有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
「…刃物傷の縫合手術は完了したが、抜糸までの期間と後遺症の有無の確認のための精密検査で10日間の入院か……子供相手に酷いことしやがる。このドームライブの準備でクソ忙しいときになんてことをしてくれるんだ」
アクアがストーカー男に刺されたという連絡を受け、病院でアイたちと合流した斉藤社長がアクアの状況を聞いて毒づく。
「まだ警察には何も話していないよな?誰に何を聞かれても知りませんわかりません心当たりがありませんで通しておけ。連中への説明は全部俺がやる」
憔悴しきった表情を見せるアイに斉藤社長が言った。
アクアたちがアイの子供だと世間にバレてしまえば一巻の終わり。ドームライブどころの話ではなくなる。アクアたちは斉藤社長の子供であるというカバーストーリーは死守しなくてはいけない。しかし、アクアを刺したストーカー男はアクアたちがアイの子供であると知って襲ってきたという話だ。
斉藤社長は、自分の首に死刑執行用のロープがぶら下がっているような絶望を感じた。
アイドル宅にファンが押し入り、子供が刺されるというなセンセーショナルなニュースは、事件が起こってから数時間も置かずに出回った。
そして翌日、ストーカー男の自供内容がメディアに公表される。
"子供ではなく、アイを刺そうとした"
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単純明快な、それこそ創作作品ならばありきたりと言われるような自分勝手極まりない犯行動機にネットの反応は燃え上がった。どちらが悪者なのか明確である事件であり、世間の反応の大半はアイたちに同情的な意見が多かった。当然逆張りをする人も現れたが。
…ストーカー男が本当は何に憤慨して犯行に及んだかは、メディアに語られることはなかった。
「『子供を盾にしたクソ女』?『大人なら身を呈して子供を守るべき』?『アイを抱くには貢ぐ金が足りなかった』!!?じゃあお前らは刃物持ったストーカーから命捨ててママを守れるのかよ現実と妄想の区別もついてない陰キャどもが!
安全なところから神様気取りで物申してんじゃねーよキモいんだよ死ねぇ!
あといくら金を積んでもお前らにワンチャンなんて物理法則的にあり得ねーから!来世にワンチャンかけて出直してこいぃ!!!」
ネット上の口さがない暴言を見てブチ切れるルビー。
「…口と頭が悪いバカな人間なんて星の数ほどいるんだから気にする必要はないわよ」
「10の肯定的な意見より1つの否定的な意見のほうが気になるのよ!」
ミヤコの言葉にルビーが反論する。
多少の誹謗中傷こそはあれども、アクアたちは戸籍を社長夫妻に移しており、事件に対して斉藤社長が即座に声明を出したのでアイたちの評判に飛び火する事態は最小限に抑えられた。
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"犯人に対して、厳正な処分が下ることを願っている"
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視聴者受けを最優先し、親と子供の関係を強調したまるで謝罪会見染みた声明の内容に世間の反応は満足し、アイとアクアたちに同情が集まった。悪評は犯人と斉藤社長に集まる。
奇しくも、ドームライブ直前に「能動視聴者数が多く強いインプレッションが期待出来る状況」が形成された。特ダネの気配を感じてマスコミが飢えたハイエナのように群がってくるが、被害者となったアクアとアイの関係に殊更に注目する記者は誰もいなかった。
あとは、ドームライブを成功させれば一発逆転という状況。ギリギリの状況で首の皮が繋がった。
そう、思っていた。
「あれ…嘘って……どうやってつくんだっけ………?」
事件から3日が過ぎ、練習を再開したアイだったが、あまりのパフォーマンスの酷さにメンバー全員から休養を強制されていた。
トイレに入って、顔を洗う。鏡の前に立って、アイドルとしての笑顔を作ってみる。
……鏡に映ったのは、恐怖で引きつった表情で震える自分の顔だった。
「どうしようアクア……わたし…笑えなくなっちゃったよ……」
嘘の仮面――かつて昭和の時代には「ガラスの仮面」と呼ばれていたアイの嘘が、砕け散った。
21:04 アクア:アイが笑えなくなった
21:04 アクア:助けてくれ
21:05 アクア:もう頼れるのがお前しかいない
21:06 かな :わかった
「――このふざけたシナリオをブチ壊してあげる」
やりたかったことリストその3:
アイの嘘の仮面の崩壊。