透き通る世界で、月の香りがした。   作:エヴォルヴ

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狩人様プロフィール

月見アラヤ
学園:トリニティ総合学園
部活:ブラックスミス
学年:2年生
年齢:16歳?
誕生日:3月24日
身長:172cm(入院中になぜか伸びた)
趣味:聖杯、思考を広げる
服装:基本的には制服だが、プライベートではヤーナムの狩装束や人形の服。
ヘイロー:カレル文字の狩りに似ている。
翼:いつかの日、千切れた。


2.ようこそ、月香の工房へ。

 ……何か、いるな。何者だ? 

 

「我ら血によって生まれ、人となり……また人を失う」

 

 いつも胸の中に宿っている教訓を呟く。ウィレームが唱えた教訓。私が人でありたいと願い続け、狩人であり続けるための教訓の一つを呟きながら、私はあの夜を駆け抜けた相棒たるノコギリ鉈と獣狩りの散弾銃を握る。

 

「知らぬ者よ……かねて血を恐れたまえ……」

 

 そして、本当の意味で狩人となった夜からずっと口にし続けた言葉を吐く。ゲールマンの真似事ではあるが、この言葉は私を勇気づけてくれる。

 

「……アラヤの狩りを────」

 

「んだよ、しばらく見ないうちに物騒になりやがったなアラヤ」

 

「…………む?」

 

 気配が、消えた? 私との接触には、二人きりでないといけない理由があるのか? 

 ……まぁ、いい。気配は覚えた……今もどこからか見ているようだが……いや、一人は微睡んでいるのか? ……どうでもいい。今は、私の家に訪れた客人へと意識を向けよう。

 

 ……次に現れた時、獣であるのなら狩る。

 

「お久しぶりです、ネル先輩」

 

 美甘ネル。何かと過去の私の世話を焼いてくれていたミレニアムサイエンススクールの先輩である。キヴォトス屈指の実力者とのことだが、生憎と私は彼女が戦っているところを一度しか見たことがないため、分からない。強いことは分かるがね。そうさな……アイリーンと同等か、それ以上か……? 

 

「おう。退院おめでと。で、その手にある物騒なのはなんだ?」

 

「私の得物達……ノコギリ鉈と獣狩りの散弾銃です」

 

「達、ね。てことは、まだあるんだな」

 

「ええ……とはいえ、先輩のお眼鏡にかなうものがあるかは分かりませんが」

 

 彼女がわざわざアポまで取って、私の家────もとい工房にやって来たのには理由がある。

 

「んじゃあ見せてもらうとするかね。その得物達とやらを」

 

 狩人の武器を見るためだ。私とネル先輩の付き合いの始まりもこのような感じだった。過去の私は……まぁ、トリニティの中でブラックスミスのようなことをしていた。銃の整備からカスタマイズまで、さらには製作まで請け負うまるで工房のようなものである。どこの誰であろうと、身分証明さえしてくれれば仕事をした。

 

 お得意様……というわけではないが、イオリを含めた何名かから腕がいいと言われ、予備銃やカスタマイズを頼まれるくらいの腕ではあった……はずだ。彼女らの同情でなければ、だが。

 

 まぁ、過去の話はもういい。とにかく、ネル先輩は私の獣狩りに使った武器の数々────とはいえ未強化のものだけだが────を見に来た。ならば歓迎せねばなるまいよ。

 

「ようこそ、月香の工房へ」

 

 ガチャン、と鍵が外れる音が鳴り、私の工房が顔を出す。吊るされた獣狩りの曲刀や、ノコギリ鉈、獣狩りの斧……立て掛けられた教会の石槌やルドウイークの聖剣。さらには獣狩りの短銃やエヴェリンなども保管してある。

 

「目覚めてすぐに、こんだけ模様替えとはなぁ……」

 

「思い立ったが吉日、と言うでしょう?」

 

