とある大学病院の病室。
特別に用意された個室にはナーヴギアを被り、横たわる青年の姿があった。
枕元には巨大なバッテリーらしき機械と栄養を送り続けている点滴台がある。
他にも青年の体からは服の下から電極のコードが伸びていて、一定に波打つ心臓の存在を示す機械から発せられる電子音だけが響く。そんな中、部屋の扉が静かに開いた。
「やっほー、今日も来たよお兄ちゃん」
それは今も2年に渡るデスゲームから一向に目を覚まさない青年の実の妹だった。
兄とは2つほど歳が離れた小町は現在、昨年から東京に帰り、兄が通ったスイコーに通学している。
2年前。
一年間会っていない兄がSAOというデスゲームに閉じ込められたのを親から聞かされた時は信じられず、体調を崩して一週間ほど学校を休んだ。
しかし、体調が戻るとすぐに家族と一緒に入院しているという大学病院に向かった。
そのとき既に兄は「SAO患者」専用の隔離病棟にいた。
兄同様、大人から子供まで沢山の人が同じように頭にナーヴギアを被りベッドに横たわっていた。
四人一部屋の病室の窓側で横たわる兄の横に三人で腰を下ろすと、父も母も何も言わずただただ兄の顔を見つめていた。
2年前の腐った目や捻くれた言動からは想像出来ない幼い寝顔がそこにはあった。
何分経っただろうか。
この沈黙に耐え切れず私が飲み物を買って来ると言って部屋を出ると、
突然ナースコールが廊下に響いた。
どうやら隣の病室のようだ。
すぐにナースステーションから白衣を着た人が走ってきて隣の病室に入っていった。
急いでいたのかスライド式のドアが開きっぱなしになっていることに気付き、私はそっと覗いてみた。
部屋の中ではナーヴギアを取り外された患者とその横に立つ医師の姿があった。
患者の状態を示すモニターに表示された数値は時間と共に低下していき、三分もかからず軒並み0になった。
実際にこの目でSAO患者が死ぬところを見たのは初めてだった。
それは自分が想像していたものよりずっと静かであっけなかった。
いつか、兄もこうなるのではないか。
そんな考えが頭に浮かんだ瞬間、私の視界はグニャリと歪んだ。
2年前に私が倒れた時からというもの、私はSAOに関するニュースを聞くと今でも気分が悪くなる時がある。
あの時、父と母は私が死んでしまうのではないのかと思ったそうだ。
そのため、両親は今まで以上に私に対して気を使うようになった。
「お兄ちゃん、小町はもう大人だよね?」
そう呟きながら、寝ている兄の手を握る。
手から伝わってくる温もりは以前の兄のものと変わっていなかった。
今、兄はどうしているだろう。
ふと気になった。
「…………早く帰ってきてよ、お兄ちゃん…」
私のコトバは隣で眠る兄には届かず、窓の外に広がる青に溶けていく。