有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
――映画のオファーが来た。
「それが始まり」という名前のホラー映画で、有馬かなが星野アイ・星野アクアと初めて共演することになった作品だ。
ついに【推しの子】の物語に俺が登場する日がやってきたと思うと、中々に感慨深いものがこみ上げてきた。
事務所のスタッフに車で送って貰って、撮影現場に到着。
撮影現場は、一言で言えば自然豊かなド田舎だった。まずは荷物を置くために民宿に足を運んで…
居た。
「ママぁああ!ママぁあああ!!
ママのどごがえりだぁい!!なんでママいないの!!」
ギャン泣きしている女の子と、それを宥める男の子。ルビーとアクアだ。
さて、ファーストコンタクトはどんな感じにしようか…面倒くさい、原作通りでいくか。
「うるさい!ここは保育園じゃないのよ!静かにしなさい!!」
流石にこのシーンの台詞なんか覚えてないので、アドリブでルビーを叱る。双子の注目がこちらに向いた。
「えっと…」
「私は有馬かな。あんたの共演者よ」
アクアと目が合う。推しの男性アイドルに出会ったような高揚感を無理やりに抑え込んで返事をする。声が震えてなかった自分を褒めてやりたい気持ちになった。
「……あ、この子あれじゃない?
えっと…重曹を舐める天才子役!?」
「10秒で泣ける天才子役よ!」
原作の1シーンを再現出来た喜びと同時に、ルビーに対して苛立ちを感じた。
泣き芸は痛みを我慢して手に入れた技能だから、そこはあまり茶化してもらいたくない気持ちが強い。…駄目だ、泣く演技のトリガーに母親のデコピンの記憶を使っているせいで、この件に関しては未だに感情が制御仕切れていない。
一旦会話が途切れてしまったので、このタイミングでもう一人の【推しの子】の重要人物…星野アイを探して視線を巡らせる。
「…あれ?アイはいないの?」
「ああ、アイは撮影日が違うから今日はいないよ」
「そうなの?私は今日だけの撮影だから直接出会えないのか…残念ね」
この辺の展開はうろ覚えだったので、有馬かなと星野アイがニアミスしている可能性は全く考慮していなかった。下手をすれば最後に会う機会になったかもしれないから、普通に残念だ。
えっ?ガバ案件だから再走しろ?タイムには関係ないので続行です。
ちなみに人と会話するときの俺の一人称は「私」だ。流石にかなちゃんの容姿で一人称が「俺」では解釈不一致過ぎる。
「えっ、なになに?まさかあなたママ…じゃなくてアイのファンなの!?」
アイの話題を出した途端、ルビーが食いついてきた。
「えっ…うん、すごく美人よね。あの人」
「うんうん!あなた中々見どころあるわね!!」
急に馴れ馴れしく接近してくるルビー。ルビーは同担歓迎派だったようだ。まあ知ってたけど。
「あなた、アイのどんなところが好き!?」
「えっと…一言で言うなら、完璧で究極の無敵のアイドル、って感じ?」
「わかるわかる!私あなたとは仲良くなれそうな気がする!!」
ごめんルビー、俺のアイへの評価は原作のアイへの評価でこっちのアイのことはほとんど知らないんだ。まあこちらのアイも原作と大きく違っていないだろう。多分。
「…あんたも大変ね」
「…まあな」
アクアと奇妙なシンパシーを感じ取って、原作主人公たちとの初会合は無事に終わった。
まあ原作の有馬かなと比べればそこそこグッドコミュニケーションの部類だろう。
収録が始まった。
映画のあらすじをざっくり言うと、自分の容姿にとことん自信の無い女が何故か山奥にある怪しい病院で整形を受けるという話だ。
俺とアクアは、その村の入り口で出会う気味の悪い子供たちの役。
まずは、俺の台詞から。
「ようこそおきゃくさん、かんげいします。どうぞゆっくりしていってください…」
抑揚は少なく、だけど笑顔は絶やさず。
俺を見ている人たちが「何を考えているのかわからない子供」という印象を抱くように意識をして演技をする。「知りたいその秘密ミステリアス」ってやつだ。
そして、アクアのターン。
「この村に民宿は一つしかありません。一度チェックインしてから村を散策するといいでしょう」
【推しの子】原作を読んだ読者の中には、アクアがやった「気持ち悪い子供の演技」の内容が理解出来なかった人もいたと思う。
「食事は出ませんので、外で食べてください。都会の食堂とはまた違った味が楽しめると思います」
普通の3歳児が喋る言葉の単語数は900語から1000語程度。
ひらがなが読める子供は20%程度というのが通説だ。
「見ての通り、草木しかない田舎なので観光をするには不向きかもしれません。
でも高いところから見下ろす風景は中々良いものだと思いますよ」
異世界に転生した大人が赤子になって幼児のころから無双するラノベが蔓延しているせいで感覚がマヒしている人も多いと思うが、大人相手に世間話を普通に成立させる3歳児ははっきり言って怖い。おまけにアクアは俺より一つ年下だ。
世間話なんて感情演技と縁のない内容なので、子供に無理やり台本を覚えさせても確実に棒読み状態になる。カメラに映るアクアの姿は、超常現象的な何かが子供に憑りついているとしか思えないものだった。
原作の有馬かなは、知識量の差を演技力の差と誤認して悔し涙を流していたが、流石に相手が悪かった。転生チート野郎に勝てるわけないだろいい加減にしろ!
「それでは、お部屋にご案内いたします」
「カット!OKだ!!」
アクアをスカウトした監督の期待に見事に応えたアクアが、安堵のため息を吐いた。
最初の演技勝負は有馬かなの完敗。
別に勝負していたわけではないし、相手は転生チートという反則技を使ってきたので無効試合にするのが当然なのだが悔しいものは悔しい。
そして原作の有馬かながギャン泣きしてたのは、負けた悔しさに加えて自分の出番があの1シーンだけだったのが理由なのだろう。
だけど、この世界と【推しの子】原作世界では違っているところがあった。
「
…江戸の敵を長崎で討つというわけではないが、この有馬かな相手に勝ち逃げは許さないぞ。アクア。
やりたかったことリストその1:
アクアがやった「気持ち悪い子供の演技」の解説。