大丈夫だよ、皆。君達には先生と、謎技術をぶっ放してくる大人が付いている!!
結論から行こう。ゴミ聖杯であった。
円環叡智の聖杯と名付けたそれを地底人と十時間ほど周回してみたが、オプション、性能、形状、配置、地形、素材、その全てが僻墓に劣るゴミ聖杯であった。
「貴公、妙な聖杯だったが、改造か?」
「いや、それはない。キヴォトスの人間の悪夢から取り出した聖杯だ」
「ふむ……神秘が新しく、そして脆い。ヤーナムの神秘に比べると弱いな」
聖杯ダンジョンであるというのに、現れるのはロボットが多く、明るい。明るいのはポイントが高いが、他全てがゴミだったのでゴミ聖杯確定である。
「まさか儀式の血すらないとは……貴公、キヴォトスとは弱者生存の世界なのかね」
「いや、力がなければ喰われる世界だとも」
「時間経過による神秘の欠損、劣化……いや、性質の変化か」
攻撃することに特化した神秘がヤーナムの神秘だとするなら、キヴォトスの神秘は守ることに特化した神秘であると、本日もメンシス頭の女性狩人が仮説を立てる。なるほど、頑強さはヤーナムを超えていると言えるだろう。極まっている狩人達には通用しないが。
獣に対して、防御など不要。殺される前に殺せ、がヤーナムの教訓であった。防御を固めようが、獣の膂力に勝てはしないのである。
「しかし、このようなものばかりだと、貴公は不便だろう」
「小突くだけで死ぬとなれば、装飾品を扱うような繊細さが欲しいな」
まぁ、確かに力加減に気を付けることは多いが、特に意識したことはない。しなくともできているからな。
「キヴォトス……ヤーナムの時代の後に至る都市、か」
「気になるかね」
「「「いや、聖杯の方がいいな」」」
「ククッ、そうか」
本当に、彼らはブレないな。清々しいまでに、聖杯に取り憑かれていると見る。
「ところで貴公、海について聞いているそうだな」
「ああ。悪夢にいる彼らか?」
「うむ。海についてだが、恐らく漁村ではないという結論に至った」
曰く、座標が全く合わないのだそうだ。ミレニアムサイエンススクールの自治区と、ヤーナムの地図を照らし合わせたが、どこにも噛み合わない。ということは、ヤーナムが滅んだ後の人間が埋め立てた、ということになるのだが……
「漁村の座標自体がノイズなのだ。貴公が記憶する限り、漁村は別の方向だろう?」
「ああ。漁村はどちらかと言えばゲヘナやトリニティの自治区にあるはずだ」
そもそもが異次元なヤーナム。漁村は座標がズレるのだ。彼らの世界だと漁村はビルゲンワースと同じ座標、カインハーストの筆頭騎士の場合ヤハグルの付近の座標と、漁村の場所がズレているのだ。
恐らく、罪の根源という上位者が原因となっている、と思われるのだが……はずなんだが────原因が掴めていないのが現実である。
ああ、ちなみにこの地底人三人は三つ子らしい。スキンヘッドの彼が長男、アルデオの彼が次男、メンシスの檻の彼女が長女で末妹。彼らの中で一人でも相手にしたら、残り二人がどこにいようとも0.2秒でやってくる。ヤーナムの影が雑魚に見えるな。雑魚なのは間違いないんだが。
「問題を解決する時、呼ぶといい。我らは貴公の力になろう」
「聖杯の拝領は冒涜だが、崇高とやらは更なる冒涜だ……」
「私達はいつでも貴公の血と共にある」
心強い話だ。
