有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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ラスボス戦です。


メフィストフェレス

「むかしむかし――ではなく、今の時代に人間が大好きな神様がいました」

 カラスの少女が、語り始める。

 

「その神様の趣味は、人間の紡ぎ出す物語を観ること。困難を乗り越えて栄光を掴み取るハッピーエンドの物語が大好きな神様でした」

 身振り手振りを加えて、カラスの少女が語り続ける。まるで役者のように大袈裟な演技をするのは、間違いなく私に対する皮肉なのだろう。

 【推しの子】原作でもそうだったが、こいつは他人を皮肉るのが大好きだ。

 

「ある日、神様はとある女の子に目を付けました。親に捨てられた、かわいそうな女の子でした」

 今更説明するまでもないだろう。アイのことだ。

「不幸な生い立ちを持つ少女がスターダムを駆け上る、定番のシンデレラストーリー。神様の好きな演目でしたが、似たような物語を観過ぎていて少々食傷気味でした。」

 スイーツは大好きだが、そればかり食べていては飽きが来る。たまにはピリ辛カレーが食べたい気分になったといったところか。

「ありきたりな物語に、隠し味として悲劇(スパイス)をブレンド。しかし、あろうことか神様は()()()を間違えてしまったのです。辛い(悲劇)もの好きの神様には好評でしたが、お膳立てをした神様の(趣味)には合わなくて、とても落ち込みました。」

 カタルシスのための演出のはずが、主役を退場させるという想定外の事態が発生。ピリ辛カレーが激辛カレーになって、せっかくの演劇(りょうり)が台無しになってしまった。

「そして、その様子を見ていた別の神様はこう思いました。――()()()()()()()()()()()()、と」

 そう締めくくって、カラスの少女の一人芝居は終わった。

 

 なるほど、ミキさんがアイを殺してしまった世界線…つまり【推しの子】原作が1周目で、私が「原作知識」あるいは「未来知識」と呼んでいる情報は神様連中にとっては「過去知識」だったというわけか。その考え方は流石に思いつかなかったな。

 必死に生きている私たち人間の人生を演劇どころか食材扱いされたことには腹が立ったが、それよりも気になる情報があった。

 

「…つまり、この世界は『2周目』なのね?」

「うん、そうだよ」

「『1周目』と『2周目』を起こした神様は別人…別神?ということは、あなたも『1周目』のカラスの少女とは別人なのね」

「ご名答」

 あっさりと白状しやがった。アクアやルビーに対して言葉で煽るだけだった【推しの子】原作のカラスの少女と違って、こいつはミキさんに対してかなり殺意が高かった。人間に対して躊躇なく死に至る呪いをかけたり、「1周目」の知識を私やミキさんに与えたりしてやけに私たちに直接干渉してきたことから色々と違和感があったが、そもそも別人だったならすべて説明がつく。 

 

「それで、どうして赤ん坊の私に『1周目』の知識を与えたの?」

「『2周目』の神様は物語(レシピ)を極力変えず、アイを死なせないことだけを修正する方法を考えた。その方法が、ある程度物語に干渉できる()()を一時的に『依代』として、アイを救う知識と気概を持った仮の人格を私の化身(アバター)の一つに与えた上で植え付けることだったの」

「…それが、私とメフィストだったのね」

 アイが殺されるまでに一度しかアイ達に出会うチャンスがなかった私にオファーするのはちょっと冒険が過ぎると思うが、結果を出してしまっているので神にとっては計算通りだったのかもしれない。というか今「私のアバターの一つ」って言ったよね?まさかカラスの少女って日本中にいっぱいいるの?怖。

 

「私の化身…あなたがメフィストと呼ぶ存在は、物語に干渉して見事にアイの命を救った。予想以上の良い出来の演劇だったので神様は大喜びだったよ。後は「依代」にした子供の人格に影響しないように、「依代」の子供の自我が発達してきたタイミングで役目を終えた化身(メフィスト)の人格が消滅するよう調整をするだけ。『立つ鳥跡を濁さず』だね」

「疫病神め」

 私が怒ると理解した上でわざと煽っているとしか思えない。【推しの子】原作のカラスの少女も煽るのが好きだったが、神に関わる連中の性格は皆こんな感じなのか?

 

「もともと神様とは理不尽で暴虐なものなんじゃないかな。たとえ守り神でも、粗末に扱えばあっさりと祟り神になったりするんだよ?」

 中身が別人になってもカラスの少女は実に饒舌だった。よっぽど上機嫌なのだろう。

 

「それから、ドームライブを成功させたアイも良かったけど、神様は貴方のことも気に入っているんだよ。有馬かな」

 アイの話が終わり、話題の矛先が私に向いた。

 

「『1周目』ではアイの子供たちの物語の脇役でしかなかった貴方が、この世界ではアイの命を救い、絶望を乗り越えて、敵役まで救済して自らも栄光を掴み取った。実に神様好みの演劇だったよ」

「そりゃどーも」

 いまいち納得のいかない称賛ではあったが、役者として評価されているのだと無理やりに解釈して不満を抑え込んだ。

 そんな不満を隠そうともしない私の態度を見て、カラスの少女は笑いながら語り掛けてくる。

 

「そんな貴方に、神様からのプレゼント。なんでも願いを叶えてあげるってさ。

 富でも、名誉でも、恋人でも…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな甘い言葉で、小さな悪魔が誘惑してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさ。あんたに聞きたいことがあるんだけど」

 しかし私はその言葉を無視してカラスの少女に問いかける。

 

「メフィストの人格が消えたのは、私の7歳の誕生日ってことで、合ってる?」

「うん、合ってるよ」

「『アイドル』と『祝福』って歌、知ってる?」

「…?()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

「――ああ、よかった。お前はメフィストじゃない」

 

 メフィストが、すべてカラスの少女の演技だったなら私は耐えられなかった。

 メフィストが、星野アイを救うためだけに無から創り出された存在だったなら私は耐えられなかった。

 だが、今のカラスの少女の発言で、その可能性は消えた。

 

 

「お前、本当に()のこと理解してなかったんだな」

 

 神様相手に説教するなんてガラではないが、今日だけは別だ。

 今の()ブチ切れ状態(モンスタークレーマー)だ。覚悟しろよ。

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