どのステータスよりも先に啓蒙と神秘がカンストしたやべーやつ。啓蒙→神秘→血質→技術→持久力→筋力→体力の順にカンストしていった。
躊躇なく3本目のへその緒を全て食べたし、幼年期は過ぎ去った。
一時期地底の魅力に囚われてしまい、累計三ヶ月くらいぶっ通しで潜ったことがある。見かねたゲールマンに声をかけられ正気に戻ったが、今でも一日一回は我らが故郷たる9kv8xiyiやナッパ他、様々な聖杯ダンジョンに潜っている。千景にセットする血質32.6%スタマイや、劇毒21.7%スタマイを求めているようだ。そのうち、愚者最高倍率スタマイや貧弱最高倍率スタマイなどを求めるようになるだろう。
何百回も夜を越えたせいで、一時期目が死んだ。しかし、過去の記憶を一部思い出したのと同時に、全ての夢は覚めるものだと理解した瞬間、瞳に光を灯し、ヘイローと千切れた翼を取り戻した。
お陰様でアイリーンからは
「なんだい、あんた。天使様が降りてきたのかと思ったよ。ククッ、狩人の証が天使の輪とは、ヤーナムらしい」
アルフレートからは
「天使、ですか。……いいえ、あなたは私の協力者であり、弟子であり友人です」
ヴァルトールからは
「同志、死してなお俺達と……いや、生きているな。忘れてくれ」
などなど言われた。もちろん、マリアやらデュラやらシモンやらにも色々言われた。
銀、赤、褐色が性癖。確実にイオリである。
アビドス高等学校は、元マンモス校だった学校である。砂漠化や借金によって多くが離れてしまったのだが……まだ残って手を尽くそうとしている学生がいるのだ。
忙しくしているだろうから、と私は先輩に久しく連絡していなかったが、元気にしているだろうか? ……それはそうと、だ。
「……砂漠に何も装備せずに来るとは……なんとも愚かしいことだと思いますが、Mr.暁」
「はは……面目ない……」
連邦捜査部、シャーレからやって来たという先生なる存在────暁トウジ。砂漠の道で倒れていた彼を私が先生と呼ばないのは、私の先生達はあの夜に消えていったからだ。私が先生と呼ぶのは、アイリーン、アルフレート、デュラ、ヴァルトール、ゲールマン、シモン、マリア、人形……あの夜出会った彼ら彼女らだけと決めている。
「そういうアラヤはいいのかい? これ一本貰ってしまって……」
「私は予備を五本持ってきています。ご安心を」
「用意周到だね」
「準備を怠った者から先に死んでいく。あらゆる世界で共通の事項ですよ」
経口補水液を大量に持ってきているし、私は死んでも全て夢だったかのように起きる。これは検証済みだ。検証直後にイオリに出くわしそうになったのは危なかったが。
さすがにあの光景を見たら、間違いなくイオリが壊れる。それはそれで興味があるが、私は醜悪な獣ではない。獣性は戦う時に見せるだけで結構だ。
夢から物を取り出せた時点でまさかとは思っていたが、まさか死んでも夢でやり直す力が残っているとはな。
ああ、それと。私はアビドスでの戦闘行為────物騒な連中に絡まれたりした時に戦闘を行うことを許可されている。わざわざトリニティ総合学園とアビドス高等学校に連絡を行い、許可を取ったのだ。アビドス高等学校に連絡するのは構わないが、トリニティ総合学園は少々申請が面倒だ。ある程度融通の利くゲヘナ学園に転校しようか悩んでいるが、どうしたものか。
ヤーナムでの教訓、備えあればある程度の憂いなし。犬は殺す。秘匿は破るが血は恐れ、用途をしっかり考えること。満足するまで呪われた聖杯を拝領すること。
我ら狩人は酔えど、血と狩りに酔ってはならず、9kv8xiyiは日課。かねて血を恐れたまえ。葬送であったことを忘れず、ナッパは基本。我らは弱く、そして幼い。武器の整備と強化は怠っては死を招くし、人形はいくらでも温めていいが、血晶石は温めてはならない。偉大なる狩人栗本を讃えよ。エーブリエタースは美しいが、私の初恋ではなかった。あの星のような白銀は美しかったがね。瞳の色が赤であったら惚れていたかもしれない。
……ふむ、妙な思考が混ざった気がするが、気にすることはない。狩人など、どこかしら狂っている血濡れの存在だ。狩りに酔った者、血に餓えた者、無慈悲な者、裸にアルデオを被る者、裸でメンシスの檻を被る者、地底に潜る者…………こうしてみると、中々のキャラ立ちだな、狩人というのは。
