有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

40 / 93
感想&評価&お気に入り登録&誤字報告ありがとうございます。
10月からシャンフロとゴブスレ2期とウマ娘3期のアニメが始まるので絶対に9月中に完結させます。
葬送のフリーレンはどうするかなぁ…


収録終了

「――そこまで花火に想われている相手って、嫉妬しちゃうなぁ。花火はこんなに魅力的なのに、まだ頑張るんだ」

 絵鳩早苗との睦言(ピロートーク)での、安楽岡花火の恋バナのシーン。

 

「…そんな事、ないから……」

「……男を落とすのなんて簡単だよ。教えてあげようか?」

 怪しい笑顔を浮かべて、絵鳩早苗が安楽岡花火に語り掛ける。

 安楽岡花火は、絵鳩早苗と関係を持つようになってから危うい色気を発するようになっていた。少し触れば崩れてしまいそうな、他者の視線を強烈に惹きつけてしまう魅力。

 彼女は、原作【推しの子】の世界にて雨宮吾郎の死体を発見した後のルビーと同じ雰囲気を醸し出していた。

 

「あのね。心を開いたフリをするの。開かなくてもいい。…本当の心は、ずっと閉ざしていないと壊れちゃうよ」

 

 …絵鳩早苗の切り札もまた、「嘘」だった。

 女は秘密を抱えることで、魅力的になる。【推しの子(こっち)】の世界でも、恋愛ビターチョコ(そっち)の世界でも、その法則は何も変わらない。

 

 何もかもが嘘ばかりの世界。だからこそ、本物()が美しく感じるのかもしれない。

 

 

 

 その後の安楽岡花火は、転げ落ちていくように迷走していった。

 他の男の子と付き合おうとした。でも駄目だった。安楽岡花火にとって鐘井鳴海の存在は、他の誰かで埋め合わせが出来る存在ではなかった。

 何かをやろうとしては失敗して、自分を求めてくれる絵鳩早苗の恋に身体を委ねて、現実から逃げていた。鐘井鳴海に恋しているのに、絵鳩早苗に()()を続ける自分に対して自己嫌悪を重ねていく。

 逃げて、逃げて、逃げ続けて――ようやく、自分の想いからは逃げられないことに気づいて、彼女は逃げることを止めた。

 それが、恋の終わりになるとわかっていても。

 

 

 一方その頃、皆川茜は鐘井鳴海と別れることを考えていた。

 他人の男は奪いたくなるが、自分のものになった男には何の魅力も感じない。それが皆川茜の在り方だった。自分一人では愛を理解出来ないから、奪った男に向けられる他人の愛がなくなった時点で興味を失ってしまうのかもしれない。

 転機は、鐘井鳴海とのデート中に以前付き合っていた男子と出会ってしまったことだった。

 

「おい、こいつマジで男好きのクソビッチだから気を付けたほうがいーぞ。じゃあな」

 皆川茜のことをボロカスに貶した後、そんな捨て台詞を吐いて男は去っていった。

「…あの人の言ったことは本当です。私、人のものは欲しくなるけど愛なんて理解出来ないんで私に何かを期待されても何も返すことなんて出来ません。なのでもう終わりにしましょう」

「待っ…」

「恋愛よりも同性から向けられる嫉妬心を煽るほうが好きなんです。その人の愛を奪ってやったという実感が湧きますので。正直やめられないと思います。じゃあさようなら」

 ちょうど良かったので、彼女は早口で別れの言葉を言ってその場を去ろうとした。しかし

 

「や……()()()()()()()()()!」

 鐘井鳴海は皆川茜の手を離そうとしなかった。

 

「やめなくていいって…本気で言ってるんですか」

 想定外の台詞に、皆川茜が面食らう。鐘井鳴海の言葉の意味が、彼女には全く理解出来なかった。

「…そのままの意味ですよ。好きでやってるんでしょう?やめなくていいですよ」

 

――どうして自分の好意を踏みにじられて、そんな笑顔でいられるの?

 

「いや、そんなこと言われても、その…困ります!」

 今まで経験したことのない事態に、皆川茜は大きく動揺した。

「…何故ですか?」

「ちゃんと!嫌がって!嫉妬してくれないと嫌です!!」

 皆川茜は、もう自分が何を言っているのかわからなくなっていた。動揺が収まらず、どんどんパニックが広がっていく。

「…嫌がらないと、嫌われちゃいますか?」

「…はい」

 自分のペースを、自分の在り方を狂わされた皆川茜は、逆に鐘井鳴海のペースに巻き込まれていく。

 それによって皆川茜は、少しずつ、鐘井鳴海に興味を抱くようになっていった。

「…そうかぁ、でも俺は好きです。好きなままです」

 

 仮に『自分を嫌う相手』を、好きで居続けられるだろうか。

 大概の人が「NO」というだろう。「相手のことが好き」というのは、その「好き」の中に「自分を好いてくれる」という要素が多分に含まれているのが普通だ。

 

「…どうしてそんなに…」

 無条件で他人を好きになるなんて、ありえない。皆川茜は鐘井鳴海の好意が理解出来ない。全く理解出来ない。

「…私なんかのことが、好きなんですか?」 

 ここまで理解が出来ないなんて――まるで「愛」みたいじゃないか。

 

