透き通る世界で、月の香りがした。   作:エヴォルヴ

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月見アラヤちゃんのあれこれ

EXスキル:月香の狩人
ランダムに属性が変化。スキル発動中、回避率と攻撃力と会心率が上昇。
属性の変化は編成された部隊に依存する。

ノーマルスキル:血の医療
自身の体力の30%を回復する。

パッシブスキル:Bloodborne
ダメージを受けてから数秒、攻撃による回復を行う。
神秘による攻撃への耐性。
HPの残量による攻撃力、回避率の変動。

サブスキル:狩人の夢
戦闘中一度だけ発動。
HP半分の状態で復活する。


11.懺悔するがいい。

 ……アリウスについての情報は……消されたのか? ウイ先輩のところにもほぼ残っていなかったぞ……学園内にアリウスについての情報を残したくない者がいたらしい。もしくは────

 

「別の場所に保管されている……か?」

 

 ウイ先輩のところに保管されていないのであれば、失われたか、あそことは別の場所に資料が保管されているかだ。手土産の本は、喜んで受け取ってくれたので良しとしよう。あれはいいものだ。

 

 冒涜的な要素が全く存在せず、善悪に賢愚は関係なく、人はただ善くあるべきであると読者に語りかけてくる名作である。著者はローゲリウス。処刑隊の長は文才にも溢れていたらしい。アンナリーゼ、ヴァルトールもそうだったが、何かの長というのは達筆だったのだろうか……

 

 さて、アリウスについて調べられないのなら、私がトリニティの区域にいる理由がなくなってしまった。採用された通信授業制度はいいものだな。いつでも授業が受けれるため、地底に潜りながら片手間にやってみたり、テストの日だけ出席すればいいのだから。

 

 アビドスの件が解決したら、久しぶりにローランにでも潜ろうか……トゥメル=イルやイズばかり潜ってくると、さすがに飽きてしまうからな。三ヶ月ほど地底に飲まれていたことはあったが、生粋の地底人ではないのである。

 

「……それで、何か用かね」

 

「……やはり気付いていたか……」

 

 気配の消し方がなっていなかったくせに、何を言うのだろう。そんなに隠れたいのなら青い秘薬くらいは使え。そんなことを考えていると、隠れていたつもりだった金髪の────誰だ、この生徒は。

 

「さて、初めまして……になるのかな、君にとっては。私は百合園セイア────一応、ティーパーティーの一人だ」

 

「ああ、あなたか。前々から私を視ていたのは」

 

 夢、予知夢、白昼夢。その手の神秘を持った存在。私が昏睡状態になる前から私を視ていた謎の視線。その正体が彼女、ということか。

 

「驚いたな……分かっていたのかい?」

 

「大方、夢を見ることによる断片的な未来視、または現在視。ある意味の千里眼……か」

 

 そういう神秘を持っている存在が、目の前にいる百合園セイアという少女であろう。ティーパーティーの一人、ということは派閥の長でもある。今更私に干渉してきた理由として挙げられるのは……一番低い可能性が派閥の暴走への謝罪で、一番高い可能性は派閥への勧誘、か。

 

「君については興味深いことばかりだが……本題に入ろう。まずは謝罪を。あの日、別派閥であったとはいえ、生徒の暴走を止められず、すまなかった」

 

 おや、一番可能性が低いものが飛び出てきたな。

 

「謝ったところで、君の一年が戻ってくるわけではない。だが、それでも謝らせてほしい」

 

「ああ、その誠意は受け取りましょう」

 

 相手は謝罪をした。そしてそれを私が受け取った。私を傷付けたことについては、特に気にしていない。私は生きているし、私の在り方を決める人達に出会えた。善意と悪意、冒涜と歪んだ救いが渦巻くあの古都で、私はこの在り方を得たのだから。

 

「ありがとう。…………もう一つは、君の探しているアリウスについての資料だ」

 

「ほう」

 

「正確には、アリウスの生徒会長について、だが」

 

 またまたドンピシャだ。断片的に未来が見えるということは、私がその資料を手に入れることで不利益どころか利益が出ると考えたか。

 

「シスターフッドが保管している資料がある。恐らく、君が欲している情報は、そこにある」

 

「ああ、それはそれは……」

 

 シスターフッド……私に何かある度に助け船のようなものを出してくる派閥。派閥と言うべきなのかは少し疑問だが……とにかく、あの派閥が何かを知っていることは理解した。教会というのは秘密を抱えねばならないルールでもあるのか? 

