有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
作品の感想も、好意的な意見が多くて励みになりました。
2023.11.9 原作131話の内容を元にアイの母親の描写を修正。
15年目の愛
伝説のドームライブから1か月後、B小町のドキュメンタリー映画である「15年目の愛」が上映された。ドームライブが大成功した影響で、原作世界での「15年の嘘」から名前が変わっている。どうやらこちらの世界ではポシャらずに無事上映にこぎ着けたようだ。
…てっきり原作のように本人が主役の映画を撮るものだと思い込んでいたので、幼少期のアイの役を狙っていた俺はアテが外れてしまった。
映画の内容は、最初からかなり陰鬱だ。
「つまりお母さんはいつまでも女だったんだよね。母親になれなかったの。男が好きで、女が嫌いで。…だからかな。お母さんが私を迎えに来てくれないのは」
…幼少期に母親が窃盗で捕まったときにアイは施設に預けられたが、刑期が終わった後も母親はアイを迎えに来ることなくそのまま蒸発した。
母にとって、
当時9歳ほどだったアイに対して、アイの母親と付き合っていた男が色目を使うほどに彼女は女として完成していた。幼くして魔性の魅力を放つアイは、母親には人の形をした「怪物」に見えていたのだろう。
結局、女としての嫉妬と敗北感に耐えられなくなった母親はアイを捨てた。
「…中学生のとき、突然社長に声かけられて、スカウトって言うから何かと思えば、アイドル?私が?笑っちゃう話だと思ったよ。そのときは」
「人を愛した記憶も愛された記憶も無いんだ。そんな人にアイドルなんて出来ないでしょ?こんな私はきっとファンを愛せないし、ファンからも愛されないと思ったから、八つ当たりの意味も込めて私がお母さんに捨てられた話をしたんだ。そしたらさ」
「良いんじゃねーの?」
それを聞いて、事も無げに斉藤が言った。
「そもそも普通の人間に向いてる仕事じゃないし、そういう経歴も個性じゃん?」
「……で、でも、皆『愛してるぞー』とか言うじゃん。私が言ったら嘘に……」
「嘘で良いんだよ。嘘を吐けるのも才能だ。良いじゃねえか、こいてけこいてけ。」
悪びれもなく、斉藤が言う。
「…嘘でも、愛してるなんて言っていいの?」
「色々言ってはいるけど、本当は君も人を愛したいって思ってるんじゃないか?やり方がわからないだけで、その対象が見つからないだけで。
…それに、愛してるって言ってるうちに嘘が本当になるかもしれん」
「嘘が本当に」…その言葉を聞いて、アイはアイドルになることを決意した。
アイドルになれば、ファンを愛せると思っていた。心の底から愛してるって言ってみたくて、愛してるって嘘を振りまいてきた。
そして、あのストーカー事件が起きた。
自分の今までを否定されたような、自分の愛を否定されたような絶望をアイは感じた。人前で笑えなくなってしまった。
そんなとき、あの歌が送られてきた。
「歌の名前は『アイドル』。あなたのために生み出された、あなたの歌よ」
「この歌は、あなたに『愛してる』と言わせてあげるために創られた歌なのだから」
「どうか、この歌を信じて欲しい」
「あとは歌うだけで、あなたの『愛』は完成する」
「夜遊ビ。」さんに言われた言葉を信じて、歌った。祈るような気持ちで、必死で歌った。
「夜遊ビ。」さんの言葉は本当だった。ドームライブの最後に、観客席が赤色のサイリウムで全部埋まっていて、まるで魔法みたいだった。私が気付かなかっただけで、愛はここにあったんだ。
私は、あの日の光景を一生忘れない。
そう締めくくって、映画は終わった。うんうん、イイハナシダナー。
…いや完全に「アイドル」の曲の作成秘話じゃん!「アイドル」の楽曲提供のシーンがなかったら重たいだけの話で終わってたところだよ!この取返しのつかなくなる直前ギリギリの神タイミングで楽曲提供する「夜遊ビ。」っていったい誰なんだよ!?俺だよ!!
映画の流れ的にはアイのクソ重たい身の上話を聞いた上で「アイドル」が作曲されたというストーリーに見えるので、ぱっと見だと違和感はないが、こんなアイのヘビーな話を聞ける「夜遊ビ。」って何者?実はアイの親友なのか?って疑問は出てくるだろう。
俺はアクアの親友だからアクアの母の裏事情を知っていても問題ないな。はい、QED。終わり!閉廷!!
「15年目の愛」は思った通り…いや、思っていた以上にかなりの話題となった。
アイの壮絶な半生を暴露した「15年目の愛」が元の世界のアニメの役割を果たすことになったため、ファンの「アイドル」への感情移入が更に高まった。そして歌の人気がまた加速し始める。これは動画再生数2億回レベルのブームになりますね。あーもうめちゃくちゃだよ。
そのあとしばらくしてから、斉藤社長から「『夜遊ビ。』としてまた新曲を作ってくれないか?」という打診があったが、『いやアレは完全に緊急措置ですので。自分の事務所に内緒でやったことなので、これ以上危ない橋は渡りたくないです』と言ったら渋々といった表情で引いてくれた。危なかった、マジで。
一応、某百合ガンダムの主題歌のほうも作ろうと思えば作れるが、そこでストックが尽きるので3度目はない。情に負けて危険なギャンブルは出来ない。
ちなみにうちの事務所には翌年の確定申告でバレそうになったけど、「副業の資産運用です!何をやってるのかは私もあんまりわかっていません!!」で押し通した。5歳で資産運用して大金稼ぐ子供っていったい何者なんだ…
そんなこんなで1年が過ぎた。B小町の人気は留まることを知らず、去年の12月に発表された「アイドル」で紅白にも出ていた。
1年間も人気が衰えないロングヒット曲を手に入れたB小町は、もはや国民的アイドルと言っても過言ではないというレベルにまで上り詰めていた。
ただ、その裏で。
有馬かなの人気に、少しずつ陰りが見え始めていた。
やりたかったことリスト(没案)
「アイに新曲を強請られて断り切れず『祝福』を提供してしまう」
最後まで迷った。
あっちも最後のフレーズがアイにぴったりなんだよなぁ