 鐘井鳴海は皆川茜を抱き寄せる。皆川茜も、抵抗はしなかった。

「『好き』の理由を説明するのは難しいですけど…俺は好きな人にはただ、幸せでいて欲しいんです」

 好きな人が、幸せでいて欲しい。そんなアイドルの推し活のような純粋な好意を向けられて、皆川茜は毒気を抜かれてしまった。略奪愛でしか恋人を作ってこなかった皆川茜にとって、それは初めて向けられる種類の好意だった。

 二人の距離は、キスが出来そうなほど近かった。だから、皆川茜はキスをした。

 

「あなたのことが好きになりました。付き合ってください」

「…はい」

 皆川茜はまだ愛が理解出来ない。人はそう簡単に変わらないし、自分は今でも打算まみれで、今の自分が感じている感情も幻かもしれない。

 それでも、この感情が愛だというのならば絶対に手放したくない。皆川茜はそう思った。

 

 それは、安楽岡花火が鐘井鳴海に告白すると決めた日の出来事だった。

 

 

 

――「恋愛ビターチョコ」のドラマは、次回で最終回を迎える。

 

 

 

 

「『恋愛ビターチョコ』全収録、終了です!お疲れ様でしたー!!」

 ようやく「恋愛ビターチョコ」の収録が終了した。長く苦しい戦いだった。色々な意味で。

「色々あったけど、本当に楽しかった。このドラマの撮影で…その…()()()()()を一気に登ったような気分だよ……」

「私は悪くない。アイムノットギルティ」

 最初のリハーサルで暴走した黒川あかねが悪い。謝らないぞ、私は。

 

「もうあんたたち付き合っちゃいなよ」

 上機嫌なルビーが私と黒川あかねを冷やかしてくる。結局ルビーはアクアとのキスシーンをやり切った。アクアとルビーの距離感が今までの1/10ぐらいになってるので、つまりそういうことなのだろう。

 アクア…カミングアウトしたのか、私以外のヤツと…

 

「はあ…収録も終わったし、これでかなちゃんともお別れか……」

 しんみりした表情で黒川あかねがため息をつく。

「別にいいじゃない。これから腐れ縁になるんだし」

 その言葉に、黒川あかねが驚いたような表情を見せる。そっか、これも原作知識があるからこそ言える言葉なのか。

「これからあなたはどんどん売れていって、いずれ私と同等かそれ以上の天才役者と言われるようになるわ。賭けてもいい。今日は終わりじゃなくて始まりの日なのよ」

 自分の失言のフォローを兼ねて、黒川あかねに語り掛ける。このドラマで、黒川あかねは私の演技に勝るとも劣らないクオリティの演技で食いついてきた。これを機に彼女にはどんどんオファーが飛び込んでくることになるだろう。

 

「別に大物になるまで連絡するなって意味でもないし、いつでも話し相手になってあげる。辛いことがあったら愚痴を聞いてあげるし、なんなら演技指導もしてあげてもいいわよ」

 この世界では黒川あかねが恋愛リアリティーショーに出演することはないだろう。主に私のせいで。

 …しかし、何かの間違いで黒川あかねが身投げをしたくなるような事態が起こらないように、私はこの子の心を守護ってあげられる存在になりたいと思った。

 

「演技指導…してくれるんだ……」

 しまった、軽いノリで言っただけなのにそっちに喰いついてくるのか。どうすんだよこれ誰が責任取るの?えっ、私?またまた御冗談を。

 黒川あかねの育成に失敗してしまったことにちょっとばかりの絶望と罪悪感を感じていたら、私のスマホからメール受信の音が聞こえた。

 

 

『事務所にて、待つ』

 

 

 メールには、そんな文章が書かれていた。

 

 

 

 私は打ち上げを途中で抜け出し、SA芸能の事務所に足を運んだ。

 事務所の電気は消えていたが、扉の鍵は開いていた。どうやら、事務所に泥棒さんがお邪魔しているようだった。

 私は事務所に入り、電気をつける。

 

 事務所の中には、黒い衣服を着た髪の長い子供が待ち構えていた。

 子供の年齢は3歳ぐらい。【推しの子】原作に登場した、メフィストが「カラスの少女」と呼んでいた少女を年相応に小さくしたような姿だった。

 

「…初めまして。久しぶりね」

 私はカラスの少女に向かって言う。彼女と会ったのはミキさんにスカウトされたとき以来だ。一方的に身体を操られることを「会う」と表現していいのかどうかはわからないが。

 私は、ずっと彼女に逢いたかった。ずっと、彼女に聞きたいことがあった。

 

 

 

「――逢いたかったわ。()()()()()

 出来れば、間違っていて欲しい。そんな願いを込めて、カラスの少女に言った。

 

 

()()()()()()()

 その願いは、無惨に踏み躙られた。

 

 

 

 かつてカラスの少女が有馬かなの身体を操ったとき、彼女は「フェレス」と名乗った。

 悪魔「メフィストフェレス」から「メフィスト」を取り除いた存在。そういう彼女流の小洒落た皮肉であったということは、理解できる。

 しかし、それは果たして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 メフィストの存在を認識していたのは、有馬かなだけだ。「フェレス」という名前が皮肉であると気づけるのは、有馬かなだけだ。

 

 彼女が名乗った「フェレス」という名前は、カミキヒカルへの皮肉ではなく、「メフィストはいない。()()()()()()()()()」という有馬かなに対しての皮肉だった。




やりたかったことリストその20
メフィストの正体

カラスの少女「あら、とうとうバレちゃったみたいね」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。