次の日私が学校に行くと、一年A組の教室の入り口扉前で、横顔でもハッキリわかるぐらいに真っ赤な顔で、何度も深呼吸している杏を発見した。
何してるんだろう杏、早く教室に入ったらいいのに。そう思いながら私は声をかける。
「おはよう、杏」
「——うひゃぁ!?」
すると肩をポンと軽く叩いただけなのに、変な声を上げてビクンと小さく杏はその場で跳ねた。
えっ、一体なに? 杏どうしたの? 変だよ?
杏のリアクションに戸惑っていると、杏はふらつきながら私の方を向いた。
「あっ……な、なんだ志歩かぁ……お、おはよう……今日もいい天気だねぇ……」
すると、正面を向いた杏の目元には、深い
思わず私はびっくりして尋ねてしまう。
「——えっ? 杏……どうしたのその目の隈。もしかして、昨日寝れてないの?」
「そ、そんなに隈マズイ? あぁ……色々考えすぎて寝れなかった所為かなぁ……気づかなかった」
「……大丈夫なの? そもそも、風邪引いて早退したんだったら、もっと寝なよ」
「あははは……ちょ、ちょっと朝から寝すぎちゃって……逆に夜寝れなくなっちゃったっていうか? でも、体調はバッチリだから! 心配いらないよ!」
「でも全然顔色が大丈夫に見えないんだってば……顔だって赤いし、まだ熱があるんじゃないよね?」
「あっ、こ、これも違くて! あぁ……もう、落ちつけってば私の心臓……どうせ瑞希はまだ教室に居ないってば……だから普通に、いつも通りに……」
そう言って、まるで自己暗示をかけるように目を閉じて再び深呼吸をする杏。
……いや、本当にどうしたんだろう、変だな杏。
「とりあえず、体調大丈夫なら早く教室入ろうよ。遅刻するよ?」
「う、うん! すぅ……はぁ……すぅ……あ~~い~~う~~え~~お~~よし! おっけ! 行こう志歩!」
「……いや、今のビブラート何?」
「あ、歌う前の発声練習だよ? これやると落ちついて良い声出せるんだ。ライブ直前に集中力上げたい時にやるルーティンみたいなやつでさ」
「杏……そんなルーティンに
「よーし! 細かい事は置いといて、開けまーす! おっはよーみんなー!!」
「あっ、ちょっと……!」
思いっきり質問を無視され、私の目の前で杏は扉を開け、いつも通りにクラスのみんなに明るく挨拶をしていった。
杏、さっきまでのは一体なんだったの?
「……あ、おはよ~志歩」
そう思っていると、今度はたった今登校してきたように見える瑞希がやってきた。
でも、その顔はどこか物憂げで、何か気になる事をずっと抱えてきたような、そんな表情をしていた。
今度は瑞希も変だ。いったい私の友達は二人して、一体どうしたっていうんだろう?
「おはよう瑞希……なんだか、悩みがありそうな顔してるね。どうしたの?」
「あ~、ちょっと……ね? 昨日少し色々あって……」
「……それって、私が聞いても良い感じの悩み? もし相談があるんだったら、私でよかったら何時でも乗るよ?」
「あ……」
私の言葉に瑞希は少し考えるような仕草をした後で、やがてクスリと笑った。
「あははっ、やっぱり君はボクの可愛くてカッコいいヒーローちゃんだね……うん、分かった。また今日の昼休みに屋上とかで話せる? ちょっと……ボクのネットの“友達”——って言っていいか分からないんだけど、そんな感じの子が居てさ。その子の件で相談に乗って欲しくて」
「うん、わかった。昼休みに屋上だね、いいよ」
「——うんっ、ありがと。じゃ、また昼休みね~! みんな、おっはよー!」
そう言うと瑞希は、さっきまでの物憂げな顔から一気に明るい表情になり、元気にクラスメイトに話かけていく。
……それにしても瑞希、思ったよりあっさり悩んでる事を打ち明けてくれて良かった。
それだけ……瑞希が私に向けてくれる信頼が少しずつ大きくなってくれてるって事なのかも。それなら良かった。
そう思って瑞希の後に続いて教室に入っていくと、杏を見つけた瑞希は元気に杏の元に駆け寄っていく。
「あっ、おっはよー杏! 風邪はもう大丈夫?」
「あ、おはよっ、瑞希! 休んだら一晩でバッチリだったよ~、心配かけてごめんね?」
「そっか~、良かったぁ」
