異世界卜部 〜異世界でもコードギアスの世界でも四聖剣は虚名にあらず!〜   作:シャール

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卜部 舞う

「む。」

 

 未熟な動きだな。

 背後の草むらから何者かが監視している気配を感じる。

 

「何者だ!」

 

 俺がそういうと草むらの中から一人の青年が飛び出してきた。

 

「うおおおおおお!」

 

 まるで猪。技というものを知らないのか。

 

 木の棒を手に持ち、男の剣による攻撃を躱しながら頭部に打撃を与える。

 

「いてっ!!」

 

「まだやるか。真剣ならば決着はついているぞ。」

 

「く、クソッ!誰か!」

 

 その声を皮切りに草むらの中から3人ほどの男と1人の女が現れる。

 

「やはり伏兵がいたか。」

 

「そこの貴様。見たところ人間だが魔族の斥候であろう。捕縛する。」

 

 リーダー格の女が仰々しい態度でそう言った。

 

 そもそも俺はこいつらと戦う意志は無いが、一度疑われてしまったのだ。肌で感じる。ここは只では済まぬと。

 

「四聖剣の実力。侮るなよ。」

 

 弾帯ベルトにぶら下がったサバイバルナイフを鞘から抜く。

 

「それを抜くということは分かっているな。」

 

「俺は捕まるわけにいかんのだ。」

 

 そう。せっかくの自由の身。捕まってしまっては元も子もない。

 

「やれ!」

 

 女がそう言うと、先ほどの青年を合わせた4人の男どもが一斉にかかってくる。

 

 だが動きは素人に毛が生えた程度。それならば!

 

「甘い!」

 

 そんなに振りかぶっては振り下ろすのに時間がかかるというもの。

 俺は軍靴のつま先。すなわち衝撃吸収用に入った鉄板で顎髭が生えた男の顎を蹴り上げる。

 見事にそれは顎先を捉え、男は糸が切れた人形のように倒れ込んだ。

 

「ウヌッ。」

 

 呻くような声を上げながら顎髭の男は倒れる。

 

「気をつけろ。中々の手練れだぞ。」

 

 少しはお眼鏡に適ったのか男たちは無暗に攻撃するのをやめ、包囲作戦に切り替えた。

 その戦法ならば知っている。

 

 所詮は旋回活殺自在陣の劣化版。破り方はできている!

 

 この場合守るのではなく攻撃あるのみ。一点突破にすべてをかける!

 

 一人の男に向かってサバイバルナイフを投げつける。人間の反射を利用するのだ。いきなり物が飛んできたときに対する人間の反応は一つ。

 腕を前に出し直撃を免れること。これは訓練されたとて中々無くならないものなのだ。

 

 やはりそれはその男に限っても例外ではなかった。

 

 すかさず駆け寄り足払いをする。この男はさぞ驚いただろう。

 

 男が転んだ拍子に落とした剣を前転をしながら拾い上げる。

 

 ッ!背後に剣筋の気配!

 

 咄嗟に背中側に剣を回しこみ、それを防御した。

 

「嘘ッ!」

 

 この女、気配を消して待っていたのか。他の四人とはモノが違うようだ。

 

「だが未熟!覚悟ッ!」

 

 振り返りざまに斬撃を行う。それはその胴を捉え・・・ていないッ!?

 

「身体強化!高速化!」

 

 まるであの時ッ!バベルタワーで経験したあの神速!

 

「貴様こそ覚悟しろ!」

 

 剣筋の気配。だが速いッ!

 

 何とか防御に成功するが、目で捉えられぬ程の速さ。これは誤算だ。あり得るはずのがない。

 あの時聞こえた『身体強化』という言葉。あれに秘密が隠されているのだろうか。

 

 だが俺にもタダでやられてやる趣味はない。

 

 見えないなら見えないなりに!

 

 俺は姿勢を低くして剣を片手で構える。この構えをするのは不本意だが。

 

「死ねッ!」

 

 捉えた!

 

「ッ!術無しでよくぞここまで!」

 

 俺の本気の太刀筋が皮一枚で躱されただと・・・!