彼らに頭を下げ、元の世界に戻ろうとした時、アルデオの彼が声を上げる。
「そういえば貴公、カインハーストの騎士達がパーティーの準備をしていたが、何か知っているかね?」
「む?」
パーティー? はて、確かに何か言われていたような気がするが…………ああ、そういえば言われたな。ルドウイークの聖剣使いの騎士に。
確か、カインハースト城で社交パーティーを開くから、都合が良ければ友人を連れて参加してほしいと。────ふむ、いい機会だ。アンナリーゼに顔を出しに行くついでに参加してみるか。
「となると、ドレスが必要だな……私は着ないが」
「友人達のドレスか?」
「ああ。何名かいるからな……背丈も、スリーサイズも様々だ」
ハナコも大分落ち着いてきたと言っていたし、息抜きも兼ねて誘ってみるつもりだ。あとはイオリと、可能ならミネ先輩、ウイ先輩は無理だろうから……サクラコ、フウカ、ジュリだな。あとは、ネル先輩やアスナ先輩などか。ヴェリタスやエンジニア部は忙しいらしいので、次回の機会に回す。
フウカとジュリはとりあえず連れていく。ゲヘナ学園の不良共は給食のありがたみを知るがいい。カインハーストの調理を学ぶいい機会だろう。
「では、ドレス選びのために行かなくてはならんな」
「ああ。この聖杯はどうする?」
「開いておいてくれ。戒めだ」
僻墓にも劣るクソ聖杯とは思っていなかった、とぼやいた私達は、お互いに簡易礼拝を行って元の世界に帰っていく。
目が覚めれば、そこは私の部屋。ヤーナムでリボンの少女から渡されたオルゴールが音楽を奏で続けている。この曲は、私の心を落ち着かせると共に、戒めを思い出させるのだ。忘れてはいけない。忘れるものかよ。
「さて」
匂いたつ血の酒に漬けて作ったハーブティーを口に含み、立ち上がった私は新しくできたタスクを完了するための行動に移る。
ドレスか……まぁ、その店に行けばいい────いや、面倒だから作るか? スリーサイズとかは、狩人の目を利用すれば簡単に分かる。どれだけ楽に殺すかは、相手の体格を正確に理解する必要があるのだ。
連絡をして、確認が取れた者から随時ドレスを作っていく。タキシードの方がいいと言ったなら、タキシードを作る。ドレスも作るが。………………おや、ハナコとイオリは分かっていたが、ミネ団長やウイ先輩から了承のメールが来るとは。っと、おお、フウカとジュリも早いな。
「イオリは……黒か白だな。……いや、敢えて赤という選択肢も……」
ふむ、悩ましいが、黒だな。銀髪に黒はよく映えるだろう。ハナコは……友人も連れてくるらしい。知っているのはヒフミのみ。コハルなる者と、アズサなる者は知らん。しかしスリーサイズと身長、そして写真を送ってくるとは、ハナコめ……私にドレスを作らせるつもり満々だったな。
「ハナコはふーむ……桃色……桜色……いや、翡翠色をアクセントにした白か?」
一人一人、デザインも変えて考える。図面を描く作業は、この手袋を作る時に散々やったので、体が覚えている。思考が追い付く前に図面とデザインを完成させている。手慣れたものだ。
生地はヤーナムの貴族達が好んで使っていたという生地を使う。ふむ、昔はただの布という認識だったが、確かに質がいい。絹か? 絹だが……妙に頑丈だな。ヤーナムの神秘でも染み込んでいるのか?