 

「資料を見る場合はサクラコに声をかけておくといい」

 

「貴重な情報をいただいたことに、感謝を」

 

「いや、いいんだ。察しているだろうが、私にも私なりの考えがあるからね」

 

 お互いの利益のための情報提供であると語る彼女は、次の用事があるらしく、小さな体を大きく動かして走り去っていった。あまり運動をしないタイプかと思っていたが、意外にも走れるようだ。

 

「さて……」

 

 シスターフッドの長サクラコ……面識はないが、私の経験則からして、教会の人間というのは少なからず変わった人間である。ゆえにサクラコという女性もきっと変わった人間だろう。勘違いされやすいとか、そういった方向で。

 

 なんにせよ……だ。調べるにも、アポイントメントは必要だろう。アポ無しで訪ねるというのも、あまり良くないだろう。ここはヤーナムじゃないのだから。

 

「……アビドスに向かうか」

 

 …………そういえば、便利屋68からの定期報告が来ていない。何があるか分からないため、二時間置きに報告をしてもらっていたのだが……最後の連絡はブラックマーケットで手に入れた情報をアビドスに持ち帰ると言われた時。

 

「…………まさか」

 

 通信端末を開き、便利屋68へと電話をかける。数コール後、通信が繋がったが、私の耳に入ってきたのは────

 

『やっと繋がった! ジャミングって面倒ね!』

 

 切羽詰まったアルの声だった。さらには銃声や迫撃砲の爆発音が聞こえてくる。

 

『アラヤ、手短に話すわ。小鳥遊ホシノが拐われた!』

 

「何?」

 

『相手はカイザーPMC! 彼女が一人になったところを狙ってきたみたい……!!』

 

『社長、あいつらまた撃ってくる!』

 

 爆発音が私の鼓膜を叩く。……カイザーめ……痺れを切らして仕掛けてきたか! だが、なぜだ? やつらも馬鹿ではないはず……こんな大規模な攻撃をすれば、連邦生徒会も黙っていないはずなのに……

 

 いや、内通者か! どんな組織であっても綻びがある。上層部が一枚岩だったとしても、下の連中が一枚岩だというわけではない。その逆もまた然りだ。もし、もしも、だ……連邦生徒会の情報が滞っていたら……? ジャミングによる通信妨害が、私だけではないとするなら……! 

 

 啓蒙の囁きが強くなったのを感じ取った私は、すぐさま思考を切り替える。

 

「アル、対策委員会のメンバーと共に耐えられるか?」

 

『誰に言ってるのかしら? 私達は便利屋68! 依頼は必ずやり遂げるわ! ……小鳥遊ホシノは拐われてしまったけれど……』

 

「そこはいい。あなた達がいたというのに拐われたのなら、イレギュラーだろう。そうだな……三十分……いや、十五分程度だ」

 

『任せなさい! 殲滅してやるわ!』

 

 電話を切り、私はすぐにMr.暁の連絡先へとコールする。

 

『もしもし?』

 

「アビドスが襲われている。ホシノ先輩も拐われた」

 

『────ッ!? すぐに向かう!』

 

「いや、ゲヘナへ向かっていただきたい。私もそちらで合流する」

 

 それと、私はもう一人────連絡しなくてはならない人物がいる。目には目を歯には歯を、電子機器には専門家を。ハッキングならば、ふさわしい人がいる。

 

『珍しいね、アラヤが電話してくるなんて』

 

「ご無沙汰しております、チヒロ先輩。早速ですが────」

 

『コタマが聞いてた。ジャミングと相手のセキュリティをぶち抜けばいいんでしょ?』

 

 コタマ先輩、私の通信端末に盗聴機を仕掛けていたのか……だが、それが功を奏した。

 

「すみません、お願いできますか?」

 

『いいよ。というか皆が今か今かと待ってる』

 

「ありがとうございます」

 

 これで相手の情報網を破壊する算段はできた。あとは戦力……圧倒的戦力差を覆す戦力が欲しい。私一人でもやれないことはないだろうが、弾幕を浴びせられ続けたら二回は死ぬ。それを見られたあかつきには、見た誰もが足を止めてしまう。死ぬということは、それほどまでに恐ろしいものなのだ。