 

「もう楽しむのはやめることにする・・・!」

 

 女はゆっくりと腕を前に出し、手のひらを俺に向ける。

 

「どういうことだ!」

 

 この女。まだ何かを隠して。

 

「アイシクルスパイクッ!」

 

 飛翔物に対する人間の反射!今度は俺が・・・!しまっ・・・。

 

 頸部に強い衝撃を感じるとともに暗闇の中へ落ちていくのが分かった。

 まるで。あの時のように。

 

 

 

 

「はっ!」

 

 俺は飛び起きて辺りを見回した。どうやら野営地か何からしい。天幕がいくつも立ち並び、見たこともない旗がたなびいている。

 

 どうやらその野営地の中心。木で作られた檻。俺はその中にいるようだ。

 

「やっと目覚めたか。おっさん。」

 

 こいつはあの時の青年。

 

「舐めやがって!!せっかくカッコいい姿を分隊長に見せるはずだったのによ!」

 

 青年は座っていた椅子から立つとそれを檻に向かって投げつける。

 

「そこまでにしろ。」

 

 この声は。

 

「ぶ、分隊長!」

 

 分隊長と呼ばれた女。俺を打ち負かせた女。

 

「ヘルベルト。直ちに立ち去れ。これは命令だ。」

 

「で、ですがこいつは分隊長の命を。」

 

「上官の命令が聞けないのか?」

 

 苦虫を嚙み潰したような顔。青年は俺を睨むとその場を立ち去った。

 

「部下がすまない。」

 

 女が頭を下げる。

 

 何やら気味が悪い。

 

「身体を改めさせてもらった。どうやら魔族の手のものではないようだな。奴らの証である呪印が見当たらなかった。」

 

 呪印?呪印とは一体。まるで平安時代のような話だ。

 

「正直驚いている。あの時に発揮したあの速さ。よく『身体強化』についてこれたな。」

 

「やはりあれは気の持ちようではなく技だったか。」

 

 女は驚いた表情をする。

 

「まさか知らないのか?基礎的な『武技』なのだが・・・。」

 

 『武技』。この世にはまだ俺の知らない技がまだあるようだ。

 

「教えてくれ。『武技』。いったい何だ、それは。」

 

「ま、まあ構わないが。」

 

 女は先ほどの青年が投げた椅子を拾い上げ、それに座った。

 

「体を流れる魔素。それを体内で練り上げるイメージだな。それを体の各関節に伝達。本人の望む効果を与えるものだ。例えば肩、肘、手関節に集中。強力な斬撃を行うといった風だな。私の場合はそれを全身の関節に均等に送り込み、純粋な身体強化を行うといったものだな。」

 

 それを語っていた彼女の眼はきらきらと輝いていた。まるで普段できない好きな事の話をするかのような。

 俺も同じ武に生きる身。彼女の気持ちは分からないでもない。

 

「私にはできないが、それに加えて魔力を乗せる方法もあるらしいが流派が限られているからな。いつかは師事したいものだ。」

 

 頭の中で整理してみる。どうやら魔素なるものが深く関係しているらしい。

 我々日本武術の考え方では『気の流れ』に近いものなのだろうか。ただそことの違いといえば、体の中で何かしらの物質を練り上げそれを各関節へと送り込むイメージだろうか。面白い考え方だ。

 

「この魔素を掴むのが難しくてな。本当にイメージが大切なのだ。私が『身体強化』と口に出して言ったのは己のイメージによる納得という自己暗示をかけたというべきだろうか。」

 

 難しい考え方だ。しかし日本にも古来より伝わる考え方がある。

 技を使う際の掛け声。「エイ!」でも「チェスト!」でもいいだろう。とにかく己の気持ちを言霊と成し、無言で剣を振るより、技の威力をも倍増させてしまうという。

 確かにそれは自己暗示の一種という他無いだろう。

 

「ま、つまりは気の持ちようということだな。できるという気持ちが大切なのだ。」

 

 ならば俺にもひょっとしたらできるかもしれない。

 

 面白い!

 

「身体強化!」

 

 己の五体に流れる力の動き。即ち気の力を各関節に集中させる。

 

 こ、これか!!

 

 分かっていたつもりになっていた気の力。まさかここまでとは!

 武に生きる身としての自分が視野を狭めていたのかもしれない。こんなの知りようがない!こんな荒唐無稽な事!

