透き通る世界で、月の香りがした。   作:エヴォルヴ

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エデン条約かパヴァーヌだと思った?残念!狩人様の独白だ!

タイトルに人の心はない。脳食らいが全て持っていってしまったから。

……ああ、その自己嫌悪に表情を歪めている顔……素敵ですよ、ご友人……新しい友人を自身の手で奪い去る瞬間のその表情……素敵だ……


アラヤから見た友人達

イオリ→信用も信頼も尊敬もしている友人。

ヒフミ→貴公、普通か?だが、その熱意には尊敬するよ。ハナコを頼むよ。彼女には貴公が必要だろうからな。その輝きでトリニティを照らせ。

ハナコ→貴公に敬意を。素晴らしい選択だ、浦和ハナコ。天晴れだ、浦和ハナコ。貴公の友人であれて本当に良かった。また会おう。



20.失い続けたもの、手放したくなかったもの。Ⅰ

 冷たい風が隙間から吹き込む夜。私は一人、ヤーナムの酒────匂いたつ血の酒を片手に部屋で安楽椅子に身を預けていた。

 

「……」

 

 ヤーナムでは酒に酔うのではなく、血に酔う。熟成された血を口にすると、獣狩りの血が騒ぐ。この高揚は、獣狩りの夜に感じていたものとは少し違う。高揚してはいるが、どこか冷静な自分がいるのだ。忘れるな、忘れてはならないと囁く自分が。馬鹿な話だよ、忘れるはずがないというのに。

 

「ああ……月が見える……」

 

 あの夜のような、青ざめた血の空は見えないし、雲の前にある月も存在しない。しかし、それでも私は月を見る度に思い出すのだ……あの日の夜を。

 

 最初の夜は……どうだっただろう? 右も左も分からず、ただ向かってくる獣やヤーナムの市民達を迎撃し続けていたような気がする。何をするわけでもなく、空き家となっていた場所を占拠して、ゲリラ戦術で何とかしていた。

 

 そのうち、限界が来て殺されて……気が付けば狩人の夢に訪れた……なんて繰り返し。当時の私は本当に混乱していて、そこが私の死後の世界だと思ってしまった程である。そんな私に対して、ゲールマンが言ったことを一字一句覚えている。

 

『やぁ、君が新しい狩人かね』

 

『私はゲールマン……君のような狩人の助言者だ』

 

『……しかし、君は少々混乱しているようだ。一度、休息を取りなさい。人形に紅茶とお菓子の用意をさせよう』

 

『何、獣狩りの夜は長い……好きなだけ休むといい』

 

 あれはまるで、孫を可愛がる老人のようだと思ったな。

 

『初めまして、狩人様。私は人形。あなたのお世話をさせていただく者です』

 

『ゲールマン様から、あなたに紅茶とお菓子を用意しろと言われております。……さぁ、こちらへどうぞ』

 

 人形に出会った時の衝撃も忘れていない。人形が独りでに動いているというのは中々衝撃的だったからな。そして振る舞われた紅茶も、お菓子も……私が食べたことがない程に美味しかった。

 

 ────そもそも記憶がなくなっていたのだから、当たり前だったが……それでも、人形が振る舞ってくれた紅茶とお菓子はミラクルシリーズよりも美味なものだ。あの味が、あの香りが、時折恋しくなる。もう二度と、食べられないのだろうけれど。

 

「……」

 

 あの夜、初めて人を殺した時、私は何も感じていなかった。殺られそうになったから、殺した。それだけしか考えていなかったと思う。誰かの心配なんて、している余裕がなかったのだ。

 

『あなたは……獣狩りの方ですか?』

 

『私はギルバート……あなたと同じ異邦人です』

 

『今宵の獣狩りはいつもと違う……気を付けてください』

 

 だから、ギルバートの優しさは心底驚いたし、思わず涙が溢れそうになったよ。あの夜、友人となった者を殺したのも……彼が二人目。自分には不要だと火炎放射器を贈ってくれた彼は、秘匿が暴かれた後、獣となった。

 

 彼の贈ってくれた火炎放射器は、特に私の力となってくれた。神秘と血質が最初から高かったからな。神秘が完全に引き出された頃には、火炎放射器に油と遺灰と併用すればアメンドーズなど瞬殺だった。

 

『お姉ちゃん、私ね、お母さんを探してるの』

 

『お父さんを探しに出てから、それっきり。お守りのオルゴールも忘れていっちゃった』

 

『お願い、お姉ちゃん。お母さんを探して、オルゴールを渡してくれないかな』

 

 ガスコインの娘は……私に会わなくとも母親を探しに行ったのかもしれない。あの夜、私はあの子を連れてオドン教会へと向かい……あの子を人喰い豚に殺された。獣に、市民に、繰り返す度にあの子を殺してしまった。それでも、あの子は私を恨むことはなく、一人にならないようにと大事にしていたリボンを贈ってくれたのだ。

 

『お姉ちゃん、私ね……生まれ変わったら……お姉ちゃんみたいな……綺麗で、かっこいい人に……』

 

「────私は……君が憧れるような人間ではなかったよ」

 

 誰にも聞こえない独白は、私の耳にのみ聞こえるばかり。明日の来客はない。今夜は一人で飲み明かすつもりである。

 

 しかし、一人だとあの夜ことばかり思い出すな。月夜だからというのもあるのだろうが……聖杯に潜る気にもならんし……眠るにしても、私に睡眠は必要ない。

 

 ……ここは敢えてキヴォトスの友人について考えてみるか。そうだな……まずは……ハナコ。彼女との出会いは特に珍しいものでもなかった。

 

『あら……あなたは……』

 

『なるほど、そういう考え方もあるんですね』

 

『ふふっ、確かに。ここは狭苦しいです』

 

