透き通る世界で、月の香りがした。   作:エヴォルヴ

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この世界線のブルアカ周年ライブ

「今回の生放送、目玉となる発表となります、どうぞ!」


画面暗転後、時計塔の鐘が鳴る。

「……Yostar」

「だから奴らに呪いの声を……」

「もはや獣は止めどなく……」

「赤子の赤子…」

「私はやったんだァアアアアアア!!」

「ずっと先の、赤子まで……」

「匂い立つなぁ……」

「合言葉だ……」

カレル文字が月夜に浮かび上がり、狩装束に身を包み、椅子に座って両手を合わせ、足を組むアラヤがこちらを見る。

「……知らぬ者よ……」

「かねて血を恐れたまえ」

Bloodborne~THE HUNTING NIGHTMARE~、二月発売。無料DLC、月の獣のフォルラーヌ、時計塔のためのパヴァーヌ、老いた赤子のレクイエム、順次配信。

「夢は、覚めるものだよ。それが、例え……終わらないような、巡り続ける悪夢であったとしても」

「私は狩人。ヤーナム最後の狩人」

「私が、終わらせる」

「私は【月香の狩人】。多くの者から、多くのものを託された、葬送の狩人だ」


会場ライトアップと共に、会場が阿鼻叫喚の渦に包まれる。観客、配信、ゲスト、司会進行、全員が白目を剥くか、「人の心ないんか」とか言ってる。アラヤちゃんの中の人だけがゲラゲラ笑っていると思われ。(存在しない記憶)


10.アビドスの砂漠

 ゲヘナ学園の中でも常識がある側にいるこの衛生兵、相当苦労をしているんだな。恐らくは前線ではなく後方で怪我人の治療をするつもりだったろうに、気付けばこんな前線にいると見た。

 

「さて、追加の人員が来るぞMr.暁」

 

『うん。レーダーにも反応がある』

 

 迎撃するか、縛り上げた連中を取引の材料に使うか。さぁ、どちらを選ぶ。

 

『できるだけ戦意を削ぎたいっていうのが本音かな』

 

『交渉するにも、こちらの有利を確保したいところですね』

 

 通信から聞こえてくるMr.暁とアヤネの声を聞いた私は、小さく笑う。その笑みに衛生兵殿がヒュッ、と息を飲んだ気がするが、多分気のせいだろう。

 

「では、もう少し削ろうか。イオリ、遠距離持ちは?」

 

『迫撃砲は多分もういない。というかアラヤ、やり過ぎ。泣いてる子がいるんだけど?』

 

「素手でのボディブローはやり過ぎか? 手加減はしたんだが」

 

『悶絶してるじゃん……吐いてる子もいるし……それ以上に三日月蹴りはダメだってば』

 

 うーむ……手加減というのは難しいものだな。もう少し手加減を学ぶべきか……

 

「とりあえず、後続を潰す。アビドスは尋問でもするといい。それかヒナ先輩に連絡したまえよ。……ああ、いや、聞いておこう」

 

 ヒナ先輩が動けばこの騒動は終わる。そもそもイオリが何も知らされていない時点で、向こうの大義名分はないもの同然だ。イオリ曰く、確実に天雨アコの独断。アビドスが風紀委員会が来ることを知らなかった時点で、無許可、越権行為なのだから。

 

 迫り来る後続を相手取りながら、通信回線を開いてヒナ先輩の連絡先を入力する。……ふむ、これは少し面倒だな……携帯は買っておくべきだろうか。

 

『……珍しいわね、あなたが私に電話してくるなんて』

 

「ご無沙汰しております、ヒナ先輩」

 

 前に風紀委員会に差し入れを持っていった時に知り合い、その場の流れで連絡先をいただいていたのだが、こんなところで使うことになるとは。

 

『何かあったのかしら』

 

「アビドスで風紀委員会の攻撃がありましてね。何かご存知で?」

 

『……はぁ。私は聞いてない。確認しておく』

 

「ありがとうございます。────聞いていたな、アビドス」

 

 この通信端末は他のメンバーにも回線を繋げてある────というかオープン回線だ。この付近にいるのであれば、誰であろうと傍受できる通信を聞いたのは私だけではない。アビドス、便利屋68、シャーレ、ゲヘナ風紀委員会……この場にいるほぼ全員が聞いている。

 

「さて、独断先行による越権行為を行ったのは誰か……簡単に分かってしまうな。……なぁ、アヤネ?」

 