杏はすっかりさっきまでの変な様子はなくなり、瑞希と仲良さげに会話を交わしていた。
良かった、杏もやっと調子が戻ってきたみたい——と、そう思った時だった。
瑞希は杏の顔を見て何かに気付いたような声をあげる。
「——あっ! よく見たら杏……目元、すごい隈が出来てるよ!? どうしたの?」
「えっ、あっ……これは……その、ちょっと……昼間寝すぎちゃって? ちょっと夜寝れなかったっていうか? そ、そんな感じかなぁ……?」
「え~、そうなの? 全く、杏はしょうがないんだから……」
視線をさ迷わせながら誤魔化す杏に、瑞希は軽くため息を吐きながら自分のカバンをガサゴソと漁り、化粧品の入ったポーチを取り出した。
「はい、ボクのメイク直し用のコンシーラー貸してあげるから使いなよ。これボクのオススメでさ、急なお肌のトラブルとかでもうまくササッと誤魔化してくれるんだよね~。しかも色も自然だから生活指導の先生にもバレにくいし。だから君の隈も隠れるはずだよ?」
「えっ、いやいいよ……私はそこまで気にしないし……」
「ダーメ。杏が気にしなくても、ボクが気になるの。だって杏の、とってもカワイイお顔が台無しだもん。そんなのボク許せないっていうかさ」
すると、瑞希がそう言った瞬間、またたく間に杏の顔が真っ赤に染まった。
「——かっ、かかっ、可愛っ……!? な、なななな何いってるの瑞希……わ、私に、可愛いとか似合わないって……!」
「……え? 杏、なに急に挙動不審になって……って、あっ……」
そう言って瑞希は、杏の急な様子の変化に何かを察したのか、ニンマリと全力のからかいの笑みを浮かべ、ズイッと杏の眼前まで顔を近づける。
「……あれ~? ひょっとして杏、照れてる~? そんなに『可愛い』って言われるの恥ずかしいのかな~?」
「いやっ……違——ってか近っ……!?」
「ふふふっ……ボクさ、実は杏ってとっても可愛いって思ってるんだよねぇ~。今までは言ってこなかったけどさぁ~」
「ふぇっ……!? もう! 可愛いって言うのやめてよ! っていうか、顔がさっきから近いって言ってるじゃん……!」
「え~どうして? 可愛い子に“カワイイ”って言うのは、全人類の義務だってボク思ってるもん。杏カワイイよ? そうやって照れてる顔も最高にカワイイよ? おおっと、顔背けるのナシだよ杏? もっと今の君の可愛い顔見せて? はぁ……癒される。本当に可愛いよ杏……」
「ちょっ……ホント、やめっ……! もう無理っ……限界だからっ……!」
「だから、君の可愛さを台無しにするクマさんやっつけちゃお? ほら、行ってきなよ……ね? ボクの可愛いお姫様?」
「~~~っ!! もぉっ! 瑞希のバカぁぁぁーーー!!!」
杏はついに瑞希の『可愛い』攻撃に堪えかねたようで、沸騰しそうなぐらいに顔を真っ赤にしながら瑞希の持ってるコンシーラーをひったくり、脱兎のごとく教室から出て行ってしまった。
瑞希……照れてる杏が可愛いっていうのは同意だけど、それにしてもちょっとやり過ぎじゃない?
そんな杏を見送り、瑞希は満足そうに一息つく。
「——ふぅ、楽しかったぁ……杏可愛かったなぁ……」
「瑞希、杏の事からかい過ぎじゃない? 後で怒られても知らないよ?」
「怒られてもいいも~ん。だって、あれだけカワイイ反応見れたらむしろおつりが返ってくるぐらいでしょ。カワイイに命かけてるボクとしては、楽勝の代償っていうか~」
「へぇ……すごいガッツ。まぁ、杏は可愛いから私も正直気持ちわかるけどね」
「でしょ~? いっひっひ、あんな可愛い所見れちゃうんだったら、これからもボクしょっちゅう杏の事カワイイって言っちゃおうかなぁ~」
「まだ杏の事からかい続ける気? 私は警告したからね、どうなっても知らないよ?」
「はーい」
私の忠告も何処吹く風と言った風に、瑞希は自分の席にさっさと戻ってしまった。
だけど……杏、私が『可愛い』って時々言う所為で、最近はもう慣れたのか何度言っても、ハイハイいつものねって感じで、軽く流されるようになっちゃったはずなんだけどね。
もしかして……私が言うのと瑞希が言うのとは何か違いでもあったりして——なんてね?
