有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
執筆速度ってどうやったら早くなるんだろう?(白目
紆余曲折はあったようだが、ミキさんはアクアへの出演交渉を成立させたようだ。
なおアイに捕まって自宅に連行されたと聞いたときは、思わず宇宙の真理を知った猫のような顔をしてしまった。公開処刑だろそれ。まあミキさんが五体満足で帰ってこられたのでヨシとする。あと斉藤社長にはエンカウントしなかったようだ。運のいいやつめ。
そしてアクアのおまけでルビーがついてきた。顔がいいのでアクアの恋人役で使うらしい。アクアは私を振ってルビーに走るのか…なんだか原作展開っぽくって微妙な気分になる。
しかしこれで、私、黒川あかね、アクア、ルビーという【推しの子】主要メンバーが揃った。これなら他の役者がハムでも大根でもなんとかなる。「今日あま」の歴史再現は回避できたと言ってもいいだろう。
ちなみに英語では大根役者のことをハム役者というらしい。ハムはハムでもハムレットのハムだが。
そして、ついに「恋愛ビターチョコ」に出演する役者の顔合わせの日がやってきた。
「『安楽岡花火』役を務めさせていただきます、『SA芸能』所属有馬かなです。よろしくお願いします」
「『鐘井鳴海』役を務めさせていただきます、『苺プロ』所属星野アクアです。よろしくお願いします」
「『皆川茜』役、『苺プロ』所属の星野ルビーです!」
まずは私たち3人が挨拶をする。私は苺プロに移籍することはなかったが、ルビーとは原作と同じぐらいの気の置けない友人関係になっていた。足繫くアクアセラピーに通っていたことによる副産物だ。
そして、アクアたち以上に注目すべき役者が挨拶をする。
「『劇団ララライ』所属の黒川あかねです!『絵鳩早苗』役を務めさせていただきます!!」
黒川あかね。将来、私のライバルとなる女の子。顔を合わせるのは6歳のとき以来になるので、実に7年ぶりとなる。小さいときに会ったころは私と同じ髪型をしていたが、今は原作と同じようにロングの髪型にしていた。
「絵鳩早苗」と、同じ髪型だ。
私は「恋愛ビターチョコ」をメフィストの世界の「クズの本懐」に似た物語だと言ったが、詳細はかなり違う。
まず「クズの本懐」の男主人公である「栗屋麦」がいない。そして「栗屋麦」に片想いをしている「鴎端モカ」もいない。そして「鐘井鳴海」と「皆川茜」は「安楽岡花火」の通う学校の教師ではなく同級生になっていた。
「鐘井鳴海」と「栗屋麦」、「皆川茜」と「鴎端モカ」のキャラと役割が混ざっているので「クズの本懐」と同じ物語だと思って読むとかなり混乱する。登場人物の名前だけ一緒の別作品だと思ったほうがいい。というか、そもそも完全に別作品だ。
ちなみに「恋愛ビターチョコ」のストーリーを端的にまとめると、こんな感じだ。
――
歪な愛から始まる物語が、【推しの子】の物語の始まりにどこか似ていて、私は好きだった。
「今日は顔合わせだが、主要メンバーは揃ってることだし、このまま本読みもやってしまおうか。30分から始めるから、それまで雑談するなり準備するなりしててくれ」
監督の指示で雑談タイムになる。すると、黒川あかねがこちらにやってきた。
「かなちゃん!久しぶり!」
「久しぶりね。7年ぶりぐらいかしら?黒川あかね」
「えへへ…私のこと、覚えていてくれたんだ……」
黒川あかねのテンションが高い。私はピーマン体操以降、小器用に立ち回ってきたせいもあって今まで黒川あかねとの共演はなかった。なので黒川あかねのヘイトを集める要素がないのはわかるが、まるで原作の黒川あかねがアクアに話しかけるような態度に少しだけ面食らった。
「監督から、かなちゃんが私のことをライバルだって言ってたって聞いて凄く嬉しかった!」
「まだライバル
「ううっ、プレッシャー…」
「それよりさ、何を考えてこの役を受けたの?女の子同士の恋愛ドラマだよ?まあ監督もキスシーンまで再現する必要はないって言ってるけど」
原作だと絵鳩早苗と安楽岡花火はめちゃくちゃキスしまくってる。それでいて安楽岡花火はレズビアンってわけではない。安楽岡花火にとって絵鳩早苗は…最も大切な親友にして、
絵鳩早苗の気持ちを知って、自分の片想いの苦しみから逃げるために絵鳩早苗を利用する安楽岡花火と、安楽岡花火の気持ちを知った上で、自分の恋心を満たすために安楽岡花火を抱く絵鳩早苗。
この嚙み合わない恋愛模様こそが、「恋愛ビターチョコ」の見どころだった。
「…私ね、初めてかなちゃんと会ったときに『あなたと一緒にお芝居する日を楽しみにしている』って言われたときから、かなちゃんと一緒にお芝居するのが夢だったの。7年頑張って、ようやく夢が叶ったんだよ」
照れくさそうな表情を浮かべながら、黒川あかねが言う。
「それに、かなちゃんの恋人役なんて、後にも先にもこれっきりでしょ?きっと、すごくいい思い出になると思うよ」
笑顔でそんなことを言う黒川あかねは、まるで恋をしている女の子のように見えた。
そして、本読みが始まった。
「悪くはないけど、一味足りない」
「かなちゃんの評価が厳しすぎる…!」