「大袈裟……とは言えないね。現に私は死にかけたわけだし」
「ええ。あのまま干からびていた可能性は高いかと」
「本当にありがとう、アラヤ」
「はい。……さて、Mr.暁。アビドスについてどこまでご存知ですか」
「……ごめん、実はあまり知らないんだ」
「そうでしたか。……では、僭越ながら私が少しだけ解説致します」
かつて数千人の生徒が通う、マンモス校として名を馳せたのが、我々が向かっているアビドス高等学校である。その規模はゲヘナ学園やトリニティ総合学園にも引けを取らない規模であったという。記録が正しければ、キヴォトス最大の規模を誇った学校だったはずだ。
だが、数十年前のある時期から頻発し始めた大規模な砂嵐によって学区の環境は激変した。進む砂漠化対策のために多額の資金を投入するも事態は好転せず、膨んだ借金のせいで学園の経営は悪化。その結果、人口の流出にも歯止めがかからないまま地区全体の衰退を招いてしまっている。
「借金…………あ、資料にあったな……確か、カイザーとかなんとか……」
「ええ。カイザーグループの金融部門、カイザーローンが借金の返済先。利子無しの額であれば……」
あの頃から変わっていないとすれば……そうだな……
「大体九億か十億かでしょう」
「億!? いくらなんでも多すぎないかい!?」
「ええ。カイザーローンの利子が無ければ、返済していくのも恐らく難しくなかったでしょうに……砂漠化をなんとかしようと躍起になった結果がこれとは、嘆かわしい」
お陰で、ゴーストタウンと化してしまっている場所もあるくらいだ。搾取する側の思考はよく分からないな……いや、堕ちた獣にそのような思考は存在しえないか。
「さらに、カイザーグループは何やら探し物をしているようだ」
「探し物?」
「何を探しているのかは知りませんがね。ただ、このアビドスでは砂祭りなるものが行われていたそうです。発掘された出土品を展示したりしたのだとか」
恐らくろくなものではないだろうが……古代の遺産か何かであろう。大方ろくなものではないだろうが。病をばら蒔くことがないように祈りたい。
「それは置いておいて……Mr.暁、お気付きですか。囲まれています」
「え……!?」
気付いてはいなかったか。降る星の神秘を微かに感じさせる彼は、キヴォトスの外からやって来た。……外はこうなることが少ない世界なのだろう。
「……Mr.暁、選択を。戦って撃退するか、私に担がれ、アビドス高等学校まで向かうか」
「……ここで逃げても追ってくるだろうから、撃退する!」
中々に判断が早い。良いことだ。判断が遅ければ、数の暴力による瞬殺か、圧倒的な一撃による蹂躙が行われる。
「よろしい。では、Mr.暁はお下がりください。少々手荒くなりますので」
「戦場指揮くらいはできるんだけど……」
「いえ、私の戦いは一人で行う方がいい。そういう戦い方に、指揮が加わると、少々面倒だ」
優秀な指揮官がいる集団戦で、私が隊長を務めるのであれば話は変わるが、私一人の場合、好き勝手に動くのがやりやすくていい。
「ご安心を。────万一、私の戦いに不安があるようでしたら、指揮をしていただければ」
「……分かった。頼むよ、アラヤ」
「ええ、お任せください」
まだ納得していなさそうなMr.暁が遮蔽物のある場所まで避難したところで、私は慈悲の刃と、獣狩りの散弾銃を手に取る。無論、峰打ちで済ませる。我が師、アイリーンやマリアは言った。優れた使い手の一撃は引かねば斬れぬ、と。我が身をもって実演されている。
ちなみに、獣狩りの散弾銃に装填しているのも水銀弾ではなく、ただの弾だ。私の血が混ざった水銀弾など、使ったら何が起こるか分からないのだ。
「我が師の一人アイリーンより受け継いだ技……狩人狩りの技を知るがいい」
その言葉を呟き、私は敵陣に飛び込む。その勢いのまま、変形前の慈悲の刃をコンパクトに振る。
「ガッ!?」
「一人」
案ずるなよ、峰打ちだ。
「二人……」
逆手に持ち替えて背後にいた標的を斬る。しかし浅い。アイリーンであれば問題なく気絶させられるだろうに……仕方ないので左手の獣狩りの散弾銃の引き金を引いて吹き飛ばす。
「舐めんじゃねぇ!!」
ほう、殴りに向かってくるとは中々胆が据わった者がいるじゃないか。あなたにはガラシャの拳を渡したいところだな。……だが……
「……気迫だけではな」
「────────ッ!?」
ドパンッ!!
