異世界卜部 〜異世界でもコードギアスの世界でも四聖剣は虚名にあらず!〜 作:シャール
「ここが私の実家よ。あとエーリカ姉さんの。」
随分立派な屋敷だ。正門にはバラであしらわれた紋章がある。これがソードライン家の紋章なのだろう。実家はかなりの財力があるのだろう。
「はあ・・・。帰ってきちゃった。」
「嫌ならやめて構わないが。」
「いいえ、せっかくの機会だし区切りをつけちゃいたいっていうのが本音かも。ま、卜部さんはいるだけでいいから!」
「そういう事なら良いが。」
ダシに使われた気もしないでもないが、まあ良いだろう。
「じゃ、早速行くわよ!」
俺たちは門の前に向かう。どうやら門番がいるようだ。夜遅いのにご苦労なことだ。
「何者だ!?」
その声にカルメンは門番の前へと姿を現す。
「私よ。私。」
「カ、カルメン様!?少々お待ちください!」
門番は急いで屋敷の方へ走る。
「この様子だとちょっと時間がかかりそうね。ちょっと昔話でもしましょうか。」
「ああ。聞かせてくれ。」
カルメンは外壁にもたれる。
「私ね。本当は政略結婚で他所に嫁ぐことになっていたのよ。」
貴族にはありがちな話だ。
「ま、姉があんな感じだからね。私に話が回ってきたの。」
「断ったのか?」
「当り前じゃない!会ったことのない人なんかと結婚なんてムリムリ!」
そういった価値観は普通の女の子と変わりが無いようだ。
「でさ、相手はあの有名な『女好き』のヴィトラ伯爵。結婚したら人生終わりってタイプの人間。」
「貴族も色々大変なんだな。」
「まあ、だから逃げるように軍に入隊して今のところ姉に匿われているって感じね。家からはしつこく戻ってくるように手紙が来てるんだけど全部無視してるわ。」
親御さんもさぞ心配だろうな。
しかし、年端のいかない少女に納得のいかない結婚とは。政治的駆け引きにされる少女たちがいたたまれない。
「あっ!別に可哀そうなんて思わないでね。今の生活が気に入ってるし、楽しいもの。」
「それで。なぜ戻ってこようと?」
「現状の報告と、縁談を正式に断る為・・・かな。一応まだ婚約状態らしいし。」
自分の人生に区切りをつけるか。その若さで見上げたものだ。
「っていう訳。だから協力してよね?卜部さん。」
「ああ。俺にできることならば。」
「じゃあ早速頼んじゃおうかな!」
嫌な予感がする。だが男に二言は無い。
俺は頷いた。
「じゃあここにいる間は恋人として振舞ってほしいな!」
「なんだとッ!?」
「何でもいいって言ったじゃない。」
「俺にできることとは言ったが・・・。」
まさかそうなるとは予想しなかった。
機会を逃し続けて36年。じょ、女性とお付き合いしたことが俺には無い!!
だが男に二言は・・・。
「・・・いいだろう。」
「あっ!でも勘違い禁止!本気にしちゃダメだから!」
「・・・分かっている。」
「それならば良し!」
「カルメン様。お待たせいたしました!」
丁度門番が帰ってきたようだ。
「客人だから通してあげて。」
「は、はあ。」
いまいち納得していないであろう表情をしながら、門番はその場からどいた。
「じゃあ行きましょ。」
「あ、ああ。」
この先どうなる事やら。
・
・
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「さあ。ここよ!」
正門から歩いて2分ぐらいだろうか。ようやく玄関にたどり着いた。
カルメンはその大きなドアを開いた。
「ただいま!」
目の前に広がるのは広大なエントランスホールだった。
壁沿いには西洋甲冑が飾られている。その上には狩りで仕留めたのであろう。巨大な知らない動物の剝製がある。まるで鹿のようではあるが。
そしてその中央には複数人の男女が佇んでいた。
「カルメン!よくぞ戻ってきてくれた!」
その中でも恰幅のいい初老の男性が歩み寄ってきた。
「お父様・・・。」
「さあ、婚約者殿がご心配されてるぞ!」
「え?」
男女の列の中から一人のいかにもな優しそうな青年が歩み寄ってくる。
「お初にお目にかかります。カルメンさん。僕はジェームス・ヴィトラと申します。」
こいつが例の『女好き』?それにしては好青年といった風だが・・・。
「ところで先ほどから気になっていたのですが、その御仁は?」
この目は知っている。気づかせないようにしているが漏れ出ている。その鈍い殺意が。
「私の彼氏よ!」
正気か!?まさか気づいていないのか。こいつの殺気に・・・!?
