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SAO、このデスゲームが始まってから2年後。
俺、比企谷八幡ことエイトは今日も第74層の迷宮区に潜っていた。
ここ二週間ぐらい連続してマッピングをしているが、一向にボス部屋までたどり着けない。
さらに、上の層になると同時に敵のアルゴリズムにも変則性が見られるようになった。
つい先日は、ソロでは致命的となる回復系アイテムが底を尽きるというところまで追い詰められ、HPバーがレッドゾーンになるまで朝から晩まで迷宮区で戦い続けたが大した成果は上がらなかった。
「………キッツイな…」
誰にも届かない独り言をもらすと、目の前で光の欠片となり消えて行く敵オブジェクトを一瞥する。
右手に持った長くしなやかな真紅の片手剣、「ハンニバル・リフレクト」を鞘に収めると、迷宮区を出て街へと向かった。
元々。
高校生になっても俺はぼっちだったワケで。
そしてゲームでも俺の特性?はいかんなく発揮され仲間との連携が重視されるSAOで、まさかのソロプレイヤーとなったワケで。
俺はまたしてもリア充(笑)とは縁遠い存在になっていた。
しかしソロにもメリットが少なからず存在する。
一つ目はしがらみが無いということ。
ドロップしたアイテムは問答無用で自分の物だし、戦闘中も仲間の安否に気をとられることもない。
二つ目は………二つ目は…特に無いな、うん。
そんな事を考えながら俺と話すことができる数少ない友人であるエギルの店へと向かう。やだ、俺って世界樹みたいでカッコいい!頂をを目指して妖精達が戦う的な。おや、どこからか電波を受けとった気がする。
まあ、それは置いといて。
エギルは外見こそいかついが、情に厚い男だし、あまり深くは入ってこないから丁度いい距離感を保っていられる。
俺も以前に知り合ってからは一週間に一度はアイテムの精算等でエギルの店へと足を運んでいる。しばらく歩くと店の看板が見えてきた。
薄汚れた道が複雑に入り組んだ路地を足早に抜けて店のドアを開けた。
「いらっしゃい……よう、エイトか。久しぶりだな。……ここ二週間ぐらい顔出さなかったってことはまた迷宮区に潜ってたのか?」
「ああ。その割には特に目新しいものにも出会わなかったんだが」
「………エイトももう少しだけ休み入れたらどうだ?急ぐ気持ちも分かるが、死んだら本末転倒だぞ」
「別に急いでるわけじゃない」
「まあ、気を付けろよ。生き急ぐヤツほど死にやすいって言うしな」
「ご忠告どうも」
「そういえば…軍の連中が最前線の迷宮区で死亡したって話、聞いたか?」
「……? 知らないが…」
「なら教えとくぞ。一部隊約15人で構成される軍の探索隊が二日前に消息を絶った。
で、いつまで経っても帰投しないからはじまりの街の黒鉄球に見に行ったところ、そいつら全員がすでに死亡していたというワケだ」
「はあ?15人もいたんだろ?いくら最前線でもそれだけいれば編隊も組めるし、普通は死なないだろ」
「普通に考えるとな。でもここからが本題だ。その軍の連中、最後に目撃されたのがこの場所だ」
そういいながらエギルはウインドウを操作し、3分の2が既が明らかになった74層の迷宮区の地図を広げる。
そして、まだ完全に未知の領域となっている南西部にほど近い場所に人差し指を置いた。
「ここって…」
「まだ各ギルドが安全のために立ち入り禁止区域に設定しているところだ。
まあ、軍の連中は頭がかたいからな。無視して侵入したと考えてまず間違いない」
「で、その後に全滅って事は……大方、ボス部屋を発見した後そのまま挑んだってことだろうな」
「多分その可能性が一番高い。そしてそれを受けて血盟騎士団、アレクト・セレスの両ギルドが明日、南西部に大規模な捜索・討伐隊を派遣するって発表したんだ。まあ、ボス部屋自体なら明日中に見つかるだろうがな」
「そしたら俺たち攻略組の出番ってワケか」
「そういうことだ。まあ、招集がかかるまで気楽に待とうぜ」
カウンター越しに俺がエギルと話しこんでいると、またもや後ろのドアが開き人が入ってきた。
「よ、エギル。エイトも来てたのか」
「おう」
「どうしたキリト。お前も精算か?」
「いや、今日はクリスタルの補充だけだ」
「はいはい、ちょっと待ってろ」
「サンキュ。ところでさエイト。お前は明日の大規模スキャンの話、聞いた?」
「たった今エギルから聞いたとこだ」
「そうか、なら話は早いな」
「…んだよ」
「いや、情報屋によるとさ、74層のボス部屋はクリスタル無効らしいんだよ。ソロだし緊急離脱が出来ないのはキツイだろ?