まぁ、作り方はどの服とも変わらん。完成するのは……パーティーの前日くらいになるか。靴は……店で買えばいい。
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数週間後、指定された場所に集合した少女達が最初に感じたのは、何だっただろうか。
恐怖? 疑問? 違った。格の違いだ。生物としての格だけではない。人としての格────カリスマというものを、迎えの馬車を連れてきた騎士に対して感じた。
「ほほっ、アラヤ嬢、お久しゅうございます」
「ああ、久しぶりだな、貴公。馬車衆は変わりないようだ」
「ええ、全員壮健ですとも」
壮齢の老人と友人のように話すアラヤを見て、誰もが驚愕し、思い出す。あの時の暴動に、大人も混ざっていたが、確かにこの老人も混ざっていたと。
「最後の夜から────いえ、御母堂の墓前以来、ですな」
「ああ。ところで貴公、面子が昔から変わらんな」
母の葬式に参列した彼らのことを、アラヤはなんとなく覚えているが、容姿も面子も変わっていない。ヤーナムとはそういうもの────カインハーストとは、そういうものだと認識しているから特段困惑はないが。
「ええ、カインハーストとはそういうものです。さて、本来なら皆様の紹介状を拝見させていただくところですが……今回はアラヤ嬢の紹介ですので、省略させていただきます」
さぁ、お乗りください。そう言って馬車の扉を開けた老人に続く形で、三台の馬車に待機していた紳士服を着た仮面の男達が扉を開く。彼らの腰には、それぞれ同じレイピアが吊るされている。
案内に従って、馬車に乗ったアラヤ達。その中を見て、驚きの声を上げたのはイオリだ。
「うわ、フカフカだ……」
「わぁ! 本当にフカフカ! リーダー、凄いよこれ!」
「分かったから落ち着け!」
「相変わらず、良い仕事をする」
馬車にしては広い部屋は、四人で乗っても動ける位には広い。配置されているテーブルの上には、ワインクーラーが置かれており、中には芸術品のようなボトルが入っている。
アラヤの乗る馬車に乗ったのはイオリ、ネル、アスナの三人だ。そのうち二名は緊張気味、一人はテンションが有頂天、一人はいつも通りであった。
「目的地まで時間がある。飲みながら景色を楽しもうじゃないか」
「アラヤ、お前はなんで落ち着いてるんだよ……」
「知り合いのパーティーに呼ばれて、緊張するような神経は持ち合わせておりませんので」
いつものインバネスコートではなく、騎士装束に身を包んでいるアラヤを見た知り合い達は、送られてきたドレスやタキシードで格式ある場所に向かうことは察していたが、大半がえ、マジですか? といった表情を見せた。
かつての貴族にも似た服と美しい作法が相まって、どこかの貴族に見える。
血のように赤いブドウジュースをグラスに注ぎ、口にしたアラヤは小さく笑った。
「いいブドウだな」
「ええ、彼らの血と汗と涙の結晶です」
「ハハハッ! 彼らは本当にブドウを栽培しているのか!」
カインハーストの騎士達が汗水垂らして農作業をしている姿を想像して笑ってしまう。あんな常に殺し合いをしている連中が、ブドウ畑でブドウを育てているとなれば、笑うのは当然だろう。
「ところでアラヤ様。そちらの紅髪の女性は、あなたの後継ですかな?」
「いいや、先輩だ」
「ほほっ、それは失礼いたしました。慈悲の刃を持っているようなので、そうかと」
外で馬車を操る老紳士がそう言って笑った。
彼の言う通り、アラヤはネルに未強化の状態の慈悲の刃を渡している。ネルは渡されたそれをサブマシンガンに取り付けるように依頼し、ツイン・ドラゴンは生まれ変わった。
銃口の下に取り付けられた慈悲の刃を振り回せるように銃形態と双剣形態、そして銃剣形態への切り替えを可能とする改造を施された。常に二振りの刃ではあるが、ネルの戦闘スタイルには合っており、鎖を振り回すことで仕込み杖や獣肉断ちのような攻撃も可能としている。お蔭でゲーム開発部は苦労した。
「あなたが壮健であることや、月香の工房の創設……マリア様もお喜びであられるでしょう」
「……そうだといいがね」
(((マリア?)))
