異世界卜部 〜異世界でもコードギアスの世界でも四聖剣は虚名にあらず!〜 作:シャール
「しかしこれはまた鬱蒼とした森だな。」
見渡す限りの木!木!木!!
「このままではジリ貧だぞ。」
サバイバルナイフで木々に絡まった蔦を斬りながら森を進んでいく。
額に浮いた汗を袖で拭うが、次々と新しい汗が流れ出てくる。
「さて。飯でも探すか。」
腹の虫が鳴き出してきたので食料を探すことにしよう。
辺りを見回しても到底食料になりそうなものは見つからないが。
っと。あれは。
「キノコなのか・・・?」
そこにあったのは赤色の下地に白い水玉模様が傘にあるキノコらしいキノコだった。しかし普通のキノコとの違いは、一メートルほどはあろうその異様なまでの大きさと、くねくねと動いていることだった。
「もう何が来ても驚かんぞ・・・。」
俺はサバイバルナイフを手に持ったままキノコへと近づいていく。
キノコが振り返った?
そこには黒い粒二つと穴が一つあった。まるでそれは顔のように見えた。
「プシャァぁぁぁ!!」
そうとしか言いようのない音を立てながらその口のような穴から粘性の紫色の液体が放出された。
「危ないっ!」
身の危機を感じそれを避ける。
俺の身体能力もまだまだ健在。これでも四聖剣なのだ。
その液体は地面に当たるとプスプスと音を立てながら白煙を上げていた。どうやら避けて正解だったらしい。
「四聖剣の名、伊達ではないぞ!」
吐きかけられる粘液を避けつつ、すこしづつキノコへと近づいていく。そして遂に刃の届く位置に!
「覚悟!」
振り下ろしたナイフは顔部分を一刀両断。そのキノコは活動を停止した。
「お命頂戴!」
すぐにキノコをナイフで捌いていく。中にはキノコには無い謎の袋があった。
ここで先ほどの粘液を分泌。貯蔵しているのだろう。さしづめ河豚の毒袋といったあたりであろうか。
まずは一口。そのままの素材で。
「ッ!?」
えぐみが強すぎてまともに食べれるものではないな。キノコ刺身は無理そうだ。
それならば煮てあく抜きをするとどうなのかと思いつく。
キノコをバラバラに解体し、ほぼ空だったカバンの中へと詰めていく。やはりあの大きさ。2キロほどはどうしても鞄の中には入らなかった。
俺はその残骸に両手を合わせた。
「せめて誰かの糧になってくれ。」
そう言うと俺は鞄を背負い直してまた森の中を歩き始める。
今の目標は水場を見つけることだ。川でも湖でも。最悪沼でもいい。
幸い森の中。草木が生い茂っているということは水の確保も容易ということだ。
しばらく歩いているとザーッという音が聞こえた。
これは滝の音に違いないと思い、走って音の主の方へと向かう。
「川だ!」
そこにあったのは川幅10メートルはあろう見事な川だった。
「ここで直に飲むのは素人。」
歩きながらサバイバルナイフで掘った木のコップで水を掬う。
「ここで火をどうつけるかだが・・・。そうだ。」
拳銃弾を一発取り出し、石で薬莢を叩く。すると薬莢が変形して弾頭が外れた。中から黒い粉。火薬を取り出す。
次に河原に転がっている石を見定める。
「これだこれ。」
見つけた。チャート。これ同士をこすり合わせると大量の火花が出るのだ。
適当に木の枝を拾い集め、松ぼっくりも拾っておく。これが焚き付けとして役に立つのだ。
適当に木の枝を地面に置き、それを少し大きい石で囲む。これで火が風の影響を受けにくくなり長持ちするだろう。最後の仕上げに松ぼっくりに火薬をまぶす。
そしてその上で火打石同士を叩きつける。それは線香花火のように赤い火花をまき散らし、遂には着火。
松ぼっくり全体が燃える前に石に囲まれた木の枝の中へと放り込む。そして水を入れたコップをその中に置いた。
「これでしばらくは大丈夫だろう。」
鞄を枕に見立て、仰向けに寝転がる。厳島の戦いを思い出す。あの時も補給が間に合わず食い物と飲料を自給自足していた。まさかその時の知識がもう一度役に立つとは。
「物は試しだな。」
キノコの軸のぶつ切りを串に刺す。それを焚火の上であぶっていく。
「うむ。いい匂いだ。」
ジュウジュウという音を立てながらキノコの表面が少し焦げ始める。
