有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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この話でカミキヒカル回想編は終了です。


奈落の底へ

 意識が朦朧とした状態のまま、救急車に乗せられて病院へと運ばれる。玄関には鍵はかけていなかったが、誰が通報したんだろう。ぼんやりとした頭で、僕はそんなことを考えていた。

 病院で胃の洗浄を受けて薬を吐き出させられた結果、命に別状はなし。無様過ぎて、死にたくなる。

 

 カウンセリングという名の事情聴取を待っている間、病院のテレビにリョースケが自殺したというニュースが流れていた。…アイだけではなく、リョースケにまで置いて行かれた。リョースケに先を行かれたという事実を前にして、僕の胸が更に重苦しくなった。

 今の僕は、ゴミ屑みたいなものだ。片思いの相手を殺して、同じ女性を好きになった知人を死なせて、そのくせ自殺することも出来かった卑怯者だ。

 

 僕の命なんて、もう何の価値もない。

 

 

 医者のカウンセリングに対して正直に答えた結果、再発の恐れありということで入院させられることになった。当然、父にも連絡が行く。また父に迷惑をかけてしまった。父は怒るのだろうか。それとも殴るのだろうか。もしかしたら勘当されるのかもしれない。

 いっそ、殺してくれればいいのに。

 

 間もなく、父がやってきた。

 父は無言で僕のベッドの隣に座る。僕も黙り続ける。ついさっきまで死ぬ気だったのに、父に見限られることに怯えている自分に気づいて更に情けなくなった。どこまで我が身が可愛いんだ、僕は。

 しばらく沈黙が続いた後、父が口を開いた。

 

「――すまなかった」

 父の口から出た言葉は、謝罪の言葉だった。

 

「お前が孕ませた女の子が殺されて、自殺しようとしたと聞いた。お前がそんなにまで想っていた相手なら、儂は堕胎ではなく一緒になれるように尽力すべきだった」

 父が見当外れなことを言い出す。何を言ってるんだ。僕はアイに捨てられて、それを恨んでアイを殺すように仕向けたんだ。

 

「今まで蔑ろにして、悪かった。これからは、親としてお前をしっかり愛していきたいと思っている」

 父が頭を下げた。父が言っている言葉の意味が理解できない。どうして、どうして――

 

 

――どうして手遅れになってからそんなことを言うんだ!

 

 

 今まで麻痺していた感情が蘇ってくる。胸が痛い。姫川愛梨と、アイと、リョースケと、名前も知らないあの医者の命の重みが僕に圧し掛かってくる。苦しい。痛い。胸が張り裂けてしまいそうだ。

 

 僕のせいで死んでいった人たちの命が、重い。

 僕は彼女たちが与えてくる胸の痛みに耐えながら、ふと思った。

 

 ああ、これが命の重みか。愛の重みなのか。

 この胸の痛みこそが、僕が愛を感じていたという証なのか。

 

 このとき僕は、自分が死ねずに生き残った理由を理解した。今ここで、愛を知るために神が僕を助けたのだ。僕はアイを殺すことで、ようやく愛を理解出来たんだ。嗚呼、とても清々しい気分だ。

 

 今、僕が流している涙は喜びの嬉し涙なのだろう。きっと、そうに違いない。

 

 

 

 僕の自殺未遂の後、父は急に僕に甘くなった。父はもう70歳を超えた老人で、そろそろ体力の衰えが目に見えてくる頃だ。死期が近くなって、人恋しくなってしまったのだろうか。

 僕自身は父に対して愛の感情を持てなかったが、敬意はしっかりと感じられるようになった。これだけでも大きな進歩だと思う。

 

 僕は大学卒業後、芸能界に飛び込んだ。役者ではなく、プロデュースする側の仕事をやり始めた。僕は最低限のコネとノウハウを学んで、すぐに独立した。資金は父が用意してくれたのでさほど苦労することはなかった。

 

 …僕が生業として芸能界の道を選んだ理由は、やはり「未練」なのだろう。アイが隣にいたころの輝きを、未だに忘れられない。経営陣とのトラブルで事務所を辞めさせられた有能なマネージャーを迎え入れ、華と才能を兼ね備えた女優のスカウトにも成功した。僕の事務所は、順風満帆と言っていい出だしだった。