だから今回は俺と組まないか?」
「……別にいいけど、危なくなったら助けるが俺は基本1人でやるぞ。助け合いなんて出来るほど豊かな人生歩んでねえからな」
「りょーかい」
「じゃ、招集かかったら適当にメッセージでも飛ばしてくれ。じゃあな」
「ああ」
そう言って店を出る。
振り返らずに後ろ手で扉を閉めると、転移門がある広場へ向かって歩き始めた。
俺は汚い路地を進みながら、ふと二年前を思い出していた。
第1層。
初のボス攻略に向け集まった有志は30人とちょっと。
そして彼らにボス攻略を呼びかけて集めたのはディアベルという男だった。
しかし、周りが次々とチームを作る中、SAOが始まってもまともに話せるヤツすらいなかった俺は初回チュートリアルで出会ったキリト、そしてキリトの知り合いのアスナ、アスナの現実世界の友達であるユキノ、ユイとグループを作った。
今までぼっちだった俺が他人とグループを作るなど神の所業も同然であるハズなのに、キリトが連れて来た女子三人は全員がまごうことなき美少女だった。
なかでもユキノというやつはこんな完璧なヤツがいるのかと思うぐらい整った顔立ちで、腰近くまで垂らされた黒髪は美しく、現実離れしたものだった。しかし性格はキツく、話をするたびに俺の心は廃れていった。
そのため心苦しいが「絶対に許さないノート」にまた1人、名前が刻まれることになってしまった。
もう一人の女子、ユイは明るい茶髪が印象的な笑顔が似合う女の子だった。
しかし一目見た瞬間、俺のリア充(笑)警報器が唸りを上げて警告し出した。これはアレだな、ビッチ確定ルートだな。
そうして俺はチームを組みながらも、この二人からは距離をとることにしていた。
結論から言うとボス攻略は成功した。
しかし戦闘中、キリトが1人猛然と切りかかったディアベルに回避を叫んだのが引き金となり、キリトやチームを一緒に組んでいた俺達がベータテスターだと怪しまれていた。(まあ、実際一名その通りだが)
そのために俺達がボスを倒した後も空気は悪くなる一方で、こうなるとベータテスターとそれ以外のプレイヤーの間で確執が起こるのは明白だった。
キリトだけじゃない。
他のベータテスターも他のギルドへ入る事が難しくなるどころか、下手したらベータテスターへの嫌がらせ、果てはPKなども考えられる。
確かに俺は内輪揉めは歓迎するが、俺や俺の知り合いが内にいる場合は別だ。
だから。
これからやることは正しいことだから。
俺の犠牲で皆が丸く収まるのなら。
これが一番効率が良いから。
そうやって自分に欺瞞に満ちた言い訳を聞かせると、俺は覚悟を決めて大きく息を吸い込んだ。
そして。
「……ハハハハハハ!」
思い切り笑ってやった。
俺の周りにいたプレイヤー達が何事かと俺を見る。
それを確認すると俺はまた口を開いた。
「……あまり笑わせんなよ。元ベータテスターだって?この俺をキリト達みたいな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」
モブ(ゴメン名前分からない。たしかキバオウだった気がする)「な、なんやと⁉︎」
「ボス攻略には攻撃パターンの把握が必須だ。でも、ディアベルはパターンを把握し切らずに飛び出した。その状況で仲間に回避を叫ぶのは普通の事だろ」
「じゃあ、…なんでお前はディアベルはんに何も言わんかったんや!」
今俺は分岐点に立っている。
下手をすれば明日にでも死ぬかもしれないほどの。
まだ間に合うかもしれない。
引き返すなら今だ。
自分の中の弱気が首をもたげるが、瀬戸際で抑える。
1度、両手を強く握りしめて広げる。
手は汗で異常なほど湿っていて、全身が火照っている。
そして俺はこの日一番の、もしかしたら人生で一番の腐った目と下衆い笑顔でこう言った。
「んなもん、考えなくても分かるだろ。
第一、元ベータテスターって言ったって、俺以外のほとんどがレベリングすら知らない初心者だったぜ。お前等の方がまだマシだっての。
でもディアベルってヤツはベータテストで得た情報を使って、俺と同じように他を出し抜こうとしてた。
それじゃあ困る。
アドバンテージがあるのは俺だけでいい。そこにボス攻略だ。利用しない手は無いだろ。
つまりディアベルは俺にとって邪魔だったんだよ」
「な、な、なんやソレ……お前のせいでディアベルはんが!」
「おいおい、俺のせいにするなよ。
ラストアタックボーナスを狙ってお前等を出し抜こうとしたのはディアベル自身だ。
既にディアベルにお前等全員騙されてたんだよ。
俺にキレるのは筋違いだろ」
「お前……最低や!恥ずかしないんか!」
「生憎、そんなプライドは手持ちがねぇんだよ。
…てか、お前ヒマなの?
