透き通る世界で、月の香りがした。   作:エヴォルヴ

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月見アラヤのあれこれ

元々使っていた銃はヤーナムで壊れた。無事だったパーツは各種左手武器(銃)に組み込まれている。

トリニティの反応集の中に放り込まれている。なと、トリニティの中でもわりと常識人枠に入っている。

『青のすみか』みたいな、ちょっと物悲しい曲を聴きながらキャラ作ってました。


6.遠く輝くあなた。

 私────銀鏡イオリという少女にとって、月見アラヤという少女は友人であり、契約相手であり、目標でもあった。

 

 どこまでも自分を曲げず、ゲヘナもトリニティも関係なく人と接する姿は眩しくて、好ましくて。あれくらい真っ直ぐ生きていけたなら、なんていつも思っていた。

 

 初等部後半から付き合いがある彼女とは、よく遊びに行ったりしていたし、風紀委員になってからもそう。これからもそうやっていけると思っていた矢先、あの事件が起きて、アラヤは昏睡状態になっていた。

 

 アラヤと交流があった人は、色んなところにいた。ゲヘナ、トリニティ、ミレニアム────大きい学校から小さな学校までたくさん。その誰もが、彼女が昏睡状態になるまで傷つけられたことを、知らなくて……私が家に行かなければ、きっと……

 

『……ああ……イオリ……イオリ……』

 

 血だらけになりながら、光を宿さない虚ろな瞳で、プレゼント用のラッピングが施された黒いリボンを見ていたアラヤの姿を、今でも覚えている。私のことにも気付かずに。

 

『あなたは……私の導きだったよ……暗がりの中でも、遠く……輝き続ける……そんな、あなたが……』

 

『プレゼント……渡せそうにないなぁ……ヒヒッ……汚れて、しまった……』

 

『ああ…………イオリ……私は、あなたにとっての、何かに……なれ────────』

 

 ……悔しかった。アラヤは、誰よりも強かった。抵抗なんてしなかった。誰よりも強く在ろうとしたアラヤがこうなったことも、トリニティが全く動かなかったことも、凄く悔しくて。

 

 アラヤと友好な関係者による怒りの波は、トリニティ総合学園の積み上げた実績が一部帳消しになるくらいの勢いだったって聞いている。その時の私は、アラヤの眠る病室に入り浸っていたから、あとのことしか知らない。

 

 その後、しばらくして……ヒナ委員長やアコちゃんやチナツに止められるくらい、鍛え直した。アラヤが起きた時、私を頼ってくれるように。もう二度とあんなことが起こらないように。

 

 そして、日課になっていたアラヤの病室への見舞いが一年を経過した頃、アラヤは目覚めた。纏う雰囲気は少し変わってしまったけど……それでもアラヤは目覚めてくれた。

 

 ねぇ、アラヤ。私は強くなったよ。アラヤが困ってるなら助けてあげられるように。もう二度と、置いていかれないように。そう思って、いたんだけどなぁ……

 

「どうした? 弓は銃に勝てないのだろう? なぜ、銃で弓に勝てない?」

 

 私が強くなっても、アラヤはその先に進んでいた。恐ろしい威力を孕んだ弓矢で銃を的確に破壊し続けている彼女は、本当に強い。それでいて、巧い。

 

「クソッ! 汚ねぇぞ!? 人の心はねぇのか!?」

 

「薄汚れた獣風情が、情を語るか」

 

 気絶した襲撃者の近くで戦っているせいで牽制射撃ができないんだ。万が一誤射をしたら、大惨事間違いなしだ。しかも、壁に使われる可能性も残している。躊躇えばまた一人倒れ、躊躇わず撃ったとしても、ノーモーションでのステップで躱されてしまう。

 

「近付けば弓は使えねぇよなぁ!!」

 

 そう言って、鉄パイプで殴ろうと迫る襲撃者だったが────

 

「これがただの弓だとでも思ったか?」

 

 弓が折り畳まれて、剣へと変わった。その剣は銀の光を纏いながら、襲撃者の両腕を切り離した。

 

「一太刀で切り落とせるとは、案外脆いな。粗悪品でも掴まされたか?」

 

「てめぇ、よくもダチを────────────ッッッ!!?」

 

「ククッ、急所を狙わないとでも?」

 

