転校手続きの書類が手元にある。トリニティ総合学園側が自分をよく思っていないだろうと考えており、いつでも他校へ転校できるように準備している。
巨大な蛇のような機械は、唸り声を上げながらその巨体からは想像できない速度で突進してくる。まるで黒獣パールと再誕者を掛け合わせたような存在と戦っているようだ。
それに加えて、時折発射されるレーザーやミサイル。中々の火力だ。これを作った存在はこんなもので相互理解を果たそうとしたのか? だとするのなら、愚かにもほどがある。
「エンジニア部、見解を聞きたい」
『やつがなんて言ったのかは全く分からなかったけど、とりあえず、やつの耐久力を解析中だ。五分────いや、三分ほしい』
『アラヤ先輩、もう少しパターンが欲しいです!』
『攻撃も、してくれると嬉しい……です』
「心得た」
小手調べの一撃に神秘を込めると、葬送の刃が星の燐光を纏い、やつの巨体に傷をつけた。なるほど、星に由来する特別な隕鉄がふんだんに使われた葬送の刃は、神秘との相性がいいのか。そして、やつへの有効打になる。
では獣狩りの散弾銃はどうだ? こいつに遠慮はいらないため、容赦なく私の血が混ざった水銀弾を叩き込もうと構えた瞬間────
『「損傷予測、完了」』
回避行動を選んだか。やつの予測では、私の血が混ざった弾丸を喰らえば、無視できないダメージが残るようだ。これは牽制にも使える。
『うぇ!? アラヤ先輩そいつヤバイです! 私のハッキングに対して逆探知と逆ハック、防衛をほぼノータイムでやってきます!?』
「ほう?」
コユキのセキュリティを突破しようとするとは、この機械、やはり尋常の存在ではないらしい。攻撃を躱しながらも、すれ違い様に一撃与えていく。
狩人の戦い方は人それぞれだが、全員が後手必殺であることが特徴だ。啓蒙の囁きによる未来予知にも似た回避を行いながら攻撃を与える者と、獣性による鋭い勘が成す死なないギリギリを走り続ける者。どちらも攻撃を先に振らせることは変わらない。
攻撃を喰らったら、それ以上に攻撃して血を浴びて回復すればいい。最後にこちらが立っていれば勝利なのだから。
『アラヤ、解析が完了したよ!』
私がやつの攻撃を躱していると、チヒロ先輩の声が響く。私が戦闘を開始した直後からヴェリタスの方にもデータを回していたのか。
『その蛇みたいなやつの名前は第三セフィラ、ビナー!』
『背部にVLS、口には巨大ビーム砲が搭載された超巨大な大蛇型で、自らの巨体を生かして砂の津波を引き起すようだ!』
砂の津波だと? まさか……こいつが急激に増加した砂嵐の原因、その一端か?
『「解析、完了。目標捕捉────ミサイルポッド、フルバースト」』
「む……!?」
ミサイルの数が先程までよりも間違いなく多い! こいつ、私が避けきれない攻撃の量を解析していたか! これは────加速を使っても全ては避けられない……!!
