有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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エピローグ 幼年期の終わり

「…うちの事務所はインターネット放送をターゲットとして営業していくつもりです。

 日本にはまだ上陸したばかりですが、昨今若い世代のテレビ離れが進んでいることを危惧する声がある中、オンデマンド配信によるタイムパフォーマンスの良さと資本力の強さを背景としたクオリティの高いコンテンツの作成能力はこの世代を取り込む力に優れているので、近い将来地上波放送との地位は逆転するものと考えています」

 

 カミキヒカルと本田マネージャーが難しい話をしている。

 俺は本田マネージャーに連絡を取り、「俺とマネージャーを自分の事務所に勧誘したい」と言っている人と出会ったので話を聞いて欲しい、と伝えた。そして今、カミキヒカルが自分の経営戦略を彼女に説明しているところだった。

 まあうちのマネージャーの勧誘に失敗することはないだろう。未来の自分の成功体験を根拠にした経営戦略なので、ほぼ勝ちが確定している出来レースみたいなもんだ。ただ俺と同時の勧誘になるため、世間からは本田マネージャーが有馬かなを連れて設立したばかりの事務所に移籍したと見られてしまうのは避けられない。

 マネージャーに悪評を押し付けることになってしまうのが心苦しいが、ここは素直に甘えさせてもらうことにする。この借りはきっちり身体で返させてもらうぜ。かなちゃんがな!

 そして無事本田マネージャーの勧誘は成功した。そしてカミキヒカルは片寄ゆらのスカウトにも成功し、俺たちはSA芸能として新しい門出を迎えることとなった。

 まずは下準備だ。カミキヒカルは現段階では才能の原石でしかない片寄ゆらに『人を騙す眼』を習得するよう指導を始めていた。そして俺はというと

 

「Hello Kana! Let's start today's lesson!」

 カミキヒカルに指示されて英会話レッスンに参加していた。なんで?ホワーイ?

 なんでもカミキヒカルは俺の海外展開も視野に入れているらしい。割と本気で俺をハリウッドデビューさせるつもりみたいなことを言っていた。カミキヒカルの目標がワールドワイドでヤバい。

 というわけで、海外に行っても困らないように頭の柔らかいうちに英語力を身に着けさせようという話なのだ。まあ語学力はあったほうが絶対にいいので素直に勉強させてもらっている所存である。

 前世ではTOEIC400点足らずのクソザコ英語力だったが、今の俺にはこのかなちゃんボディがある。肉体の性能差でゴリ押ししてヤンキー語など速攻でマスターしてくれるわ!

 そして俺は英会話レッスンを続けることにより、ボディランゲージで会話する技術を習得して演技の幅を大きく広げることが出来た。いやダメじゃねーか!

 

「――って感じの状況なのよ。今の私は」

「…本当に大丈夫なのかよ」

 そして俺は恒例のアクアセラピーで疲れた心身を癒していた。

 所属していた事務所の後継者争いに巻き込まれて事務所に辞表を叩きつけた後、地下アイドルのライブハウスをぶらぶらしてたら芸能事務所にスカウトされて、その日のうちにそっちの事務所に移籍することを決めたということをアクアに話したら、仮想通貨に大金突っ込んで自慢している人を見るような表情で見つめられた。

 カミキヒカルの件はアクアには言わなかった。これはアイツが決着をつける問題で、俺が出る幕ではない。それなのに、こんなに心配そうな顔をされたのは、やはり事務所に騙されている可能性を考えているのだろう。

 ぶっちゃけ俺も声をかけてきたのがカミキヒカルじゃなかったからこんな簡単にホイホイついて行ってないよ?えっ、余計に性質が悪いだって?結果オーライだったからヨシ!

 

「一緒にクビになったマネージャーと2人で移籍してるから大丈夫よ。まあルビーと一緒にアイドルをやるという選択も考えていたんだけどね」

 ルビーと一緒にB小町に入る原作ルートも捨てがたかったのだが、まあカミキヒカルとエンカウントしてしまった以上は仕方ない。あれは運命の出会いだったんだ。トゥンク…

 

「そうか。俺もかながB小町に入ってくれたのなら色々と助かってたんだけどな」

 そう言ってアクアが渋い顔をした。あれ?なんかトラブってんの?

 アクアから話を聞くと、アイ達もそろそろ20代後半に差し掛かってきたため、B小町の解散あるいは代替わりを検討する時期になってきたのだが、その後釜をどうするのか困っているらしい。

 ルビーを後継者にするにしても、ルビーの個性に負けない魅力を持つ同年代のメンバーが見つからないという話だ。ソロでデビューさせるにも不安がある。俺が苺プロに移籍していたら話は早かったのだが、残念ながらそんなことにはならなかった。そこで、白羽の矢が立ったのが、なんとアクアだった。

 苺プロは、アクアとルビーでユニットを組ませてアイドルデビューさせる計画を立てていた。

 

「うわぁ…アクアのアイドル姿…見てみたい……」

「あ、それなら撮影した映像があるよ」

 原作にはなかった面白そうな展開に思わず声が漏れる。そこにアイが口を挟んできた。

 

「えっ、マジ!?見せて見せて!」

「おいこら止めろ!」

 アクアの制止を振り切って映像を見せてもらう。そこには、男性アイドル衣装に身を包んだ小さなアクアの姿があった。

 

「うわぁ!可愛い!つかほっぺたのタトゥーシールが最高!」

 映像の中のアクアは、リョースケに付けられた頬の傷をタトゥーシールでデコレーションしてチャームポイントに変えていた。スタイリストのセンスが光っている。これならビジュアルで売っても普通にいけんじゃね?

 

「見るな見るな!つかもう帰れ!!」

「照れてるアクアもかわいー!!」

 真っ赤になっているアクアを冷やかす。俺はそんな平和で幸せな日常を満喫していた。

 

 アイはドームライブを成功させて愛を手に入れた。有馬かなは地獄の幼少期を乗り切った。カミキヒカルは呪われた原作の因果を断ち切って正道へ向かって歩み始めた。

 彼ら彼女らの未来へ続く道のりには、困難はあれども理不尽な絶望が訪れることはもうないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――つまり、俺の役割はもう終わったということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……ぐすっ……うわぁぁぁん………」

 

 有馬かなが嗚咽を漏らしていた。彼女の太腿を伝って、血が流れ落ちている。

 有馬かなに、初経が訪れた。12歳の冬のことだった。

 最近になって()から()に急激に変わっていく予兆はあった。しかし、それでもまだメフィストが自分の中にいることは感じられていた。

 

 だが今となっては、あれだけ煩かったメフィストの声が、もう聞こえない。 

 

「メフィスト…どこにいったの…?メフィストぉ……」

 命を産み出す機能が出来上がったという知らせのはずなのに、大切なものが自分の中から流れていってしまったかのような喪失感を感じて、()は泣いた。




第三章 閉幕。
次回より最終章です。
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