神山高校1年A組日野森志歩   作:トール77

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閑話:“呪い”が要らない世界で

 

 

 

 ボクにとって色々な事がありながらも、無事雪を引き留める事が出来て、ニーゴが無事復活した次の日の放課後のファミレス店内。

 ボクはそこのテーブル席で先に集まっていた絵名と一緒に、約束の時間から少し遅れてやってきた奏を迎えた。

 

「あ、来た来たー! こっちこっちー!」

「……遅れてごめん」

「大丈夫、雪はまだ来てないみたいだし」

「ま、今日ボクのところにHRが長引いたから遅れるって連絡来てたから、もう少しで来るんじゃないかな?」

「そっか」

「それにしても、昨日ぶりなのに、リアルで会うのは初めてなんだよね。……ちょっとヘンな気分かも」

「まぁでも、セカイで会ったのはちょっと別っていうか、みんな実在してたんだなーってやっと実感できたよ! あ~、やっぱり初オフ会提案してよかったぁ~、あんな訳わかんない所じゃオフ会感ないもん」

 

 そう、今日ボクがみんなをファミレスに集めた理由は他でもない、『オフ会リベンジ』だった。

 ボクは昨日の深夜、セカイから全員で現実に戻った後で通話でみんなに、ニーゴ復活というこの祝福的なタイミングを逃す訳にはいかないと、かねてからボクが内心で計画していた『ニーゴ初オフ会』の開催を通話で宣言した。

 すると、あんな事があった所為か、思った以上にすんなりと賛成多数で決行となった。

 まぁ一番、開催においてネックだと思ってた雪が『Amiaが行くなら、行く』と快く参加を快諾してくれたのが大きいかもね~。

 

 まぁこうしてやっとオフ会を開催して、直接会ってみて自己紹介も終わって、一番意外だったのは奏の私服がジャージのままだった事だけど……。

 

「……? 瑞希、わたしの服に何かついてる?」

「い、いやぁ……な、なんでもないよ、うん。ジャージいいよね、動きやすくてさ」

 

 ボクはそう言って、奏の私服センスに対する意見から全力で逃げた。

 うん、人間だれしも欠点はあるよね。それに奏は作曲の天才だし、ちょっとぐらいこういう部分もあばたにえくぼって言うか……。

 

「うん、瑞希もそう思うよね、ジャージは最強。動きやすいし、丈夫だし、すぐ乾くし、他のオシャレな服みたいに洗濯もめんどくさくないし、一年通じて着れる。正直言って人類の万能服だって、わたしは思ってる」

「ば、万能服……? そこまで言えるのってすごいね……」

 

 一点の曇りのない瞳でジャージの良さを力説する奏に、ボクは更に目線を逸らした。

 ヤッベ、奏ただのズボラじゃなくて、ジャージ教の信者のお方だったよ……どうしよ、君の可愛さが完全にジャージで死んでるよ。何て言おう……その呪いの装備(ジャージ)を、どうやって剥がそうかなぁ。

 そんな事を考えながら、ボク達は自己紹介を終えた後で三人で雑談をしていると、遅れて学校帰りの宮女の制服姿の雪がやってきた。

 

「……ごめん、お待たせ」

「あ……」

「雪……」

「あ! いらっしゃい雪! 大丈夫、全然まってないよ! みんな、まだ注文もしてないし」

「そう、よかった」

 

 そう言って、まだ雪とは少しぎこちない様子の奏と絵名の会話の間に入り、雪を手招きするボク。

 一応、三人は昨日で一通り、仲直り……っぽい会話をしたけれど、まだちょっとだけ、わだかまりはありそうだ。よし、この辺りは会話のクッション材の役目はボクが頑張ろっ。

 だって、ボクが一番楽しい空間を作る為だしね~。

 そう思っていると、いつの間にか雪がボクの所にまで来て言う。

 

「隣、座っていい?」

「あ、ここ? いいよ~! 座って座って!」

 

