透き通る世界で、月の香りがした。   作:エヴォルヴ

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息抜きの方が筆が乗るのって何か理由があるのかしら?

まぁいいや。とりあえず投稿だオラァ!!


第二章【聖なるものと狩人】
14.来訪者


 アビドスでの一件が終わってから、半月が過ぎた。アビドスの借金はカイザーではなく、私も利用している金融機関への返済へと変わったそうだ。中小企業の系列ではあるが、よい仕事をする企業である。

 

 誰が流したたれ込みなのか、カイザーが信頼できない、と多くの者がカイザー金融の利用を止めた結果、カイザー金融は倒産……その余波を受けてカイザーコーポレーションも倒産一歩手前になるほどの罰金や懲戒免職が相次いだそうだ。悪い噂というのは広がるのが早いな。

 

 とりあえず、アビドスの借金問題はこれで解決……ともならないが、多少は余裕ができるそうだ。

 

「……チッ、外れか」

 

 さて、そんなアビドスも落ち着いてきたため、私は全盛りローランに潜っている。イオリからの誘いも断って半月をローランに使っているが、乗算炎の最高倍率スタマイが出ない。イオリとの買い物を代償にしても最高倍率スタマイが出ないのか……! まだ足りないとでも? 

 

「────ああ、くそ……! 獣マイはいらん!」

 

 繰り返し続けてもやってこないスタマイ。スタマイが来ても良い倍率のものがやってこない。地底のなんたるかを教えてくれた並行世界の狩人達は、この血晶石ガチャに胸を踊らせると話していたが……イオリとの買い物を断った分の発見力をよこせ。

 

 そんな不満を込めながら休憩していると、化け物共の断末魔が響いてくる。こんな場所に、私以外に狩人がいるのなら……きっと、彼らだろう。

 

「形状変形……そういうのもあるのか……」

 

「誰も我らを止められぬのだ!」

 

「ああ、血晶石……あるいはスタマイ……我らの祈りが聞こえぬか……」

 

「…………あなた方は、いつまでも在るのだな」

 

「「「おお、地底人初心者(マイリトルシスター)!!」」」

 

 あなた方の妹になった覚えはないんだがな。

 

 地底人と呼ばれる並行世界の狩人達は、夜が明けても出没する。私の世界でヤーナムに夜明けが来ても、並行世界のヤーナムで夜明けは来ないようだ。

 

「何、良さげな聖杯が開かれていたのでね。しばらくはここをキャンプ地とするつもりだ。貴公が開けたものだったか」

 

「我ら血(晶石)によって(地底)人となり、(地上)人を超え、また(地上)人を失う」

 

「知らぬ者よ、改造聖杯を赦すな」

 

 彼らの名前は知らないが、やたらめったら強いのは知っている。ある日は三人で千景を振り回し、またある日は三人でゴースの寄生虫を扱う。彼ら地底人はあらゆる技能を聖杯ダンジョンのために動員させている。

 

「ところで貴公、ここでよい血晶石は出たかね?」

 

 金のアルデオにカインの騎士装備の狩人が問いかけてきた。……ふむ、これまでの周回で手に入れたものであれば……

 

「雷乗算最高倍率耐マイ血晶石かな。これがその品だよ」

 

「「「Marvelous……!」」」

 

 私が取り出した血晶石に目を輝かせる三人の狩人。その三人誰もが金のアルデオ、メンシスの檻、スキンヘッドに騎士の一房で、なぜかたまに脱ぐ────メンシスの檻を被っている彼女のプロポーションは素晴らしいものだ────変態なのは愛嬌というやつだ。

 

「マイナスオプションは少々気になるが、それでも素晴らしい……!」

 

「貴公、何回回した?」

 

「十回くらいだね」

 

「Amazing……!」

 

 それから、最近の聖杯ダンジョンはどうとか、夜明け後の生活はどうかとか、キヴォトスでは絶対にできないような会話を行った。誰にも話せない、というのも中々にストレスが溜まるものなのだな。人形との会話が懐かしい。

