有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
例のピーマン体操のサンプル音楽が届いたので、早速聞いてみる。
原作の有馬かなは黒歴史扱いしていたが、はてさてどんなものが出てくるのか……ふむふむ。なるほど。うーむ。
普通にいい歌じゃねーか。NHKの教育テレビで流せば人気が出そうなやつだ。
特に気に入ったのが、歌詞カードに手書きで書かれたこの一文だ。
「笑顔で!元気よく!」
一見普通のアドバイスに見えるが、俺はこのメッセージを見てピンと来るものがあった。
「
この歌の本質は、ダンスだ。
わざわざ俺にオファーをかけるということは、つまりそういうことなんだろう。俺を起用することを考えたやつは中々の策士だ。良かろう存分に踊ってやる。
しかし、演技の才能を認めて貰った上でのオファーなのに原作の有馬かながピーマン体操を黒歴史と称するのはどうも合点がいかない。
「ああ、そうか」
子供が笑顔で元気よくするのは普通のことだと思っていたのか。
こんなこと、誰でもできる当たり前の演技だと思っていたのか。
「…お前、そういうところが歪だと思うぞ」
「…まさか、な」
そこまで考えて、ふと頭の中によぎった可能性を俺はあり得ない幻想だとすぐに切り捨てる。
原作の有馬かなは、ピーマン体操を忘れ去りたい記憶と言った。ならば、そちらのほうが真実なのだろう。
パンドラの箱なんて、開けないほうがいい。
「ピーマン体操始まるよ~!」
歌の収録を済ませて、次にダンスの収録に入る。
子供らしさを全開にして、カメラを通して俺を見ている大人に可愛いと思って貰えるように全力で媚を売る。
やることは、アイドルと同じだ。
「ピーマン♪ 食べたらスーパーマン♪ みんなもおどればピーターパン♪」
コツは手を伸ばして広げるタイミングで背伸びをすること。これで「はやく大きくなりたい」という子供らしい気持ちを表現する。
「キラいって言われちゃったらしおれちゃうけど、きっとピーマン体操おどれば好きになる!」
お父さんやお母さんに褒められたくて、嫌いな野菜でも食べる。そんな微笑ましい光景をイメージさせるように元気いっぱいの笑顔を振りまく。
見てる人たちに「こんな子供が欲しいな」と思って貰えるように全力で可愛らしさをアピール。感情演技は俺の得意分野だ。この瞬間なら俺はアイにも負けていないはず。
…嘘ですあのレベルは流石に無理。
「今はちょっぴり苦くても、いつかきっと大好きになる♪ピーマン体操おどって準備しよっ!いくよ!」
俺はダンスを続ける。そうしていると、有馬かながピーマン体操を黒歴史にしたがっていた別の理由が思いついた。
…きっと、自分のパフォーマンスの内容に満足していなかったんじゃないかな。
あのとき、ああすればよかったと後悔ばかり残る演技だったのにめちゃくちゃ人気が出てしまった。それが不満だったんじゃないかな。そっちのほうが、有馬かならしい。
ダンスの収録も終わった。大人たちの表情も上々で、我ながら完璧な演技だったと思う。きっと原作並の人気が出るに違いない。
カレンダーを見ると、今日は
なんだかお母さんに会いたくなってきた。今頃は私の誕生日の準備をしてくれているのかな。早く帰って、今日はいっぱい話をしよう。
やりたかったことリストその9:
ピーマン体操の新解釈。
ピーマン体操ですら深読みするとお涙頂戴ものになる有馬かなの境遇なんなの?馬鹿なの?死ぬの?
ところでお気づきの方もいらっしゃると思いますが、この作品は「推しの子 ヒロイン全員好感度100達成RTA」にめちゃくちゃ影響を受けています。つまり次回の話はそういうことです。
覚悟はいいか?俺は出来てる。