『はい。というわけで、アビドス高等学校を代表して後日抗議文と、納得のいく回答をいただくよう要求します』

 

 ああ、素晴らしい。一年生ながらオペレーターや対策委員会として、会計、書類……様々な業務を切り盛りしてきたアヤネは、将来間違いなくマンモス校の生徒会に負けないような存在になる。

 

「さて、そういうわけですが……ゲヘナ風紀委員会はどうします?」

 

「後日改めて謝罪と賠償をさせてもらうわ」

 

 おや……いらしていたのか、ヒナ先輩。

 

「アコ、説明して。この状況は何?」

 

『そ、それはですね……これには深い事じょ────』

 

「反省文と謹慎」

 

 中々に無慈悲だ。素晴らしい……ヒナ先輩、あなたにはもしかしたら、良い狩人の素質があるかもしれない。無慈悲であることは良い狩人になるための第一歩だからな。

 

「……チナツ、撤収して。イオリも一度戻って話を聞かせてほしい」

 

『『了解しました』』

 

 さすがの統率力だ。有無を言わせない撤収命令に、ゲヘナ風紀委員会が撤退していく。前線に出るよりも、コマンダーをやった方がいいのではないか? もしくは、あの腹芸の上手いマコト先輩と組めば────いや、無理か。相性が悪い。

 

『アラヤ、じゃあ、また今度』

 

「ああ、また」

 

 通信を切り、端末を夢の中に仕舞った私は、対策委員会と便利屋68、Mr.暁が集まる中でヒナ先輩に簡易拝謁を行う。

 

「改めて、ご無沙汰しております、ヒナ先輩」

 

「うん、久しぶり。……その礼? は何?」

 

「簡易拝謁です」

 

 簡易的にではあるが、誠意を示す礼である。マリアやアンナリーゼに叩き込まれたものだ。…………私は貴族ではないというのに、マリアからもアンナリーゼからも「貴公は高貴な血を引いているようだ」と言われたのが本当に懐かしいことである。

 

 ────今思えば、入院中の費用をシスターフッドが出していたというのは……なぜだ? 私の血が起因しているのか? 

 

 考えることはどんどん増えていくな。良いことだ。帰ったらビルゲンワースから拝借してきた本を久しぶりに読もう。知識はあればあるほどいい。

 

「さて、挨拶はこの辺りにして……ゲヘナ風紀委員会がどうしてここに?」

 

「言い訳になってしまうけど、私は関与してない。けど……これは私の監督不行き届きがあったから起こった。ゲヘナ風紀委員会委員長として、謝罪させてもらう」

 

 ゲヘナ学園風紀委員長がアビドス高等学校へ────ひいてはアビドスへ頭を下げた。これがどれほどの意味を持つのかを理解できないほど馬鹿な者はこの場にいない。

 

「正式な謝罪と賠償内容は後日書面で送らせてもらう。それと、今後一切、許可なく風紀委員会がアビドスに入ることはないと約束する」

 

「え……ええ……?」

 

「もっと荒事になるかと思いました……」

 

「あなた達と事を構えたら、アラヤ────接触禁忌の天使(アンタッチャブル)とも敵対することになる。それは避けたい」

 

 トリニティから付けられた異名だが、ネーミングがいまいちだな。気にしてはいないが、やはりヤーナムでゲールマンから付けられ、名乗っていた異名がしっくり来る。私は【月香の狩人】。葬送から狩りへ、狩りから目覚めへ。ゲールマンからルドウイーク、ルドウイークから私へ。多くのものを託され、背負い、私はここにいるのだ。

 

 そんなことを考えていると、ヒナ先輩はゲヘナ学園へ帰ると伝えると共に、カイザー・コーポレーションが何かを探して発掘調査をしているという情報を与えられた。砂漠の下に、何があるというのか。

 

 ────墓か、遺跡か、秘密か……はたまた漁村か? 漁村は酷かったな……あそこで何度殺されたことやら。冒涜のレベルは漁村が恐ろしかったが、人間の狂気は実験棟が凄まじいものだったな。初めて訪れた時の私はこれだからビルゲンワースの系譜は、と呆れていた記憶がある。やはり進化論を掲げるやつらは話にならない。医療教会だろうがメンシスだろうが例外なく。

 

「さて、戻って情報を纏める……と、言いたいところだけど。その前にアラヤ」

 

「なんでしょう、Mr.暁」

 