『アラヤ!!?』
ミサイルの大部分を喰らい、爆風や破片によって肌が焼け、切り刻まれるが、この程度では死なん。
「────────ああ、問題ない!」
輸血液が入った注射器を太ももに突き刺し、傷を回復させる。空になった注射器二本を放り捨てて、こちらを見据える巨大な蛇のような機械────ビナーを睨む。
さて、どう狩ったものか。正直、リゲインができない相手と戦うのは面倒なものだ。弔うと決めたのだから、必ず殺すが……この様子だと、長期戦になれば泥沼化するぞ? それはそれで別にいいのだが、被害がどうなるか予想できない。ビナーを弔うには、もう少し火力が欲しい。
そう考えた直後。見覚えのあるドローンがミサイルを放ちながら突っ込んできた。
「ん、命中。でも、そこまで効いてない」
「うへ、寝起きでこれと戦うのかぁ」
「何よあれ……SFのロボット?」
「ビナーって言うらしいですよ、セリカちゃん」
『補給物資、投下します! じゃんじゃん使ってください!』
アビドス高等学校廃校対策委員会。ホシノ先輩の救出は無事に完了したようだ。
「やーやー、アラヤちゃん。手、足りてないんじゃない?」
「ああ、猫の手も借りたいくらいにはね」
「じゃあ、パパッと片付けちゃおうか。夜明けまでに倒すんでしょ?」
「作戦は夜明けまでのつもりでしたからね」
『アラヤ、狙撃ポジションに着いたよ。いつでも撃てる』
イオリの声がデバイスから聞こえてくる。他の風紀委員も配置に着いたらしい。Mr.暁が持つタブレットからデバイスに共有されたデータには、今宵集まった者達の表示がある。
『ビナー撃退を成功させれば完全勝利だ! 皆、踏ん張りどころだよ!!』
「撃退? 違いますよ、Mr.暁。やつを殺す。それで完全勝利です」
ミサイルの量は最大の規模を撃ち込んでも私を殺せないのは分かっている。大口径のビーム砲も、チャージに時間がかかっていたため、脅威にはなり得ない。
葬送のために、私が取るべきは、戦力の補強。
「アヤネ、この弾を全部隊へ。やれるかい?」
『や、やってはみますけど……その弾は一体?』
「水銀弾。一発一発全てに私の血────私の神秘が混ざっている特殊な弾さ」
『『『血!?』』』
「「「血って何!?」」」
血は血だろう? 他に表す言葉もないだろうに。ストックも合わせて一人一マガジン分は渡した。夢に貯蔵している分の半分を渡してしまったが、まぁ問題ない。また集めればいいのだから。
脅威となる弾丸を何発も撃ち込まれるともなれば、さすがのビナーも下手に動けまい。
『「対象物質、解析。脅威レベル、上昇。
「神? 神などになった覚えはない。私は狩人だよ」
『アラヤ、さっきもそうだったけど、誰と話してるんだい……?』
ビナーからの問いかけに答えた直後、Mr.暁の通信が耳に響く。
「やつが話しているだろう? 敵とはいえ、問いかけてくるのなら、答えるのが道理さ」
「アラヤちゃん、あれの言葉分かるの……?」
「む?」
ホシノ先輩は────いや、この場にいる全員がビナーの言葉を理解していないのか? あれの言葉は結構簡単だろう? 少々古い言い回しにはなっているが……しっかりと確立された言語だ。少なくとも、アメンドーズやエーブリエタースの言葉よりかは分かりやすい。
「少々古い言い回しで聞き取りにくくはなっているが、言語だろう? 古代言語か? よく分からないが、とりあえず言語だ」
「「「え……?」」」
似ている言葉を知っていたから聞き取りやすいのだが……他の皆も理解していないようだ。ウイ先輩なら聞き取れるだろうか?
『「対話不可。相互理解不可。戦闘行為の継続を決定」』
「まぁ、いい。やつを倒す。ここからは……短期決戦だ」
大口径レーザーのチャージが始まった瞬間、Mr.暁の指示が飛ぶ。一瞬でその場から飛び退いた地点には、凄まじい熱を放つクレーターが生まれていた。これは……湖の盾であっても防げなかっただろう。
「アル、あれのカメラを壊せるか?」
『ふふん、誰に言っているのかしら! 楽勝よ!』
『イオリ、アルの狙撃に合わせてどこでもいいから関節部分を撃って!』
『了解』
狙撃までのカウントダウンが右端に表示され、そのカウントがゼロになった瞬間、水銀弾がビナーのカメラと関節部分に直撃する。
『「警告。メインカメラ及びセンサー、関節部への損傷有り。ダメージレベル、レッド」』
「ハルカ、ムツキ! 爆破して!!」