 ボクは笑顔で座ってる位置を奥に詰め、隣に雪が座れるスペースを確保する。

 そしてボクの隣に雪が座ったのを見て、ボクは意気揚々とオフ会の開始を宣言する。

 

「それじゃ、全員そろった所で、改めて自己紹介タイム行こっか! まずはトップバッター一番手、皆さまご存じのボクの名前は——」

「——私は、Amiaの名前知らない」

「——あっ、ゴメン雪、失礼しました~! という訳で、雪には初披露のボクのリアルネームは、暁山瑞希でーす! 気楽に瑞希って呼んでね? あ、ちなみにアダ名とかで呼びたい感じだったら『みっちゃん』『みぃくん』『みずみず』『みぃちゃん』『みずくん』、各種豊富にアダ名の方は取り揃えさせて頂いておりますので、皆さま是非お好きな呼び方で——」

「わかった。よろしく『みずくん』」

「——ブッ!? ゴホッ、ゴホッ……ゆ、雪っ……? 急になに……?」

 

 まさかの雪からのブッコミに、ボクは思わず対応できずにせき込みながら尋ねてしまう。

 だけど当の雪は、シレっとした無表情で言う。

 

「……冗談だよ、宜しく瑞希」

「も、もぉ……雪、冗談分かりにくいってぇ……じゃあ次はえななん!」

「はいはい、東雲絵名よ。……なんか、改まって名乗ると変な感じね」

「よっし、じゃあ次は——」

「宵崎奏……雪は?」

 

そう奏に問われた後で、暫く黙った後で雪は言う。

 

「……朝比奈(あさひな)まふゆ」

「まふゆ……だから、雪って名前だったんだね」

「………………」

「これからもよろしく、まふゆ」

「…………うん」

 

 へぇ、雪は“まふゆ”って名前なんだ。そのまんまだなぁ……ふふっ。

 じゃあこれからは雪じゃなくて、まふゆって呼ぼうかな。……まぁ、ずっと対面でも雪って呼んじゃってたし、すぐは慣れないから暫くは雪になっちゃうかもだけどね。

 そう思っていると、雪はペコリと座ったままで頭を下げた。

 

「……迷惑かけて、ごめん」

 

 それは、例の一件の謝罪だって事にボクはすぐに気づいた。

 すると、絵名は何処か不満そうに言う。

 

「……ねぇ。それ、ほんとに悪いと思って言ってるわけ?」

「……どうなのかな。自分でもよくわからなくて」

「……何それ? 主に被害者は瑞希だけど、散々振り回したんだから、もうちょっと反省して欲しいんだけど?」

 

 そんな不機嫌そうな絵名に、雪は無表情のままで言う。

 

「たぶん、反省してると思うよ」

「えっ……あんた、もしかしてこれからずっとこんな感じなの……!?」

 

 ハイ、絵名の爆弾の導火線に着火かくにーん。消火作業に入りまーす。

 これからはボク、この二人が会話する時は、この動きが基本になりそうだなぁ。

 そんな気持ちでボクは、二人の会話に割り込む。

 

「あー、はいはい! 注文しよ注文! ボクはもうお腹ペコペコ~。ほら、絵名は何にする?」

「……はぁ。私、お昼遅かったから、チーズケーキとアイスティー」

「私は……なんでもいいかな」

「いやいや、何でも良くても決めるんだよ! それ大事だから、分かった“雪”?」

 

 ボクが雪にそう言った瞬間、隣に座る雪の顔がグンッとこっちに向いて、ボクの顔に自分の顔をズイッと寄せながら、ボクを威圧するような目で見て雪は言う。

 

「“雪”じゃない。今は“まふゆ”」

「へっ……!? あ、う、うん……わ、わかったよ……ごめん、まふゆ」

「……うん、それでいい」

 

 すると、再び雪はスッと無表情になって前に向き直った。

 ……いや、ボク、なにかそこまで怒られるような事したかなぁ……?

 そう思ってると、絵名がため息交じりに言う。

 

「——ねぇ、あんた。どうしてそんなに過敏に反応するのよ。雪でも本名でも、どっちでもいいでしょうが」

 

 おっ、絵名ナイス! それちょっとボク気になってた!