 過去の工房とは様変わりした私の工房に、ネル先輩は少し混乱しているようだったが、さすがはCleaning&Clearingのリーダー、すぐに切り替えたらしい。面白そうに工房を見回し、武器を手に取った。

 

「アラヤ、この大きめの剣みたいなのは?」

 

「ああ、お目が高い。教会の杭という仕掛け武器です」

 

 古い獣の伝承をもとに作られた、医療教会に伝わる古い仕掛け武器。変形前であれば大きな剣として使えるが、変形すると姿が一変する。

 

「ネル先輩、その持ち手を思い切り引っ張ってみてください」

 

「あ? ────────おお?」

 

 リーチが延長されて、教会の杭は剣ではなくウォーピックとなった。これが、仕掛け武器。まるで人の表と裏を表しているような武器達。狩人と獣の関係性を示しているかのようで、私の戒めにもなるのだ。

 

「少し重い……が、威力は間違いなくある」

 

「振り回すもよし、叩き付けるもよしの逸品です」

 

 医療教会はまぁまぁ脳筋集団であった。より恐ろしい獣を狩るためには、それほどまでにせねばならなかったのだろう。聖職者こそが、最も恐ろしい獣になるのというのだから。

 

「で? アラヤのイチオシ武器はあるのか?」

 

「私個人として? ……そうですね……」

 

 どれもこれも私としては素晴らしい逸品だとは思う。ノコギリ鉈は扱いやすく、斧はリゲインの量────つまるところ血を浴びるのに適しており、仕込み杖は様式美と範囲攻撃に適している。医療教会が手掛けたルドウイークの聖剣や教会の石槌、教会の杭は質量による一撃と、剣による手数。だが……ロマンという点においては、火薬庫やオト工房が上手だろう。

 

 そんな私が少々悩んだ末選んだのは、銀に輝く曲剣。

 

「これなんていかがでしょうか」

 

「あ? なんだそりゃ」

 

「シモンの弓剣と呼ぶものです」

 

 狩人の悪夢に飲まれた時、狩人の罪を暴き、清算しようとした男に出会った。彼との出会いは私に新たな知見を与えてくれた。葬送の刃に反応したところからして、彼は古い狩人だったのだろう。

 

「弓? これも変形するのか?」

 

「ええ。剣と弓……近距離と遠距離のどちらも兼ね備えた武器です」

 

 肉も骨も切り裂き、全てを貫くような矢を放つシモンの弓剣。私の七回目の夜はこの剣で駆け抜けたのだったか。

 

「……アラヤ、どうした?」

 

「ん? 何かありましたか」

 

「いや、上の空に見えたからよ。何かあったか?」

 

「……いいえ。少し考え事をしていただけです」

 

「とやかくは言わねぇけどさ……何かあるんだったら言えよ」

 

 ……ああ、この先輩から放たれているこの感情は、後悔と心配か。補習授業部とやらに叩き込まれたが、二日もあれば進級テストを合格するなど容易い。採点を担当していた先輩が申し訳なさそうにしていたが、私は彼女と接点がなかったと思う。申し訳なく思われる筋合いもなかった。

 

 さっさと補習授業部とやらを抜けて、今日を迎えたわけだが……過去の月見アラヤは抱え込みやすい人間だったようだ。そして、どこまでも優しかったのだろう。己が傷付いていようと、友人が傷付いていなければ何も問題がないと考えるような異常者。それが月見アラヤという少女だった。

 

 だからこそ、何をしでかすか分からなかった者が私を消そうとしたのだろうな。……こうなったが。

 

「ふむ……なら、お手伝い願いたいことがあるんですよ、ネル先輩」

 

「お、なんだ?」

 

「私が個人的に仲良くしている友人を招き、私の退院祝いをするつもりなのですが……いかんせん料理の量が足りない」

 

 だから手伝っていただきたい。ネル先輩にそう願い出ると、彼女は人好きのする笑みを浮かべて私の手を叩いた。

 

「それくらいなら任せろ。てかそれだけでいいのか?」

 

「ええ。私にはそれくらいが丁度いいのです」

 

 過ぎたるは猶及ばざるが如し。何もかもを欲した結果がヤーナムだったのだから。それを見てきた私が何もかもを欲するなど愚かなことだろう? 

