これは昼寝してて、その時に見た夢の話。正直自分に人の心がないと思って自己嫌悪に陥った。
「私がヤーナムに訪れ、学び、気付いたことは……血に酔った狩人はクソということだ」
「ああ、それは同意だね」
アイリーンが頷く。
「そしてヤーナムで狩人を続けて気付いたことは……上位者はクソということだ」
「「「激しく同意する」」」
「落ち着いてください、皆様……」
ゲールマン、ローレンス、マリアが頷き、エミーリアが苦笑して宥めた。
「そも、私が幼年期を超えて赤子を孕めると知った瞬間襲ってくるとか盛っているのか?貴様らなんぞの子を孕むわけがないだろうが殺すぞ。……もう殺しているが」
「まぁ、同士、これでも飲め」
「お姉ちゃん、これ食べる? お母さんが作ってくれたんだよ!」
「今日は宴です。二日目の朝まで飲み明かすとしましょう」
「……そうだな。……それではーーーー」
「「「乾杯」」」
パチリと、目が覚めた。周囲を見回して、自分の部屋であることを確認する。
「……ああ、夢だったのだな」
我ながら、未練がましいことだ。追憶が、戻るはずもないのに。
ふむ……予想していたよりも強いな。これもMr.暁の指揮が原因か? 指揮官を潰すのも悪くはないが……ここからでは多少距離がある。それに────
「撃ち続けてください!」
「ツルギ先輩達を瞬殺した人っす。絶対に油断せずに!」
援護に徹しているあの二人も鬱陶しい。あの二人がいなければ、もっと素早く突破できるんだが……援護のタイミングが巧いな。一対一に持ち込みにくいように撃ってくるあの二人……名前はなんだったか…………まぁ、あとで調べておこう。
「……アラヤ、話をさせてほしい!」
「ああ、Mr.暁。悪いが私はそのつもりはないよ。この腐りきった鳥籠を出ていくための試験なのだろう? 言葉は不要だ」
(クソッ! 聞く耳全く持たずか!!)
そも、そちらに立っている時点で私との交渉は決裂したも同然だ。せめて第三者として介入してくるべきだったな。狩人は敵対者に容赦しないことが肝要だ。何らかのイベントに参加していない限り、鐘を鳴らす女はさっさと殺すに限る。
────そういえば、対人専門の狩人達は元気だろうか? 血族、処刑隊のあの二派閥はいつでも殺し合っていたが、お互いにリスペクトも忘れない変人ばかりだった。
おっと、そんなことを考えている場合じゃないな。数が多くて鬱陶しい。もう手心とか諸々が面倒だ。そもそも私が退学する程度でこんな騒ぎにするのはどうかしているだろうに。これだから啓蒙のない連中は面倒なのだ。未強化の仕掛け武器を使ってしまおう。
「死なないだろうが、それでも重傷は覚悟しておけ」
「「「は────?」」」
ジャリジャリジャリッ!! と鈍い音を響かせながら、ワイヤーと分厚い刃が擦れる。見るがいい、古狩人、悪夢に呑まれたかつての獣狩りを。
「名を、獣肉断ち。貴公らに向けるには勿体無い代物だが……よく味わえ」
獣肉断ち────古い狩人が用いた「仕掛け武器」の一つだ。硬い獣肉をすら断ち切るための分厚い鉄の鉈は仕掛けにより刃が分かれ、重い鞭のように振るうこともできる。
「グブッ!?」
「ま────ヒギィッ!?」
「イギィアアア!!?」
無骨で、力に任せるその武器は、洗練とは言い難い。故に古狩人の狩りは凄惨で、その姿は赤黒い血に塗れていた。
「クヒッ……ヒヒッ、ハハハはハハハはハハハはは!!」
手加減したお陰で身体の一部が泣き別れしている者はいないが、誰もが切り裂かれ、悲鳴を上げて血を流している。その返り血が、その悲鳴が何とも心地好い。ああ、堪らぬ悲鳴で誘うものだ……えずくじゃあないか……
シスターフッドも、正義実現委員会も、ティーパーティーも、シャーレも関係ない。どうでもいい。………………………………いや、どうでも良くはないな。シスターフッドの倉庫は必ず燃やす。あの倉庫には恐らくローレンスの遺骨や、エミーリアの遺骨もまだ残っているはずだ。あの教会は、ヤーナムの大聖堂なのだから。他のヤーナムの建物はほぼ見当たらないというのに、あの大聖堂はよく残っていたものだな。その上にあった聖歌隊の研究施設は消え去っていたが。
ああ、ローレンス、エミーリア……貴公らを穏やかに眠らせるにはまだ時間が必要なようだ。まずはこの試練を突破し、その後必ず弔うと約束しよう。
「アラヤさん……!!」
「さすがにこれ以上はやらせない……!!」
「言わなかったかね? 狩人とは狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っていると。……そもそも貴公らは誰だ?」
援護に徹していた二人が飛び出してきた。はて、本当に誰だったか……スナイパーライフルを使う彼女は……一年生か? なら知らん。そして灰色の瞳を見せる彼女は……ふむ……誰だ? 私の知り合いにこのような二人はいない。
(リーチが厄介過ぎる! けど────!)
