有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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黒歴史ノート朗読会

「…つまり、この世界は『2周目』なのね?」

「うん、そうだよ」

 俺の話を聞いて、かなちゃんはそういう風に解釈をした。1周目、つまりアイ死亡ルートを不服に思った神様が転生者()を使って自分好みに筋書きを変更したというストーリーだ。俺は神様なんぞに出会った覚えはないが、「推しの子」の原作知識を持つ俺がこの世界に転生したのは超常的存在の関与があったからだと考えるのはそんなに的外れではないだろう。

 ぶっちゃけ2周目のほうがよっぽど「ありきたりな物語」だ。ヤベェ、こんなガバガバな設定を大真面目に語っている俺のほうが恥ずかしくなってきた。誰だよこんな恥ずかしい茶番をやろうと言い出した奴は!俺だよ!?

 恥ずかしさを誤魔化すために、大袈裟な身振り手振りを加えてこれは演劇だと自分に言い聞かせながら会話を続ける。

 

「『1周目』と『2周目』を起こした神様は別人…別神?ということは、あなたも『1周目』のカラスの少女とは別人なのね」

「ご名答」

 中身は俺だからな。嘘は言っていない。

 

「それで、どうして赤ん坊の私に『1周目』の知識を与えたの?」

「『2周目』の神様は物語を極力変えず、アイを死なせないことだけを修正する方法を考えた。その方法が、ある程度物語に干渉できる脇役を一時的に『依代』として、アイを救う知識と気概を持った仮の人格を私の化身(アバター)の一つに与えた上で植え付けることだったの」

「…それが、私とメフィストだったのね」

 

 メフィストは、カラスの少女(ツクヨミちゃん)の人格の一つ。これも嘘ではない。本当でもないけどな!

 俺とかなちゃんが別個の人格であるのと同様に、俺とツクヨミちゃんも別個の人格だ。多分。そして化身(アバター)という言葉を使うことで人間の肉体に神降しされたツクヨミちゃんが複数人いることを匂わせた。

 これで本物のツクヨミちゃん…「フェレス」とか名乗ってたっけ?ソイツが現れても「俺は自分のことをツクヨミちゃんだと思っている一般モブでしたぁ~!てへぺろ♪」とでも言えば辻褄は合う。そもそも「月宮美琴=ツクヨミちゃん」説も単なる状況証拠からの推定でしかないからな。

 ちなみに俺は「フェレス」には本当に何の心当たりもない。誰なんだよアイツどっから生えてきたんだよ。

 

 しかしなんだ、この中二病全開のストーリーの台詞の一つ一つに込められた裏の意図が今の俺の事情と妙にマッチしているせいで共感性羞恥がヤバい。自分が書いた黒歴史ノートを朗読しているような錯覚に陥ってメンタルがガリガリと削られていく。もうやめて!俺のライフはとっくにゼロよ!?

 内心冷や汗ダラダラなのがバレたらこの茶番のすべてが終わる。俺は表情筋を必死に総動員してカラスの少女の演技を続けた。…この場に黒川あかねがいたらとっくにバレていたところだったな。危ねぇ危ねぇ。

 

「私の化身…あなたがメフィストと呼ぶ存在は、物語に干渉して見事にアイの命を救った。予想以上の良い出来の演劇だったので神様は大喜びだったよ」

 神様に確認をとったわけではないが、まあこの解釈で大丈夫だろ、多分。解釈違いなどと言わせるつもりは1ミリたりともない。

 ぶっちゃけ「アイドル」ってボカロP特有の「息継ぎをさせる気のない編曲」なので、呼吸が続かなくて声量が足りてないと批評家たちからダメ出しされがちなオリジナル曲よりもB小町の歌う「アイドル」のほうが完成度が高いかもしれないと思ったほどだ。これは最初からグループで歌うことを前提として作った曲だと言われたら大抵の人は信じるだろう。

 そういえばあっちの世界でも「アイドル」で紅白出場決定したんだっけ?まあ当然の結果だな。

 

「後は「依代」にした子供の人格に影響しないように、「依代」の子供の自我が発達してきたタイミングで役目を終えた化身メフィストの人格が消滅するよう調整をするだけ。『立つ鳥跡を濁さず』だね」

「疫病神め」

 

 実際は消滅したわけではなく引っ越ししただけなので結果オーライである。俺としてもかなちゃんの身体を永遠に乗っ取るよりは今の状況のほうが罪悪感が少ないので特に問題ないと思っている。ツクヨミちゃんはどっちかというと俺と同ジャンルのキャラなので、俺という雑味が混ざった程度ではキャラがブレなくていい。

 しかし、どうもこの辺りはかなちゃんと意見が合わないようだ。何故に?ホワーイ?

