有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
「恋愛ビターチョコ」収録終了から2週間後、「恋愛ビターチョコ」の最終回が放送された。
「花火…今まで付き合わせてごめんね。ありがとう」
安楽岡花火は鐘井鳴海に告白したが、結局振られてしまった。
失恋旅行と称して、安楽岡花火は絵鳩早苗と2人で出かけていた。しかし、安楽岡花火に待っていたのは絵鳩早苗からの別れ話だった。
「…今まで散々付け込んでごめんね。…楽しかったし、嬉しかった。だからもう……」
「違うの!付け込んだのは私!私がえっちゃんを利用したの!全部私が悪いの!だから…!!」
「もういいよ、花火。私、あなたを諦めるから。…旅行の前から決めてたんだ。花火がきちんと失恋して、それでも私のことを
「……どうして」
「…つらいから」
結局、安楽岡花火は女性同士の恋を…絵鳩早苗の恋を理解出来なかった。安楽岡花火は、絵鳩早苗を大切で特別な存在だと思っていた。安楽岡花火と絵鳩早苗の間には、間違いなく「愛」があった。
だが、安楽岡花火が絵鳩早苗を愛する理由に「絵鳩早苗が女性だから」という事由は含まれていない。絵鳩早苗にとって、男性は嫌悪の対象だ。絵鳩早苗の望みは、女性として安楽岡花火に愛されることだった。
彼女が求めていたのは、例えば安楽岡花火が新しく男性を好きになったとしても、
身体は愛し合えても、心までは届かない。だから、絵鳩早苗は安楽岡花火を諦めた。二人は愛し合っていたのに、それでも絵鳩早苗の恋が実ることは、なかった。
「…寝室、分けてあるから……朝は別で帰ろう」
そう言い残して、絵鳩早苗は部屋から去ろうとする。
「えっちゃん!」
そんな絵鳩早苗に、安楽岡花火は追い縋った。
「聞いて!私も言おうと思ってたことがあるの!!えっちゃん!私と友達で居て!!!」
「…ふざけないで!いいかげんにしてよ!!」
安楽岡花火の図々しい願いを、絵鳩早苗が拒絶した。
「どれだけ残酷なこと言ってるかわかってるの!?今更友達面しろなんて、できるわけないじゃない!!」
許せない。嬉しい。大嫌い。大好き。憎い。――愛してる。
絵鳩早苗の胸の中がぐちゃぐちゃな感情で埋め尽くされて、いっぱいになる。
「私がどれだけ…どれだけ…っ」
泣き笑いの表情を浮かべた絵鳩早苗が、安楽岡花火に向かって、言う。
「あなたのことが好きだったかなんて……っ!知らないくせに…っ!!」
…ハリネズミのジレンマだ。
人間同士が互いに仲良くなろうと心の距離を近づけるほど、互いに傷付けあって一定距離以上は近付けない心理を指す。
心を開いてもレズビアンである自分のことなど理解して貰えるはずもないなら、ハリネズミではなくアルマジロになればいい。そう考えて、絵鳩早苗はずっと心を閉ざしてきた。
安楽岡花火は後悔した。失恋の痛みから逃げて、絵鳩早苗に甘えたあの日のことを。そのせいで、絵鳩早苗の心にハリネズミのトゲを突き刺してしまったことを。
「…えっちゃんは、心の中を誰にも知られなくていいと言った。そんなの…ひとりぼっちとかわらない……」
今までの関係を続けても、ここで関係を終わらせても、絵鳩早苗の心の扉は閉ざされたまま。
彼女たちの愛は、どこまでいっても平行線のままだ。
「……っ!だから!ひとりでいいんだってば!!……放っといてよ。…もう私の心に入ってこないで……」
拒絶する絵鳩早苗の手を、安楽岡花火が握る。彼女の手はひどく冷たかった。
「や…やだっ…もうやめて……」
深く関われば、その分、失ったときの辛さが怖い。ならずっと一人で居たい。
傷つくのは、もう嫌だから。
「わ…わたしが…あなたのことを知りたいの……これからあなたのことを、わたしが知りたいの!教えて欲しいの!なんだって…」
…「本当の私」なんて、きっと碌でもない。あなたはきっと嫌いになるよ。
自分だって自分が好きじゃないのに。
その上、他人に拒絶されたらどうやって立ち直ればいい?無責任なこと言わないでよ。
「…そうなれるまで…待つから……いつまでもまつからぁ……」
怖いのに、すごくすごく怖いのに。――どうして一人じゃ生きられないんだろう。
絵鳩早苗が安楽岡花火を抱きしめる。心に刺さる棘に耐えながら、安楽岡花火と向き合う。
「……わかった。いつになるかわからないけど…」
「…うん」
「まだすごく好きだから。…でも、がんばるから」
「うん」
「……がんばって忘れるから」
二人はキスをする。最後の、別れのキスだった。
別れたくない。離したくない。そんな気持ちが、唇を通して伝わってくる。
…甘くて苦いチョコレートの味。忘れなきゃいけないのに、忘れたくない味がした。
「ねぇアクア…誰?こいつ?」
「お前だ、お前」
「私はこんなナメクジの交尾のようなキスをした記憶はない」
私は「恋愛ビターチョコ」の最終回をアクアの家で一緒に見ていた。収録中はトランスしてるからあまり意識してなかったけど、テレビを通して客観的に見ても私が安楽岡花火を演じていたという実感が全く湧いてこない。本当に誰だよコイツ。
…私、この収録中に何回黒川あかねとキスしたんだろう?流石に3桁は超えてないと思いたい。
「最後のシーン、完全に舌入ってるよね。よくここまでやれるなぁこの子たち」
「だからお前だって」
またまだ御冗談を。騙されないぞ私は。
「ちょっとロリ先輩!おにいちゃんに馴れ馴れしく引っ付くな!レズが感染る!!」
「そんなもんが空気感染したら人類が滅ぶわ」
アクアとイチャイチャしていたら、ルビーが私とアクアの間に割り込んできた。コイツも「恋愛ビターチョコ」の収録後にメスの顔をするようになった。お?正妻戦争勃発か?よろしいならば戦争だ。私は反対側に回ってアクアに抱き着く。
「あっ、なんか楽しそーなことしてる。わたしも混ぜてー」
そこにアイがやってきてアクアの後ろから抱き着いてきた。美少女3人に抱き着かれるアクアの構図が出来上がってしまった。これなんてエロゲ?1万円ぐらいで売ってるなら買うよ?
「4Pする?」
「しねぇよ」
アクアと軽口を叩き合うこの日常が、私にはとても愛おしかった。
少しばかりアクシデントもあったが、私たちは概ね平和に過ごしている。辛いことも、苦しいこともあるけど、それでも私たちは前に進んでいくしかない。
変わっていくということは、前に進むということなのだ。決して心の自殺なんかではない。
そう言える程度には、私は大人になった。
そんな日常が続いていたある日、私は夢を見た。
どこかの学校の屋上で、私と、女の子がもう一人という場面。
その女の子は、私が「恋愛ビターチョコ」で演じた安楽岡花火の姿をしていた。
「よぉ、久しぶり。元気してた?」
安楽岡花火は、まるで男の子のような口調で話しかけてくる。その容姿とのギャップに私は思わず笑ってしまった。
「…その姿、全然似合ってないわよ。
私は、結局カラスの少女に神の奇跡を請わなかった。メフィストの復活を神に願わなかった。
なんとなく、メフィストがそれを望んでいなかった気がしたからだ。
――だから、これが
最終回までラスト2話です。