 ボクが内心で絵名にグットサインを送っていると、雪は自分の事なのに首を傾げながら答えた。

 

「……? よく……わからないけど、瑞希に今は本名で呼んでほしいって、そう思った。だから注意した……それだけ」

 

 ——はい? いや、何なのさその謎理屈……。こっちこそよく分からないよぉ……。

 だけど、そんなボクとは違い、まふゆの様子に何かを悟った絵名は、ボクを見ながら嘆息して言う。

 

「はーん、へー、ほーん。なるほどぉ……自分の気持ちがよく分からないって、“それ”もよく分からないってコト? まふゆ、あんたも難儀してるわねぇ……本気で重症じゃない」

「……? 絵名は、私に何を言いたいの?」

「あ、あははは……絵名、ボクもちょっと訳わかんないんだけど……」

「みんな……いったい、何の話してるの?」

 

 そんな絵名以外、奏も含めて全員分かってないリアクションをすると、絵名はどうでも良さそうに視線を窓の方にやり、水に口をつけながら言う。

 

「さーね、私しらなーい。別にまふゆは私の担当じゃないし、瑞希、アンタが()()責任取んなさいよって、そういう話」

「う……、も、勿論それは、そのつもりだよ」

 

 勿論、中途半端な気持ちでまふゆの心の奥に手を突っ込んだつもりはない。だからボクは、絵名の言いたい事なんてさっぱり分からなかったけど、とにかくそう言って頷いた。

 それより、話がすっかり脱線していたことに気付いて、ボクは口を開く。

 

「あ、それより話がズレちゃってたね! で、まふゆ、何食べるの?」

「……瑞希はどうするの?」

「——へっ? ボク? ええっと……ボクはカレーライスかな」

「じゃあ、それと同じで」

 

 即決だった。

 うわぁ、ボクと同じモノって、なんて脳死選択……ま、それでも『ボクと同じのが良い』ってそう思ったって事だよね? よし、じゃあそれでいいや。一歩前進ってことで。

 

「じゃあ奏は?」

「わたしは……この、ワンタン麵にする。あと、ウーロン茶」

「じゃ、決まりだね! 注文して、乾杯しよ!」

「え、乾杯って、なんの?」

「え、絵名、そんなのニーゴの初オフ会の記念に決まってるじゃん! その為にみんなで集まったんだよ? ——あ、二人共、ボクこんな感じのテンションで行くつもりだけど、大丈夫?」

「……うん。わたしは、居心地は悪くない」

「私も」

「よーし! じゃあ二人のお許しも出たからボク、このままフルスロットルで最後まで行っちゃうぞ~! みんな、盛り上がってるかーい? いぇ~い!」

「……ふふっ、瑞希アンタ、流石にそれはちょっとテンション高すぎじゃない?」

 

 そんな賑やかな風に、ボクの待望のニーゴの初オフ会は幕を開ける事ができた。

 ボクがどうしてもこの皆でオフ会がしたかったのは、他でもない此処(ニーゴ)を、ボクのもう一つの居場所だって思えるようにしたいからだった。

 

 勿論、一番重要な本拠地は、志歩と杏の所だってボクは心に決めてる。

 

 でも、あんまり志歩と杏ばかりに依存しちゃうのは、それはそれで二人に悪いと思うから。頼れる場所はもっと多い方が良い。それがボクの事を“全部”知ってくれてる人達ならば尚更。だから、それが今日のボクのオフ会決行理由。

 よーし今日は、楽しい日にするぞ~!