やること無いなら俺と違って、未だに右も左もわからない無能な元ベータテスター共を助けてやれっての。その方がディアベルも喜ぶと思うぞ。
……じゃあな」
そう言って振り返り、絶句するモブを一瞥することもなく俺は第2層へと続く扉へ向かった。
「待って」
扉まであと少しというところで後ろから声をかけられた。
振り返れば、ユキノが立っている。
「…………んだよ」
「貴方、ベータテスターじゃないでしょう」
「……だったら?」
「なぜあんな事を言う必要があるのかしら。元ベータテスターとそれ以外のプレイヤーとの関係を改善する方法なら他にいくらでもあるじゃない」
「……これが一番効率が良かった。それだけだ」
「そうね。確かにそうかもしれない。でもなぜ貴方は自分を犠牲にするのかしら」
「…………自分で言うのもなんだが、この通り捻くれてるからな。嫌われ者には慣れてんだよ」
「私は……私は貴方のやり方、嫌いだわ」
「……………お前は強くなる。俺みたいなヤツと関わらない方が良い。
それだけだ、じゃあな」
「……………」
俺は最後の最後に差し出された優しさを跳ね除け、重い扉を開けた。
ここから先は一方通行だ。
(あれ?またなんか変な電波受けとった気がする)
またしても独りとなった俺の未来を暗示するかの様に、先にある空間は暗く、冷たい。
これからやることはもう決まっている。
他の誰よりも強くなり、独りで生きていくしかない。
このデスゲームから生きて帰るために。
現実世界に残してきた人達を守るため。
俺はかたい決意と共に一歩、 前へ踏み出した。
どうやら記憶を辿っていた内に家の前に着いていたらしい。
ため息をつくと人目につかない暗い細道に面した、古臭い扉を開けて中に入る。
一年半前、そこそこ金が貯まった俺は大金を手に家などを買い取り、売るという方法で生業をたてているプレイヤー(ようは不動産屋。NPCではない)のところへ向かったがプレイヤーネームを出したところで追い返された。
おそらく第1層での事件のせいだろう。
彼らのおかげで俺の事はほとんどのプレイヤーに知れ渡ってしまっていたらしく、誰もが話かけても無視するし、後ろ指を指す。
そのため俺は、NPCの店か先のエギルの店しか利用しない。
その後、いくつか店をまわったが全て名前を言った途端追い返された。
仕方なく俺はNPCが売っている第8層にある、誰も寄り付かないような薄暗い小さい部屋を買い取った。
この頃には大抵のプレイヤーが、中層に位置する華やかな雰囲気を持つ街に家を持っていたので、この周辺には俺以外入居者は存在せず、層全体の人口もぶっちぎりで低かった。
以前、未だに友交があるキリト達から家の場所を聞かれたが教えることはなかった。
別に教える必要はないし、人の口には戸が建てられない。
家がバレて他のプレイヤーから嫌がらせを受けたりしたら最悪だ。
俺は装備を解除すると、晩御飯も食べずにベットに向かった。
明日は久しぶりに休もう。
そう考えつつベットに転がり瞼を閉じると、俺は深い眠りへと落ちていった。