有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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誤字報告ありがとうございます。
こんな便利な機能があったんですね。


愛を伝えるために創られた歌

「ねぇ…あなた本当にアイを助けられるの?」

 

 

 アクアの助けてメールを受信した翌日、俺はアイのマンションに行った。

ルビーが出迎えてくれたが、本当にコイツで大丈夫か?といった表情をしている。

 

 まあ無理もない。実はアイと直接会うのは今日が初めてだ。

 世間的にはアクアは斉藤社長の息子ということになっているため、俺とアクアが会うときはすべてミヤコ女史が母親役をやっている。俺は外見上は口止めの約束を理解できるか怪しい年齢の子供にしか見えないため、アクアと仲のいい俺がアイと接触しないよう注意していたようだ。

 俺も転生などという余計な情報を与える気がないため、知らないふりをしていた。

 

 

「私にアクアの代わりは出来ないわ」

 ルビーの疑問に正直に答える。

 

「でも、こんなときアクアならどうするのかは知っている」

 

 

 【推しの子】原作のアクアは心がボロボロになって苦しんでいる女の子がいたとき、必ずその子をサポートして自分の力で前に歩き出せるように道を作ってくれた。ルビーも、黒川あかねも、そして有馬かなもアクアに助けられた。

 俺はそれの真似をするだけだ。

 

 運がいいことに、アイを助けるための算段と手段がちょうど俺の元に揃っていた。

 

 

 自分の部屋に引きこもっていたアイと対面する。目に生気がないアイの様子と、炎上騒ぎで心を折られた原作の黒川あかねの姿がダブった。

 

 

「初めまして。私は有馬かなよ。覚えてないでしょうけど、『それが始まり』って映画であなたと共演したことがあるわ。アクアにアイを助けてくれって頼まれて、ここに来たの」

 

 

 アイに話しかけるが、反応が薄い。俺を無視しているとか自分の殻に閉じこもっているというよりも、単純に俺の視線に恐怖を感じているような雰囲気だった。

 自分を見ている人すべてが、自分に対して悪意と敵意を持っていると感じる被害妄想と自己肯定感の低下。典型的な鬱病の症状だ。

 なるほど、この状況でアイドルをやれというのは無茶な相談だ。確実にファンの視線に耐えきれずに潰れる。

 

 今からセラピストに診断してもらっても、ドームライブまでにコンディションが回復するかは怪しいところだろう。下手をすれば抗うつ薬で薬漬けにされる恐れすらある。

 だから、俺は最初からジョーカーを切った。

 

 

「あなたに聞いてほしい歌があるの」

 俺は持参したDVDプレイヤーのスイッチを入れてアイに渡した。ディスクはすでにセットされている。

 

 

 

「歌の名前は『アイドル』。あなたのために生み出された、あなたの歌よ」

 ボーカロイド編集ソフトとMMDで作成された3Dキャラのダンスムービーが、アイの前で流れ出した。

 

 

 

 

 

 …4分が経過して、動画が終了する。

 自分を模して3Dでデザインされた女の子が「アイドル」を歌う映像に多少は心を動かされた雰囲気だったが、まだこれでもパンチが足りていないらしい。

 上等だ、徹底的に理解らせてやるよ噓つきアイドルめ。

 

「…あなたは、アクアとルビーの見分けがつくようになったのはいつからか覚えてる?」

 

 俺はアイに語り掛ける。…こんな自分と家族しか知らないような話を突然切り出されたら宗教団体の勧誘にしか見えないが、手段を選んでいる余裕など最初からない。

 最初にアクアと出会ったときと同じだ。目的のためならば、使える原作知識(もの)はなんでも使う。

 

 アイは最初はアクアとルビーの区別がついていなかった。双子の赤ん坊だから顔の見分けがつかなくてもそれほど不思議ではないが、アイの場合は多分そういう理由ではない。

 …心の奥底で「この子たちも私のことを愛してくれないのではないだろうか」という不安と恐怖を抱えていたせいで、無意識のうちにアクアたちの顔をしっかりと見ることを拒否していたのだ。

 

 

 

「まだ物心もついていないほど小さなアクアとルビーが、必死にサイリウムを振ってあなたを推してくれているのを見たときでしょ?」

 

 

目には目を、歯には歯を。

…噓には嘘を。

 

 

 俺は原作知識でその時点でアクアとルビーにはっきりとした自我があることを知っているが、ここはアイ視点で感じた情報にすり替えて語り掛ける。

俺の目指す都合のいい結論へとアイの思考を誘導するために。

 …ちなみに話のすり替えと思考の誘導も宗教団体がターゲットを洗脳する手口の一つである。えっ?人の心とかないのか?そんなこの場で何の役にも立たないものなどいらん。

 

 

「…あなたが、そのときに感じた想いこそが『愛』なのよ」

「っ!?」

「あなたは、すでに『愛』を手に入れている」

 

 嘘でも、ブラフでも何でもいい。

 重要なのは、アイが考える「愛」の感情を定義してやることだ。

 

 

 俺ではアクアやルビーと違ってアイに愛を与えてやることは出来ない。その代わり、アイの持っている「愛とは何ぞや」という問いに対して答えを出せる程度の原作知識がある。

 あとは、戯言を弄してそれを信じ込ませるだけ。

 

 

 子供の顔を見るのを無意識のうちに拒否するほどの不安と恐怖は、愛によって相殺された。

 うみねこ式悪魔の証明だ。否定できないことは、真実である。

 

「あなたが自分を信じられないというのならば、それでもいい。

 だったら、この歌を信じて欲しい」

「………」

 

「歌」という言葉を「神」という言葉に置き換えれば完全に宗教勧誘になるというツッコミは禁止だ。やめろカカシその術は俺に効く。

 

「この歌は、あなたに『愛してる』と言わせてあげるために創られた歌なのだから」

「………」

「あとは歌うだけで、あなたの『愛』は完成する」

「………っ!」

 

 ……アイの目にわずかに光が戻った気がした。この様子だと大丈夫そうだな。

 

 

「このDVDはあなたに貸してあげる。…じゃあね。ドームライブ、楽しみにしてるわ」

 

 言いたいことを全部言い尽くした俺は、DVDプレイヤーごとアイに預けてマンションから立ち去った。

 

 

 家に帰った後、会話の内容を思い出して布団の中で羞恥に悶え苦しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …有馬かなが帰った後、アイはずっと渡された「アイドル」のミュージックビデオを見ていた。

 

 

 ――あなたは、すでに『愛』を手に入れている

 ――あとは歌うだけで、あなたの『愛』は完成する

 

有馬かなが言った言葉が、ずっと頭の中でリフレインしている。

 

 

「…『ああ、やっと言えた』…『これは絶対嘘じゃない、愛してる』……」

 

 ……曲の最後のフレーズを口ずさんでみる。

 途端に、アイの目からぼろぼろと大粒の涙が零れ出した。

 

 

「………っ!」

 絶望で凍り付いたアイの心が、少しずつ溶け始めた。

 

 

 

 

 




やりたかったことリストその4:
「アイドル」を楽曲提供してアイを説得。
…のはずだったのに、どうしてかながアイを洗脳し始めているんですか?(現場猫感)



RTA走者「通常のパターンではアクアが退院した後、ルビーと一緒にサイリウムを使ったオタ芸をアイに見せることでアイのメンタルが回復するのですが、このパターンは初めて見ました。はえー、こんな展開あったんだ」
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