■ ■ ■ ■ ■
「……でさ、今日の朝に言ってた相談の事なんだけど、いい?」
そして昼休憩の時間。約束通りに瑞希と二人で屋上に来て、お昼ご飯を食べた後に瑞希はそう話題を切り出した。
「うん、いいよ。そういえば朝にちょっと言ってたよね。……友達、みたいな子の事で相談があるんでしょ?」
「うん、そう。ボク心配な子がいてさ、その子にどうしてあげたらいいのかなって、ちょっと悩んでて」
「どうしてあげたらいいのかなって、それどういう悩み?」
疑問に思ったから純粋にそう聞くと、瑞希は困ったような表情をした。
「ん~、なんというかね。ボクが勝手に“その子”が心配だって思って、変に神経過敏になちゃってるだけかもしれないし、要らないお節介ならかえってその子の迷惑になっちゃうかなって不安でさ」
それだけ話を聞くと、瑞希がわざわざ相談相手に私を選んだ理由にも納得がいった。
「……なるほど、だから自分と考えが似てる私にも相談して、自分の直感が合ってるかどうか再確認したいって事? ……その子を、助けたいから?」
「……まだその子が切羽詰まってる状況に居るって決まった訳じゃないけど、でも……もしもの時に手遅れだったら怖いなって、そう思ってさ」
そう呟く瑞希の瞳には、確かにネット仲間に対する心配の色があった。
そんな瑞希の力になってあげたいって、私は素直にそう思った。——ま、もし思ったより深刻そうな件だったら、まだバイト始まってないし放課後だって今日は時間あるしね。
「……分かった、とりあえず話してみてよ」
「うん! ありがと志歩、じゃあ順序に沿って話すね?」
そう言って、瑞希はまずはとばかりに自分の事情を語り始めた。
「——あの、まずさ、ボクがネットで音楽サークルに所属してるって話はしたよね?」
「うん、そうだったね。深夜25時にナイトコードで集まって、作業通話しながら投稿する動画作ってるチームなんでしょ?」
「うん、そうだよ。『25時、ナイトコードで。』っていう名前の音楽サークルなんだ」
「……えっと、なんというか……名前そのまんまだね」
私のツッコミに、瑞希はクスリと笑った。
「あははっ! ボクも正直最初はちょっとそう思っちゃったかな。でも、中学の頃のボクが傷ついてた時、心を救ってくれた曲を作った——まぁ、いわゆる恩人みたいな、そんなスゴイ人達なんだ。ファンも結構いてさ、『ニーゴ』っていう愛称も付いてるし」
「——へぇ、じゃあ、それだけ凄い人達から勧誘されるって、瑞希も結構スゴイ人なんじゃないの?」
「えへへへ……まぁね! そうそう、作曲、作詞、イラスト、それぞれの担当の子が一人ずつ実力を発揮しあってて、三人の全ての要素が一つの『ニーゴの曲』っていう芸術を作ってるっていうか……ピッタリマッチしててさ! だからボクもそんな皆の努力を無駄にしない為に、最後上手いこと合わせて動画に編集してるんだ」
「つまり……瑞希が三人のまとめみたいな立場って訳?」
そう言うと、瑞希はとんでもないとばかりに両手を振った。
「いやいや……そんな、ボクなんか力量不足だよ。ボクの恩人はハンドルネームが『K』って名前で、ニーゴのリーダーで作曲担当の子。志歩や杏に出会う前の、居場所なんか何処にもなかったボクを、『そんなボクが作る作品が必要』って言って拾ってくれた人なんだ。だから、ボクはその子の為にも今日も頑張って、深夜作業してるんだよね~」
そう語って少し自慢げに胸を張る瑞希を見て、私は瑞希にとって、その人がとても大切な人なんだってすぐに察する事が出来た。
そっか、瑞希にとって大切に思える人は、私達以外にも居たんだね……よかった。瑞希に頼れる人が沢山居るのは、本当に良い事だと私は思う。
そう思って、『K』の存在をまるで神様でも崇めるように
「——あっ! 勘違いしないでほしいんだけど、ボクがその子の為に頑張るって言ってるのは……変な意味で言ってるんじゃないからね!? その、尊敬! 純粋に尊敬してる人って意味で言ってるから! 別にその子の事が好きとか変な感情はないから! 誤解しないでね!?」