黒川あかねの評価は、私的には80点ぐらいだった。学校のテストならそれでもいいけど、その道のプロなら100点を取って当たり前。そこから更に加点して120点を取るのが一流であり、超一流ならば200点ぐらいの高評価を叩き出すものだ。
絵鳩早苗は「恋愛ビターチョコ」のヒロインなので、黒川あかねの演技がヌルいとそのまま作品の評価に直結する。なので、厳しめに採点した。
「…ちなみに、どこがダメだったの?」
「恋愛に対する理解度かなぁ」
「やっぱりそこかぁ…」
黒川あかねががっくりと肩を落とした。絵鳩早苗はレズビアンで、基本的に彼女の恋は報われることがないものだ。好き好きオーラを出すだけでは演技として失敗であり、恋慕と罪悪感の感情の綱引きが重要な要素だ。
黒川あかねもそれはわかっているのだが、絵鳩早苗の感情の揺れを理解しきれていないため苦戦しているようだ。
「私が『絵鳩早苗』を演じるなら、こんな感じかな」
わざわざ逆オファーまで出したぐらいなので、絵鳩早苗の感情演技にはそこそこ自信がある。せっかくの機会なので、黒川あかねに見せることにした。
「『絵鳩早苗』の恋心は、正義と倫理観の鎖で厳重に封印されている」
絵鳩早苗は、痴漢されているところを安楽岡花火に助けられたことがきっかけで自分がレズビアンだということを自覚してしまった。安楽岡花火は、その恋心を友情と勘違いして絵鳩早苗と親密になっていく。
「しかし、安楽岡花火の失恋を見て、その鎖が緩んでしまった」
傷心の安楽岡花火が、慰めを求めて自分を頼ってくる。手を伸ばせば届いてしまうところまで落ちてきてしまった。
「正義と倫理観の鎖が、自分の心に食い込んでいく。痛いのに、苦しいのに、その恋心はもう止めることは出来ない」
理解されることのないその背徳的な恋は、もしかしたらカミキヒカルの愛に似ていたのかもしれない。
「その恋の本質は――
カミキヒカルは自分の愛を成就させるために、アイを殺した。メフィストはアクアと共に過ごすために、雨宮吾郎の死を容認した。
そして、原作の黒川あかねも、アクアのためにカミキヒカルを殺すことを決心した。
正義と倫理観の鎖を引き千切るほどの狂気。それこそが、恋の本質だ。
私は「絵鳩早苗」の想いに共感し、彼女の心の内面に深く沈み込んでいく。彼女の心と同化していく。
「……っ!」
私の迫真の演技を見て黒川あかねが息を飲んだ。「嘘を真実と思わせる星の瞳の演技」の本質とは、自分が感じている感情を視聴者にシンパシーという形で伝える技術だと私は思っている。感情移入を越えた先の感情伝播。ガンダム的にいうならニュータイプ能力みたいなものだ。まああっちは無線ネットワーク通信でこっちは赤外線通信みたいなものだが。
アイとカミキヒカルの得意技であり――原作の黒川あかねの得意技でもあった。
「…とまあ、こんな感じね」
実は私が黒川あかねを共演者に選んだ理由の一つはこれだった。彼女が成長して天才役者と言われる前に「お前が出来ることは私も出来るぞ」というマウント行為をしたかったという実に子供じみた理由だ。まあ役者というのは負けず嫌いな人間が多いということで許して欲しい。
「……?どうしたの?」
「……はわー」
黒川あかねの反応がないので様子を見ると、真っ赤な顔で明後日の方向を見ていたまま惚けていた。
…私は、尊死している人の姿を生で初めて見たのかもしれない。
「――絵鳩早苗。レズビアン。自分を社会的に受け入れられない人間だと自覚している。自虐的。独りでいる時間が好き。学校の中では安楽岡花火の姿を探してしまう癖あり。自分の恋が報われないことを自覚しているので、安楽岡花火と話をすると気分が上がった分だけ後で落ち込む。」
顔合わせと本読みが終わった後、黒川あかねは自分の部屋で絵鳩早苗のプロファイリングを行っていた。
「恋愛観は、損得抜きにして恋に堕ちたというもの。告白した理由は、『これ以上我慢したら死んじゃうと思ったから』。」
暗い部屋で、絵鳩早苗の性格を付箋に記入してぺたぺたと壁に貼っていく。黒川あかねが役に没入するためのプロファイリングを行うときのやり方であった。
「花が赤いと教えてくれたのはあなた。世界に色が満ちていると教えてくれたのはあなた」
黒川あかねは、作中の絵鳩早苗の言葉を呟く。
「でも、その恋の本質は、狂気」
漫画では絵鳩早苗の恋の心理描写が綺麗なシーンで描かれていたので、勘違いしてしまった。自分もまだまだだなと黒川あかねは反省した。
「…かなちゃんは、恋をしたことがあるのかな?」
今日の出来事を思い出した黒川あかねは、ふとそんな疑問が脳裏に浮かんだ。
「…相手はどんな人なんだろう。
黒川あかねはアクアの顔を思い浮かべたが、すぐにその考えを否定した。確かに彼は有馬かなと仲が良かったし、最初は付き合っているのかなと思った。しかし、
有馬かなは、星野アクアには恋をしていない。黒川あかねは、そう思った。
「かなちゃんって『メフィスト』役で出演した頃からあんな感じの演技するようになったんだよね。…良い出会いがあったのかなぁ?」
やりたかったことリストその19
あかねの有馬かなプロファイリング
パンドラの箱を開けようとするのはヤメロォ!(建前)ヤメロォ!!(本音)