『久しぶりに楽しく話すことができました。……また、お話しませんか?』

 

 中途半端に────と言っても量にして6くらいだが────啓蒙を手にしていた私との会話が成立した一人である。お互いに、トリニティのことを腐りきった鳥籠として見ていたため、シンパシーもあったのかもしれない。彼女はきっと、トリニティを変えるのだろう。彼女が主導者になるのか、彼女達が主導者になるのかは……分からないが。

 

 ────会話の成立、と言えば彼女もいたな。自称平凡普通の少女、ヒフミが。

 

『アラヤちゃん! モモフレンズに興味はありませんか!?』

 

『私はこのペロロ様が一番好きなんです!』

 

『見たことがない……? じゃあ今度見に行きましょう! 直近のライブは……明日ですね! 一緒に行きましょう!』

 

 ………………会話、成立していただろうか? まぁ、見舞いにも来てくれていた位には仲が良かったと思う。普通……か。

 

『────ねぇ、狩人さん……』

 

『私は娼婦……ヤーナムの娼婦で、血の施しもしていたわ』

 

『────けど……けど……心のどこかで、いつも思っていたの……』

 

『父がいて、母がいて……好きな人と結ばれて……』

 

『その人との子供を産んで……お婆さんになるまで生きて……』

 

『ねぇ、アラヤ……』

 

『私が「普通に生きたかった」って、言ったら……嗤うわよね……?』

 

『……ふふ……そう……ありがとう、狩人さん……さようなら……』

 

 アリアンナ……ヤーナムの娼婦だった彼女は、上位者の赤子を産み落とし、今際の際で私にそう告げた。

 

 意外にも耳がいい赤布の男も、彼女の今際の際の言葉を聞いていたらしく、戻ってきた私に一言かけてくれた。

 

『なぁ、狩人さん』

 

『何て言えばいいか分からないけどさ……きっと、あの人は生まれ変わったら、普通に生きられるよ』

 

『だって、あんたが看取ったんだ。……それくらい、許されるはずだろ?』

 

 赤布の男はオドンの信仰者ではあったが、オドンのことを絶対とは考えていなかったな。どちらかと言えば、血などではなく、正しい信仰を持っていたと言うべきか……宗教は分からん。

 

『狩人さん、俺は夢があるんだ』

 

『ほら、獣狩りの夜に親を失う子供がいるだろ? そういう子供の拠り所を作りたいんだ』

 

『うわぁっ!? か、狩人さん、こんなにたくさんのお金、どうしたんだい?』

 

『俺の夢のために……? ────ダメだよ、狩人さん。これは、あんたが持っておいてくれよ』

 

『納得いかないなら……いつか、その拠り所を見に来てくれよ。それだけでいいからさ……』

 

 その赤布の男だが、今やキヴォトスの……百鬼夜行の自治区にある神社で鬼子母神のように祀られる赤子の神……地蔵……仏……? まぁ、とにかくそのような存在となった。

 

 ヤーナムの夜が終わった後、本当に子供達の拠り所を作ったらしい。なぜ百鬼夜行の方まで行ったのかは……獣狩りに子供達が巻き込まれないようにしたかったのだろう。

 

 彼が作った拠り所は、今でも使われているらしい。名前は『おくるみの館』。赤布に身を纏った己をおくるみ地蔵と合わせたのだろうか。その名前を聞いた瞬間、啓蒙と獣性が彼が間違いなく子供達に暖かい拠り所を与えたのだと囁いた。

 

 百鬼夜行の文献では、『姿が見られなくとも、声が聞こえる。どこまでも優しく、暖かい声が身寄りのない子供達を歓迎し、暖かい居場所と食事を提供してくれる』というものが残っている。

 

 その声が聞こえなくなっても、その拠り所出身の子供達が身寄りのない子供達をそこに迎えたらしい。大人になって去っていく子供達を見送る際、啜り泣く声が聞えたそうだ。

 

「ククッ、成し遂げたな、友よ」

 

 間違いなく彼は成し遂げた。……ゴタゴタが片付いた後、百鬼夜行学園の自治区に行ってみるとしよう。その拠り所を、地図ではなく、人に場所を尋ねながら訪れるのだ。きっと、楽しい旅行となるだろう。……その時は私の友人も連れていくとしよう。彼に紹介したい。イオリ、ハナコ、ヒフミ……今から楽しみだな。

 

 ……イオリ。私が最も信用し、信頼する友人。長々と言葉を紡ぐ必要がないくらいには、彼女のことを信用し、信頼し、尊敬している。もちろん、他の友人もそうだがね。

 

「悪夢は巡り、そして終わらない」

 

 あんな見た目でフィジカルモンスターであったミコラーシュの言葉だ。確かに、どれだけ繰り返しても悪夢は終わらない。どれだけ弔っても、私にとっての悪夢は終わりを迎えない。

 

「しかし、それを逃げる言い訳にしてはならない」

 

 逃げてしまえば……楽になろうとしてしまえば、私が奪い続けてきた命が、遺志が、この手から零れ落ちていった全てが、全て無駄なものだったと証明することになってしまう。

 

 夢は覚めるものだ。それが甘い夢であっても、苦い夢であっても、悪夢であったとしても。

 

 私は苦しみ続けると決めたのだ。最後の獣狩り、最後の上位者、最後の狩人、多くを失い、多くを奪い、多くを喪い、多くを殺し、多くを背負い、多くを託された人間として。獣ではなく人間として。月香の狩人として、足掻き続けると決めたのだ。

 

「……我が友人達に、有意な目覚めがありますように」

 

 月に向けて、グラスを掲げる。熟成された、濃厚な血は……月の光を浴びて妖しく輝いていた。

 

 

 

 

 

 

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