐熱皿みたいに熱くなって。
そうなってると、当然上がっちゃってるだろう私の体温に、瑞希は驚いたのか目を大きく見開いた。
「うわっ……熱っ……杏! 君ぜったい風邪ひいてるよ!? 早く保健室行くか今日は早退した方が良いって!」
「——そっ、そうだねぇ!? わ、私っ……私っ……保健室いってきまぁーす!!」
「えっ、杏!? 風邪引いてるのに、そんなに走ったら危ないって——杏!?」
そんな、無自覚に私の心を揺さぶってくる瑞希に、私が出来た唯一の抵抗は、そのまま茹でダコのように真っ赤になった顔を瑞希から見えないように隠して、私を心配する瑞希の声も無視して保健室に向かって逃走する事だった。
うわぁ……え? え? どうしよう、どうしよう、どうしよう……!
嘘でしょ? まさかこのドキドキする気持ちって——
私……瑞希の事、好きになっちゃったの!?
いや待ってよ! 確かに……恋してみたいって志歩に言ったよ? 恋に憧れてるって言ったよ? でもさぁ……ホントにそうなっちゃうとは思えないじゃん……! いや、いくら志歩に『私と瑞希がお似合い』ってからかわれてたとしてもさ、それってあくまでも冗談のつもりじゃん! 本気にしてどうするの私!?
いや……まさか私、あの時から心の奥で瑞希をそういう相手として意識してたとか?
うわっ、絶対そうだ……急にこんな気持ちになるとか絶対おかしいもん!
そう思っちゃうと私がさっきまで、自分は志歩に比べて瑞希に何も出来なかったってモヤモヤしてたのって……まさか私、志歩に嫉妬してたの? うわ待って、私最低じゃん!?
え、どうしよう……私の今までの全部の気持ちに説明ついちゃう。どうしよう、待って? え、困るって……! 瑞希は志歩の事が好きなんだよ? 何ソレ昼ドラじゃん! 好きな気持ちの矢印方向が一方通行ドロドロの泥沼じゃん!? 何考えてるの私!?
それに第一、私はお父さん達がやった“伝説”のイベント——『RAD WEEKEND』を超えるって決めてるんだよ!?
それがこんな事で——って!? 何で今“こんな事”扱いしようとしたの私? 瑞希の事は大事だから! い……いや違う、そんな事を考えたいんじゃなくて……!
単純に私には今、恋愛とかしてる暇とかないって! そういう話じゃん!
——ってかさ、なんでまだ一緒に歌う相棒も見つけてないのに、人生の
……え? 何? これって、“伝説”を超えるのはもう諦めて、これからは普通の女子高生として恋愛を頑張れって神様からのお告げ? 他の誰でもない私が、瑞希を幸せにしてあげろって事!? ちょ、ちょっと……確かに瑞希には幸せになってほしいけど、だからって私が夢を諦めるのは違う気がする。だって、ずっと前から追いかけてきた夢だもん……諦めたくない!
だから……この気持ちも、な、何かの気の迷い……気の迷いだからっ……!
よし……落ち着いて考えよう私。
ただ私にとって瑞希は、一緒に居たら気が合って楽しくて、幸せになって欲しいって思ってて、寂しそうな顔見てたら心がキュッと痛くて堪らなくなって、そして笑顔を見てたら心臓がドキドキする人で——って!?
「だからそれ全部が、『好き』って事なんじゃないのっ……!? ああもう、ぜんぜんダメだ私ぃ……! これじゃ瑞希の顔まともに見れないよっ……! うん、今日はとりあえず帰ろう……帰ろうっ……!」
私はたまらず大きな独り言を廊下で叫んでしまい、そのまま保健室に行って初めての仮病を使って、逃げるように家に帰って、部屋の中で布団を被った。
「う、うぅぅ……! 気の迷い気の迷い気の迷い気の迷い気の迷い……!」
そう自分に言い聞かせるように呟いて、瞼の裏に浮かぶ瑞希の顔と格闘しながら、私は頑張って無理矢理に寝た。
明日には、この心臓の鼓動が元に戻っている事を信じて。