(近付けばそのリーチは活かせない……!!)
長物に対し、挟み撃ちの形で間合いを詰めるという判断。さすがは正義実現委員会と言うべきか? 先程の連中を見ていれば、一撃を喰らっただけでも服が、皮膚が、肉が抉れて血を流すと分かるだろうに。恐怖を捨てて、接近する判断は素晴らしいと思う。だが、安易な考えでもある。少なくとも、狩人の前では。
「フンッ!」
「なっ────!」
(武器の形が変わった!?)
ジャラララララッ!! と音を掻き鳴らしながらワイヤーが巻き戻され、獣肉断ちが分厚い鉈へと変貌する。
重い鞭のように扱うだけが獣肉断ちではないのだよ。あれは仕掛けが起動した状態。狩人の右手に握られている武器は、二面性を持つ。それは人間が獣性と啓蒙の二面性を表しているように。
変形後の獣肉断ちは重い鞭のように扱う代物だが、後ろへの攻撃が通しにくい。下手に振り回すと自分に巻き付くからだ。だが、変形前────つまり今の状態の獣肉断ちは、分厚い鉈。後ろへの攻撃も行いやすい。
「ぐっ……!」
「この……程度……!」
「存外、耐えるものだな。すまない、侮っていた。……もう少しギアを上げようか」
古い時代の仕掛け武器は使いにくい。だが、このシンプルな変形機構は面白いこともできる。これでも私はブラックスミス。仕掛け武器は徹底的に分解、再構築を何度も繰り返した。だからこそ見つけた面白い使い方────────
(リーチが変わった!? 長────いえ、短────)
「マシロ!」
一瞬だけ変形機構を起動、その後すぐに変形機構を戻す。獣肉断ちや仕込み杖が顕著だが、この使い方をすると、リーチが瞬時に変わるため、相手の間合いを狂わせることができる。
凄まじいリーチを誇る突き、巻き戻る勢いを利用した薙ぎ払い、何も考えない振り回し。シンプルだが、テクニカルな攻撃手段の数々。避けきれなくなってきた二人は武器も盾に使って凌いでいたが、それも限界が来たらしい。攻撃がよく当たり始める。
「ほら、頑張れ頑張れ……冒涜を犯す愚か者」
「何の話……ですか!?」
「うん? 知らないのかね? この腐りきった鳥籠が秘匿し続けた冒涜を」
知っていると思っていたが……そういえばツルギ先輩達も話を聞けと言っていた。冒涜の秘密を守る者の何を聞けばいいのやらと思っていたが、まさか知らんのか? 知らないのなら知らないでいいが、これだけは言わせてもらおう。
「死者を埋葬せず、弔わず……挙げ句の果てには聖遺物として保管している……これを冒涜と言わずして、何と言う」
「……聖人の亡骸は聖遺物として保管されるはず……それが冒涜だと?」
「その者の遺言を蔑ろにしてもか?」
「「え……?」」
アルフレートの遺した手記、それをお前達は見ているはずだ。聖者であっても弔い、二度と悪夢を見ないように埋葬するべしと。ただ善くあるべきであると。……ああ、思えば全く活かされていないなアルフレート……嘆かわしいことだ……
正義実現委員会……ティーパーティー……シスターフッド……どこもかしこも獣ばかりだ……己の正義のみを見る……都合のいいものだけを見る獣共……
「テロリストを捕縛する。それは正しいことだろう」
獣肉断ちを握る力を強める。
「祈りを捧げ、信仰する。きっと正しいのだろう」
目の前にいる正義実現委員会の人間、その武器を狙い、獣肉断ちを力の限り振り下ろす。未強化とはいえ、凄まじい重さと切れ味を誇る獣肉断ちと、私の筋力と技術が噛み合い、威力はある。
「「は────────?」」
「だが、正義と信仰……一つに盲目的、盲信的になった者は、ただの獣だよ」
銃を叩き斬った後、放心状態にある二人のがら空きになった横腹を、刃のない部分で殴り付ける。
致命傷は避けた。あばら骨数本と内臓のいくつかがダメージを受けているだろうが、キヴォトスの人間はヤーナムの市民よりも頑丈だ。問題はない。
「さて……あとは貴公だけだが、Mr.暁?」