どこで買ったブドウジュースよりも濃く、そして香り高いジュースに舌鼓を打ちながら、三人はマリアという名前に首をかしげる。
マリア。はて、どこかで聞いた事がある気がするが、どこだっただろうか。三人がそんなことを考えながらも、馬車に揺られていると、景色が変化していることに気付く。雪道の遠くに、広い海が────そして断崖絶壁に聳える巨大な城がある。古い建物はゲヘナ学園の自治区、トリニティ総合学園の自治区に多く点在するが、遠目から見ても圧倒的な古さと新しさを兼ね備える城は見たことがない。
「なんだ、ありゃ」
「あそこが目的地ですよ」
「おいアラヤ……まさかあそこって、例の王冠とやらの────」
「私の紹介なので問題ないかと」
「どうにかなるもんなのか!?」
愉快なご友人達ですな、と老紳士が笑う。途中、何度かカツアゲを行おうとした生徒達がいたが、例外なく轢かれて気絶した。悲しいかな、馬に着せられた鎧はヤーナムの銃弾を弾く金属を利用した鎧なのだ。
「レッドウィンターの自治区近くって確か、開発中の街があったような……?」
「ああ、ゲヘナはレッドウィンターと交流があったか。おっと、アスナ先輩。お注ぎしますよ」
「ありがと! うーん、美味しいね、これ!」
会話に花を咲かせていると馬車に揺られ続けること三時間。美しい淡雪に包まれた城下町が見えてくる。
「……変わったな、ここも」
「ええ、アラヤ様の知っている頃とは違い、ここは城下町となりましたから」
「結構活気があるね。開発、終わってるのかな?」
情報と違う街の活気に疑問符を浮かべたイオリに答えを与えたのは馬車を操る老紳士。
「ああ、ここはどこの自治区にも属しておりませんので、情報が来ないのも当然かと」
「ブラックマーケットみたいになってるってこと?」
「あのような混沌とした場所とは違いますよ。ここは、身寄りのない者達が手を取り合い、作り上げた街です」
よく見れば、ゲヘナ学園、トリニティ総合学園、ミレニアムサイエンススクールなど、様々な制服や校章に似た旗が掲げられており、誰もが笑顔で好きなことをして過ごしている。エデン条約の締結後、このような光景が訪れるのだろうかと、誰もが考えた。
「あれ? あの人達って確か……」
「ああ、間違いねぇ。発明が危険だか何だかとか言われて追い出された二つ上の先輩だな」
カインハースト城下町。身寄りのない者、追い出された者、逃げ出すしかなかった者達が集まり、一から作り上げた、カインハースト城をシンボルとしたどこよりも冷たく、どこよりも暖かい居場所だ。
様々な学園から放逐された者、卒業したが身寄りのない者、居場所がない者が集うその町の中で、見覚えのある紋章を発見し、イオリが口を開く。
「あれ? アラヤのヘイローみたいなのがある」
様々な旗の中に混ざる、逆さ吊りのルーンに似た紋章など、アラヤのヘイローや武器に刻まれた刻印と酷似した紋章の旗。言われてみれば、とネルやアスナがアラヤのヘイローと旗を交互に見る。
「お前、ここの関係者なのか?」
「いや、違いますね。あの城の関係者ではありますが……」
「アラヤ様のお母様が、この町にいたのですよ」
どう答えようかと考えていたアラヤに助け船を出す老紳士は、言葉を紡ぐ。
「アラヤ様を身籠った彼女は、傷だらけになりながらも、大事そうにお腹を抱えてやってきました」
「アラヤのお母さんも……追い出されたってこと?」
「さぁ……私共にはなんとも。ただ、女王陛下が気を揉んで顔を出されることがあったので、高貴なお方であったことは間違いではありませんな」
城に着くまでの間、アラヤの母がどのような人物だったのかを話す老紳士。朧気だった記憶を蘇らせながら、確かに母はそういう女性だったな、と懐かしむアラヤと、全く似てないなと内心思う三人。三者三葉の反応を見せながらも、城が近付いてくる。
カインハースト城でのパーティーの役者が、揃おうとしていた。
感想はしっかり読ませていただいております。そのうちまとめて返信します。