有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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シンデレラガール

「――無敵の笑顔で荒らすメディア♪ 知りたいその秘密ミステリアス♪

 抜けてるとこさえ彼女のエリア♪」

 

音楽が始まった途端、今まで精彩を欠いていたアイの表情に輝きが戻る。

それこそ、さっきまでの不調が嘘であったかのように。

 

「――完璧で嘘つきな君は、天才的なアイドル様♪」

――最初の15秒で、ドーム会場の空気のすべてをアイが支配していた。

 

 

「今日何食べた?好きな本は?遊びに行くならどこに行くの?」

 

「何も食べてない♪それは内緒♪」

 最初の30秒で、アイが歌うパートはこの箇所のたったの数単語。

「何を聞かれても のらりくらり♪」

 それだけのことで、観客はアイから目を離せなくなってしまう。

 

 

「――誰かを好きになること。なんて、私分からなくてさ」

「嘘か本当か知り得ない。そんな言葉に…また一人堕ちる、また好きにさせる!」

 サビに突入し、観客席のボルテージが急激に上がっていく。

 

 

「誰もが目を奪われていく。君は完璧で究極のアイドル! 金輪際現れない

 一番星の生まれ変わり♪

 嗚呼 その笑顔で、愛してるで、誰も彼も虜にしていく。その瞳が、その言葉が 嘘でもそれは完全なアイ♪」

 

 

 

ここで急に転調。問題のB小町パートが始まる。

 

 

 

「――はいはいあの子は特別です。我々は端からおまけです。お星様の引き立て役Bです。」

 ニノ達は肩をすくめておどけた表情で、自嘲を込めた笑い顔を浮かべながら歌う。

 アイはダンスをやめて、棒立ちの状態で俯く。

 

 今のアイの表情は、観客席からは伺うことは出来ない。

 予想だにしていなかった展開に皆が驚き、観客のサイリウムを振る手が思わず止まる。

 

 

「全てがあの子のお陰な訳ない。しゃらくさい、妬み嫉妬なんてない訳がない」

 ここは、B小町メンバーが抱えているアイへの恨みと嫉妬を吐き出すシーン。

 

 

 

 

だと、誰もが思っていた。

 

 

 

 

 

――ここの歌詞、なんかムカつくよねー

 

 練習中、B小町メンバーの一人が言った。

――私たち、アイに嫉妬していますー悲しいです悔しいですー、だなんてさ。君たちの気持ちはよくわかりますーって感じの上から目線の歌詞が、なんかシャクに触るんだよねー。

――わかるわかる!

――だからさ、ここのパートでみんなで仕返ししてやらない?

 

 

「これはネタじゃない。からこそ許せない」

 B小町メンバーの自嘲の笑顔は、いつの間にかアイドルとしての笑顔に戻っていた。

 許せない。自分がそんな情けない存在だと思われていたことにこそ許せない。

 

「完璧じゃない君じゃ許せない!」

 ニノがアイに近づき、背中をそっと押すようにタッチする。

 アイが顔を上げる。目を開く。

 

「自分を許せない!」

 

――確かに私たちはアイに嫉妬していた!でもそんなものはもう克服済みだ!!

 アイドルを無礼(なめ)るなよ!

 

 そんな気持ちを歌に込めて叫ぶ。

 

 

「誰よりも強い!君以外は認めない!」

 アイを含めたB小町メンバーの全員が笑顔とポーズを決める。

 バラバラだったB小町メンバーの心が、一つに集結した。

 

 

「誰もが信じ崇めてる、まさに最強で無敵のアイドル!弱点なんて見当たらない!

 一番星を宿している」

 このサビの部分ではアイが歌うパートはない。

 普段とは真逆に、B小町メンバーのバックダンサーのようにアイが振る舞う。

 

 

――ここのパートのアイのポジションは、()()()()()()()だよね!

――何それ!?サッカーじゃん!