 

 ヤーナムでは当たり前であったそれ()は、ここでは────いや、本来なら当たり前のものではないのである。

 

 それと、ホシノ先輩を拐った輩が何者なのか、特定する必要もあるだろう。救出が成功したとしても、また拐われたら世話無い話……念入りに対処せねばなるまい。

 

 そうと決まれば早速ゲヘナ学園に向かおう。幸い、使者達が人目に付きにくい場所に灯りを用意してくれているため、ゲヘナへの移動は簡単だ。これからは各地に配置してくれるそうだから、移動が楽になるだろう。

 

 夢に意識が溶けていく感覚に身を委ねていると、境界を越えた感覚がやってくる。目を開けた時にはゲヘナ学園付近にいた。

 

「……イオリに話をしよう」

 

 イオリは風紀委員会ではあるが、私の影響もあって万魔殿の人間ともそれなりに話せる。イオリを仲介して風紀委員会か万魔殿を動かす。

 

 それと、万魔殿は私に借りがある。それを返してもらう時が来たのだ。何がなんでも部隊を派遣してもらうぞ。未だによく分からない蛇が目覚めようとしているのなら、戦力は必須である。

 

 考えを纏めながらイオリがいそうな場所を練り歩いていると、ゲヘナ学園の一角で土下座を慣行しているMr.暁がいた。イオリ相手に、だ。

 

「……」

 

 恐らく、イオリは協力してくれそうだから頼み込んでいるのだろう。イオリも困惑を隠せていないが、Mr.暁は予想できない行動に移ろうとした。

 

 そう、素早く、どこか慣れた手付きでイオリの靴と膝下まであるタイツを脱がせて────

 

「……無闇に恥を晒すのは愚者のやることだ」

 

「────────ハッ!? 私は何を……!?」

 

「己を制御できぬ獣か、あなたは」

 

 一度狩られてみるか、という意思を込めながら、Mr.暁を立ち上がらせた私は、呆然としているイオリに声をかける。

 

「イオリ、アビドスが襲撃されている。至急ヒナ先輩と万魔殿に会わせてほしい」

 

「あ、えと……分かった。ちょっと待ってて!」

 

 イオリが校舎へと走っていく。恐らくヒナ先輩とマコト先輩を連れてくるつもりだろう。……にしても、視線が凄いな。やはりトリニティとゲヘナの溝は深いのだろう。

 

 正直どうでもいいがね。脳が腐っていると勘違いしてしまいそうな陰湿さを持つトリニティと、気に入らないものには喧嘩を売って白黒付けるゲヘナ……

 

 一般的には、沼地のトリニティと更地のゲヘナと呼ばれているらしい。人の口に戸は立てられぬ。ゲヘナ学園の方が野蛮だが、私としてはトリニティよりも生きやすいとは思う。

 

 本格的に転校も考えようか……アリウス生徒会長について調べ終えたら、転校の手続きでもしてしまおう。幸い、私の工房はゲヘナとも近い場所に建造されている。ゲヘナとトリニティの境目……と呼ぶべき場所にあるため、登校も問題ないのだ。

 

 ……そういえば、転校の手続きに生徒会の許可が必要だった気がする。セイア先輩にでも相談しよう。残り二人は……ふむ、保留だな。それよりも今はカイザーPMCと、私の啓蒙が囁いてくる蛇とやらについて考えねば。

 

 蛇……蛇か……まず上位者の類いではない。上位者ならば私の領分である夢にすら干渉してくるはずだ。だが、それをしてこないとなると、別ベクトルの領分を持つ上位者か、上位者になろうとした存在だろう。

 

 別ベクトルの領分を持つ上位者というのは考えにくい。そもそもキヴォトスには、ヤーナムの神秘を持つ者が私しかいないのだから。

 

 となると上位者になろうとした存在、というのが有力な候補だ。どうやって成るつもりだったのかは知らないが、恐らく失敗している。

 

「……いや、前提が違うか?」

 

 上位者の存在を証明するために、自らを上位者へと作り上げようとしたのか? ────情報が足りん。一旦保留だ。

 

 

 

 

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