有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
有馬かなと黒川あかねの配役を変更してもストーリーにほとんど影響がないことに気づいたのでオリチャー発動させて路線変更します。
受けと攻めが逆転するので当初の予定よりブレーキがぶっ壊れますが問題ありません。かな×あか派の方には深くお詫び申し上げます。
「逆オファーの件だが…却下された。是非とも『安楽岡花火』役で受けて欲しいとのことだ」
「…もしかして、黒川あかねを引っ張ってくるのに失敗したんですか?」
私の逆オファーは却下された。「絵鳩早苗」役に立候補した理由は作品のクオリティの向上が目的だったので配役に拘る気はないが、黒川あかねの出演交渉が失敗するのはちょっと困る。「今日あま」の歴史再現だけは絶対に避けたかったのだが、やはり女性同士の恋愛ドラマとなると尻込みしても仕方ないか。
「いや、黒川あかねの出演交渉は成功した。ただ、監督が黒川あかねに『絵鳩早苗』役をやらせたいという話になった」
ミキさんは逆オファーの交渉材料として、黒川あかねの情報を監督に教えた。「有馬かながライバルと認める若手役者」との売り込みで黒川あかねをベタ褒めしまくったが、嘘は言っていない。ただ未来知識が少し混ざっているだけだ。
ミキさんの言葉に興味を持った監督は黒川あかねの品定めをするため、ミキさんと一緒に「劇団ララライ」を訪れて、そこで監督は黒川あかねを大層気に入った。しかし、そこで私が想定していなかった事態が発生した。
監督曰く、「黒川あかねのビジュアルとオーラが、『絵鳩早苗』役にぴったりだった」らしい。
流石に漫画原作のドラマの配役でビジュアルを理由に出されると黙るしかなかった。今の私は【推しの子】原作の有馬かなと同じボブカットの髪型にしてるので、確かに「安楽岡花火」のビジュアルに近い。黒川あかねとは6歳のオーディション以降は一度も会ったことがないので今の姿は分からないが、【推しの子】原作と同じ姿だと考えれば「絵鳩早苗」のビジュアルに近いはずだ。それは分かる。
けど、オーラがぴったりって何よ?百合の波動でも感じ取ったの?なんか怖いんですけど。
「黒川あかねには『有馬かなが『安楽岡花火』役で出るなら出演OK』という条件でOKを貰った。もちろん『女性同士の恋愛ドラマ』ということを説明した上での話だ。良かったな、モテモテじゃないか」
ミキさんが悪戯っぽい表情で笑う。いやなんで私が黒川あかねに逆指名されてんの!?立場逆転してるじゃん!怖いよ!!?
「まあ今の君の知名度から言えば、君が主役をやるのが妥当な話だ。黒川あかねの演技に不満があるなら、事前に君が指導してやればいい。何も問題はないだろう?」
「はぁ…じゃあ後はアクアだけですね」
アクアが演じる男の子に黒川あかねが振られるという自分にしか理解出来ない嫌がらせを仕込んだら、なんか配役が自分に回ってきてしまって自爆した気分だ。しかしミキさんの顔がムカついたので苺プロに突撃する罰ゲームをこのまま決行してもらう。きっと150%ぐらいの確率でアイと斉藤社長に殴られることだろう。100%を超えている理由は、アイに殴られた後、斉藤社長にもう一発殴られる確率が50%という意味である。
「…いつまでも逃げるわけにはいかないからな。丁度いい機会だ」
「頑張って斉藤社長に殴られてきてくださいね」
「彼方」の世界での「見つけ次第、比喩抜きでブッ殺す」という斉藤社長の関係と比べれば平和そのものだ。「死ななきゃ安い」という言葉がこれほど当てはまる状況はない。「彼方」の世界のアイのファンからしてみればこんな生温い結末に不満を抱くかもしれないが、私はミキさんが救われる世界が一つぐらいあってもいいんじゃないかと思っている。
「彼方」のカミキヒカルの罪は、「彼方」のカミキヒカルに背負わせるべきだ。
「彼方」の彼に与える慈悲は、ない。
「…神木さん、何か凄く緊張しているみたいですね」
「…ええ、苺プロとはちょっとした因縁がありまして」
翌日、カミキヒカルは監督と共に苺プロを訪れた。その様子を有馬かなが見ていたのなら、「警察署に出頭する犯人のような雰囲気だった」と大笑いしたことだろう。
幸いといっていいのか、アイと斉藤社長は留守だった。話がややこしくなる前にと、彼らはアクアとルビーのマネージャーである斉藤ミヤコにアクアの出演交渉の話を始めた。
アクアとルビーは、キッズアイドルユニット「Twin☆Stars!」を結成してデビューしていた。B小町の後継としてライブの前座を務めて着実に人気を伸ばしている。デビュー曲である「恋は
アクアはアイの代わりに頬に受けた傷を誤魔化すためにタトゥーシールを頬に貼り、ルビーもそれに合わせてタトゥーシールを貼っていた。タトゥーシールはハートマークだったり☆マークだったり日によって色々変わるが、タトゥーシールは「Twin☆Stars!」のチャームポイントとして受け入れられていた。