 

 その「華と才能を兼ね備えた女優」――片寄ゆらは、僕の事務所に入ってきたころは、まだ才能の原石と呼べる程度の存在だった。

 だが、彼女は僕の『()()()()()』を習得した。アイと比べればまだ半分程度しか使いこなせていなかったが、いずれはアイを超えるかもと思わせるものを彼女は持っていた。

 僕たちは片寄ゆらを全力で売り出した。その甲斐もあって、彼女が25歳になるころには「天下の大女優」と呼んでも過言ではない場所まで登り詰めていた。

 僕の事務所はどんどん大きくなっていく。毎日が楽しい。かつてアイと過ごした青春時代に戻ったような錯覚に陥る。

 もうアイはいない。その代わり、僕の傍には片寄ゆらがいた。

 

「私はね、もっと演技が上手くなって、もっと売れて、そーゆー大人の事情に巻き込まれない役者になりたい!良い作品に出まくって、いつか100年後も残る作品…その主演を張りたいの」

 東京の月夜の空に向かって、片寄ゆらが自分の夢を語る。

 

「出来るかなぁ?」

 片寄ゆらの瞳には、アイと同じ輝きが宿っていた。

 

「……貴方の才能は本物です。それだけの価値がありますよ」

 僕は、だんだんと片寄ゆらに心を惹かれていた。

 

「来週山登りに行ってくるんだ。最近ハマってて。ほら、アプリで登った山管理してるの!」

「お一人で行くんですか?」

「うん」

「良いですね。僕も山、好きですよ。でも気を付けてください。山は、何か起きても見つけて貰えない事もありますので」

 

――あの医者(雨宮吾郎)のように。

 

 

その言葉を、僕は自分の胸の中だけで付け加えた。

 

 

 

「…こんにちは、ゆらさん。奇遇ですね」

「あれ、ミキさん?こんなところまで来て、どうしたの?」

「僕もゆらさんに触発されましてね。一人で山に登るのもなんだか寂しくて…良ければご一緒してもよろしいでしょうか?」

「うん、別にいいよ。たまには二人の山登りもいいよね」

 

 僕は偶然を装って休暇を満喫している片寄ゆらにコンタクトを取り、彼女の山登りに同行した。

 二人での山登り。()()()()()()()。僕の目的を遂行するための絶好のロケーションだ。僕たちは他愛もない会話を続けながら山の頂上を目指した。

 

「うわー、高ーい!絶景かな絶景かなー!!」

 山の頂上から見下ろす風景の美しさに彼女がはしゃぐ。

 

「綺麗ですね」

「うんうん!ミキさんもそう思うでしょー!!」

「いや、風景ではなく、ゆらさんが綺麗だと言ったんです」

「えっ…ええええええ!!!」

 

 僕の言葉を聞いて、片寄ゆらがきょとんとした表情をする。そして、自分が告白されたと気づいて顔を真っ赤にした。

 

「ゆらさん。好きです。貴方の夢と命の輝きに満ち溢れた姿に心を惹かれました」

 僕は片寄ゆらの両肩を掴む。彼女が成長するたびに、僕の記憶に残るアイに近づいていくたびに、この胸の衝動が抑えられなくなる。

 僕は片寄ゆらを第2のアイにする。彼女の瞳の輝きを見たとき、僕はそう決心していた。

 

「ゆらさん。愛しています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 僕は片寄ゆらを、山頂から突き落とした。

 

 

 

 

 

 

 

「――生きてますか?」

 僕はゆっくりとした足取りで片寄ゆらの落下現場に移動した。彼女はまだ生きているが、もう虫の息だ。まもなく死ぬだろう。

「言ったでしょう?足元に気を付けてって。

 …ああ、僕のせいだ。僕のせいでこんなにも才能に溢れ、誰からも愛され、価値のある女優が、僕のせいで命を失う」

 

「……人、殺し」

 それが、彼女の遺言になった。

 