そう言っておろおろ挙動不審になりながら、自分の発言に必死で弁解する瑞希。
え……? 急にどうしたんだろう? まるで恋人に浮気現場でも見られたような反応は。正直言って不審にしか思えない。
「……あの、急にどうしたの? そんなの別に疑っても無いんだけど」
「あっ……あははは、いや、別になんでもないよ、なんでも——で、ボクの現状を分かってもらった所で、ここからが本題なんだけどさ!」
そう言って無理矢理に話題を元に戻そうとする瑞希に、なんだかまた誤魔化されてるような気がしたけど、昼休憩もそこまで長い訳じゃない。
私は我慢して話を聞くことにした。
「——それで、そんなニーゴの仲間の子達の中で、『雪』っていうハンドルネームの子がいるんだ」
「雪……? うん、その子がどうしたの?」
「うん、ボクさ……昨日、学校終わってバイトもない日だったから、家に帰ってすぐに25時になる前に、動画編集作業を進めておこうって思って作業してたんだよね。そしたら、たまたま雪も学校早く終わったらしくてナイトコードに居てさ、それで一緒に作業しようってなったんだよ」
「——え? ちょっと待って、話の流れ切って悪いんだけどさ、学校終わりって事は、その雪って人もまさか学生? 音楽グループって言うんだから、もっと大人の人達と混ざって瑞希はやってるって思ってたんだけど……」
私が気になり過ぎて思わず聞いてしまったその質問に、瑞希はしまったと軽く頭を押さえる。
「あ……ちょっと喋り過ぎちゃった。ボク、志歩なら大丈夫って安心感ありすぎて、ちょっと口緩くなっちゃってるかも……まぁ、うん。やっぱり志歩ならいいや。これぐらいで個人特定にはならないだろうし……そうだよ、ボク達ニーゴは全員学生なんだよね。しかも全員結構年近い。びっくりするよね?」
「……えっと、瑞希が私の事そんなに評価してくれるのは嬉しいけど……ちょっとは警戒しなくて大丈夫? まぁ、別に私が何かするって訳じゃないんだけど……」
「いやぁ……だって、志歩はボクのヒーローだもん。それに志歩、ボクに『信頼出来る人にならせて』って、そう言ってくれたでしょ? だから、ボクも自然と志歩にはガード緩くなっちゃってるのかも」
「はぁ……分かった、もうその話はいいよ。ところでさ、話の続きを聞かせてよ」
「ああ、そうだったね——」
瑞希は気を取り直したように軽く咳払いをして、続ける。
「でさ、ボク雪と通話しながら作業してたんだけど、その途中で雪が雪のお母さんと会話してるの聞いちゃったんだ」
「作業中の雪って人の部屋に、母親が来たって感じ?」
「うん、そんな感じ。——それで、その雪のお母さんが引っかかる感じだったんだよ……」
「……どんな感じの人だったの?」
そう聞くと、まるで瑞希は自分の過去のトラウマを刺激されたような苦い表情になりながら、ため息と共に吐き出すように言う。
「……それが、ナチュラルに自分の価値感を人に押し付けてくるみたいなタイプでさ。雪に学校で友達付き合いする人はもっと選べって、そんな感じの事を言ってたんだ。だから、お母さんにあんな言い方されて大丈夫? って雪に声かけたんだよね。でも、雪は気にしてない感じでさ……でも、大丈夫って言われても、どうしてもボクがモヤモヤしちゃってるんだ。雪は……本当に大丈夫かなって」
そう瑞希が語る雪って人の母親の人物像に私は、瑞希がどうしてここまで雪という人を心配しているのかを察した。
……そっか、その子の母親って、自分の考えてる事だけが正しいって考えて、それ以外の他人の考え方を受け入れようとしない人間なんだね。
私と瑞希を、今までずっと苦しめてきた種類の人間だ。
「……その人、瑞希と私が特に大嫌いなタイプの人間だね」
「……うん、やっぱり志歩なら分かってくれるって思ってた。雪の前だから、母親悪く言うみたいでそんなに強い言葉は使えなかったけど——正直さ、会話を聞いてて
