有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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恋バナ

 私と安楽岡花火はよく似ている。

 それは私にとって強みであり、同時に弱みである。彼女の心の痛みに、共感(シンクロ)してしまうのだ。

 

 

「おとうさんは、花がうまれたからいなくなったんだって」

 これは安楽岡花火と鐘井鳴海の過去回想のシーン。鐘井鳴海を、好きになった日の思い出だ。

「…誰が言ったの?そんなこと」

「しんせきの人たち、みんな言ってるよ。おとうさんはどこかであたらしい家族をつくっちゃった。花のことはいらなかったんだね」

 まるでどこかの誰かを見ているような気分になる。胸が痛くて仕方がない。

 

「花がいなければ、おかあさんとおとうさん、きっといっしょにいられたね」

 あなたはそんな風に思えたんだ。そこは私と違うんだね。

 

「今日、花、『やさしくなろうね』って言われたの。学校でおこられたの。また、ともだちを泣かせちゃったの。花には『すき』がたりないから、やさしくなれないのかなぁ?」

 あなたは私によく似ている。原作(あっち)の世界の私も、親に満足に愛されていないことによるストレスで他人とよく衝突していた。でも、()にはメフィストがいたから寂しくなかったし、人間関係も順調だった。それは私にとって望外の奇跡だった。

 

「花ちゃんはなんにも悪くない。どんなに好きだった相手でも、一緒に居られなくなることもあるから」

「どんなにすきでも?花と鳴海くんも?」

 安楽岡花火にとって、鐘井鳴海は私にとってのメフィストだったのだろうか。それとも星野アクアだったのだろうか。

「僕と花ちゃんは大丈夫だよ」

 

――ああ、この世界の人間は

 

 

「ぜったい?」

「うん、絶対だよ」

 

 

 

 

――嘘吐きばかりで、嫌になる。

 どうして安楽岡花火(わたし)の傍からいなくなってしまったの?鐘井鳴海(メフィスト)

 

 

 

「かなちゃんは、女の子同士の恋ってどう思う?」

 黒川あかねがいきなりそんなことを聞いてきた。

 

「…ついに絵鳩早苗に身体を乗っ取られたか。これからあんたのこと絵鳩早苗って呼ぶわ」

「絶対に止めて!演技してないときに言われたら本気で泣くからね!!」

 …思った以上に黒川あかねのハートにダメージを与えてしまったようだ。そんなに嫌か。うん、そりゃそうだな。ノンケでも構わず喰っちまうクレイジーサイコレズだし。

 

「いやまあ冗談はさておき、今の言い方は『かなちゃんはレズですか?』って聞いてるのと同じだと思うんだけど」

 むしろ私が黒川あかねは百合についてどう思っているのか聞きたいぐらいだ。ここで私が「私は一向に構わんッ!」って言ったら襲い掛かってこないよね?信じていい?

「かなちゃんは『性別:かなちゃん』だからレズとかそういう範疇には収まらないでしょ?相手によって性別を変えてるってイメージだし」

「人をカタツムリみたいに言うな」

 黒川あかねの的確過ぎるプロファイリングに内心冷や汗を流しながらも、私は平静を装って言い返した。つかなんでそんなことまでわかるんだ。ちょっとスタッフさーん、稽古場に変態ストーカーが紛れ込んでて怖いんですけどー。

 

「私は私に向けられた好意を相手の性別でカテゴリ分けしないだけ。安楽岡花火と同じよ」

 別にはぐらかす理由もないので、私は思っていることをそのまま答えた。

 

 安楽岡花火は絵鳩早苗の想いを受け入れて身体を差し出したが、結局女性同士の愛を理解出来なかった。だから、最後に破局した。私とて同性愛に理解があると言っても安楽岡花火側の人間なのだ。絵鳩早苗のセックスフレンドになれても、絵鳩早苗の恋人にはなれない。

 全く、私に安楽岡花火役のオファーを持ってきた監督とミキさんの慧眼は本当に凄いと思う。私以上の適役なんていないんじゃないかな、この子。

 

「まあ、そんな男の子でも女の子でもないかなちゃんが好きになった人ってどんな人かなぁって思って。最近すごく女の子っぽくなってきたから相手は男の子かなって思ってたけど、もしかしたら女の子の可能性もあるのかなー、って」

「フツーに男の子よ」

 私の脳裏にアクアの顔が浮かんだ。ルビー対策をどうしようかなー、と考えているところに

「その男の子って、アクアくんじゃないよね?」

 黒川あかねが爆弾を投げ込んできた。

 

「…どうしてそう思うの?」

 私は表情筋を総動員して平静を装った。私が好きなのはアクアだ。この世界でも、原作(あっち)の世界でも、それは変わらない。

「かなちゃんがアクアくんを見る目って、そういう感じじゃないよね。好きなのは好きだけど、恋というには安楽岡花火の演技をやっているときみたいな熱っぽさが感じられないし」

 黒川あかねが無邪気に残酷な真実を突き付けてくる。確かに原作(あっち)の私がアクアに恋をしたのは「今日あま」の撮影中でのことだ。

 10年ぶりに主役に抜擢されて意気込んでいたのに、共演者に学芸会以下の演技しか出来ない役者を押し付けられて絶望していたところをアクアに助けられて、それが私の恋のきっかけになった。だから私はまだアクアに恋はしていなくても仕方ないのだ。

 私が今までに心の底から絶望したのは、後にも先にも7歳の誕生日(あのとき)ぐらい――

 

「ああ、そっか。そうだったんだ」

 

 

 …私って、メフィストのことが好きだったんだ。

 あの独りぼっち(二人きり)の誕生日で「祝福」の歌をプレゼントされたときに、あいつのことを好きになってしまったんだ。

 

 

「はは…最悪……」

 酷すぎるナルシシズムもあったものだ。雌雄同体どころか単性生殖かよ。カタツムリどころかミジンコ以下じゃん。ウケる。

 

「かなちゃん?どうしたの、かなちゃーん」

「…えいっ」

「きゃっ!?」

 黒川あかねが私の顔を覗き込んでいたのでそのまま押し倒した。相手が触れて欲しくない心の内側にまでズケズケと入り込んでくる悪い娘には、お仕置きが必要だ。二度とそんな気が起こらないように身体に理解らせてやる。

 

「たまには私とあなたの()を交代してみるのも面白そうね」

「か、かなちゃん?」

「たっぷりと()()()()してあげる。…覚悟はいい?()()?」

「ひゃああああああ!!!」

 

 この後、黒川あかねをめちゃくちゃ演技指導した。

 なお、次の撮影で私の演技指導の内容を完全に学習した黒川あかねさんにめちゃくちゃに仕返しされた。監督が宇宙の真理を理解した猫のような顔をしていたのがなんだか面白かった。

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