有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
「救済 仏教」でググると一番上に中々面白い情報が出てきて興味深かったです。
「『メフィスト』ではなく『フェレス』だと…?一体お前は何がしたくて僕のところに来たんだ!?」
カミキヒカルが声を荒らげる。しかしその行為は、恐怖を怒りで誤魔化そうとするささやかな抵抗でしかなかった。その虚勢に対して、有馬かな――に、憑依したフェレスは笑顔で答える。
その笑顔は、獣が牙をむく行為を連想させる笑顔だった。
「あなたに聞きたかったことがあるの。――
白々しくも、フェレスはカミキヒカルにそう問いかけた。
「…何を言っている。アイは死んでいない。ドームライブだって無事に終了したじゃないか」
リョースケはアイの殺害に失敗し、傷害罪で逮捕された。アイはメンタルに不調を抱えながらもドームライブを成功させて、最後に観客席が赤色のサイリウムで染まったシーンは伝説のライブとしてファンの間で語られているほどだ。
「
フェレスは困ったような表情を浮かべて、で首を傾げる。
「あなたがアイにリョースケを嗾けたのは、いつの話?何月何日?」
「そんなのは決まっている。
アイの
「
別世界線の自分の記憶を流し込まれたせいで、カミキヒカルの
フェレスが、その認識を歪めた。
「もう一度聞くね。
「う……あ………」
フェレスはカミキヒカルを、あくまでもアイを殺した殺人犯として問いかける。アイの死はカミキヒカルが狂った原因であり、「
星野アイと、片寄ゆらを殺害した記憶を媒介にして「彼方」と「此方」のカミキヒカルの因果を、結ぶ。それによって、今ここにいるカミキヒカルと「原作の」カミキヒカルが同一の存在となった。
それは、一般的に「
「僕は…アイに捨てられて…それを恨んで、リョースケにアイを襲わせて……」
「違うでしょ?あなたはアイを愛していた。だからあなたの愛を証明するためにアイを殺したんでしょう?」
恐怖とストレスによる思考力低下の隙を突かれてフェレスにマインドコントロールされたカミキヒカルが、自白をし始める。その内容を、フェレスが優しく訂正した。
「僕は…アイを…愛していた……」
「そう、あなたはアイを愛していた。そして、アイも心の奥底では、あなたを愛していた」
フェレスが、カミキヒカルが気づくことがなかった真実をそっと囁く。しかし、その愛の囁きは猛毒入りだった。
「ねぇ、アイが死んでしまったのに――
悪縁結びの対象を、「彼方」のカミキヒカルから「彼方」の星野アイにすり替える。「彼方」の星野アイは、故人だ。生きている人間と死者との悪縁を結ぶと――
――
「あなたはアイを愛していて、アイもあなたを愛しているのに、どうしてまだあなたが生きてるの?早く逢いにいってあげれば?きっとアイも待っているよ」
死者との縁が強ければ強いほど、死に引き寄せられる力が強くなる。強い精神力を持っていれば死への誘いに抵抗出来るが、恐怖と動揺で消耗していたカミキヒカルには、呪いに抵抗出来るだけの気力が残っていなかった。
それは、残酷な死刑宣告であった。
カミキヒカルはふらふらとした動きでデスクの上に置いてあったボールペンを握りしめる。こんな凶器でも、頸動脈に穴を開けてしまえば死ねるだろう。握りしめたボールペンを自分の首に目掛けて――
「いや、それは違うだろ」
…ようやく自由に動けるようになった。
急に身体が動かなくなったと思ったら、知らない誰かさんが有馬かなの身体を乗っ取ってカミキヒカルに好き放題言い始めてヒヤっとした。つーか「フェレス」とか名乗っているけどお前絶対カラスの少女だろ!?もしかして無許可でお前の物真似やってテレビで高視聴率取っていたことにおこなの?すいません許してくださいなんでもしますから!
身動き出来なかったのでとりあえず様子を見ていたら、いきなりカラスの少女…もとい、フェレスが冤罪でカミキヒカルを断罪し始めて、それを真に受けたカミキヒカルがいきなり自殺しようとし始めたので慌てて俺が止めた、という状況だ。
死者と悪縁を結んで自殺に追い込むという深夜廻のラスボスが使っていたようなクソヤバい呪いの気配を感じて、
なんとなく、フェレスが何をしたいかがわかってきた。
フェレスがやりたいことは「
だが
俺は、俺に「
「アイは生きているぞ。だから、お前が死ぬ必要はない」
なんだか女言葉を使うのが面倒になってきた。もうコイツ相手に猫を被るのはいいか。
「フェレス…一体どういうことなんだ……?」
「俺は『メフィスト』だ。『フェレス』じゃない」
とりあえずあの性悪疫病神と一緒にするのはやめろ。つーか呪いまで使いやがったせいで祟り神の要素までプラスされてんぞ。本当に何者なんだよあいつ。
「フェレスの言ったことは全部嘘だよ。お前が見た、お前に似ている誰かの記憶は、ただの幻覚だ。
俺はカミキヒカルに言い放つ。とりあえずフェレスの仕掛けた洗脳を解くのが先決だ。悪縁結びで繋がれた「彼方」のカミキヒカルとの因果を、少しずつ解いていく。
「違う。あれは、僕だ」
だが、俺の言葉をカミキヒカルは聞き入れなかった。
「あれは僕だ。僕はリョースケにアイの住所を教えてナイフを渡した!たまたまリョースケが失敗しただけだ!僕はあいつと何も変わらない!!」
カミキヒカルが叫ぶ。「彼方」のカミキヒカルと「此方」のカミキヒカルの違いは、アイが生きているか死んでいるかの違いだけだ。聞こえのいい言葉だけではカミキヒカルを説得することは出来ないだろう。
「リョースケがアイを殺すのに失敗したのは、俺がアクアにリョースケが殺しにくることを教えたからだ」
だから、嘘ではなく、真実をカミキヒカルに語り掛ける。
「アイに『アイドル』の歌を送ったのも俺だ。だからアイは、『彼方』では理解することが出来なかった愛を手に入れることが出来た」
「彼方」の【推しの子】の物語の元凶がお前なら、「此方」の【推しの子】の物語の元凶は俺だ。
「俺がいる。だから、お前はあっちの世界のカミキヒカルにはならない」
そんなことは俺がさせない。ここは優しい嘘の世界で、しかも神様が味方してくれるんだ。どんなご都合主義だって成立させてやるぜ。
「だから、安心していいんだ」
俺はカミキヒカルに優しく言い聞かせる。カミキヒカルは床にぺたりと座り込み、やがて嗚咽を漏らし始めた。
この世界ではアイが救われたんだ。だったら、カミキヒカルが救われても別にいいだろ?
やりたかったことリストその16・改
カミキヒカル救済「失敗」
カラスの少女「せっかく救済してあげようと思ったのに、残念。それにしても人間が転生をありがたがる時代になったなんて、なんだか面白いわ」