有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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物語もそろそろ佳境です。


すべての真相①

「…君は一体何を言って」

「アクアの父親なんでしょ?」

「何を根拠に」

「顔そっくり」

「他人の空似だ。君が何を言ってるのか、全くわからない」

 あくまで白を切ろうとするカミキヒカルだったが、こちらもすでに退路はない。そんなものはゴミ箱にダンクシュートで捨て去った。諦めたら試合終了だよって日本一有名なバスケの監督も言ってたから問題ない。

「教えて」

 カミキヒカルの目をまっすぐに見る。

「あなたが何を考えて、この物語を始めたのか。それを、私は知りたい」

 

 カミキヒカルが星野アイを殺そうと思わなかったら、【推しの子】の物語は始まらなかった。コイツがトチ狂わなかったらゴロー先生は死ななかったのでアクアは生まれなかったし、きっとルビーも転生せずに普通の子供として生まれていただろう。

 不幸な生い立ちを持つ少女が、スターダムを駆け上る。定番のシンデレラストーリーだが、少々陳腐だ。その程度ではこの世界に君臨する底意地の悪い神様に奉納する演劇とするにはどこか物足りない。

 そんなありきたりな物語に、スプーン一杯の悲劇(スパイス)をブレンド。そうやって出来上がった料理のサンプルが、アイのストーカー事件と、有馬かな(俺と私)の誕生日イベントだ。

 

 これは俺の持論だが――

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…ふう。近くに僕の事務所がある。そこで話をしよう」

 根負けしたカミキヒカルが、俺を追い越して歩き出す。子供の歩幅に合わせた、ゆっくりとした速度だ。きっと、事務所まで歩いていく間に動揺した精神のクールダウンを行うつもりなのだろう。

 俺はカミキヒカルの後ろをついていく。お互いに会話はない。そもそも、こんな天下の往来で話していい話題ではない。

 

 カミキヒカル。アクアと姫川大輝の遺伝子上の父親。【推しの子】原作世界では、姫川大輝の両親の心中自殺の原因を作り、星野アイとSA芸能所属の人気女優である片寄ゆらを殺害したことから、読者からは「女優としての才能を持つ女性を殺害するサイコパス」と言われている。

 もしその評価が本当であったのなら、有馬かな(俺と私)も奴の殺害対象だ。俺をスカウトしたのも、片寄ゆらを殺害したように女優として大成させてから殺すつもりなのかもしれない。

 …しかし、実際のカミキヒカルを見て俺が感じた印象は。

 

 

――コイツが連続殺人犯のサイコパスというのは、「()()()()()()()()」、ということだった。

 

 言語化するのは難しいが、カミキヒカルからは、なんかこう…「()()()()()()()」特有の雰囲気を感じる。「人殺し」という大きなハードルを越えられるほどの熱量を、その身体から感じなかった。

 俺が初っ端からコイツ相手にブッ込んでいったのも、その雰囲気を感じ取ったからだ。

 

 …色々考えているうちにカミキヒカルの事務所にたどり着いてしまった。ここからが正念場だ。

 カミキヒカルの事務所は、本当に必要なものだけを揃えたという感じの殺風景なものだった。新しく立ち上げたばかりの事務所と言ったのも、そのままの意味だったのだろう。

 

「…おまたせ。僕はコーヒーは飲まなくてね。アイスティーしかないんだけど、いいかな?」

「ぶっ!?…い、いや。お構いなく」

 某所で睡眠薬を飲み物に入れるときに言う定番の台詞をカミキヒカルが言ったので思わず吹き出すところだった。ああそうだった、本当に薬物を盛られる可能性があるんだったな。飲み物に口をつけるのは帰る直前にしよう。

 

「それじゃあ…まずは君の知っていることを話してもらおうか。洗いざらい全部話してもらうぞ」

「やだー、怖いかおー」

 

 カミキヒカルがかつてのアクアと同じことを言ったのを聞いて少し懐かしくなった。変なところで親子の絆を感じる。やはり血は争えないのか。

 さて、どう言い繕うか。…面倒だな。アクアと同じやり方でいくか。

 

「私はね、2023年からタイムスリップしてきたの」

「…真面目に話す気がないのか?君は――」

「カミキヒカル。12年前に女優姫川愛梨、本名上原愛梨と不倫関係になり、妊娠させる。子供は夫である上原清十郎の子供と偽って出産。子供が5歳のときに托卵が夫にバレて、上原夫妻の心中事件が起こる」

 原作知識を総動員して、カミキヒカルの経歴を読み上げる。ああいいぞ、洗いざらい全部話してやる。

 