 

 そう思いながら、ボクはニコニコ笑顔でみんなの会話を回していた。

 するとそんな中、まふゆはポツリと奏に対して言う。

 

「そういえば……奏、あなたが私の為に作ってくれた曲、聞いたよ」

「あ……うん。………どうだった?」

「……やっぱり、何も感じなかった」

「そう、わかった……でも、また今度作るから、その時はまた聴いて?」

「……うん、わかった。奏が無理しない程度に、待ってる」

「うん……ありがとう」

 

 へぇ……こう話を聞いてると、なんだか二人ともすっかり仲直りしたって感じだなぁ。

 うん、よかったよかった。みんな仲良しがやっぱり一番だもんね。

 まぁ……絵名とまふゆは相性最悪みたいだけど……いいや! 喧嘩する程仲が良いって、そういうことわざもあるしね!

 そう思って、ボクが絵名とまふゆの仲を取り持つのを諦めてると、絵名は言う。

 

「曲っていったら……まふゆはこれから『OWN』としての活動はどうするの? 今後もニーゴやりながら続けていく感じ?」

「『OWN』は……暫く休むことにした」

「「——えっ!?」」

 

 そんな唐突な爆弾発言に、ボクも絵名も二人して立ち上がった。

 嘘、君、鬼才の作曲家って言われてるんだよ!? 20万再生の動画投稿者だよ!?

 それをわざわざ捨てるって……

 そう思っていると、唐突にまふゆはボクの方を向いて言う。

 

「だって……元々私は、自分を見つける為に曲を作ってた。だから、これからは瑞希と一緒に探すから……ひとまず、そっちに集中しようと思って」

「え、えぇ……そうなの? う、うーん……なんだろ、何て言うか……勿体ないっていうか、こう、複雑な気持ちが……」

 

 絵名はまふゆの選択が理解できてないみたいで、複雑な表情をする。

 でもボクは、そんなまふゆの言い分に納得はできた。

 ……あぁ、そっか。君には他人の評価とか、才能があるって言われてる事とか、そんなの全部どうでもいいんだもんね。ほんと、スッキリしてるよ。

 ——でも。

 

 

「ねぇ……ボクは思うんだけどさ、まふゆは『OWN』、続けてみようよ」

 

「「——えっ?」」

 

 

 そんなボクの発言に、今度は絵名とまふゆが同時に言葉を漏らした。

 確かに驚かれるのは無理ないかもだけど、これも立派なボクの考えだった。

 

「だってまふゆはさ、自分を見つける為の方法で、“音楽”を作るのが一番良いって、それを自分で考えてやったんだよね?」

「……うん、そう」

「だったらさ、そう思った『自分』は、もっと大切にした方がいいんじゃない? ……っていうのが、ボクの考えなんだけど……どうかな?」

「『OWN』でいる時の“私”……」

「そうそう! だからさ……続けようよ、『OWN』。誰の為でもなく、まふゆ自身の為にさ。あっ、勿論ニーゴの活動で首が回らないって言うなら、ボクがまふゆの分の仕事で、もし手伝えることがあったら全部やるからさ! だから、ニーゴやりながら『OWN』も続けていこうよ!」

 

 そんなボクの言葉に、まふゆは考え込んだ後で言う。

 

「……たしかに、そうだね。これからも、『OWN』を続ける意味は、あるかもしれない。シンセサイザーも……一応回収したし。これからも曲は作れると思う」

「よっし! じゃあ、これからも『OWN』は活動続行だね! 頑張ってまふゆ、ニーゴの仕事の方で首が回らなくなったら何時でも言ってね! “雪”の仕事、なんでも手伝うから!」

「……へ、へぇ……結局、『OWN』続けるんだぁ……へぇ……ま、私は別にどうだっていいけど……?」

 

 絵名はそう言って興味なさそうにそっぽを向いてるけど、内心喜んでるのは丸わかり。

 だって絵名、なんだかんだ言って『OWN』の大ファンだもんね~?

 さーて、これから『OWN』も再始動するし、ボクもニーゴの動画担当として負けられないな~! もっといい作品作るぞ~!

 

 ——と、そんな風にボクが、この話題を外野気分で楽しんでいられたのはここまでだった。

 

 雪はボクの方を見て、とんでもないことを言う。

 

 

 

「だから瑞希——いやAmia。私と一緒に『OWN』やろう。動画、作って」

 

 

 

 ……………………はい?

