有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
リョースケの都合の良い日を待っていたら、ドームライブ当日になっていた。アイの住所を聞いたのが先週の話なので、一週間以上待たされたことになる。
時刻は午前10時前。もうすぐ、リョースケとの待ち合わせの時間だ。空が曇っているので、結構寒い。
昼頃になれば、ドームライブの準備のためにアイは家を出る。アイのマンションにたどり着くには待ち合わせ場所から少し移動しないといけないので、リョースケが1時間ほど遅刻すればアイを襲撃する計画は破談となる。正直、それでもいいと思っていた。
時間通り、リョースケが来た。…来て、しまった。
「…アイのマンションに行く前に、少し確認しておこうか。僕たちが、アイのことをどう思っているのかを」
来てしまったものは仕方がない。予定通り、まずはリョースケの感情を煽ってその気にさせる。少し背中を押してやらないと怖気づいてしまうのは明白だ。
「――そして、アイが僕たちのことをどう思っているかを」
悪意のバイアスで、アイへの認識を少しだけ曲げてやる。それだけでいい。
「3年前に確認した通り、アイには子供がいる。それは、アイを抱いた男がいるということだ」
その男が自分だったということを棚に上げて、リョースケの怒りを引き出すために煽る。若い童貞の男性にありがちな処女信仰を抱いている奴は、こういう状況だととても扱いやすい。
「男がいることを隠して、嘘の笑顔を振りまいて、でも裏ではずっと僕たちのことをバカにしてて」
僕は最初にアイを見て、この子は僕の同類だと思った。
僕が求めている言葉をそのまま彼女に言ってあげれば喜んでくれて、ああ、やはり僕は間違っていなかったとそのときは思った。
でも、今はアイが何を考えているのか全く分からない。
「そしてアイは、僕たちが知らない男を侍らせてこう言うんだ」
「
僕自身の、アイへの憎しみが燃え上がる。
アイに抱いている感情がそっくりそのまま反転して、すべてアイへの憎しみへと変わっていく。
「『君たちのおかげで、私は幸せになりました』って、その男と手をつなぎながらそう言うんだ」
その相手が僕だったら、どんなに幸せだったのだろう。
でも、そんな未来はもう来ない。
「僕はそれが許せない」
――嘘でも、「愛してる」って言ってくれれば満足出来たのに。
「――アイの嘘が、許せない」
――自分のファンには「愛してる」って言えるのに、どうして僕には言ってくれなかったんだ。
僕は、スポーツバッグにしまっておいた白い薔薇の花束とナイフをリョースケに渡した。
「後はリョースケに任せる。花束だけ渡して帰ってもいいし、どっちも捨ててアイに会わずに帰ってもいい」
僕はリョースケの返事を聞かず、その場を立ち去った。ここまでしてリョースケがアイを許せるのならば、僕のほうが間違っていたということなのだろう。曲がりなりにもアイを愛しているのなら、きっと選択を間違えないはずだ。僕はそう思っていた。
このとき、僕は大きな間違いを犯していた。
僕の「人を騙す眼」…嘘を真実と思わせる才能を過小評価していたのだ。
リョースケは、半分以上本音を込めた僕の嘘と演技にすっかり当てられて、僕の怒りと憎しみを自分の感情と錯覚した。
完全に、
リョースケは僕の代弁者として、アイのマンションに向かう。
そして、悲劇が起こる。
僕の計算通りに、僕が望まなかった結果が訪れた。
昼過ぎにアイがリョースケに殺害されたニュースが流れた。そうか、リョースケは結局アイを許せなかったのか。それもまた、愛してるからこその行動なのだろう。
僕はリョースケのことを馬鹿にしていたけど、見事に「愛」を成し遂げた。僕なんかよりずっと凄いやつだったと、リョースケの評価を改めた。
…さて、今度は僕が「愛」を成し遂げる番だ。
僕は睡眠薬――医者の死体を見てからしばらく不眠症になったので処方してもらったものを全部飲み込み、水で胃に流し込む。
結局最期まで「愛」を理解出来なかったことが、心残りだった。
このときの僕は愚かにも、現在一般的に出回っている睡眠薬や向精神薬は大量に飲んでもなかなか死なないようにデザインされているため、高齢者や持病を持つ人しか睡眠薬自殺が出来ないことを知らなかった。
やりたかったことリストその15
自分のファンには「愛してる」って言えるのに、どうして僕には言ってくれなかったんだ。
アイはね、自分が大切だと思っている人ほど「嘘」が上手く吐けなくなるんだよ。
お前結局最期までアイのこと理解出来なかったんだな。