 

 ちなみに俺には13歳までのかなちゃんの記憶はあるが、それだけだ。俺の意思が「有馬かな」の行動に関与出来たのは7歳までで、それ以降の行動はすべてかなちゃんの意思で決定し、行使されていた。

 なので当時のかなちゃんが何を考えていたのかまでは分からない。俺の持っている有馬かなとしての記憶はエピソード記憶(思い出)から感情に関する記憶だけを消し去ったような状態で、かなちゃんの行動を映画で見ていたような感じに近いかもしれない。

 だから現在、有馬かなが何を思い、何を考えているのかは俺には分からないのだ。

 …俺の感傷などどうでもいい。次だ次。

 

「もともと神様とは理不尽で暴虐なものなんじゃないかな。たとえ守り神でも、粗末に扱えばあっさりと祟り神になったりするんだよ?」

 

 日本は災害を含めた自然現象も神様と称して拝む文化の国だ。荒御魂(あらみたま)和御魂(にぎみたま)の解説なんて今更必要ないだろう。しかし災害を擬人化した神様や歴史上の偉人を更にTSさせてエロコンテンツにするとは本当に日本人の業が深すぎる。綺麗な顔してる女の子だろ。ウソみたいだろ。織田信長なんだぜ、それで。

 …イカン、また意識が変な方向に飛びそうになっている。演技に集中しないと。

 

「それから、ドームライブを成功させたアイも良かったけど、神様は貴方のことも気に入っているんだよ。有馬かな」

 俺のお気に入りは神のお気に入り。つまり俺が神だ。はいQED。この世界の神様はお気に入りのキャラを曇らせようとするから俺が神様やったほうがまだマシなんじゃないかな?かわいそうなのは抜けないと古来から言われているのに、アイツらはその常識が通用しないから困る。

 

「『1周目』ではアイの子供たちの物語の脇役でしかなかった貴方が、この世界ではアイの命を救い、絶望を乗り越えて、敵役まで救済して自らも栄光を掴み取った。実に神様好みの演劇だったよ」

「そりゃどーも」

 

 カミキヒカルを救うなんて選択、かなちゃんにしか出来なかったことなんだからもっと誇っていいと思うんだけどな。赦しを与えたのではなく、贖罪の機会を与えたのだと考えれば悪くない結末だ。

 これからカミキヒカルは、愛を理解することで自分の手から零れ落ちてしまったものの価値と重みに気づいて後悔することになるだろう。そうあって欲しい。そうでなければ、困る。

 

「そんな貴方に、神様からのプレゼント。なんでも願いを叶えてあげるってさ。

 富でも、名誉でも、恋人でも…貴方の大好きなメフィストに会わせてあげることだって出来るよ」

 

 さて、散々遠回りしたがここからが本番だ。かなちゃんの願いをなんでも叶えてあげるという大言壮語。…富ならまだしも、名誉や恋人を求められればお手上げなんだが、そのときは「その願いは私の力を越えている」とでも言おうかなぁ。色々と雰囲気が台無しになるが、無理なものは無理だ。

 本命は最後の提案だ。かなちゃんが「だったらメフィストに会わせてよ」とでも言うならば俺はすべてをゲロってカミングアウトするつもりだ。

 

 俺は何も選ばない。かなちゃんの選択に、すべてを委ねる。

 

「ところでさ。あんたに聞きたいことがあるんだけど」

 かなちゃんは、俺の語った中二病テイストなストーリーを心底どうでもいいといった表情で聞き流して俺に話しかけてくる。

 

「メフィストの人格が消えたのは、私の7歳の誕生日ってことで、合ってる?」

「うん、合ってるよ」

 俺の物語は、あの誕生日イベントで終わった。それ以降はかなちゃんが作り上げてきた物語だ。

 

「『アイドル』と『祝福』って歌、知ってる?」

 

 かなちゃんが、俺に問いかけてくる。(カラスの少女)(メフィスト)でないということを確かめたいという気持ちが隠せていない、見え透いた質問だ。

 その質問に答えるのは簡単だが、俺はかなちゃんの記憶にあるカラスの少女と同じように、敢えて間違った答えを言った。

 

「…メフィストが作った歌だよね?」

 

 

 彼女の物語に付け足さず、介入せず。ただ静かに結末を見届ける。それが俺の選択だ。

 最初の自分(有馬かな)を騙せ。世界を騙せ。…シュタインズゲートであったな。こういう展開。

 

 ――ああ、演技をする(嘘を吐く)って楽しいなぁ。

 

 

「お前、本当に()のこと理解してなかったんだな」

 

 俺の記憶通りに、かなちゃんがキレた。歴史改変は発生しなかったので、どうやらこの勝負は俺の勝ちのようだな。

 はい、かなちゃんがガバったので試合終了でーす。

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