 ボクはこれ以上ないぐらいのマヌケ顔を晒しながら、まふゆの方を見る。

 でもその表情には、さっきボクを『みずくん』呼びした、冗談に見えない冗談の色さえなくて。どこまでも、本気だった。まふゆは無表情のままで言う。

 

「どうしたのAmia? やるでしょ?」

「えっ……と、その……まふゆ……いや雪、本気?」

「……だって、一緒に探してくれるって、言った」

「いやっ……それは、言ったけどさぁ……で、でも、ボクにはニーゴがあるし……」

「大丈夫、私もニーゴ続ける。だからやろう」

「ちょ、ちょちょちょちょーっと待って……! 考えさせて……!」

 

 ボクはそう言って雪を制止し、慌てて思考する。

 え、嘘、ボクが“あの”『OWN』に、勧誘受けてる……!? い、いや、うぬぼれるなボク……これは、実力がどうこう関係なくて、完っ全に身内採用だよねコレ……えっと、どうしよう、確かにボクはまふゆの自分探しに責任を持つって言った。だから、この誘いには断る理由なんて勿論無い。

 でも……ニーゴの動画編集しながら、雪の……いや、今は呼び方変えよう。あのOWNの鬼スピードの作業量についていけるの……? OWNがメチャクチャ天才だから出来てるだけで、全能力値が高水準な程度のボクのスペックで……ついていける?

モノホンの天才に、ちょっとばかり出来る程度の人間が、ついていけるの……?

 えっと、どうしよう……自信ない。い、いやでも! ボクは、誓ったじゃないか! 雪にとっての希望になるって……! なら、よし……うん、やるぞ……よーし……。

 

 ——と、そんな風に心の準備を固めていると、そんな躊躇している様子のボクを見て、OWNは何を察したのか小さく頷いた。

 そして奏の方を向いてOWNは、またまたとんでもない事を言う。

 

 

「奏——いや、『K』。引き抜き交渉がしたい。Amiaを『ニーゴ』から私に頂戴。『OWN』にはAmiaが必要」

 

「——ふぇっ!? ちょ、ちょっと!? 何言ってるのさ雪ぃ!!??」

 

 

 堪らずボクは叫んだ。ニーゴから引き抜きって……いや、叫ぶしかないでしょこんなん。

 いや待ってOWN……ちょっと、我が道ゴーイングマイウェイすぎない? 話の展開がボクを置いていきすぎなんだけど。いい加減アクセルベタ踏みやめてって。お願いだからブレーキかけて? ね? 君の自分探しの相棒(パートナー)が今、混乱の極みだよ?

 

 そんな風にパニックになっていると、やがてKはゆっくりと口を開く。

 そのKの声色には、今まで聞いた事がないような冷たさがあった。

 

「ごめん、雪——いや、作曲家『OWN』。悪いけど、そんな申し出は受けられない。だって、Amiaの動画は『ニーゴ』には必要不可欠。だから……Amiaは貴女には渡せないよ」

「……そう、残念……もっと穏便に、引き抜き交渉はしたかったんだけど。どうしても、Amiaは私に渡せないのK? OWNの次曲からの活動にAmiaは要る。それはもう()()()()

「……知らなかった、OWNって人員の引き抜き交渉が横暴なんだね。そんなやり方で集めた人と一緒に、多くの人の心に届けられるような、そんな良い作品が作れると思ってるの?」

「『OWN』としての私は、良い作品を作る事を求めてないから、別に良い。作曲なんて私にとって、元からただの“手段”だから。誰の心にどう届くかなんて、別にどうでもいい」

「そう……わかった。悪いけど、OWNのやり方はわたしには理解できない。そんな貴女には……絶対にAmiaは渡せない」

 

 KとOWNが睨み合って交差する視線に、大きな火花がバチバチと激しく鳴っているような幻覚が見えて、慌ててボクは立ち上がって言う。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ二人共! お願いだから落ち着いて!」

「Amia、ごめん。今はKと大事な話をしてる。静かにしてて」

「……うん、安心してAmia。OWNと話をつけて、貴方は絶対に『ニーゴ』に居続けられるようにするから。だから……今は、静かにしてて」

「い、いや、違うって……! 落ち着いてよ二人共!! ボクの為に争わないで!?」

 

 

「あ~、おかあさんみて~、あたし、あれしってる~『しゅらば』っていうんでしょ~?」

「しっ、ダメよ……静かにしなさい……」

 

 

 そんなボク達のテーブルの傍を通る親子の会話が、ボクの心にチクチク染みた。

 だ、駄目だ……二人共聞いてくれない……! 助けて、えななんっ!