 うわぁ……泡吹いてるよ、あの襲撃者……他の連中も痛そうに顔を青くしてるし。急所を蹴り上げられ、絶叫した襲撃者を完全に気絶させたアラヤは、矢をつがえながら襲撃者のリーダー格を睨み付ける。

 

「それで、まだやるかね? 降伏するのなら、顔面に拳を叩き込むだけで済ませるが」

 

「て、てめぇ……! 降伏なんざするわ────」

 

「そうか。なら潰す」

 

 瞬間、襲撃者達に容赦のない矢の雨が降り注いだ。……ヒナ委員長のデストロイヤー並みか、それ以上の威力の矢が正確無比に降り注いでいく。こんな精度、どれだけ戦い続けたら身に付くんだろう……アラヤは、昏睡状態になっていたはずなのに。

 

 何があったの? 聞いても答えてくれはしないだろうけど……それでも、気になってしまう。

 

「化け物、が……!」

 

「私は人だよ。そう在りたいと願う、狩人だ」

 

 戦闘開始から僅か一分。アラヤは襲撃者全員を叩き潰してしまった。完全に伸びている襲撃者達をぼんやり見ていると、アラヤが私の近くまで歩いてきた。

 

「イオリ、怪我は?」

 

「……ぁ、うん。大丈夫!」

 

「そうか。ならいい」

 

 ……ああ、アラヤの目は変わらない。宇宙のような、青ざめた綺麗な瞳。何を考えているのか分からない、なんて言われていた確かに彼女はいつも遠くを見ていたけど……私と話す時は、そんな遠くを見ていた瞳が私だけを見てくれる。

 

「……ねぇ、アラヤ」

 

「何かね」

 

「こいつら片付けたら、買い物行かない?」

 

 前から決めていたんだ。アラヤが起きたら、あの日、できなかったことをしようって。買い物に行ったり、ご飯食べに行ったり、やれなかったことを全部やろうって決めていたんだ。

 

「うん? そもそも、今日はそのつもりだったんだろう?」

 

「あ、そうだけど、改めてさ」

 

「ああ、そういうことなら、改めて応じさせてもらおうか」

 

「うん。新しい水着が欲しいんだよね」

 

 一年間、ずっと待っていたから、色んなことが楽しみに感じる。ねぇ、アラヤ。私にとっての何かになれたかって言ってたけど、アラヤの比重は凄く大きいよ。ずっと、夜の満月みたいに輝いているんだ。

 

 

 ────────────────────────────────────

 

 

 ヴァルキューレに襲撃者を引き渡した後、私とイオリはショッピングモールに訪れていた。

 

 こういったショッピングモールに来たのはいつぶりだろうか。ある程度のものはブラックマーケットで買い揃えていたし、野菜類についても、工房兼自宅の屋上に作った菜園でどうとでもなっていた。私の工房や菜園が荒れていなかったのは、恐らくイオリを中心に手入れをしてくれていたから、だろう。

 

「アラヤは水着とか買わないの?」

 

「水着……海に行く機会も無いしな……行くとしても釣りだ。泳ぎはしないよ」

 

「ふーん……トリニティで海に行ったりとかは?」

 

「どうだったかな……トリニティは私への干渉を避けたいようでね」

 

「ティーパーティーとやらも?」

 

「ああ。……たまに視られてはいるようだが、ね」

 

 トリニティ総合学園の生徒会、ティーパーティー。

 

 なんともお気楽そうな名前ではあるが、かつて無数の学園が紛争を繰り広げていたトリニティ自治区において、調停の場として存在したティーパーティーらしい。

 

 やがて各学園は統合へと動き、その中でも主要な3つの学園であった「パテル」「フィリウス」「サンクトゥス」は、学園の三大派閥へと姿を変えた。悔恨を残したままのようだが……どこかで爆発しそうだな。

 

 現在は各派閥から選出された代表者である3名の生徒会長と、複数の行政官とで構成される組織となっており、各生徒会長が一定期間ごとに最高意思決定者となる「ホスト」の役回りを交代して運営している。

 

 確か、当代のティーパーティーは、現ホストの桐藤ナギサがフィリウス分派、聖園ミカがパテル分派、百合園セイアがサンクトゥス分派の代表……だったか? 特に関わることもないから────いや、桐藤ナギサとは一度だけ会ったか。

 

「生徒会長達の個人的な人間関係、各派閥の気質などが複雑に絡み合うため、決して一枚岩とは言えない。……ゲヘナも同じかね?」

 