いや、この挑発的な笑み。気が付いている。
「カルメン!!どういうことだ!?」
まあそうだろう。
父親が怒号を上げる。
「どういうことって。そのままに決まっているじゃない!」
「まあまあ『お義父さん』。カルメンさん。落ち着いて。」
コイツ。わざと。
「ともかくここでは何ですから。」
ブリタニアの貴族を思い出す。偽善に満ちた言葉の裏には黒い欲望が隠されている。これから向かうのは死地だ。そう思わないと命がいくつあっても足りない。
「ええ。行きましょう。ウラヌスさん。」
ウラヌス?成程。理解した。
「ああ。分かった。カルメン。」
俺たちは長い廊下を歩いて応接室へと向かう。
その間このヴィトラというヤツは顔に笑顔を浮かべていたが、それは仮面に過ぎないだろう。
そしてカルメンの家族とヴィトラを交えて家族会議が始まった。
「カルメンさん。その方は一体どこで?」
「諸国を旅して回っている武人よ。」
「まあ卑しい。庶民以下だわ。野蛮な。」
なんだこのおばさんは。
「私の母親。こんな性格なの。」
カルメンが耳打ちをして教えてくれた。
「まあまあ。『お義母さん』。」
貼り付けたような笑顔でヴィトラはカルメンの母親を諭した。
「で、どうするつもりかな?ボクは婚約者。という事になっている筈なんだけど。」
「どうもこうも、そんなの勝手に家が決めたことじゃない。私の意志じゃないわ。」
「カルメン!お前というヤツは!」
父親が怒りに任せて席を立つ。
「やっぱり帰ってくるんじゃ無かったわ。話にならないわ。」
「カルメンさん。どうか話だけでも。」
「・・・まあ、そこまで言うなら。」
困った。この場合俺は何をしたらいいんだ・・・?
「で、ウラヌス・・・でしたっけ。」
いきなり呼び捨てか。
「キミはこれからどうするつもりだい?マズイ事という事は認識しているよね?」
矛先が俺に変わったようだ。
「あのさ、貴族の女性に。しかも婚約者がいる女性に手を出すってエライ事だよ?そこの所分かってる?」
「さっきから聞いていれば失礼じゃない!?何なのその言い草!」
「カルメンさんは黙っていればいいんだよ!」
ほう、化けの皮が剝がれたじゃないか。
「どうやら黙っているという事は理解していないらしい。これは『教育』が必要かな?」
「偉そうに。これではブリタニアと変わらんな。」
「ブリタニア?何の事だか知らないけど、僕は身の程知らずが嫌いでね。特に嫌いなのが貴きものにたかる蛆虫でね。そういうを見ると虫唾が走るんだよ。」
なるほど。どうやらコイツが怒っているのはカルメンを想っての事ではないようだ。
自分の所有物に泥を塗られた。つまりはメンツを傷つけられた。
なんという。まるで子供。しかも玩具を取り上げられたように怒り狂って。下らん。
「下らないな。俺とカルメンの間には打算などない!!」
「卜部さん・・・。」
まああるんだが。
「この平民風情がよくも抜け抜けと!」
ヴィトラは手袋を外し、俺の顔に投げつけてくる。
「ヴィトラ殿!平民風情に決闘など!」
カルメンの父親が叫ぶ。
「黙れ!!この3流貴族が!!お前などこのボクがいなければとっくに没落しているんだぞ!!分かっているのか!?ああ!?」
「余計なことを言った・・・。ヴィトラ殿。」
ヴィトラは頭を下げたカルメンの父親の頭を殴る。
「一体いくら積んだと思っているんだ!?この娘が可愛くなかったらこんなゴミクズに払う金など無いというのにな!!」
この下衆が・・・!