 片寄ゆらが、死んだ。僕の愛する人が死んだ。アイたちが死んだことを実感したあの日のように、僕の胸に痛みが走る。

 この痛みは、僕が片寄ゆらを愛していた証だ。

 

 

「ああ、価値ある君の命を奪ってしまった僕の命に重みを感じる」

 命の重みは、愛の重みだ。今の僕の命には、姫川愛梨と、アイと、リョースケと、片寄ゆらの()が宿っている。

 僕は、この僕の命がとても愛おしい。

 

「…不思議だね。生きている間はアイの面影を見ていたのに、死んでしまった後の姿はあの医者にそっくりだ」

 僕は片寄ゆらの死に顔を見て、宮崎でリョースケが殺した医者を思い出した。最近遺体が発見されて、医者の名前が雨宮吾郎だったということをニュースで知った。

 

 もしも輪廻転生があったとしたら、生まれ変わった雨宮吾郎は今は高校生ぐらいにまで成長しているのだろうか。もしかしたら前世で殺されたことを覚えていて、僕のことを恨んでいるのだろうか。

 

「ははっ、まさか。そもそも僕と雨宮吾郎は生きている間に出会ったことすらないじゃないか」

 雨宮吾郎を殺したのはリョースケだ。僕が余計なことをしたせいで殺されたことなんて知りようがない。でも、何かのきっかけで僕のことを知って、僕に憎しみを抱いて、僕を殺そうと思っているのならば――

 

 

 

 それは、どんなに素晴らしいことなのだろう。

 

 

 憎しみは、愛の裏返しだ。僕がアイをきっかけにして起こした事件の因果の果てに殺されるのならば、それは正しい愛の帰結だ。僕が殺されることで、アイへの愛を証明できる。僕の命が、愛へと変わる。

 

「嗚呼、早く僕を殺しに来てよ――雨宮吾郎」

 僕は片寄ゆらの死体を隠して、山を下りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 気づいたら自分の事務所にいた。僕の前にいるのは、僕が地下アイドルのライブハウスでスカウトした男装した少女。

 

「お、お前…()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 白昼夢というには生々しすぎる、()()()()()()()を呼び起こされたことに僕は恐怖を感じた。もしかして、さっきの記憶はこの少女が見せた幻覚だったのだろうか。

 一体僕は、何をスカウトしてしまったというのだ。

 

「ふふふ、よっぽど怖い悪夢(ユメ)を見ていたようね」

 少女の姿をした怪物が笑顔を浮かべながら話しかけてくる。その見るものの恐怖と不安を煽り立てる笑顔は、どこかで見たような気がした。

 

 少女が男装のために被っていた帽子を脱いだ。すると、()()()()()()()()()()()()()()広がった。

 その姿を見て、僕はようやく少女の正体を思い出した。「人間の闇の心を食らう悪魔『メフィスト』」を演じていた子役の少女…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、自分が誰をスカウトしてしまったのかやっと気づいた。

 

「有馬かな…!悪魔に憑りつかれているというのはドラマの設定だと思っていたけど、()()()()()()()()()()()とは思いもしなかったぞ!一体お前は何者なんだ!!?」

「あら酷い、これでも善良な神様のつもりなのに。それに、『自分は何者であるか』という問いに答えられる人間なんてどれぐらいいるのかしら。ねぇ?」

 有馬かなは笑顔を浮かべたまま、窓のサッシにもたれかかる。()()()()()()()()()()()()()()()()()、目があったような気がした。

 

「でも敢えて『自分は何者であるか』という問いに答えるとするならば――」

 有馬かなの人のものと思えない威圧感が、増した。

 

「『フェレス』。私のことはフェレスと呼びなさい」

 

 悪魔「メフィストフェレス」から「メフィスト」を取り除いた存在。有馬かなの肉体に憑りついた何者かはそう名乗った。

 

 

――かつて、有馬かなは「メフィスト」のことを「明日への希望」と呼んだ。

 彼女が名乗った「フェレス」という名前は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という皮肉だったのかもしれない。




やりたかったことリストその16
カミキヒカル救済

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やりたかったことリスト()()
カミキヒカル救済

カラスの少女「そんな結末、面白くないでしょう?」
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