「劇団ララライで出会った星野アイと恋仲になり、星野アイも妊娠させる。星野アイと結婚には至らず、アイは一人で双子を出産」

 カミキヒカルの顔色は全く変わらない。流石は元天才役者、と言ったところか。その顔が真っ青になるところを見てみたいなぁ。

 

「星野アイに対して偏執的に熱狂している男にアイが妊娠したことを教え、更にアイの入院している病院をリークして星野アイへの襲撃を示唆した。しかし、男がアイの担当医を殺害してしまったせいで襲撃を断念。計画は頓挫したかに見えた」

 俺は話を続ける。カミキヒカルも話を止めることはしない。

  

「それから3年後、星野アイからの連絡によりアイの現住所を知ってしまう。ストーカーと化した男に再び住所をリークし、星野アイへの襲撃計画を再開する。そして」

 

 

「――星野アイの殺害は、成功してしまった」

 それが、本来の【推しの子】の物語。

 

 

 カミキヒカルの表情が、変わった。

 

「私はね、星野アイの殺害が成功してしまった世界から迷い込んできた人間なの。あなたのことを知っているのは、そのせい」

 アクアにやったときと同じように、得意のうみねこ式悪魔の証明を交えてカミキヒカルを惑わせる。

 

「…たとえ未来から来たのが本当だとしても、僕のことを知っている理由にはならない」

 もっともな話だ。でも、「星野アイが死んでおしまい」という結末にはならなかった。ならなかったんだよロック。だから、この物語が始まったんだ。

 

「星野アイが殺されて、残されてしまった男の子はこう考えた。『ストーカー男に、引っ越したばかりの星野アイの住所を教えた情報提供者がいる』と。情報提供者は、自分の父親だと確信した。

――必ず見つけ出して、俺の手で殺してやると、まだ3歳だった男の子は考えた」

「………」

 

「アクアは、自分の毛根の遺伝子情報を元にあなたのことを探り当てた。殺すだけでは飽き足らない。社会的に抹殺した上で引導を渡してやると、その憎悪を燃やした」

「………………」

 

「その社会的な抹殺手段とは、星野アイの人生を映画という手段で公表することだった。どんな苦悩を抱えて、誰を愛して、誰に裏切られて死んだのかを、包み隠さずすべて暴露した。それが『15年の嘘』という映画だった」

 こちらの世界では「15年目の愛」という名前のハッピーエンドの映画だったが、あっちはバッドエンドの映画だ。さぞかし世論は燃えに燃えたに違いない。

 

「あとはあなたが逮捕されておしまい。あなたの人生はメディアに余すところなく晒されて、世紀の大悪人として歴史に名を残しました。めでたしめでたし」

 最後に茶化して、話を締めくくる。あなたの人生はメディアに暴露された内容を見て知りました。そういう筋書きだ。

 

「はっ、ははは……。面白い、物語だ」

 カミキヒカルが能面のような表情を浮かべながら言った。感情が振り切れた人間特有の、怒りの表情だ。

 

()()()

 凄みを効かせた声で、言う。流石役者、いい声をしている。

 

「…ちなみに嘘だと思う根拠は?」

()()()()()()()()()()()()

 カミキヒカルが言い切った。わお、凄い自信。確かに原作でもガバガバな犯行計画の割に10数年も逃げきっていた。何か掴まらない秘訣でもあるのか?

 …いや、今のカミキヒカルの態度は「99%捕まらない自信がある」というよりも「100%ありえない」といったニュアンスが強かった。どういうことだ?

 しばらく俺たちの間に沈黙が訪れる。

 

 ……そのとき、俺の脳裏に天啓が舞い降りた。ヒントは、「星野アイの殺害が成功してしまった」と言ったときに見せた、カミキヒカルの表情。

 その表情は、カミキヒカルを殺して自分も消える覚悟を決めた原作のアクアの顔とよく似ていた。

 

 

「ああ、そういうことか」

 みんなカミキヒカルを「女優としての才能を持つ女性を殺害するサイコパス」であり「吐き気を催す邪悪」だと思っていたから、コイツが星野アイを殺そうと思った理由に気づかなかったのだろう。

 彼が星野アイを殺そうと思った理由は、もっと単純で低俗なものであると考えれば、すべてに説明がつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あなた、アイと心中自殺したかったんだ」

 

 

 

 

 上原夫妻がやったことを真似ようとした。

 この美しくも悲しい物語は、そんなありきたりでつまらない動機から始まったのだった。




やりたかったことリストその14
カミキヒカルがアイを殺そうとした理由

このありきたりでくだらない動機が思いついた瞬間、カミキヒカルがシリアルキラー扱いされていることに対する解釈不一致に耐えられなくなって気づいたらこの作品を投稿していた。
この一言をいうためだけに6万文字近くも文章を書き込むとか、自分のことながら中々狂気入っていると思う。
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