この焦げすぎない程のおこげがたまらないのだ。素材の香ばしさが倍増する。
「では、いただきます。」
まずは一口。
悪くはない。独特な歯ごたえの中にキノコ特有の香ばしさを感じる。だがまだ物足りない。やはり日本人としては醤油が欲しくなる。ついでにバターがあれば文句ない。
しかしこれは上々だ。しばらくは食い繋いで行けそうだ。
しかしここはどこなのだ。
あの時俺は確かにバベルタワーにいたはず。それに己が身を挺してゼロを守ったはず。つまり生きているはずがないのだ。仮にあの時緊急脱出装置を使ったとしても、生き残れるはずがないし何より。
「俺は月下に乗っていた。」
理解ができない。一体俺の身に何が起こったのであろうか。
確かなことは、俺はまだ生きているということだ。今口の中でうま味を感じてそう確信した。
俺はキノコの肉をかみしめる。
「ならば確かめねばならんな。俺がどこにいるのか。」
一度拾った命。今度は己が為に使おう。
「しかし鯛もひとりはうまからず。寂しいな。」
・
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「遠くに見えたの。」
「ああ?」
少女が指さした先には小さく赤い光が見える。
「敵だと思うか?ミリー。」
ミリーと呼ばれたその少女は首をかしげる。
「分かんないの。」
頭の上にある猫耳をぴょこっと揺らす。
そう、この少女は猫人と呼ばれる種族である。その種族の特徴としては眼が利き、他のものの気配察知に優れるという。
「クソ。とりあえず上官に報告しないとな。頼めるか。」
「分かったの。」
少女は四つん這いになると木を駆け上り、枝から枝へと飛び移る。
「ったく、魔族領国境警備は楽じゃねえぜ。転属願いなんて出すんじゃなかった。」
その青年。ヘルベルトは呟いた。
それもそのはず。現在この青年が属する国。神聖アルタニア帝国と魔族領。ここでは仮に魔王国と呼称しておこう。
それらは今絶賛戦争中である。この森はそこまでではないが、グリーファス平原では絶賛血で血を洗う大合戦が行われている。
話を戻そう。この青年ヘルベルトは元々、その平原より東部の戦線で戦っていた。
しかし彼は隣で死んでいく見方たちに恐れを為して、転属届をダメもとで提出。『どんなに過酷でもここ以外に行きたい』という素直な気持ちを綴った。
そんな都合の良い文章。軍部が見逃すはずがなかった。
彼が転属となったこの場所はアンヴィス大森林。確かに戦闘こそ小競り合いほどしか起きてはいないが、この緑の地獄は両軍にとって過酷なものだった。
まず蒸し暑い。高い緑の木々のおかげで森全体の湿度が逃げることなく、まるで蓋をした鍋のように森全体が蒸し暑い。それに伴い増殖するのが虫。虫。虫。
人間の血を吸血する虫から強力な毒をもつ虫。でかい虫から小さい虫まで粒ぞろいだ。
それに、視界が悪い。
そう。彼の任務は国境警備なのだが、その任務における最大の障害はこれに限るのだ。
昼かよるかもわからない薄暗い森の中の行動は常に気を張らなければならず、これが中々疲れるのだ。
そして極めつけは森の魔物たち。
前に挙げた二つの理由が霞むぐらいこれが酷い。
森に現れる魔獣は軒並み強敵だらけ。木々を飛び移るツリーパンサーに始まり。全然怠ける気のないイェーガースロス。そして集団行動を得意とする緑の小悪魔。アーミーゴブリンまで。
そして極めつけは、シンプルだが誰も敵わない火竜。ワイバーン。
青年はここに来てまだ2週間だが気が付いていた。
(これ、地獄じゃねえか。)
と。
しかし、魔族にとっても危険である土地にも関わらず、彼らは常に虎視眈々とこの森より迂回。グリーファス平原での挟み撃ちを狙っているのだ。
時々彼らの斥候隊を見つける。それを報告、せん滅するのがこの青年の仕事というわけだ。
「あーあ。やってられないぜ。」
あの焚火ではどのような魔族が待ち構えているのだろうと、妄想してみるがどうも不安がぬぐえない。
魔族は個体によって強さがまるっきり違うのだ。魔法の力に秀でたものもいれば、純粋な力が強い者までいる。これまでは何とか運よく大したことのない敵だったがいつ返り討ちに遭ってもおかしくはない。