俺が立ち上がろうとすると。
「・・・許せない。許せないわ。こんな親だけど私の親なの。ここで育てられたのも親のおかげなの。それをアンタは・・・!!」
俺は今にも飛び掛からんとするカルメンを手で制する。
「いいだろう。その決闘受けて立とう。」
「逃げるんじゃないぞ!!明日の朝一番だ!」
ヴィトラはそう言うと部屋から出ていった。
「カルメン・・・。」
「お父様。今まで育ててくれたことには感謝しています。でもやっぱり嫌なものは嫌です。ゴメンなさい。」
「でも。私たちはどうしたらいいのよッ!!貴族じゃない生活なんて耐えられないわッ!嫌よ・・・!」
貴族とは悲しいものだな。時には己さえ捨ててその地位を守ろうとする。そんなの生きながらにして死んでいるのと変わりがないじゃないか。
「・・・分からないわ。」
易い言葉はかけられない。
「君。ウラヌス君だったか。約束してくれ。せめてカルメンだけは守り抜くと。幸せにして見せると・・・!」
俺は。
「実は俺はカルメンの婚約者でも何でもない。今日知り合っただけのただの戦友だ。だが俺の目の届く範囲では何人もカルメンを傷つける事はさせない。約束する。」
「卜部さん。」
「ハハ・・・。とんだペテン師だな。だがそれでもいい。頼んだ。」
カルメンの父親が頭を下げる。これがせめてもの親心なのだろう。
「・・・今日はもう寝ましょう。明日の決闘には万全な状態で挑まなきゃ。」
「客人用の寝室は廊下の突き当りだ。カルメンお前の部屋はそのまま残してある。」
「ありがとう・・・。」
俺たちは悲嘆にくれるカルメンの両親を背に寝室へと向かうのだった。
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「ここよ。」
寝室の前へとたどり着く。
「ねえ。私。これで良かったのかしら。」
「自分の胸に手を当てて聞いてみるといい。だがこれだけは言わせてくれ。全ての選択には後悔が付きまとう。望もうと、望むまいとな。」
カルメンは眼を閉じる。
「私。やっぱり嫌だ。お父様がこれからもアイツに頭を下げ続けるのも、お母様がアイツの金で威張るのも。」
「なら心は決まっているな。」
「ええ。でも貴方を巻き込んでしまった。」
それは。
「言っただろう。俺にできる事ならなんでもするとな。戦友の為だ。」
「卜部さん・・・。ありがとう・・・!」
困ったな。泣いている婦女子を見るのはどうも苦手だ。
「あっ!でも明日は負けちゃダメよ!せっかくカッコつけたんだから最後まで貫き通してね!」
「ああ!」
これは負けられないな。
「じゃあおやすみ!」
カルメンは走って自分の部屋へと向かった。
「そんなに急いでいたのか?」
こんなおっさんがカッコつけすぎたな。つい舞い上がってしまった。
反省しなければならんな。
そう思いながらドアノブに手をかけるのだった。
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「何アレッ!?カッコよすぎじゃない!」
カルメンは自分の心臓が早く脈打っていることに気が付いた。
「ウソウソッ!!だって今日会ったばっかりだし素性も怪しいのに!」
自分のベッドへと飛び込み、その枕に顔を埋める。
「~~~~~~ッッ!!」
声にならない悲鳴。
「だっておじさんよ!としもかなり離れているハズ。でも・・・。」
心の中に。
『俺の目の届く範囲では何人もカルメンを傷つける事はさせない。約束する。』
都合の良い場所だけを切り取り、何度も頭の中でリピートしているようだ
「あんなのプロポーズじゃない!」
じたばたとベッドの上で足をバタつかせている。
「もう!責任取ってもらうんだから!」
卜部の知りえないところで、乙女の妄想。暴走中。
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「気持ちの良い朝だ。」
決闘など無ければ。
コンコンと扉がノックされる。
「卜部さん。カルメンだけど・・・。」
「時間のようだな。」
「ええ・・・。」
俺はベッドの横にあるサーベル改め軍刀を手に持つ。
「頼んだぞ。相棒。」
俺はそれを手にドアノブに手をかける。
「おはよう。卜部さん。」
「おはよう。こんなに朝早くから起きて、その若さで見上げたものだな。
「逆にこんな時に寝坊できないわよ。」
・・・確かに。
「冗談はさておき、行くわよ。」
「ああ。」
冗談のつもりではなかったが・・・。
「ほう逃げなかっただけ褒めてやるぞ平民。」
わざわざ見に来たか。
「何の用だ。」
「これから負けるクズの顔を見に来たのさ。それと・・・。」
ヴィトラは嘗め回すようにカルメンの身体を見る。
「ああ、なんて美しいんだ。キミはボクをおかしくする。」
「見ないでよ!変態!!」
カルメンが背中を向ける。
「恥ずかしがらなくたって良いんだよ。スグに恥ずかしくなくなるから。それもこの男を始末してからだけどね。」
「易々と負ける趣味は無い。」
「今のうちだぞそんなに大口を叩けるのはな。すぐに命乞いをさせてやる。」
ヴィトラは背中を向けてその場を立ち去った。
「分かりやすい悪者だな。しかしそのお陰で打ちのめすのに罪悪感は無くなったな。」
「負けないでよ!卜部さん。私の貞操が掛かってるんだから!」
「ああ。負けんよ。俺は。」
命運をかけた戦いが始まる!