有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
俺の次の出番は夕方から。
胡散臭い整形外科医の姿に手術を躊躇していた主人公に「覚悟は決まった?」と問いかけるシーンだ。
収録まで時間があるので、アクアに声をかける。
「お疲れ様。すごい演技だったわよ」
「いや別に。俺はいつも通りの俺やっただけだよ」
「謙遜しすぎは逆に嫌味になるわよー」
他愛もない会話を続ける。
ルビー経由でアイの同担の友達扱いにグルーピングされているので話もスムーズだ。
だが、世間話で時間を潰して時間切れになるのも拙いので、本題…というか
さあ、原作改変の時間だ。
「まあアクアなら出来て当然だろうね。
アクアが俺の言葉の意味を理解する前に、更に畳み込む。
「
彼の耳元に顔を近づけて、俺は言った。
厳密には異世界転生要素が入っている俺と現地人転生者のアクアでは少し事情が違うのだが、この違いは今は関係ない話だ。今日中にアクアと信頼関係か、あるいは利用価値を認めさせる必要がある。そのための仲間意識を目覚めさせるためのカミングアウトだ。
でないと、2年後にアイが死ぬ。
「あなた何歳?私は3歳なんだけど、私より背が低いということはもっと下だよね?
その年齢であんなにペラペラ長台詞が言えるってことは、つまりそういうことなのよね?」
自分の秘密を一方的に見透かされる不気味さ。
直前まで演じていた「不気味な子供A」の印象も合わさって、私を見つめるアクアの顔は演技中のアクアを見る大人の顔と同じような表情になっていた。
「似た者同士、仲良くしましょうね?」
一方的に捲し上げた後、俺はアクアに手を振ってその場を後にした。
積もる話は、撮影終了後でいい。
夕方になって、再び俺の出番となった。
「覚悟は決まった?」
前のシーンで俺が演じた「何を考えているのかわからない子供」の演技だけでは、アクアの演技のインパクトを超えることは不可能だ。
だから、台本にないアドリブでアクアに対抗する。
「この先に、あなたの運命が待っているわ」
先ほどアクアにやって見せたように、意味深な言葉を使って「何を考えているのかわからない子供」に「神の目線で、すべてを見通している少女」の要素を追加していく。
「あなたの選んだ結末を、私に見せて?」
俺がやろうとしていることは、
「私を、楽しませてね?」
俺の中の「カラスの少女」の独自解釈…「
モブ役者よ、この映画でお前を待ち受ける運命は星野アイの踏み台だ。「お星さまの引き立て役B」の役が嫌ならせいぜい足掻いて爪痕を残してみせろ。
出来ないというのならば…心の折れたお前の姿を全力で嘲笑ってやるよ。
無邪気な笑顔にスプーン一杯分の悪意と狂気をブレンドした表情をキープしつつ、この映画の主役を見つめ続ける。
…近くでカラスの鳴き声が聞こえた気がした。
「………!!!」
その直後、俺の肩にカラスが降りてきて、止まった。
3歳児の身長はだいたい90cm程度。対するカラスは全長50cm~60cm程。
本番収録中に自分の顔の大きさの倍以上もあるカラスが舞い降りて肩を掴まれるという突然のアクシデントにも関わらず、表情一つ変えずに演技を続ける有馬かなの姿に大人達が気圧されていた。
周りの大人全員が絶句する中、俺は…表情を変えないように全力で我慢していた。
(痛い痛い痛いカラスの爪が肩に食い込んで痛いぃいいい!!!!)
何故かくすくすと嘲笑うカラスを従えた少女の姿が脳裏に浮かんだが、今はそれにツッコミを入れるような余裕はどこにもなかった。