 

「せいッ!」

 

 武に生きる者の基本。正拳突き。それは風を切り裂き、大きな力になって檻の柵に激突した。

 

 それはまるで豆腐を地面に叩きつけるが如く触れてすらいないのに簡単に粉々になって吹き飛ぶ。

 

「し、信じられん・・・!」

 

 口からは勝手に言葉が漏れる。

 この力さえあれば俺はブリタニアに・・・!

 

「す、凄い!」

 

 女は呆気にとられていた。

 

「まさか原理を理解して即その身のものにするとはッ!」

 

「どうした!」

 

「捕虜が逃げるぞ!」

 

「この野郎!」

 

 爆音を聞いて駆けつける兵士たち。

 

 まあ無理もなかろう。捕虜を捕らえるはずの檻がもう存在しないのだから。

 

「待て!お前ら。」

 

 女が前へと踏み出る。そして俺に片手を差し出す。

 

「是非入隊してくれ!お前の力が必要だ!」

 

 俺は。

 

「せっかくの提案申し訳ないが、お断りさせていただく。」

 

 無礼の無いよう頭を下げる。

 俺には決めた信条。主がもういる。それ以外に属するつもりはない。だが。

 

「俺にその『武技』とやらを教えてくれるなら、しばらくはここに留まろう。勿論世話になるのだから何でも手伝う。」

 

「面白い。」

 

 女は考え込む。

 

「アリシラだ。そしてここにいる間はビシバシこき使うからな。」

 

「卜部巧雪だ。承知した。」

 

 俺はアリシラの手を握った。

 

「よろしく頼む。卜部殿。」

 

 

 

 

 何なのだ!この少女は。

 なんと案内役を任された少女。いや少女なのか?

 

 彼女の頭には猫の耳。尻には尾のようなそれが生えている。他の部分は紛れもなく人間なのだが。

 

 これが『こすぷれ』なるモノなのか・・・?

 確かバベルタワー潜入時に香月がこんな格好を。あれはウサギだったか。しかし何故この少女は平時に・・・?

 

「猫人を見るのは初めてなの?」

 

「猫人?」

 

 そのようなもの聞いたことがない。

 

「半人半獣。獣人と呼ばれる種族の一種なの。」

 

 現代日本の常識が通用しない。やはりここは。

 

「おじさん。変な匂いなの。煙の匂いがするの。」

 

「俺は臭いのか?煙草は一度も吸った事は無いが。」

 

 自分でも衣服の匂いを嗅ぐが特にそういった事は無かった。

 

「私知っているの。この匂い。これなの?」

 

 少女は胸元に手を突っ込むと中から荒縄でできた手製のネックレスを取り出す。

 

 そのネックレスの中には見たことのある鈍い桜色の鉱物がはめ込まれていた。

 

「まさかそれは!少し見せてくれ。」

 

 少女はネックレスを差し出す。

 俺はそれを受け取ると近くで観察する。

 

 間違いない。間違えようがない。これは桜石。サクラダイトだ。常温でも超伝導状態の物質。ナイトメアフレームの動力炉であるユグドラシルドライブに欠かせないレアメタル。

 

「君。これはどこで!?」

 

 日本はこれの生産量が世界の中で最も多かった。日本人の心。富士山はこれのせいで哀れな姿に。

 

「そこらへんにたくさんあるの。少し掘ったら出てくるから鉱夫にとっては邪魔なやつなの。」

 

「なんという・・・。」

 

 今確信した!俺がいるここは元の世界ではない。よくは分からないがあの自決の際に何かが干渉してこの『世界』に。それが何かは知る由は無いが、今こうして再びチャンスが与えられたという事なのか?