 そう思ってボクが、最後の望みを託すように絵名の方を見ると、そこには——

 

「あ~、なんか大変そうねAmia~。モテる男は辛いわねぇ~? あっ、この写真イイ感じに盛れてる。よーしSNSにアップしちゃおっと」

 

 ——嘘だろこの子っ……この緊急事態にスマホ弄ってやがるッ……!

 ボクはもう、頭を抱えるしかなかった。

 

「K、いい加減にして。Amiaは絶対に私がもらう」

「嫌、OWNには絶対Amiaは渡さない」

 

 そして、尚も止まる気配がない二人の喧嘩。

 あぁぁぁ……っ! もうっ! 最悪だよっ! なんでこんな事にっ……!

 

 

 もうやだ! 助けて志歩(しほ)ぉぉぉーーー!!

 

 

 ——結局、心の叫びも虚しく、ボクは二人が落ち着くまで長時間針のむしろに堪え、そして二人に今後、ボクは『ニーゴ』と『OWN』の二足のワラジを履く事を伝えたのだった。

 

 はぁ……なんだかこの、ボクのもう一つの新しい居場所には、これから先どんどん色々苦労させられそうだなぁ……。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

「——ハックシュン! ズズッ……あぁ……何だか、急に寒気が……」

「え~、志歩、大丈夫? 風邪引いた?」

「うん……大丈夫だよ(あん)……なんだか、一瞬だけみたいだったから。なんだろう……どこかで私の噂でもしてるのかな……?」

 

 そう言って私は、居るはずのない噂の発生源を探して、思わず周囲を見回してしまった。

 

 私はいつも通り学校が終わった後の放課後、今日は杏の誘いがあって、ビビットストリートにある杏の家の人が経営している『WEEKEND GARAGE』っていう名前の喫茶店に訪れていた。

 今は昼の遅い時間って言う事もあり、人は殆ど私以外いなくて貸し切り状態。そんな状況だからこそ、私は店員として働いてる杏を独り占めして会話をしているのだった。

 

 本当は瑞希も誘いたかったけれど、今日はネットの“仲間”と約束があるらしくて、それならと断念した。

 でもこんなにもいい雰囲気のお店なんだし、次は絶対に誘いたいな。

 

 ちなみに、前に相談していた子の問題は何とか解決できたみたいで、瑞希は朝学校に登校してから、私に何度もお礼を言ってくれた。

 全く……自分が頑張ったからだって思うのに、どうして瑞希は、ああも私を持ち上げるんだろう。

 そこら辺の自信も、いつかついてくれたらいいんだけどな。

 そう思っていると、店の奥から妙齢の男性が——杏のお父さんが出てきて言う。

 

「すまん、杏。良い豆が入ったと連絡が来てな。少し行ってくるぞ。夜のバーの時間には戻る。……志歩ちゃんも、折角来てくれたのに悪いな。店番に杏を置いていくから、自由にくつろいでてくれ。なんだったら、杏の練習台になってくれるならコーヒー一杯も無料で良いぞ?」

「あ、はい……ありがとうございます」

「じゃ、行ってくる。後は任せたぞ杏」

「はーい、了解。お客さんは志歩だけだし、ゆっくりしてきて大丈夫だよ」

 

 そう言って、杏に任せて店を出て行く杏のお父さん。

 ——ちなみに名前は白石(しらいし)(けん)という人で、店長から聞いた事がある、“あの”伝説とまで言われたイベントの立役者で、このビビットストリートの中でも実力トップクラスの歌の実力を持つミュージシャンだったのだという。