「……ここまでする必要は、あったのか……?」
「明らかに殺しに来ていたのが何名かいた。殺してないだけありがたいと思え」
「ッ! それでも、話を聞くことはできたはずだよ。交渉も────」
「何か勘違いしているな、Mr.暁。交渉とは平等な立ち位置で行うものだ」
人の幸せを本気で願える大人。それだけを見れば、それだけを聞けば聞こえはいいが……彼の考えは甘い。頼られた相手の幸せを、生徒の幸せを願うあまり、大を生かして小を殺したり、小を生かして大を殺すことすらある。アビドスの件については私も参戦したからとやかく言えんがな。
聞けば美食研究会や温泉開発部の部長がゲヘナ学園の牢から出所した理由も、彼が一言かけたかららしいではないか。やつらを解き放ち、テロ行為を肯定するつもりだったのかね。
「集団で襲って、満身創痍にした後、不平等な交渉でも持ちかけるつもりだったのかね?」
「違────」
「少なくとも、私はそう感じた。素晴らしい考えだ、Mr.暁。
ヤーナムでの交渉は基本的に平等だった。お互いに情報を交換することがメインだったが、渡した情報に見合う情報か物を受け取ることができた。アルフレートから渡された雷光ヤスリは使い勝手が良かったな。
「良くも悪くも……キヴォトスに染まったな、Mr.暁」
声も出せず、呆然としている彼に対して私は言葉を紡ぐ。
「キヴォトスは力が物を言うことが多い……いつの間にか、貴公もそれに納得してしまっていた」
「……」
「私はゲヘナに────いや、シスターフッドの倉庫へ行く。この腐りきった鳥籠など、彼らにとっても息苦しいからな」
彼のすぐ横を通り抜けて、シスターフッドの本拠地────その教会へと歩みを進める。正義実現委員会、ティーパーティー、シスターフッド……トリニティ総合学園……精々噛み締めるがいい。我ら狩人に敵対した者達の末路、そしてお前達の下した命令の結果を。
────────────────────────────────────
「……」
すぐ隣で戦闘行為があったというのに、教会は本当に静かであった。祈りを捧げる時間だったはずだが、シスターフッドに所属している────非戦闘員達が席に着いて祈りを捧げておらず、閑散としている。
……ああ、本当に……貴公らがいるのか、ローレンス……エミーリア……アルフレート……ところでアルフレート、貴公の手記、ほぼ誰にも伝わっていないのはどういうことだ? 貴公が遺した教えが全くもって機能していないぞ。
「……ようこそ、月見アラヤさん。……いえ、秤アラヤ……そう呼ぶべきでしょうか?」
設置された椅子に座り、聖書を読んでいた少女が立ち上がってそう言った。秤だと? 私はそんな苗字を名乗った覚えはないぞ。それは母方の旧姓だ。
「人の苗字すら覚えられない程低能なのかね、シスターフッドの長とは」
「……」
シスターフッド……ユスティナ聖徒会が前身となっている中立集団。ヤーナムの聖者達を埋葬せず、保管している冒涜者達……そして目の前にいる彼女こそ、そのシスターフッドの長である歌住サクラコである。
「まぁいい。退け。貴公ではなく、貴公らが秘匿する冒涜を消し去るために来ている」
「あの……他の皆さんから聞いていないのですか?」
「……何をだ。向かってきた連中は倒したぞ?」
「……はい?」
……何だ? 話が噛み合っていないような違和感がある……ええい、啓蒙が囁かん。
「私はただ、あなたが転校する前に話をしてみたい、そしてあの亡骸についてどのようにすればいいのか知りたい、と言っただけなのですが……」
「…………」
つまり………………何だ?
「貴公、さては勘違いされがちのコミュ障か?」
「はぐぅっ!?」
…………………………………………………………ヤーナムでもこんな人間はいなかったぞ。
誰かうちのアラヤちゃん使って人の心がないブルアカ二次創作書いてくれませんか?