 

「ところで貴公、先程、貴公に似た獣を殺したのだが……知り合いかね?」

 

「? ……いや、知らない人間だ」

 

 転がされた珍しい毛色の獣を見て、知り合いではないことを伝える。私と似ていたとなれば、ヘイローでも付いていたか? 狩人の武器は大なり小なり神秘が込められているためなのか、手加減しなければキヴォトス人だろうと簡単に殺せてしまうのだ。……それにしても、この獣……なんとも特徴的な毛色をしている。

 

「紫色の毛色の獣とはな……どことなく私の髪色には似ているな」

 

「何やらブツブツと呟いていたな。何を言っていたのかは、アリウス? とやらについてのようだが、私は知らん」

 

「ふむ……ヤーナムは過去、現在、未来を混ぜ合わせた吹き溜まりのようなもの……何が起きてもおかしくはあるまい」

 

「案外、貴公の先祖だったやもしれんな」

 

 アリウス……紫の毛色……歴代のアリウス生徒会長は紫髪だったと聞く。私の先祖だとすれば、憐れなことだ……死して安らかに眠れると思った矢先に獣へと変えられてしまうとは。

 

 せめてもの救いは、彼ら凄腕の狩人に弔われたことだろうか? 今回、何を思ったのか三人全員が葬送の刃を使っているのだ。痛みなく逝けたであろう。

 

「それと、これが獣が持っていたものだ。持っていきたまえよ」

 

「私がかい?」

 

「貴公の先祖かもしれない。なら、貴公に渡しておくのが筋というものだろう?」

 

 そう言ってアルデオの彼が渡してきたのは、薔薇と髑髏の意匠が施されたペンダント。見覚えはないが……幼い頃に死んだ母が持っていたペンダントに似ている。

 

 ……おっと、今日はここまでにしておこう。イオリとの買い物はできなかったが、私の工房でお泊まり会が開催されるのだ。そのための買い出しもあるため、ここで終わらなければ。

 

「それでは、私はこの辺りで失礼する。このダンジョンは開けておくから、気が済むまで使ってくれ」

 

「「「感謝を」」」

 

 お互いに一礼し、聖杯ダンジョンから外に出る。薄暗い空間から一変して、明るい私の自室へと戻ってきた感覚に一息吐いた私は、部屋に置いてある投げナイフを手に取り────視線を感じた方向へと投げつけた。

 

「覗き見とは……いや、不法侵入とは、感心しないな」

 

 この私が嫌いなことは複数ある。道理を知らぬ獣、理不尽な裏切り、徒に悪夢を広げようとする者……まだまだあるが、トップに入る嫌いなことはこれらだ。

 

「ああ、分かるよ……秘密は甘いものだ。だが……道理を知らぬ獣に、秘密など……知る必要があるものかよ……」

 

 次は当てる、という意味も込めて投げたナイフは、仮に刺されば獣であってもすぐには抜けない。釣り針の返しのような、ノコギリの刃のような細かいギザギザの刃が動けば動くほど肉に食い込んでいくのだ。

 

「何を持ち出そうとしたのかはさておき……去るがいい。今なら見逃そう」

 

 聖杯は私の部屋……コユキが誕生日プレゼントに贈ってくれた物理的ロックと電子ロックの二重ロックができる金庫に仕舞ってあるため、目的はそれじゃない。

 

 とすれば、一番分かりやすいのは私の武器か? 目の付け所は悪くないが、盗みを働く輩を私は許すつもりがないのだ。今回だけは物を置いていけば許すが。

 

「ああ、それと君……答えなくてもいいが……鐘の音は聞こえているかね?」

 

 答えなくとも分かる。鐘の音が聞こえるのならどこに居ようと関係ない。盗人を逃がすつもりはない。ブラドーの執念は私の中に息づいている。やつとは戦いでのみ対話を行ったが……中々に仕事熱心な狩人だった。

 

「聞こえているのなら……怯えるがいい……愚かな者に終わりなき死を……教会の刺客は貴様をどこまでも追い続ける……」

 

 ヤーナムで磨き続けた死血のように黒い殺意を込めて放った言葉が盗人に届いたのか、気配を消すことも忘れて逃げ出す足音が聞こえた。何を持ち出そうとしたのやら。

 

「…………む?」

 

 廊下に転がっていたのは、感覚麻痺の霧……そして青い秘薬。人攫いのハッピーセットと言えるものである。下手人は……人攫いでも計画していたのか? 