 まさかそんなスゴイ人が友達のお父さんだなんて……本当に世間は狭い。

 

「さーて、じゃあ志歩、お父さんのお許しも得たから、ちょっと私の()れたコーヒー味わってみちゃう?」

「えぇ、杏に任せたら、凄く苦いの飲まされそうなんだけど、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫! ちゃんと練習してるし、まかせといて~!」

「ふふっ……じゃ、お願いしようかな」

「おっけー、任されました~!」

 

 私が杏とそんな会話を交わしている時だった。

 

 ——カランカランと、誰かが入店してくるベルが唐突に鳴る。

 その音に、杏は流石の店員としての経験値で、条件反射的に反応した。

 

「いらっしゃいませ! ……あれ?」

 

 だけどそんな杏の、ただのお客が入ってきたにしては妙な疑問符の反応に、私は思わず入店してきた人間を見てしまう。

 するとそこには、私に何か運命的なめぐり合わせを直感的に感じさせてしまうような、そんな子が立っていた。

 

 

「あっ……! あ、あの……その……っ!」

 

 

 その子は、亜麻色の長い髪をツインテールにしてメガネをかけた、これ以上ないぐらいに緊張しながら言葉を発する気弱そうな女の子。

 

 ——だけど、私がその子の姿に運命的な何かのめぐり合わせを感じてしまったのは、その容姿にじゃない

 その子は私が去った学び舎である——宮益坂女子学園の高等部のセーラ服を身に纏っていたからだった。

 

 それに杏は気づいたのか私をチラっと見た後で、緊張している様子のその子にニッコリ笑って言う。

 

「あれ? もしかして、緊張してる?」

「えっ! あっ……ごめんなさい!」

 

 杏が尋ねた瞬間、ブンッと勢いよく腰を90度に曲げながらその子は大きな声で謝罪してしまった。ガチガチに緊張しているのが見るからにわかるような様子だった。

 だからこそ、杏は安心させるように笑って言う。

 

「あはは、大丈夫だって。そんなに固くならないでよ。その制服、宮女のだよね? だったら私達と同い年ぐらいでしょ? ね、志歩?」

 

 そう言って、このあがり症の子には二人っきりで会話を強要される場より、複数人居た方がリラックスするだろうと杏は判断したのか、私に向かって言葉をかけた。

 だから、私は頷いて言う。

 

「うん、そうだね。あなた、もしかして一年生?」

「——は、はいっ! わ、私、高校一年生ですけど……」

「じゃあ一緒だよ! 私達、神高の一年だから!」

 

 杏がそう言うと、その子は杏を見ながら目を大きく開いて言う。

 

「一年生……!? 私より年上だと思ってた……」

 

 そんなその子の呟きに、私は内心で思わず『同感』と返さずにはいられなかった。

 そんな状況でも杏は自己紹介を続ける。

 

「あはは、私、白石杏。よろしくね」

「あ、小豆沢(あずさわ)こはねです! その、よろしくお願いします。えっと……白石さんと……その、あの……」

 

 そこで、小豆沢さんが私を見て困ったような表情を見せる。

 これは……私も自己紹介をした方がよさそう。

 そう思って、口を開く。

 

「私は、日野森(ひのもり)志歩(しほ)。よろしく」

「はっ……はい! よろしくお願いします、その……日野森さん」

 

 

 

 ——そして、幸か不幸か、今日この日にあった小豆沢さんとの出会いがきっかけで、私はこれから、杏が目指す“伝説”に一部関わってしまう事になってしまう事になるとは、この時にはまだ思いもしていなかったのだった。

 

 

 

 

 

Thank you for reading !

To be continued...

 

 

 

 

【Vivid BAD SQUAD 編】へ続く。

 

 

 

 

 






今回まででPixivに投稿していた分は全てになります。

次回からは更新は不定期になります。暖かい目でお待ちして頂ければ幸いです……。
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