「は、はいぃ!?」
「くふふ! 行っくよ~!」
カヨコの指示に合わせて放り投げられた爆発物が一気に炸裂し、煙幕となる。センサーが潰されたビナーは、煙幕の中から飛び込んでくるホシノ先輩とハルカのラッシュに気付けずに分厚い装甲を貫かれた。
「そこね」
「ん、逃がさない」
「私達の番ですね~!」
「あんなのの好きになんてさせないんだから!!」
ヒナ先輩の終幕:デストロイヤーが、シロコのWHITE FANG 465が、ノノミのリトルマシンガンVが、セリカのシンシアリティが、ビナーを巨体に損傷を与えていく。
『「理解不能。理解不能。システム損傷率、70%を突破。不可解。何故、何故、何故何故」』
『にははは! 仕返し完了! ヴェリタスの人達と一緒にシステムを滅茶苦茶にしてやりました!!』
「ククッ、素晴らしいよ、コユキ」
『私達もやったんだけど?』
「ええ、それも含めて素晴らしいですよ、チヒロ先輩」
巨体が混乱したように動くのと同時に、私はビナーに向かって走り出す。獣狩りの散弾銃を腰に吊して、木製の持ち手と刃を接続させると、曲刀は姿を変えた。
『大鎌……!?』
『やはりロマンだな、彼女の武器は……!』
『分かる』
「「「『『『先生!?』』』」」」
曲刀は姿を変えて、大鎌へ。かつて葬送の刃の使い手、老ゲールマンは、これを用いた狩りを葬送に準えていた。この鎌によって狩られた者が、せめて安らかに眠り、二度と辛い悪夢に目覚めないように、と。
だから、葬送の刃を用いた狩りを行う時、私はこう言うのだ。
「さようなら、命なき命の人。あなたの目覚めが、有意なものでありますように」
鎌を有らん限りの力で振り抜き、ビナーの首を斬り飛ばす。
『「────────────!!」』
私の神秘が込められた葬送の刃の一撃を喰らったビナーは、断末魔のような機械音を鳴らしながら機能を停止させた。
「……終わった、か」
そう呟いた矢先、私の中に遺志が流れ込んでくる。アメンドーズから手に入る血の遺志とほぼ同じ量が流れ込んでくるのを感じながら、ビナーの遺志を読み取っていく。
……第三セフィラ、と呼ばれていたからまさかとは思っていたが、まだいるようだ。デカグラマトン……よく分からないが、遥か昔のキヴォトスで創られたAI……か。他の預言者ともいつか出会うことになりそうな予感がある。それがいつになるのかは……分からないが。
先のことを考えるのもいいが、今は置いておこう。ビナーの葬送が終わったと共に、ホシノ先輩救出作戦が成功したことを、今は喜ぶべきだ。
「ホシノ先輩」
「ん?」
「色々言いたいことはありますが……とりあえず、彼女らに怒られてきてください」
「「「『ホシノ先輩!』」」」
「うへ……説教は嫌だなぁ」
それだけ愛されているということでしょうに。贅沢な不満ですよ、ホシノ先輩。
『お疲れ様、アラヤ』
「いえ、Mr.暁こそ。見事な指揮でした」
『あはは、それは光栄だ。……ところでアラヤ、前から聞きたかったんだけど……』
私相手に、Mr.暁が聞きたいこと……?
『どうして私のことをMr.って呼ぶのかな、って』
「ああ、そのことでしたか。あなたを認めていない、というわけではありませんよ。ただ……」
『ただ?』
「私が先生と呼ぶ者は、私の恩人達だけ……そう決めているので」
だから、あなたを先生と呼ぶことはない。そう伝えると、Mr.暁は納得したような、そうじゃないような唸り声を上げてから言葉を発する。
『それじゃあ……仕方ないね』
「ご理解いただければと思います」
『大丈夫だよ。……でも、何かあれば言ってほしい。君も、私の生徒であることには間違いないから』
「ええ、心得ておきます」
どうにもならないことなど、狩人にはほとんどないが……彼の善性は尊ぶべきものだろう。
「さて、Mr.暁。ご覧ください。……アビドスの夜明けを」
『────────ああ、美しいね』
砂漠の向こうから昇ってくる太陽が、私達を照らし出す。夜明け……ヤーナムで何度も求めた太陽の光に目を細め、デバイス越しに、全部隊へと通信回線を開く。
「貴公らの奮闘のお陰で、作戦は成功した。繰り返す。貴公らの奮闘のお陰で、作戦は成功した。……見事な完全勝利だ」
暁のホルス────────小鳥遊ホシノ救出作戦及び、第三セフィラ・ビナーの葬送、完了。怪我人、私の輸血液による回復を除き、無し。
完全勝利の達成が、ここに為された。