 

「アラヤがいいならいいけどよ。相変わらず欲がねぇなぁ」

 

「いいんですよ、これで。それとも、舌を噛むほどに宇宙を語りましょうか?」

 

「やめろ! それでミレニアムの連中が何人思考停止したと思ってんだ!?」

 

 聖歌隊やメンシス学派の連中が聞いたら口々に「これだから啓蒙の低い者は」と言うだろうが、私は省みたのである。……まぁ、省みたのは学徒の生き残りやミコラーシュと会話が成立しなかった時だったが。

 

「大体なんだよ、脳に瞳を得るって」

 

「瞳は物事を見定める物差しでもあります。ゆえに、脳に瞳を得ることにより、多くの知見を得るのですよ」

 

 過去の私が口にしたのは奇しくもメンシス学派やビルゲンワースの言葉。脳に瞳を得ることにより、高次元の思考を可能とする……絵空事のようではあったが、過去の私は蒙を少しだけ啓いていた。私の本性も含めて、あの悪夢に招かれる素質はあった、ということなのだろう。

 

「よく分からねぇよ、お前の考え……」

 

「理解しない方がいいこともあるかと」

 

「自覚あるのかよ!?」

 

「退院してからですがね、自覚は」

 

 無自覚での啓蒙のばら蒔きは悪夢を呼び起こす。ゆえに、これからはある程度控えるつもりだ。二度と話さないわけにもいかないかもしれないが、求められない限り、私は高次元的思考による発言をしないつもりである。

 

「そういえばネル先輩、キヴォトスが騒がしいようですが……何かあったので?」

 

「あん? ……ああ、知らねぇのか。連邦捜査部ってのができて、大騒ぎだよ。ニュースにもなってるぞ」

 

「連邦捜査部……ふむ」

 

 携帯端末でその名を調べてみると、簡単に出てきた。連邦捜査部S.C.H.A.L.E────通称シャーレ。常に協力者を求めており、優秀な指揮官であるという先生なる存在が率いる完全中立組織……か。

 

「なんでも、キヴォトス全生徒のために奔走するつもりらしい」

 

「ほう……それはそれは……ネル先輩はお会いしたので?」

 

「一回だけな」

 

 キヴォトス全生徒のために奔走……か。素晴らしいことでもあり、危うさも少し感じさせるな。

 

 この手の人間は、己がどうなろうと役目を果たそうとする節がある。そしていつしか自身が砕けていることにも気付かず、それを隠すのも上手い。耐えきれずに欲望などが爆発し、理性のない行動を起こす可能性すらあるだろう。プライドなど捨て去るほどの行動力が、この手の人間にはあるのだ。

 

 そう考えると、イオリと少々相性が悪いか? 彼女のことだ、この先生とやらが何かを嘆願した時、足を舐めろとか土下座しろとか言いかねない。そしてこの手の人間は目的遂行のためならプライドだろうが尊厳だろうが投げ捨てる。

 

 それに────────蒙が啓きそうになる感覚がある。本人が自覚しているかはともかく、彼には星に関する何かがあるのかもしれない。この啓蒙の囁きの仕方は……医療教会の上層にやって来た時訪れた、聖歌隊の本拠地や、大聖堂に足を踏み入れた時に感じた星の気配にも似ている。

 

 一度接触を試みるのも一つの手だろう。退院したことを伝えるために、一度アビドス高等学校にも訪れるつもりだし、その後にでも接触してみようか。……元気だろうか、あの桃色の先輩は。

 

 

 

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