 

 この演出はB小町メンバーがみんなでバカ笑いしながら決めた内容だ。

 センターバックは守りの要。アイが下がって守りを固め、ほかのメンバーが前に出て攻める。

 

 

「弱いとこなんて見せちゃダメダメ。知りたくないとこは見せずに」

 

 アイがまっすぐ手を上に伸ばした後、顔まで降ろして手のひらで顔を隠す。

 歌唱に集中するB小町メンバーと対照的に一人だけ違うパフォーマンスをしているため、アイのパフォーマンスが殊更に目立つ。

 後ろに下がっても、アイの存在感は薄れない。

 

 「唯一無二じゃなくちゃイヤイヤ それこそ本物のアイ♪」

 

 2回目のサビが終わる。

 

 

――ここからは、ずっとアイのターンだ。

 

 

「得意の笑顔で沸かすメディア 隠しきるこの秘密だけは

 愛してるって嘘で積むキャリア!これこそ私なりの愛だ」

 

 メロディーがスローになり、退廃的な雰囲気がアイの歌声に混ざり込む。

 アイの笑顔からアイドルの仮面が少しずつ剝げ落ちていき、見るからに嘘くさい作り物の笑顔へと変わっていく。

 

「流れる汗も綺麗なアクア ルビーを隠したこの瞼

 歌い踊り舞う私はマリア!そう嘘はとびきりの愛だ!」

 

 道化師が浮かべるような嘘くさい笑顔を浮かべてアイが歌う。

 12時の鐘の音が鳴り響き、シンデレラの魔法は解けてしまった。ガラスの仮面は舞踏会で落としてしまって、無くしてしまった。

 そして、ただの少女に戻ったアイが裸の心で歌う。

 

「誰かに愛されたことも 誰かのこと愛したこともない

 そんな私の嘘がいつか本当になること」

 

『信じてる』

 

 誰にも言えず、ずっと自分の心の奥底に秘めてきた愛への渇望を、歌に乗せて流出させる。

 

 

「いつかきっと全部手に入れる 私はそう欲張りなアイドル

 等身大でみんなのことちゃんと愛したいから」

 

――『あとは歌うだけで、あなたの『愛』は完成する』――

 

「今日も嘘をつくの この言葉がいつか本当になる日を願って」

 この歌をくれた女の子の言葉を信じて、歌う。祈りに似た願いを託して、歌い続ける。

 

 

「それでもまだ (アクア)(ルビー)にだけは言えずにいたけど」

 

 

 …アクア、ルビー。言うのが遅くなってごめんね。

 

「――ああ、やっと言えた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これは絶対嘘じゃない 愛してる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――原作の世界では、自分の死の間際にしか伝えられなかった想いを、アイはようやく伝えることが出来た。

 

 

 

 

 

 すべてをやり遂げたアイは、もう自分の感情を抑えきれなかった。次から次へと涙が溢れ落ちて、メイクもぐちゃぐちゃになっている。

 メイクが崩れたみっともない顔を見せないように下を向いていたら、ニノが観客席を指差しながらアイの肩を叩いてきた。

 

 

 

 顔を上げて、観客席を見ると――

 

 

 

 

 

 

――ドームの観客席が、すべて赤色(アイのカラー)のサイリウムで埋まっていた。

 

 

 

――『サイリウムを一生懸命振っているアクアとルビーを見たときに感じた感情が、「愛」なのよ』――

 

 

 

 みんなが私を推してくれる。私を愛してくれている。

 あのときに似た感情が、またアイの胸の中に広がっていく。

 

 

「うっ…うううう……っ

 私が知らなかっただけで、こんな近くに愛はあったんだね……」

 

 

 マイクがアイの独白を拾った。歓声とサイリウムの動きが一層激しくなった。

 

 

 

「みんなぁ…ありがとおぉ……

 あいしてるっ!この言葉は、ぜったいに嘘じゃないからぁああああああ!!!!」

 

 

 

 私はこの光景を、一生忘れない。アイはそう思った。

 

 

 

 




やりたかったことリストその5・その6
 「アイドル」B小町パートの新解釈。
 観客席のサイリウムがオールレッド。


次回はエピローグです。もうカミキヒカル救済を諦めてここで完結でもいいような気がしますがもうちょっとだけ続くんじゃよ。
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