青年が考えを巡らせていると、背後からがさがさと音がする。
腰に下げた剣に手をかけようとすると。
「ヘルベルト。例の明かりはまだ見えるか。」
ああ。分隊長だったかと彼は安堵した。
「ええ。あそこです。」
「ふむ。あそこか。」
そう言った分隊長ことアリシラは顎に手を当てる。
ヘルベルトは顎に手を当てた彼女を鼻の下を伸ばしながら凝視する。
噂では彼女も元々激戦地であるグリーファス平原で戦っていたらしいのだが、今では何故かこのさびれた部隊に転属となってしまったようだ。彼には知る由もないだろうが。
しかし青年はその美しいさまに見とれていた。
凛とした顔にはまるで二つのエメラルドをはめ込んだかのような美しい瞳。切れ長の鋭い目は何度も視線を潜り抜けてきたのだろうと感じさせる。
口も口角が下がっているがこれがまたいい。たまに微笑むその時にギャップを感じてついつい見とれてしまう。
そして極めつけはこのような劣悪な環境でもさらさらとしている金色のショートヘア。
すれ違うたびにいい匂いもして彼の理性はいつも崩壊しかけるのだった。
そのように青年はアリシラに見とれていると。
「おい。ヘルベルト。聞いているのか。」
そう。聴覚に向ける集中力など今の彼には・・・。
そして振り下ろされる拳。
「痛いですよォ!分隊長!」
「話を聞かぬ方が悪い!」
怒った顔も様になっている。
「すみません。もう一度お願いします。」
憧れの対象には誰だって嫌われたくないだろう。彼の顔つきはすでに兵士のものへとなっていた。
アリシラの方もそれを感じ取ったのか。
「今から討伐隊を組む。さしあたっては先鋒を貴様に任せたい。」
「お、俺ですか?」
初めての経験。青年にとってそれが意味するものは『危険』だった。
「で、でも俺が先鋒を務めたら、みんなの迷惑に。」
「ここ2週間お前を見てきた身では、妥当としか言えない。それほどまでお前は強い。」
青年の胸が高鳴る。
「ほ、本当ですか?」
「ああ。本当だ。期待している。」
青年はさぞ歓喜に打ち震えただろう。
「是非!先鋒を務めさせてください!」
「そうか。貴様なら引き受けてくれると思った。」
そう言うとアリシラはヘルベルトの肩を叩き、その場を後にした。
ヘルベルトには見えないように悪い笑みを浮かべながら。
肉壁ヘルベルト。完成である。
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「ふう食った食った。」
俺は少し膨れた腹をさする。そういえば軍隊に入った時から一人の時間はあまりなかったように感じる。
「案外悪くないものだな。独りも。」
辺りを見回しても人一人の気配も感じられない。まるでこの世に一人だけ取り残されてしまったかのようだ。
その中でも焚火がたまに弾ける音が癒しとなっている。
「流行るかもしれんな。独りキャンプ。」
そうか。俺は夢を持ったことがあまりないのかと気が付く。
幼少期より父の背中を追って軍人を目指し、気が付いたら軍人になっていた。
当たり前のように軍人になったつもりだが、それは敷かれた線路の上での事。俺自身は果たして何になりたかったのだろうと思い返す。
そうだ。幼年の頃より嗜んでいたこと。食。
臆することなくいろいろな素材を食らった。俺は舌が肥えているに違いない。
四聖剣の顔ぶれにも俺の手料理は喜んでもらえていたと思う。
朝比奈にコーヒーには醤油を入れるといいと伝えたときは正気を疑われたものだが、今や彼の好物になったのは言うまでもないだろう。
仙波大尉にもお前の料理には趣があると褒めてもらったことがある。
千葉には独特な味と面と向かって言われたが、彼女の正直な性格を考えると他には無い味ということだろう。
藤堂中佐には食べてもらうことが叶わなかったが、表面に出すことが苦手なきっとあの方も美味しいと褒めてくれるだろう。
「そうか!」
ひらめき。それは突然天より舞い降りる。
「今いる場所が別世界だったら、俺は。」
夢。
「料理人になる!」
ささやかな夢。俺はついに見つけた。