有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
ある日、主人公の少女は自分にしか見えない美しいネックレスを拾った。
しかし、それは人間の闇の心を食らう悪魔「メフィスト」が封印されたネックレスだった。
悪魔「メフィスト」に憑りつかれた少女は、悪魔の餌である闇の心を持った人間を探すための駒にされてしまう…
最初に悪魔の餌として選ばれたのは、クラスの子を虐めていた女子グループの少女たち。
「『人狼ゲーム』よ。あなたたちの中に『偽物』が紛れ込んでいるから、その偽物を当てた子だけ助けてあげる。…あなたたち仲良しグループなんでしょ?じゃあ簡単よね?」
日常パートで太陽のような輝きを見せていた少女の笑顔が、断罪パートでは反転する。
人間を食材としか見ていない、冷酷な笑み。それでいて目が離せなくなる凄みのある表情。
「あら残念。全員ハズレね。『私はあなたたちのこと信頼している』なんて、本物は絶対に言わないと気づいていたら簡単だったのに。
…それじゃあ、さようなら」
「人ならざるモノ」の演技は、俺のルーツみたいなものだ。「カラスの少女の演技」を使うだけでいい。ただそれだけのことで、その場の空気をすべて支配できる。
「子供の悪意は甘くて美味しいわね」
……もし第4の壁の向こう側から今の俺たちを観測している人たちがいればこう言うのだろう。
「瞳に黒く輝く星を宿している」と。
地獄のような
今の
「…最終回視聴率19.6%、瞬間最高視聴率21.5%。『有馬かな、復活ッッ!』って感じね」
俺はアクアの家でくつろぎながら、スマホでニュースを見ていた。
ドラマの撮影から半年が経った。ドラマの撮影が開始した時点で8歳だったので、もうすぐ学年があがって小学3年生になる。以前に俺が出演したドラマで最高視聴率が20%を超えたのは4歳のころだったので、実に4年ぶりの快挙だ。まだ油断は出来ないが、これで有馬かなが落ちぶれる未来を大きく変えられたはずだ。
……俺は「有馬かな」から「メフィスト」という名前を与えられたことで精神的に安定した。
「自分」というのは己の肉体と精神だけで構成されるものではない。どんなグループに属し、どんなコミュニティに加わっているかという社会的評価も「自分」を構成する要素の一つだ。
俺は有馬かなに、この【推しの子】の世界の一員として認められたような気持ちになって嬉しかった。
救済されたのは、俺のほうだった。
「『時よ止まれ、汝は美しい』、か…」
ゲーテの「ファウスト」では、主人公の老人ファウストが、人生に絶望しメフィストという悪魔と賭けをする。
その賭けとは、メフィストが使い魔となり、ファウストを若返らせる代わりに人生の素晴しさに心を奪われる瞬間に「時よ止まれ、汝は美しい」といったら、自分の魂を悪魔にやるというもの。
幸せの絶頂期に魂を奪われて殺されるという、悪辣な契約だ。
まあファウストは自分の死の間際にその言葉を言ったくせに、魂を奪われず逃げ切ったわけだが。
「どうした?また中二病が再発したのか?」
「とりあえずあなたはゲーテに謝りなさい」
相変わらずアクアのツッコミが鋭い。
「でもまあ、この言葉を中二病ワード扱いされるのは…すこし悲しいわ」
「…すまない。中二病患者に現実を突きつけるのはタブーだったな」
「本気で怒るぞコラ」
最近アクアの遠慮がなくなってきた。以前と比べて好感度が上がっているのか下がっているのか全然わからねぇ。
「『この幸せな時間が永遠に続けばいいのに』。ただそれだけのことを願っただけなのに、世界はあり得ない幻想だと冷笑する」
今が幸せ過ぎて、
「幸せな幼少期を失って、大人になることを成長と呼ぶ。それを否定すると中二病と言われて笑われる。おかしいよね。今の私を笑っている人も、同じ胸の痛みを感じてきたはずなのに」
もしかしたら有馬かなの肉体が二次性徴を終えても、俺の人格が残る未来があるのかもしれない。しかし、そんなことは起こらないという確信めいた予感が何故か俺の中にある。
そして、その答え合わせの日は刻々と近づいてきている。
――天童寺さりなも、同じことを考えていたのかなぁ。
そんな考えが頭に浮かんだが、アクアが隣にいるので口には出さなかった。敵に塩を送ってやる理由はない。
次回、カミキヒカル救済ルート編開幕。
長かった。