「さっきの注射器に入っていたのは、なんだい?」

 

 ああ……答えられる範囲で答えると言ったものな。この場にいる誰もが私の治癒能力を疑問視しているようだし、一応答えておこうか。

 

「輸血液────私の血です。私は血を取り込むことで傷を治せる。そういう体質なんですよ」

 

「血を取り込むことで、回復?」

 

「ええ、昔からそういう体質です」

 

 私の(現在進行形でストックを集めている)血なのだから、嘘は言っていない。ヤーナムで過ごしてきた長い年月があるし、キヴォトスにはツルギ先輩のような再生能力が凄まじい者もいるのだ。

 

 ……だが、それならなぜすぐに目覚めなかったのか、と聞かれるかもしれない。それについても織り込み済みである。

 

「昔は掠り傷や切り傷を治す程度だったんですがね。昏睡状態から目覚めて、気付けばこうなっていました」

 

 これだって嘘は言っていない。傷の治りが早いのは本当だったし、ヤーナムの経験を得てこうなったのだから。

 

「嘘じゃないんだね」

 

「ええ、もちろん。今嘘を吐いても、メリットはありませんので」

 

 メリットがあるのなら、嘘を吐く。騙し、裏をかくのだって立派な戦術戦略の一種だ。直接的な戦闘、情報による戦闘……どちらも嘘やフェイントが通用するのであれば、もちろん使う。狩りを全うするために、私は多くのことを取り入れてきた。

 

「ホシノ先輩はご存知でしょう? 私の体質について」

 

「うへ~、今おじさんに振るかぁ……まぁ、知ってるけどさ」

 

 この体質を知っているのはホシノ先輩、イオリ、ツルギ先輩くらいか。あの頃とは全くの別物になってしまっているが、それでも血を取り込むことで傷を治せる体質だったということは事実である。

 

「おじさんが知ってるのは、もう少し生易しい感じだったけどなぁ……死の縁を彷徨って体質が変わったのかも?」

 

「さぁ……そこはなんとも」

 

 ヤーナムの血が、上位者の血が流れているからこその治癒能力なのだろう。昔の体質についてはよく知らん。やはり、私の中に流れる血が起因しているのか……調べてみる必要がある。

 

 調べるのなら……まずは血筋だ。アリウスの生徒会長は世襲制だったと聞く。もしかしたら何かあるのかもしれん。というか啓蒙が囁いている。

 

 アリウスの情報はあまりないため、ウイ先輩のところに行ってみるとしよう。ヤーナムで拝借してきた本の中で、当たり障りのないものを手土産にすれば、邪険にはされないはずだ。そうだな……ヤーナムで流行したというベストセラーでも持っていこう。

 

「まぁ、それは置いておいて。おじさん達のやることは決まったねぇ」

 

「ん、カイザーが何を探しているのかを探す」

 

「それと、裏側に使われたお金についてもね。これは……あのUSBメモリのデータを全て読みきらないと分からないけど」

 

 方針が固まってきたな。正直言って、ホシノ先輩が一番の懸念材料だ。彼女は目を離した隙に自己犠牲をやらかす精神性がある。

 

「ブラックマーケット付近か……あそこなら、私達で探った方がいいね」

 

「ええ。アビドスの皆に何かあったら便利屋の沽券に関わるわ」

 

 ブラックマーケットはアビドスからわりと遠い。軽い日帰り旅行になりかねないため、行くとしても、フットワークの軽いメンバーで固めた方が現実的だ。アビドスが占拠されるのはよろしくない。

 

 私が留守番をしてもいいのだが……あくまで私は協力者。対策委員会がアビドスを守ることこそが、価値あるもの。戦闘ともなれば、好き勝手に暴れるのだが。ヤーナムで出会った並行世界の狩人達もそう言っていた。アルデオのみの車輪使いや、苗床のカレルを刻まずにゴースの寄生虫を使う奇特な狩人や、地底に魂を縛られた狩人からの教えは、私の中に息づいている。

 

「……あと一押し」

 

 啓蒙が、獣性が囁く。決戦の時が近付いてきていると。この砂漠に……アビドスの砂漠に、叡智が眠っていると。奪われてはならない。起こしてはならない。狩れ、眠りを与えよ。命なき命宿る蛇の目覚めは近い。狩りを全うしろと囁き続けている。

 

 ああ……願わくは、我が友人達に、血の加護がありますように。

 

 

 

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