獣狩りの散弾銃の音は、恐ろしくうるさい。ヤーナムの獣に対して銃は武器ではなく、能動的な盾なのだ。ある条件を満たした銃槍やエヴェリン、大砲などは例外になるが。
まぁ、とにかく────そんな爆音と弾丸の衝撃をいきなり至近距離で叩き込まれては、いくらキヴォトスの人間でヘイローを持っていたとしても体勢を崩してしまう。
「安心しろ、
「オゴッ……!?」
腰の入った拳が、ヘルメット集団の一人の鳩尾に突き刺さり、内臓が揺れたのか涙を流しながら悶絶して倒れてしまった。……ふむ、もう少し加減が必要だったか。
「さぁ、次は誰だ?」
「ひ、怯むんじゃねぇ!
ヘルメット集団のリーダー格らしきやつの言葉が、連射されたであろう銃声と共に遮られて消える。見事な狙いだ。
「遅かったじゃないか、シロコ」
「ん、主役は遅れてやってくる」
「ククッ……そうかね。ならば、ここからは共闘だ」
どれだけ早く効率的に戦えばいいかそれだけを考えればいい。
「Mr.暁、指揮を! あなたの実力を見せていただきたい!」
「へ……? わ、分かった……!」
……ほう、やはり判断が早いな。惜しむらくは体力の無さと行動力が先行してしまうことか。それでは禁域の森に辿り着けないぞ。犬に殺されるだろう。
そんなことを考えながら、私はMr.暁の指揮とシロコの援護を受けながら敵陣を殲滅していく。……ふむ、見事な戦闘指揮だ。このようなやつがヤーナムにいたのなら、確実に殺意を向ける対象になっていただろう。ここまで来れば、銃よりも────
「変形!?」
二刀流の方がやりやすい。アイリーン直伝の高速連続攻撃を前に、次々倒れていくヘルメット集団。幾人かは撤退したようだが、深追いする必要はまだない。少なくとも今は。
慈悲の刃を一つに戻し、腰に納める。夢に入れておきたいが、今は目立つ。バックパックに入れるでもいいが、いかんせん切れ味が凄まじい。狩装束に着替えておくべきだったか?
「ん、お疲れ、アラヤ」
「────ああ、お疲れ、シロコ。見事な援護だった」
「アラヤのカスタムと……あの人のお陰」
そう言ってMr.暁の方を見るシロコ。確かに彼の指揮は素晴らしいものだった。狩人の戦いには適さないが、集団戦においてあれほどの指揮官がいれば大きな成果を得るだろう。
「二人共、怪我は?」
「ないですよ。……それよりMr.暁。彼女はアビドス高等学校の生徒だ」
「え? そうなのかい?」
首をかしげた彼に、シロコは頷いて口を開く。
「ん、砂狼シロコ。アビドス廃校対策委員会に所属してる」
「私は暁トウジ。連邦捜査部……シャーレから来たんだ」
「シャーレ……分かった。ついてきて。案内するから」
詳細はアビドス高等学校に着いてから、ということか。それは理解した。
「シロコ、Mr.暁の体力は少し心許ない。担いで運べるかね?」
「ん、できるけど……ロードバイク────」
「なるほど。なら、私が運ぼう」
万一の事故は危険だからな……聖杯で事故った時はどうしようかと悩んだものだ……そんな懐かしい思い出を噛み締めながらMr.暁を担いだ私は、シロコが持ってきたロードバイクの横に立つ。
「Mr.暁、少々揺れますが、そこは大目に見ていただければと思います」
「あ、えと、ちょっと待っ────────」
「行くぞ、シロコ。最短距離を駆け抜ける」
「ん、タイムアタックだね」
「うぉわぁぁあああああああああああ!!!??」
私の担いだMr.暁の叫びを聞きながら、私達はアビドス高等学校へと向かう。狩人とは下手なマラソンランナーよりも走れるのだ。