「どうだろ……万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)と風紀委員はあんまり仲良くないけど」

 

 ああ、あの杜撰な生徒会か……イロハも所属していたか? 面倒くさがりな性質が上手く噛み合って、仕事ができてしまう彼女とはたまに話をしていた。その多くが、上司や仕事への愚痴だったような気がする。

 

「あ、そういえば、アラヤってどこの分派とか、ある?」

 

「ん? 私は特にないが……私の親類縁者が昔あった学園の所属だったはずだ」

 

 確か名前は……

 

「アリウス、だったか。生徒会長だったそうだ」

 

「アリウス? ……そこって、確か……」

 

「ああ。強い弾劾をされていた学園だったと聞く」

 

 シスターフッドの前身となったユスティナ聖徒会からは特に、な。現在は分校とされているが、学舎としての機能は停止しているそうだ。

 

 現状を利用しようとする連中がいそうだが……私が動いて変わるようなものでもな────いや、変わるか? 過激思想とかを持っていなければ、話をしてみたい。ただ、歴史的背景を考えると、トリニティの人間と話などしようとは思わんだろうなぁ。

 

「だが、話してみないことには物事は進まないな……」

 

「結構剛毅だよね、アラヤってさ」

 

「そうかね?」

 

「うん」

 

 そうだろうか。……まぁ、否定する要素もあまりない。私は私のために動き回っているのだから。

 

「ところで、聞いてもいい?」

 

「何かね」

 

「その服、どうしたの?」

 

「ああ、これか。お目が高い」

 

 トレンチコートを脱いだヤーナムの狩装束を指差された私は、小さく笑みを浮かべる。

 

「耐久性に富んでいながら、軽量。炎熱、極寒どちらにも対応しているし、ある程度の爆発なら多少の怪我を負うだけになる」

 

「性能盛り込み過ぎじゃないか?」

 

「事実だよ。燃やされようが、爆破されようが壊れないことも確認済みだ」

 

 さすがに獣に切り裂かれれば壊れたりはするが、燃えたり、爆破されたとしても壊れたりはしなかった。これを作った者は素晴らしい技術を持っていたに違いない。

 

「それ、どうやって調べたの?」

 

「実体験だが」

 

「実体験!?」

 

 油まみれの禁域の森を歩けば火炎瓶を投げられ、大砲を喰らい、狩人の悪夢を歩けば爆発金槌や樽爆弾によって吹き飛ばされた。それでも壊れないのだから、素晴らしいものだ。

 

「こういう時、ヘイローは便利なものだ」

 

「だからって自分で体験するとか誰もしないって……」

 

「そうかね?」

 

 呆れて溜め息を吐くイオリと話をしている間に、水着売場に到着する。華やかなものから堅実なものまで多く取り揃えられているようだ。

 

「どれ買おうかな?」

 

「ふむ……イオリは日光浴が好きだったな」

 

 確か中等部の頃に海に行った時、海で遊ぶよりも日光浴をメインに楽しんでいた気がする。その時、少し痛いとか言っていたような……

 

「うん。ちょっと痛いけど止められないんだよ」

 

「ふむ……なら、日焼け止めをこだわるべきだな」

 

 イオリは恐らく敏感肌だ。前にヒリヒリしやすいとか、肌が乾燥しやすいとかぼやいていたことがあったし、間違いないだろう。

 

 前に泊まりに来た時の頃から変わっていないのなら、普段のスキンケアはしっかりしているだろうし、日焼け止めをこだわるべきだ。

 

「日焼け止めはまだあるけど」

 

「こだわっておかないと、後が辛くなる。前に泣き言を言っていたことを忘れていないぞ」

 

「うっ……」

 

 かく言う私も昔は敏感肌だった。今は……よく分からないが、少なくとも敏感肌ではなくなった。

 

「紫外線散乱剤、SPF値が高いもの、保湿性に石鹸で落ちるタイプやお湯で落ちるタイプ、などしっかり探すべきだと思う」

 

「うーん……まぁ、そうか……」

 

「まぁ、薬局や化粧品売場で店員に聞けばいいさ」

 

 餅のことは餅屋。なら、薬品や美容品についてはその手の専門家に聞くべきだろう。……アビドスのことも気になるが、まずはイオリとの買い物を楽しむべく、私はいくつかの水着を手に取った。

 

 

 

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