 

「おじさん。鉱夫なの?」

 

「いいや。俺はただの流れの武人さ。」

 

「ふうん。そういう事にするの。私はミリーなの。」

 

「卜部だ。卜部巧雪。」

 

「卜部おじさん。よろしくなの。」

 

 正直おじさんと呼ばれるのは・・・ま、まあいいか。

 

「ミリー。こちらこそよろしく頼む。」

 

「じゃあ早速案内するの。」

 

「ああ。頼む。」

 

 少女はこの野営地を熟知しているようで隅々まで余すことなく案内してくれた。どうやらここには50人ほどの部隊が在留しているようだ。所属は神聖アルタニア帝国陸軍国境警備隊になるらしい。

 ここは特に危険な部隊とのこと。確かにすれ違う兵士たちは目が据わっていた。それなりの手練れたちみたいだ。

 

 そして最後に案内されたのは。

 

「ここは兵舎なの。皆ここで寝泊まりしているの。」

 

 一際大きい天幕だ。日本軍時代に行った野営を思い出すな。

 

「おいおい!何でそいつがここにいるんだよミリー!」

 

 振り向くとそこにいたのは金髪蒼眼のあの青年だった。

 

「ヘルベルト。彼は分隊長のお客さんになったの。無礼即ち分隊長の顔に泥を塗ることなの。」

 

「くっ!お、俺は認めねーからな!」

 

 青年は走ってどこかへ行った。騒がしい奴だ。

 

「ごめんなさいなの。彼プライドだけは一丁前なの。」

 

「構わない。」

 

 しかし一息ついたな。ここで世話になるのだからせめて無礼はしないよう心掛けたい。

 

「私はこれから見張りなの。じゃあ。」

 

 少女は四つん這いになると、強靭な脚力で木々へと飛び移っていった。

 どうやら彼女からも学ぶことは沢山あるようだ。

 

 しかし腹が減ったな。

 

 先ほど返してもらった鞄の中にはまだ大量のキノコがある。とりあえずは。

 

 

 

 

「という訳で。隊長。構いませんね。」

 

「・・・君というやつは。」

 

 アリシラの表情。それはにこやかに笑っていた。隊長と呼ばれた女性もそんなプリシラの顔は初めて見たのだった。基本無表情か薄ら悪い笑みを浮かべるだけなのだが。

 

「分かったよ。駐留を許可しよう。ただし客人扱いでだよ。100パーセント魔族側の密偵とも限らないだろう。」

 

「ええ。分かりました。エーリカ隊長。」

 

「そういえばさっきから外が騒がしいが。」

 

「確かに。」

 

 二人は共に天幕の外に出た。

 

「お、おい!なかなかイケるぞ。コレ!」

 

「俺にもくれ!」

 

「おい!押すなよ。」 

 

 あたりに漂う嗅いだことがない。だがおいしそうな匂い。

 

 炊事場には人々が群がっている。

 

 プリシラとエーリカの二人は炊事場へと向かう。

 

「おい!何の騒ぎだ!」

 

「エーリカ隊長!?」

 

 人々がまるで二人を避けるかのように割れる。

 

「卜部殿・・・?」

 

「一人一切れだ。俺のはやらんぞ。」

 

 そこに立っていたのは先ほど話していたその人物だった。

 

 焼き物用の鉄板を使い、白い長方形状のものを焼いている。

 

「おお。プリシラか。一切れどうだ。」

 

 卜部は焼き目のついたそれを皿に盛り目の前へと差し出してくる。

 

「どれ、ここは僕が頂こうじゃないか。」

 

 横から飛び出してきたのはエーリカ隊長だった。そう。この人物は大の食いしん坊だったのだ。

 

「ふー。ふー。あーむっ。ッ!」

 

 誰もがそれを固唾をのんで見守っていた。

 

「う、旨いっ!」

 

 みんなが呆気に取られていると、エーリカ隊長は物の数秒でそれを平らげてしまった。

 

「お、おかわりっ!」

 

 彼女は卜部に皿を差し出すと。

 

「一人一切れと言っただろう。悪いがみんな食った後に余ってたらな。」

 

 エーリカ。ここで隊長権限発動。犠牲者はそばにいた隊員だった。

 

「ん?何々?俺の分はいらないからどうぞ隊長にだって?気が利くじゃないか!」

 

 男は呆気に取られている。

 

「そういう事だから。卜部くん?だったっけ。頼むよ~。」

 

「そういう事ならば。構わないが。」

 

「え、ちょ、隊長!?」

 

「気が利くな?」

 

「は、はい。喜んで頂き光栄です・・・。」

 

 その日彼女の毒牙にかかった人数。延べ8人。空腹の中ひもじい思いの睡眠確定。

 

 そしてその日から卜部巧雪は隊長付きの料理人へと格上げされたのだった。

 

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