――強いな。アイの子供たちは。
アクアがいなければ、自分の魂は冥府魔道に堕ちていた。自分のせいで受けた傷をハンデとも思わずに芸能界に飛び込んできたアクアに対して、カミキヒカルは敬意すら抱いていた。
そんな子供達に、心の底から嫌われているという事実に彼の胸が少し重くなった。
メフィストは、「ルビーとの和解は絶対に無理」と言っていた。詳しい理由までは教えてくれなかったが、「特にリョースケがアイの担当医を殺してしまったことがバレたら物理的に殺しに来る」とまで言っていた。「ミキさんが殺されるのは別に構わないが、ルビーを殺人犯にしたら許さない」と言っていたのがなんとも彼女らしい言い方だった。
アクアも、まだ恨んでいるかどうかは別としても、自分たちには関わらないで欲しいと思っているのだろう。アイの子供たちにとって、カミキヒカルは血が繋がっているだけの他人だった。
それも当然だと彼は自嘲する。自分は、堕胎という方法で子供達を殺そうとした人間だ。好かれると思うほうが間違っている。
心ここに在らずといった感じではあったが、交渉自体は監督が上手くまとめていた。アクアと一緒にルビーまで売り込む斉藤ミヤコを見て、彼女なら、子供たちを任せても安心だとカミキヒカルは思った。
「すみません、斉藤マネージャー…アイはここにはいないんでしょうか?」
出演交渉が終了し、カミキヒカルは意を決してミヤコにアイのことを聞く。年貢の納め時というやつだ。
「えっ、アイならもうすぐ来ると思いますが…あ、来ました」
事務所の扉が開き、アイが入って来た。カミキヒカルと、アイの目が合った。
アイの目がスっと細くなり、すたすたとカミキヒカルのところに歩いてくる。カミキヒカルは椅子から立ち上がって、来るべき制裁に対して身を備えた。
腰の回転が入った大振りのフックが、カミキヒカルの顔面に炸裂した。
20cm以上の身長差と体重差を感じさせない、強烈な一撃であった。
「ぐぅっ!?…な、なかなかいいパンチだね……」
「ヒカル君と会ったらどうするか、ずっと考えていたから」
尻餅をついて頬を押さえているカミキヒカルを見下ろして、アイが言った。
「ちょ、ちょっと!アイ!?何してるの!!?」
顔を蒼白にしてミヤコが叫ぶ。
「この人、アクアとルビーの…もご」
「ストップ。ここでそれを言うのはマズイ」
カミキヒカルはアイの口を手で塞いだ。関係者以外の人間がいる場所で言うような話題ではない。まあ女性に殴られて冷静にしている時点で痴話喧嘩だと白状しているようなものだが、わざわざ自分たちの事情まで親切に教えてやる義理もない。
「すみません…ここは一旦解散して、場所を変えてお話しませんか?」
「…その節はご迷惑をおかけしました」
「…ええ、本当にね」
カミキヒカルがアクアたちの父親であると白状した途端、ミヤコの彼を見る目が殴られた被害者を見る目からゴミを見つめるような目に変わった。アイが子供を産んでから10数年に渡って、色々と足りていないアイに代わって本当に苦労させられてきたのであろう。
「…ビジネスに対しては私情を挟まないから安心してちょうだい。そもそも、アイのほうにも非はあるんだから」
カミキヒカルはリョースケをアイのマンションに送り込んだことは話さず、アイを孕ませた件だけをミヤコに説明した。もしストーカー事件の話題になっても「リョースケにアイのマンションの住所を教えた
彼がアクアとルビーの父親であり、自分自身の存在がアイ達苺プロに手痛いダメージを与える手段である以上、余計なことを言って敵対関係になっても誰も幸せになれない。
正義の執行のために、人が不幸になることを許容するのは本末転倒だ。
「それで、あなたはアイと縒りを戻したいと思っているの?」
「いえ…それは子供達が拒絶すると理解しているので、そのつもりはありません」
ミヤコの尋問めいた質問に対して、カミキヒカルははっきりと否定する。子供たちの拒絶も理由の一つだが、それだけが理由ではない。
アイを殺してでも手に入れたいと思っていたアイへの愛は、あのドームライブの映像を見たときに折れてしまったのだ。あの赤色のサイリウムの中に、アイが愛したファンの中に…カミキヒカルは含まれていなかった。アイへの祝福は、そのまま彼にとっての絶望だった。
まだ愛を手に入れていない自分がアイと縒りを戻すなんて、身の程知らず過ぎて憤死しそうになる。カミキヒカルはそう思った。
「話は終わった?じゃあ私の家にいこっか」
「「は?」」
話の流れをぶった切るようにアイが提案してきた内容にミヤコとカミキヒカルの理解が追い付かず、脳がフリーズした。
「ヒカル君はまだアクアとルビーと会ったことないでしょ?オファーのついでに話していきなよ」
すでにアラサーになっていたアイだが、いつまでたってもアイはアイのままだった。