 

「まぁ、いい。敵対するというのなら、その時殺せばいいさ……」

 

 狩人との戦いは殺すか殺されるかのどちらかでしかない。そんなことよりも、買い物に行かなくてはならない。今日は……そうだな……イオリも来ることだし、久しぶりにノンアルコールモヒートでも作るとしようか。ミントは鉢に植えてあるし、ライムとレモンを買ってこなくては。

 

「……それと……これについても調べねばな」

 

 紫の獣が持っていたというペンダント……これから読み取れる遺志は……あまりないだと……!? ────いや、アルデオの彼やスキンヘッドの彼、メンシスの檻の彼女に大半の遺志が持っていかれたとすれば……おかしくはないか。

 

 

血に濡れたペンダント

 

 持ち主の血に濡れたペンダント。髑髏と薔薇の意匠が施されているのが見て取れる。

 かつてアリウスは統合に対して徹底抗戦を訴え、弾劾され、追放された。しかし、その血は続いている。

 それは、血が遥か昔から続く聖血だからだろうか? 

 

 

 

 ……ふむ。どうやらユスティナ────いや、シスターフッドには聞くことが増えたようだ。それと、アリウスの自治区にも行ってみるべき……か。

 

 聖血……私にとって、馴染みしかない単語だ。私の中に流れている血は、ヤーナムの血の医療によって輸血された聖血が流れているのだから。だが、キヴォトスにヤーナムとの関連性は────いや……ないと断定はできない。

 

 私がいる時点で、ヤーナムとの関連性がキヴォトスにないとは断定できなくなっている。そのうちアメンドーズがビルに張り付いていても私は笑わないぞ。笑わずに殺す。

 

 そんなことを考えながら外に出ると、

 

「……あ」

 

「ん?」

 

 リュックを背負ったイオリが家の前に立っていた。集合時間にはまだ早いはずなのだが……

 

「ごめん、早く来すぎちゃった」

 

「……構わんさ。早い分にはいい。買い出しに行くつもりだったからね。イオリ、手伝ってくれるかい?」

 

「もちろん。ちょっと待ってて」

 

 私の家の構造を私の次に理解しているイオリは、私の部屋に荷物を置くために入っていく。……そういえば合鍵を渡しているのは彼女だけだったな。昏睡状態になった時、率先して掃除をしてくれていたのもイオリだったと聞く。頭が下がる思いだよ、全く……

 

「お待たせ。行こ、アラヤ」

 

「ああ」

 

「そういえば、何買うの?」

 

「レモンとライム……それと無糖の炭酸水だな。トニックウォーターも購入しておきたい」

 

 買い足すものを聞いたイオリは、思い付いたように笑みを浮かべる。

 

「その材料、ノンアルコールモヒートだ」

 

「ああ。久しく飲んでいないだろう? 無性に飲みたくなってね」

 

 ヤーナムの匂い立つ血の酒も中々の美酒だが……やはりノンアルコールモヒートの味が忘れられなかった。

 

 ついヤーナムで材料を探して飲むくらいには。ヤーナムの狩人達にも好まれたが……特にアイリーンやマリア、アンナリーゼにも好評だった。爽やかさが癖になる味だったそうだ。獣狩りの夜が明けたら、もう一度飲む約束をしたが……結局叶わなかったな……

 

「私も最近飲んでないや。私も一緒に作っていい?」

 

「もちろん。……そうだ。ノンアルコールのブラッディ・メアリーも試してみようじゃないか」

 

 ああ、なんとも心が踊ることだ。やはりイオリは私の導きであったか。

 

 

 

 

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