「それ……本当にその雪って人は無理してないの? 私だったら……もしそんな事言われたら絶対我慢できないんだけど」
「……わかんない。でも、人にはそれぞれ価値観があると思うし、雪がそう言うなら、それ以上は深く自分からツッコみづらいしさ……でも、何でか分からないけど、どうしても引っかかるんだ。本当に、雪は大丈夫なのかなってさ……どうしても、不安で」
「そう……」
そう言ってため息をつく瑞希には、どこか雪って子の事情に踏み込む事に、躊躇うような気持ちが見えた。
多分、ネットの関係だから踏み込み過ぎるのはよくないかもって、そんな考えもあるのかもね。でも私は、そんな瑞希に言ってあげたい事があった。
「ねぇ……瑞希にとって雪って人はさ、大切な人?」
「え……? …………うん、大切な仲間だって……ボクがそう思いたい人」
「そっか……だったらさ、相手の事だけを考えて遠慮するより、時には思いっきり相手と本心で向き合う事も大事なんじゃない?」
「相手と……本心で向き合う……?」
「うん、そう。ネットの関係だからってそれは変わらない。瑞希にとって、その雪って人が失いたくない人だって言うなら、そうした方がいいよ。だってそうしないと……相手の本当の気持ちだって、きっと見えてこないから。それにほら、入学式の時の私と瑞希だって、そんな感じで“友達”になったでしょ?」
「——あ」
私がそう言った瞬間、瑞希は何かに気付いたような、そんな顔をした。
やがて瑞希は悩んでいた疑問に答えが出たような、そんな晴れやか表情で頷く。
「うん、わかったよ志歩。ボク、もし次に雪と話す事があったら……もう一回、雪ともう少し踏み込んで話してみる! 勝手なお節介かもしれないけど……それでも、ボクにとって雪は大切な……仲間だから!」
「うん……それでいいんじゃない?」
「ありがとう! やっぱり志歩はボクのヒーローだよ! 相談してほんとに良かった」
「ちょっと、調子良い事言うのやめて。私はヒーローって
「はーい。そうしますよ、ボクの可愛いお姫様」
ニヤリと笑いながらいつも通りそんな冗談を飛ばしてきた瑞希を見て、私は一安心する。
良かった、とりあえず瑞希の悩みは解決したみたい。
「はいはい、可愛いお姫様扱いどういたしまして」
「あ~、本気にしてないな~?」
「だって瑞希、誰にでもそういう事言うでしょ? 杏はイチコロかもしれないけど、私にとったらありがたみが薄いっていうか……そもそも私、可愛いって言われて喜ぶ人間じゃないし」
「そんなぁ、も~、司先輩に言われたら凄く喜ぶくせに~」
「まぁね。司先輩に可愛いって言われたら私、その日はもう最高の一日だって思うから」
「ブーブー! 贔屓だ~! ボクだって一応男の子なんだぞ~」
「ふふっ……はいはい、男の子男の子。じゃあその自覚があるんだったら、あんまり女の子に可愛いってむやみに言うのよくないかもしれないよ? 女タラシ扱いされてもしらないから」
頭に杏の例を思い浮かべながら言うと、瑞希は自覚していなかったのか、ポカンと口を開けた。
「へっ? ボクが……女タラシ……? あははははははっ! ナイナイナイナイ! 何言ってるのさ志歩。まぁボク、色々尖ってた中学の時は、正直そこそこ女の子に声かけられてたって認めるけど、今のボクって“コレ”だよ? そういう恋とか特別でガチな感情、ボクなんかに向けられるわけないじゃーん! まぁ? 今のボクってカワイイし、逆に男の子からはワンチャンあるかもしれないけどね~? あははははっ! いーっひっひっひ! お腹痛い~!」
「笑っちゃって……知らないよ? 私はちゃんと警告はしといたから、後で泣きを見ても私見捨てるよ」
「はーい、注意しまーす」
私は瑞希とお互いにそんな軽口を叩きながら、昼休憩の終わる五分前の予鈴が鳴るまで、屋上で楽しい会話を続けた。
そういえば、初めて誰かの相談に乗った気がするけど、何とか良い答えを返せれたみたいで良かった。
瑞希、その雪って人と本音で話せたら良いな——頑張れ、瑞希。